なぜ食品の凍結は温度や時間、冷やし方で進み方が変わるのか?

同じ食品でも、家庭用冷凍庫でゆっくり凍らせた場合と、業務用設備で急速に凍らせた場合では、解凍後の食感やドリップ量が変わることがあります。また、同じ冷凍食品でも、一定の低温で保存した場合と、温度が上下する環境で長く保存した場合では、氷結晶の大きさや品質の変化が異なります。

これは、食品の凍結が単に「0℃以下になれば水が全部一度に氷になる」現象ではないからです。実際には、食品ごとの凍結点まで冷却され、過冷却を経て氷核ができ、その核が成長しながら水が少しずつ氷へ変わります。その過程は、温度、時間、冷却速度、食品の大きさ、糖や塩などの溶質、保存中の温度変動によって変わります。

目次

結論:食品の凍結は「氷核ができる速さ」と「氷結晶が成長する速さ」で変わる

食品の凍結の進み方を左右する主な条件は、次のように整理できます。

  • 冷却温度が低いほど、食品から熱を奪う力が大きくなりやすい
  • 冷却速度が速いほど、多数の氷核ができて小さな氷結晶になりやすい
  • 食品が厚い・大きいほど、中心まで熱が移動するのに時間がかかる
  • 糖や塩などの溶質が多いほど、凍結点が下がり、凍らない水が残りやすい
  • 凍結時間が長いと、氷結晶が大きく成長する余地が増える
  • 凍結後の保存時間や温度変動によって、氷結晶の再結晶化が進む

つまり、同じ最終温度まで冷やしたとしても、そこへ到達するまでの速度や食品の組成、保存履歴が違えば、氷の状態は同じになりません。

食品は0℃になった瞬間に全部凍るわけではない

純水の凍結点はおよそ0℃ですが、食品には糖、塩、有機酸、たんぱく質など多くの成分が溶けています。そのため、一般の食品は0℃より低い温度になってから凍結が始まります。

さらに、凍結点まで下がってもすぐに氷が生まれず、液体のままさらに温度が下がることがあります。この状態が過冷却です。過冷却状態で安定した氷核ができると、そこから氷結晶が成長し始めます。

食品凍結に関する総説でも、凍結は冷却、核生成、氷結晶成長という段階を経て進み、氷結晶の大きさや分布が食品組織の損傷と品質に深く関係すると整理されています。

急速凍結では小さな氷結晶ができやすい

食品を強く冷却すると、短時間で大きな過冷却状態になり、多数の氷核が発生しやすくなります。核がたくさんできると、水分は多くの結晶へ分配されるため、一つ一つの結晶は大きく成長しにくくなります。

反対に、ゆっくり冷やすと氷核の数が少ないまま結晶が成長する時間が長くなり、大きな氷結晶ができやすくなります。

2022年の食品凍結に関するレビューでも、急速凍結は氷結晶の核生成と成長を制御し、より小さく均一な氷結晶を得るための基本的な考え方として整理されています。

氷結晶の大きさが食品の食感に影響する

肉、魚、野菜、果物などの組織食品では、氷結晶が大きくなると細胞膜や筋肉構造を押し広げたり、破損させたりすることがあります。

凍結中に組織が損傷すると、解凍時に水分を元の場所へ保持できず、ドリップとして流れ出やすくなります。野菜では細胞の張りが失われて軟らかくなり、肉や魚では保水性や食感が変わることがあります。

そのため、冷凍食品では「完全に凍っているか」だけでなく、「どの大きさ・形の氷結晶が、どこにできたか」が品質を左右します。

食品が大きいほど中心まで凍るのに時間がかかる

凍結では食品表面から熱が奪われ、内部の熱が表面へ移動していきます。そのため、厚い肉の塊や大きな容器に入った食品では、表面が凍っていても中心部はまだ凍っていないことがあります。

同じ食品でも、薄く広げる、小分けにする、表面積を大きくすると、中心までの熱移動距離が短くなり、凍結時間を短縮しやすくなります。

粥を用いた国内研究でも、同じ保存温度なら塊よりシート状、200gより100gの方が、氷結晶が多く生成する温度帯を短時間で通過したことが報告されています。

凍結中には「潜熱」を外へ逃がす必要がある

水が液体から氷へ変わるときには、凝固潜熱が放出されます。そのため、食品を凍らせるには、温度を下げるための熱だけでなく、水が氷になるときに出る熱も外へ取り除かなければなりません。

凍結が始まると、氷形成によって潜熱が放出されるため、食品温度が一時的に凍結点付近へ戻ったり、温度低下がゆっくりになったりします。

このため、冷凍庫の設定温度が低くても、食品内部の温度が同じ速さで直線的に下がるわけではありません。食品の熱伝導性、厚さ、包装、冷気の流れなども実際の凍結時間へ影響します。

糖や塩が多い食品は凍結点が下がる

水に糖や塩などが溶けると、凍結点は低下します。アイスクリームや甘いデザート、濃い調味液などが、同じ冷凍庫に入れても純水の氷ほど硬くならないことがあるのはこのためです。

しかも、凍結が進むと純粋な水に近い部分から氷になりやすく、糖や塩などの溶質は残った液体部分へ追い出されます。その結果、未凍結部分の溶質濃度はさらに高くなり、残りの水の凍結点はより低くなります。これを凍結濃縮といいます。

したがって、冷凍食品の内部には「氷」と「溶質が濃縮された未凍結相」が共存します。温度を下げるほど氷の割合は増えますが、通常の冷凍温度ですべての水が完全に凍るとは限りません。

水分量が同じでも、食品組成で凍り方は変わる

食品中の水は、すべて同じ状態で存在しているわけではありません。糖、塩、たんぱく質、多糖類などと相互作用して動きにくい水もあります。

また、同じ水分量でも、溶質濃度や細胞構造、脂質量が違えば、凍結点や氷になる割合、氷結晶の成長のしやすさは変わります。

このため、肉、野菜、果物、ソース、パン、アイスクリームなどで「同じ温度・同じ時間」で凍結しても、同じ氷結晶構造にはなりません。

凍結後も氷結晶は変化する

食品が一度凍れば、氷結晶の状態が完全に固定されるわけではありません。冷凍保存中には、氷結晶の形・大きさ・数が変わる再結晶化が起こります。

日本食品工学会誌の研究では、凍結食品中の氷結晶の再結晶化速度は、凍結濃縮相に残る水の動きやすさと関係することが示されています。温度が高いほど分子が動きやすくなり、再結晶化も進みやすくなります。

冷凍庫内の温度が上下すると、小さな氷結晶の一部が溶け、その水分が再び凍るときに大きな結晶へ集まることがあります。そのため、製造時に細かな氷結晶を作っても、保存温度が不安定だと徐々に粗大化する可能性があります。

保存時間が長いほど、再結晶化の影響が積み重なる

再結晶化は瞬間的な変化ではなく、保存中に少しずつ進む現象です。そのため、同じ保存温度でも、数日と数か月では氷結晶の状態が異なる場合があります。

1997年のマグロ肉や豆腐を用いた研究でも、保存温度によって再結晶化速度が大きく変わり、より低い温度で保存する方が氷結晶の変化を抑えやすいことが示されています。

冷凍食品の品質維持では、凍結するときの速さだけでなく、凍結後の保存温度と保存時間も重要なのです。

温度変動は品質を悪化させやすい

冷凍庫の扉を頻繁に開けたり、流通中に温度が上がったりすると、食品表面や一部の氷がわずかに溶けることがあります。その後に再び温度が下がると、水は再凍結します。

この「部分的に溶ける→再び凍る」を繰り返すと、小さい氷結晶が減り、大きな氷結晶へまとまる方向に進みやすくなります。海外のレビューでも、冷凍保存中の温度変動や凍結・解凍の繰り返しは氷結晶成長を促す重要な要因として扱われています。

そのため、冷凍食品では低い温度だけでなく、できるだけ一定した温度を保つことが品質維持に重要です。

「急速凍結=必ず高品質」と単純には言えない

一般に急速凍結は氷結晶を小さくしやすく、組織損傷を抑える点で有利です。しかし、最終品質は凍結速度だけでは決まりません。

凍結前の鮮度、食品の種類、切り方、包装、前処理、保存温度、保存時間、解凍方法なども影響します。また、一部の食品では、でんぷんの老化、たんぱく質変性、脂質酸化など、氷結晶以外の変化も品質を左右します。

したがって、冷凍品質は「凍らせ方・保存・解凍」を一つの流れとして考える必要があります。

家庭では「小分け・薄く・早く冷やす」が基本

家庭で食品を冷凍するときは、中心まで速く冷えるように、小分けにして厚みを減らすことが基本です。熱い食品を大量にまとめて冷凍庫へ入れると、中心まで冷えるのに時間がかかり、周囲の冷凍食品の温度も上げる可能性があります。

食品ごとの保存方法や冷凍可否を確認し、空気との接触を減らす包装を使い、冷凍庫内の温度変動をできるだけ小さくすることが、凍結後の品質維持につながります。

まとめ

食品の凍結が温度や時間、冷やし方で変わるのは、凍結が過冷却、氷核生成、氷結晶成長、凍結濃縮という複数の段階を経て進むためです。

急速に冷却すると多数の氷核ができ、小さな氷結晶になりやすくなります。一方、ゆっくり凍らせると少数の結晶が大きく成長しやすくなります。食品が大きいほど中心まで熱を抜くのに時間がかかり、糖や塩などの溶質が多いほど凍結点は下がります。

さらに、凍結後も保存時間や温度変動によって氷結晶は再結晶化します。そのため食品の冷凍では、最終温度だけでなく、冷却速度、食品サイズ、組成、保存温度、保存時間まで含めた「温度履歴」を見ることが重要です。

参考資料

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