生活用品には、包丁、椅子、収納用品、電気ケトル、延長コード、浴室用品、子ども向け製品など、さまざまな種類があります。どれも安全に使えることが求められますが、安全のための設計は同じではありません。
その理由は、製品ごとに起こり得る危険、使う人、使う場所、使用時間、力のかかり方、温度や水分、電気の有無などが違うからです。転倒を防ぐべき製品もあれば、やけど、感電、切創、誤飲、挟み込みなどを防ぐことが重要な製品もあります。
つまり、安全設計は「全部を頑丈にする」ことではありません。どのような場面で、誰が、どのように使うかを想定し、そこで起こり得る危険を減らすように設計を変えることです。
安全設計は「危険を先に見つける」ことから始まる
製品安全では、事故が起きた後に注意書きを追加するだけでなく、設計段階で危険を予測することが重要です。
経済産業省の「消費生活用製品向けリスクアセスメントのハンドブック」では、製品の安全リスクを把握・評価し、必要な低減策を設計へ反映する考え方が示されています。NITEも、使用者、意図する使用、合理的に予見可能な誤使用を明確にし、危険源を特定してリスクを評価する流れを紹介しています。
この考え方では、同じ「生活用品」でも、事故の起こり方が違えば安全設計も変わります。
使う人が違えば、同じ形でも危険が変わる
大人が使う製品と、子どもや高齢者も使う製品では、安全上の配慮が異なります。
たとえば小さな部品は、大人にとっては単なる部品でも、乳幼児にとっては誤飲や窒息につながる可能性があります。踏み台や椅子では、体重だけでなく、立ち上がるときのバランスや握力の違いも関係します。
高齢者では、視力、握力、反応速度、バランス能力などが人によって大きく異なります。経済産業省が高齢者関連製品についてリスクアセスメントを紹介しているのも、製品の使われ方を利用者の特性まで含めて考える必要があるためです。
そのため、安全設計では「標準的な大人が正しく使う場面」だけでは不十分な場合があります。対象となる利用者の範囲を想定し、それに応じて大きさ、操作力、表示、部品形状などを変える必要があります。
水回りでは、乾いた部屋とは違う危険が増える
浴室、洗面所、キッチンなどでは、水が安全設計に大きく影響します。
床や取っ手が濡れれば滑りやすくなります。電気製品であれば、水の侵入による感電や故障への対策が必要になります。金属部品では腐食しやすさも考えなければなりません。
そのため、水回り用品では、滑りにくい表面、排水しやすい形、耐水性のある材料、電気部分への水侵入を抑える構造などが重要になります。
一方、乾燥した室内で使う収納用品なら、水への対策より、転倒、角への衝突、引き出しの抜け落ち、積み重ね時の安定性などが優先される場合があります。
熱を使う製品では、やけどと発火への対策が中心になる
電気ケトル、トースター、アイロン、暖房器具などは、熱を利用するため、他の生活用品とは異なる危険があります。
熱い部分に触れる、蒸気が当たる、倒れて熱湯がこぼれる、可燃物が近づいて発火するなど、熱特有の事故を想定する必要があります。
そのため、外側が熱くなりにくい構造、倒れにくい形、ふたのロック、温度ヒューズ、自動停止、可燃物と接触しにくい配置など、複数の対策を組み合わせます。
ここでは「壊れないこと」だけでは安全になりません。正常に動いている状態でも高温になるため、通常使用そのものに伴う危険を減らす設計が必要です。
刃物や工具では、必要な機能と危険が同じ場所にある
包丁、はさみ、カッター、工具などは、切る、削る、締めるといった機能を持つため、危険を完全になくすことはできません。
たとえば包丁の刃を丸くすれば切創リスクは下げられますが、食品を切る本来の機能も失われます。このような製品では、危険部分をなくすのではなく、握りやすい柄、指が滑り込みにくい形、収納時に刃を覆う構造などによって、必要な機能を保ちながらリスクを減らします。
安全設計では、製品の目的を保ったまま、どこまで危険を低減できるかというバランスが重要です。
可動部がある製品では「挟み込み」や「巻き込み」を考える
折りたたみ椅子、ドア、収納ケース、工具、電動機器などでは、部品が動くことによる危険があります。
可動部のすき間に指が入れば挟まれることがあります。回転部があれば、髪や衣服が巻き込まれる可能性があります。
そのため、指が入りにくいすき間寸法にする、ガードを付ける、動作速度を抑える、一定以上の力がかかったら停止するなどの対策が使われます。
同じ「開閉する製品」でも、子どもが触れる玩具収納と、大人だけが使う工具ケースでは必要な対策が異なる場合があります。
屋外では天候と経年劣化も安全条件になる
屋外用品では、雨、紫外線、温度変化、風、砂ぼこりなどにさらされます。
樹脂は紫外線によって劣化し、金属は腐食することがあります。暑さや寒さで材料の硬さが変わることもあります。また、風を受ける製品では、室内では問題にならない転倒や飛散が危険になります。
そのため、屋外用では耐候性のある材料、排水しやすい形、腐食しにくい処理、風で動きにくい構造などが重要です。
安全性は新品の状態だけでなく、数年使った後も考える必要があります。経年劣化で部品が割れたり、固定力が弱くなったりすれば、設計時とは別の危険が生じるからです。
「正しく使えば安全」だけでは十分でない場合がある
実際の生活では、製品が説明書通りに完璧に使われるとは限りません。少し強く押す、違う向きで持つ、別の場所で使う、子どもが触るといったことは現実に起こります。
NITEやISO/IEC Guide 51では、意図された使用だけでなく、合理的に予見可能な誤使用も安全を考える対象に含めています。米国CPSCも、消費者がどのように使用し、どのような誤使用をする可能性があるかを設計段階で考えるよう勧めています。
もちろん、あらゆる使い方を想定することはできません。しかし、起こりやすい誤使用が分かっているなら、それを前提に危険を減らすことが製品安全では重要です。
注意表示より、まず設計で危険を減らす
安全対策には、注意書きや警告表示も必要です。しかし、危険をすべて表示だけで解決しようとするのは十分ではありません。
CPSCは、安全設計の考え方として、まず危険そのものを設計で除去し、それが難しければガードなどで守り、それでも残る危険について警告するという優先順位を示しています。
たとえば、熱い部分に触れる危険があるなら、「触らないでください」と書くだけでなく、手が届きにくい位置に置く、カバーを付ける、表面温度を下げるといった対策を先に検討します。
つまり、安全表示は重要ですが、安全設計そのものの代わりではありません。
用途ごとに安全設計が違う理由を整理すると
- 子ども向け用品:誤飲、窒息、挟み込みなどへの配慮が重要
- 高齢者も使う用品:操作力、視認性、転倒しにくさなどが重要
- 水回り用品:滑り、腐食、水侵入、感電への対策が重要
- 加熱用品:やけど、発火、転倒、自動停止への対策が重要
- 刃物や工具:必要な機能を残しながら切創や誤操作を減らす設計が重要
- 可動部のある用品:挟み込み、巻き込み、指の侵入への対策が重要
- 屋外用品:雨、紫外線、温度変化、風、経年劣化への耐性が重要
このように、同じ安全設計でも、危険の種類と優先順位が製品ごとに異なります。
安全性が高いほど、すべての性能が良くなるわけではない
安全対策を増やすと、重量、価格、操作性、収納性などに影響することがあります。
たとえば、転倒しにくくするために台座を大きくすれば安定しますが、場所を取ります。保護カバーを厚くすれば危険部分へ触れにくくなりますが、重くなることがあります。ロックを増やせば誤操作を減らせても、開けにくくなる場合があります。
そのため、製品設計では、必要な安全性を確保しながら、使いやすさや本来の機能とのバランスを取る必要があります。
まとめ
生活用品の安全設計に用途や環境による違いがあるのは、製品ごとに使用者、使用場所、危険源、温度、水分、可動部、電気、経年劣化などの条件が異なるからです。
安全設計では、まず意図する使い方と合理的に予見できる誤使用を考え、起こり得る危険を見つけ、そのリスクを減らす対策を検討します。水回りなら滑りや感電、加熱用品ならやけどや発火、子ども向け用品なら誤飲や挟み込みというように、優先する危険が変わります。
つまり、安全設計は一つの万能な形を当てはめることではありません。使う人と環境に合わせて、必要な対策を組み合わせることで、生活用品ごとに異なる安全性がつくられているのです。
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参考資料
- 経済産業省「消費生活用製品向け リスクアセスメントのハンドブック」
- 経済産業省「高齢者関連製品のリスクアセスメントについて」
- ISO/IEC Guide 51:2014 Safety aspects — Guidelines for their inclusion in standards
- U.S. Consumer Product Safety Commission, Guidance on the Application of Human Factors to Consumer Products

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