住まいの耐震というと、「大きな地震でも建物を壊れなくすること」と考えられがちです。しかし、耐震の目的は、地震の揺れを完全に消すことではありません。強い揺れを受けても建物が急に倒壊・崩壊しにくいようにし、住んでいる人が命を守り、避難できる可能性を高めることが中心です。
地震が起こると地面が動き、その動きに遅れて建物にも慣性力が生じます。建物が重いほど、また揺れが強いほど、柱・梁・壁・接合部などには大きな力がかかります。さらに、建物の形、構造、地盤条件によって揺れ方は変わります。
つまり、住まいに耐震が必要なのは、地震によって建物へ加わる大きな力に対して、柱・梁・壁・基礎などが必要な強さと粘りを保ち、倒壊や大きな損傷による人的・物的被害を減らすためです。
地震で建物には何が起こる?
地震では、地面そのものが上下・左右に動きます。建物の基礎は地面と一緒に動こうとしますが、建物の上部には慣性があるため、地面とまったく同じ動きをするわけではありません。その結果、建物には変形やねじれが生じ、柱・梁・耐力壁・接合部などへ力が集中します。
米国地質調査所(USGS)は、人工構造物の地震被害の主な原因は地盤の揺れであり、その強さは地震の規模だけでなく、震源断層からの距離、地質、地盤条件などによっても変わると説明しています。
そのため、同じ規模の地震でも、すべての場所・建物が同じように揺れるわけではありません。耐震設計では、想定される揺れに対して建物全体がどのように力を受け、どの部分が変形するかを考える必要があります。
住まいに耐震が必要になる5つの理由
1.建物の倒壊・崩壊から命を守るため
地震時に最も大きな危険の一つは、建物やその一部が倒れたり落下したりすることです。
国土交通省は、これまで阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、能登半島地震などで大きな建築物被害が発生してきたことを踏まえ、大地震から生命・財産を守るために住宅・建築物の耐震化が必要だとしています。
耐震の第一の目的は、地震後もまったく損傷しない建物をつくることではありません。大きな地震でも建物が急激に倒壊・崩壊せず、住んでいる人が命を守るための時間や空間を確保することです。
2.柱・壁・接合部へかかる力を建物全体で受けるため
建物は、柱だけ、壁だけで地震に耐えているわけではありません。基礎、柱、梁、耐力壁、床、屋根、接合部などが一体となって力を伝えます。
たとえば、壁の量が十分でも配置が一方向に偏っていれば、建物がねじれやすくなることがあります。柱や梁が強くても、接合部が弱ければ、そこで力を伝えられなくなることがあります。
耐震では、「強い部材を一つ入れる」より、地震力が建物の中をどのように流れ、最終的に基礎から地盤へ伝わるかを考えることが重要です。
木造住宅でも、壁量、壁の配置、柱頭・柱脚の接合、基礎など複数の要素が連動して耐震性能をつくります。
3.繰り返しの揺れや変形に耐えるため
大地震では、一度だけ強く揺れて終わるとは限りません。数十秒以上揺れが続いたり、強い揺れが繰り返されたりすることがあります。
建物には、単に「硬いこと」だけでなく、変形しても急に壊れず、力を受け続けられる粘りが必要です。構造設計では、部材や接合部がどの程度変形し、どのようにエネルギーを吸収するかも重要になります。
USGSも、地震に強い構造を考えるには、強い揺れが建物へ与える応力や建物の応答を理解し、それを設計や耐震基準の改善へ反映する必要があるとしています。
耐震は「全く動かない建物」を目指すのではなく、必要な範囲で変形しながらも、致命的な壊れ方をしにくくする考え方です。
4.古い住宅では現在の耐震性能を満たさない場合があるため
日本の耐震基準は、過去の地震被害を踏まえて改正されてきました。
国土交通省によると、1981年6月にいわゆる新耐震基準が導入され、それ以前の旧耐震基準で建てられた住宅には、現在の基準と比べて耐震性が不十分なものがあります。
また、熊本地震の被害を受け、1981年以降の新耐震基準で建てられた木造住宅のうち、接合部などの規定が明確化された2000年以前のものについても、耐震性能を確認する方法が公表されています。
建築年だけで安全性を断定することはできませんが、古い住宅ほど、現在の耐震性能を満たしているかを確認する意味は大きくなります。
5.建物の倒壊が周囲の避難・救助にも影響するため
住宅の倒壊は、その家の中だけの問題ではありません。
国土交通省は、家屋が道路側へ倒れると避難経路や緊急車両の通行を妨げ、救助活動を遅らせる可能性があることを示しています。また、密集地域では隣家や通行人へ被害が及んだり、火災の拡大に影響したりする場合があります。
つまり、耐震化は個人の住宅を守るだけでなく、地域全体の避難や救助の機能を保つことにもつながります。
「耐震基準を満たす」とはどういうこと?
建築基準法の耐震基準は、建物が地震時にどう安全性を保つかについて最低限の要求を定めています。
一般に新耐震基準では、中程度の地震では大きな損傷を生じにくくし、より大きな地震では建物が倒壊・崩壊して人命に重大な危険を与えないことを重視しています。
ここで重要なのは、「基準を満たしている=どんな地震でも無傷」という意味ではないことです。大地震では、壁のひび割れ、仕上げ材の損傷、設備の破損などが起こることがあります。
耐震基準は、建物に損傷が一切起きないことを保証する仕組みではなく、大きな地震で致命的な倒壊を防ぐことを中心とした安全基準です。
耐震・制震・免震は何が違う?
耐震
柱、梁、壁、接合部などを強くし、地震力を建物そのもので受ける考え方です。一般住宅で広く使われる基本的な地震対策です。
制震
ダンパーなどの装置で揺れのエネルギーを吸収し、建物の変形を小さくする考え方です。耐震構造と組み合わせて使われます。
免震
建物と地盤の間に免震装置を設け、地面の強い動きがそのまま建物へ伝わりにくくする考え方です。
どれも目的は地震被害を減らすことですが、揺れへの対応方法が違います。住宅では建物の規模、構造、敷地、費用などに応じて適した方法を選びます。
耐震性能は高ければ高いほど安心?
耐震性能を高めることには大きな意味がありますが、建物だけを強くすれば地震の危険がすべてなくなるわけではありません。
地盤が軟弱な場所では揺れが増幅されることがあります。液状化、地すべり、津波、火災など、耐震構造だけでは防げない災害もあります。
また、建物が倒壊しなくても、家具の転倒、照明器具や棚の落下、ガラスの破損などでけがをすることがあります。USGSも、地震による危険には構造体だけでなく、建物内部の設備や内容物の損傷・落下が含まれると説明しています。
そのため、住宅の地震対策は、建物の耐震性能に加えて、家具固定、避難経路の確保、地盤や周辺災害リスクの確認などを組み合わせることが重要です。
既存住宅では何を確認すればよい?
建築時期を確認する
1981年6月より前の旧耐震基準で建てられた住宅は、まず耐震性を確認する優先度が高い住宅です。
木造住宅では、1981年以降でも、2000年以前に建てられたものについて接合部や壁配置などを確認する検証方法があります。
耐震診断を受ける
国土交通省は、住宅の耐震化を進める際には、まず耐震診断を行い、耐震性が不足している場合に耐震改修を検討する流れを案内しています。
耐震診断では、壁の量・配置、接合部、基礎、建物形状、劣化状況などを確認します。専門的な判断が必要なため、自治体や専門家の相談窓口を利用する方法があります。
劣化や増改築の影響も確認する
新築時に十分な耐震性があっても、腐朽、シロアリ被害、基礎の損傷、不適切な増改築などで性能が低下している場合があります。
特に、壁を大きく撤去した、重い屋根へ変更した、建物の一部を増築したなどの履歴がある場合は、構造全体への影響を確認することが重要です。
家庭でできる地震対策は耐震改修だけ?
建物の耐震性能が重要なのはもちろんですが、日常でできる対策もあります。
- 背の高い家具を壁へ固定する
- 寝る場所の近くに倒れやすい家具を置かない
- 食器棚や収納扉に開放防止器具を付ける
- 避難経路を家具や荷物でふさがない
- 地域のハザード情報と避難場所を確認する
こうした対策は建物そのものの耐震性能を高めるものではありませんが、地震時のけがや避難障害を減らすために役立ちます。
まとめ
住まいに耐震が必要なのは、地震の強い揺れによって建物へ大きな力が加わったときでも、柱・梁・壁・接合部・基礎などが力を受け止め、建物が急激に倒壊・崩壊する危険を減らすためです。
耐震では、建物を全く動かなくするのではなく、必要な強さと粘りを持たせ、地震力を建物全体で受けることが重要です。1981年以前の旧耐震基準で建てられた住宅や、構造・劣化状況に不安がある住宅では、耐震診断によって現状を確認する意味があります。
ただし、耐震だけで地震のすべての危険を防げるわけではありません。地盤、家具の転倒、火災、津波など別のリスクもあります。
耐震を住まいの基本性能として確保し、家具固定や避難経路の確保、地域の災害リスク確認などを組み合わせることで、地震時の被害をより小さくしやすくなります。
関連記事
参考資料
- 国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」
- 国土交通省「地震の被害と耐震改修の必要性」
- 国土交通省「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法の公表について」
- U.S. Geological Survey「How do earthquakes affect buildings?」

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