冬になると草の地上部は枯れたり、ほとんど伸びなくなったりします。しかし多年草では、見えている葉や茎が弱っても、株元の芽や根、地下茎などが生き残り、春になると再び新しい葉を出します。なぜ草にとって冬越しは、翌春の再生とその後の繁殖をつなぐ重要な過程なのでしょうか。
結論からいうと、冬越しには春に再び成長を始めるための生きた芽・根・株元を残し、秋までに蓄えた炭水化物や窒素などの資源を春の初期成長へ引き継ぐという役割があるためです。春の葉面積が早く回復すれば光合成も再開し、その後の分げつ形成、根の成長、花や穂、種子の形成に必要な資源を再びつくれるようになります。
冬越しは「止まっている時間」ではない
冬の草は地上部の成長がほとんど見えなくなるため、活動を完全に停止しているように見えます。しかし、地下部や株元では呼吸が続き、生きた組織を維持するために貯蔵資源が使われています。
寒さが厳しい地域では、地上部の一部が枯れても、株元の芽や根、地下茎が生き残れば翌春に再生できます。つまり冬越しとは、冬を「耐える」だけでなく、春に再び成長できる状態を保つ過程です。
この橋渡しがうまくいかなければ、春の気温が上がっても新しい葉を出す組織が残っておらず、その個体は再生できません。
春の再生は、冬を越した芽から始まる
多年生のイネ科植物では、株元や地下部に分げつ芽があります。冬を越した芽が生きていれば、春の気温上昇とともに新しい葉や茎を伸ばせます。
ネピアグラスを用いた日本の研究では、越冬した分げつ芽の生存率と翌春の個体再生率の間に正の関係がありました。つまり、冬を越して生き残った芽の数と状態が、春の再生力を大きく左右します。
冬越しの成功は「株が生きていたか」だけでなく、「春に動き出せる芽をどれだけ残せたか」という点でも重要です。
秋に蓄えた炭水化物が、春の最初の成長を助ける
春の初めは、まだ新しい葉が小さく、光合成だけで急速な成長に必要なエネルギーをすべて賄うことはできません。
そこで、前年の秋までに葉鞘、茎、株元、根などへ蓄えられた糖やフラクトサンなどの非構造性炭水化物が利用されます。これらは冬の生命維持にも使われ、春になると新しい葉や根をつくる初期資源になります。
日本のオーチャードグラス研究では、春の成長が始まる時期に葉鞘や根の貯蔵フラクトサンが急速に減少しました。これは、前年から蓄えた資源が春の再生へ動員されていることを示します。
貯蔵資源が多いことは、冬を生き抜くことにも役立つ
貯蔵炭水化物は春の再生だけでなく、冬の間に生きた組織を維持するための呼吸にも使われます。
飼料用麦類の研究では、積雪前に非構造性炭水化物を多く蓄えていた草種・品種ほど雪腐病による被害が少なく、融雪後の再生にも有利な傾向が示されています。
海外の多年生飼料作物の研究でも、低酸素状態の冬を耐えたチモシーでは高い炭水化物濃度が維持され、それが冬季生存と春の再生に有利に働く可能性が示されています。
春の再生初期は「貯蔵資源」から「現在の光合成」へ切り替わる
春に新しい葉が出た直後は、前年からの貯蔵資源が重要です。しかし、葉が広がると、その葉自身が光合成を始めます。
ペレニアルライグラスの再生研究では、強い除葉後の初期には体内に蓄えられていた窒素や炭素が利用されますが、葉が展開すると新しく光合成された炭素が急速に主要な供給源へ切り替わります。
春の再生でも基本的な流れは同じで、越冬資源は「最初の葉を出すまで」を助け、その葉が十分に光を受けられるようになると、現在の光合成が次の成長を支えます。
葉面積を早く回復できることが、その後の成長を加速する
春に早く葉を広げられれば、より多くの光を受けて光合成できます。光合成産物が増えれば、新しい葉、根、分げつをさらに増やせます。
逆に、越冬後の芽が少なかったり、貯蔵資源が減りすぎていたりすると、葉面積の回復が遅れます。周囲の草が先に伸びれば日陰になり、さらに成長が抑えられることもあります。
そのため、冬越しの状態は春の数週間だけでなく、その後の競争関係や群生の維持にも影響します。
越冬した根は、水と養分の供給を再開する
春の再生には葉だけでなく根も必要です。根が生き残っていれば、土が解けて温度が上がるにつれて水や窒素などの吸収を再開できます。
新しい葉をつくるには水と窒素が必要なので、根が冬に大きく傷んでいると、芽が生きていても地上部の成長が遅れることがあります。
健全な根系を越冬させることは、春の地上部へ資源を届ける供給路を残すことでもあります。
多年草では「前年の秋」が翌春の成長に影響する
春の再生力は春の天気だけで決まりません。前年の秋にどれだけ葉を残し、光合成し、株元や根へ資源を蓄えられたかも重要です。
秋遅くまで強く刈り取られたり、乾燥や病害で葉が少なかったりすると、冬前に十分な貯蔵資源をつくれない場合があります。
そのため、春の生育は前年から続く一連の履歴の結果です。多年草では一つの生育期が独立しているのではなく、秋の状態が冬を通じて翌春へ引き継がれます。
春の再生が遅れると、その年の繁殖にも影響する
花や穂、種子をつくるには、まず十分な葉や根をつくり、光合成と養分吸収を行う必要があります。
春の再生が遅れれば、繁殖前に使える成長期間が短くなります。葉面積や分げつ数が少ないまま繁殖期へ入れば、花や穂へ回せる資源も限られる場合があります。
逆に、越冬後にすばやく葉面積を回復できれば、長い期間光合成を行い、繁殖器官へ配分できる資源を蓄えやすくなります。
分げつを維持できることは、花や穂を出す本数にもつながる
イネ科の多年草では、一つの株に多くの分げつがあります。その中の一部が春から夏にかけて成長し、繁殖分げつとして穂をつけます。
冬の間に多くの分げつ芽が失われると、春に再生できる茎数が減ります。結果として、その年に花や穂をつけられる候補も少なくなる可能性があります。
越冬は単に個体を一株残すことではなく、翌年の成長と繁殖を担う芽や分げつの集団を維持する意味があります。
冬を越せる多年草は、毎年ゼロから始めなくてよい
一年草は毎年種子から発芽し、根や葉を一からつくる必要があります。一方、多年草は前年に形成した根、株元、地下茎、芽などを残して翌年へ持ち越せます。
この「持ち越し」があるため、条件が整えば春早くから再生できます。種子発芽から始める個体より、すでに地下部を持つ多年草のほうが早く空間や資源を利用できる場合があります。
冬越しは、多年草が前年までに作った構造と資源を翌年へ引き継ぐ仕組みなのです。
越冬は個体群を同じ場所に維持することにも役立つ
多年草が毎年同じ株元や地下部から再生できれば、毎年新しい種子が同じ場所へ偶然たどり着く必要はありません。
そのため、すでに生育に適した場所で個体群を維持しやすくなります。地下茎や株分かれを行う草では、越冬した地下部から複数の芽を出し、群生を維持・拡大することもできます。
越冬能力は個体の生存だけでなく、生育地を長期的に占有することにもつながります。
春に早く動き出せることは競争上も有利になる
春の草地では、光と空間をめぐる競争が早く始まります。越冬した芽からすぐに葉を出せる草は、周囲の実生や再生の遅い植物より先に光を確保できます。
一度上層の葉群をつくれば、下にある植物への光を減らし、自分の成長をさらに有利にできます。
したがって、越冬は「冬を耐える能力」だけでなく、春の競争を有利な位置から始めるための仕組みにもなります。
冬に資源を使い切ると春の再生が弱くなる
冬の間も植物は呼吸を続けるため、貯蔵資源を消費します。積雪が長く光合成できない状態が続いたり、氷の下で低酸素状態になったりすると、資源消費が増える場合があります。
その結果、春に芽が生き残っていても、再生に使える炭水化物が少なければ初期成長が弱くなることがあります。
越冬の評価では、単に春まで生きているかだけでなく、どれだけ再生資源を残して春を迎えられたかも重要です。
冬越しと春の再生は管理とも深く関係する
牧草地や芝地では、秋の刈り取りや春一番の利用時期によって翌年の生産性が変わることがあります。
秋に葉をほとんど残さないほど刈れば、冬前の貯蔵資源形成を妨げる可能性があります。また、春に葉が少ない段階で強く刈ったり放牧したりすると、光合成能力が回復する前に再び葉を失います。
大学Extensionでも、秋に蓄えた炭水化物が冬の生存と春の新しい成長に使われるため、春の早すぎる利用は再生力を弱める可能性があると説明されています。
「冬を越せた」ことと「よく育つ」ことは同じではない
春に少し芽が出れば、越冬自体は成功したように見えます。しかし、その後の成長量や繁殖成功は、芽数、根の状態、貯蔵資源量によって大きく変わります。
越冬後に葉が少なく、根も弱っていれば、春の成長が遅れ、周囲との競争に負けることがあります。花や穂をつけても、十分な資源を種子へ回せない場合もあります。
そのため、冬越しの意味は「死ななかった」だけではなく、「次の生育期を十分に再開できる状態を残した」ことにあります。
身近な草で冬越しと春の再生を観察するポイント
冬越しの機能を観察するなら、秋・冬・春を続けて見るとわかりやすくなります。
- 秋に株元へどれくらい葉や芽が残っているか
- 冬に地上部が枯れても株元や地下茎が残っているか
- 春に最初の芽がどこから出るか
- 越冬株と春に発芽した実生で成長開始時期が違うか
- 春の分げつ数が前年秋と比べてどう変わったか
- 早く再生した株ほど、その後の草丈や葉数が多いか
- 春の再生がよい株ほど花や穂を多くつけるか
- 秋に強く刈られた場所と刈られていない場所で春の再生が違うか
こうした記録を続けると、冬越しが冬だけの現象ではなく、前年秋と翌春をつなぐ過程であることが見えてきます。
まとめ
草にとって冬越しが翌春の再生と繁殖をつなぐ重要な過程なのは、生きた芽・根・株元を春まで残し、秋に蓄えた炭水化物や窒素などを初期再生へ引き継ぎ、新しい葉が光合成を再開するまでを支えるためです。
春に葉面積と分げつを早く回復できれば、その後の根の成長、競争、花・穂・種子形成へつながります。多年草にとって冬越しは単なる耐寒性ではなく、前年に得た資源と構造を翌年へ受け渡し、次の成長と繁殖を再スタートさせる仕組みなのです。
参考資料
- 石井康之・伊藤浩司・沼口寛次「夏植えしたネピアグラスにおける越冬前の刈取り時期および刈取り高さが翌春の再生に及ぼす影響」日本草地学会誌
- 菅原和夫・伊沢健「草類の可溶性炭水化物の生理化学的研究 第2報 越冬および早春期におけるオーチャードグラス貯蔵炭水化物の経時的変化」日本草地学会誌
- Bélanger G, Rochette P. Oxygen deficiency affects carbohydrate reserves in overwintering forage crops
- Colorado State University Extension: Grass Growth and Response to Grazing

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