セーターやスウェット、ニットなどを着ていると、わき、袖口、腰まわり、バッグが触れる部分などに、小さな丸い毛のかたまりができることがあります。これが「毛玉」で、繊維分野ではピリングと呼ばれます。
衣服に毛玉ができる主な理由は、着用や洗濯で布の表面がこすられ、繊維の一部が毛羽として表面へ出て、その毛羽同士が絡み合うからです。絡んだ毛羽がさらに摩擦を受けると、小さな球状のかたまりへ成長します。
ただし、衣服には毛玉が「必要」なわけではありません。毛玉は、素材、糸、生地の構造、摩擦の強さ、洗濯方法などが組み合わさって起こる外観変化です。
毛玉は、いきなり球状になって現れるわけではない
毛玉ができる過程は、大きく分けると「毛羽立ち」「絡み合い」「成長」「脱落」という段階で考えられます。
まず、布の表面が摩擦を受けると、糸の中に収まっていた繊維の一部が表面へ引き出されます。これが毛羽です。
次に、表面へ出た毛羽同士が繰り返しこすられると、互いに絡まり、小さなかたまりになります。さらに摩擦が続くと、そのかたまりへ周囲の毛羽が巻き込まれ、毛玉が大きくなります。
JISのピリング試験に関する解説でも、ピリングは布表面の繊維が摩擦などで毛羽立ち、その毛羽が絡み合って小さな球状のかたまりになる現象と説明されています。
最初の原因は、衣服表面の「摩擦」
衣服は、着ているだけでも多くの場所で摩擦を受けます。
腕を振れば袖と脇がこすれ、椅子に座れば背中や腰が背もたれと触れます。バッグを肩から掛ければ、ストラップが同じ場所を繰り返しこすります。
編布の摩擦による外観変化を調べた日本家政学会の研究でも、摩擦回数が増えるにつれて毛羽立ちやピルの発生が進むことが確認されています。
つまり、毛玉は「時間がたつだけ」で自然にできるのではなく、着用中の動きや外部との接触によって布表面が繰り返し摩擦されることで生じやすくなります。
洗濯でも衣服同士がこすれ、毛羽が増える
毛玉は着用中だけでなく、洗濯でも発生します。
洗濯機の中では、衣服が回転し、曲げられ、他の衣服と接触します。ファスナーや面ファスナー、硬い装飾などが別の衣服へ触れることもあります。
この機械作用によって表面の繊維が引き出されると、毛羽が増え、その後の摩擦で絡み合いやすくなります。
洗濯で一度に毛玉が完成するとは限りませんが、着用と洗濯を繰り返すことで、毛羽立ちと絡み合いが少しずつ進むことがあります。
毛玉ができやすい場所は、よくこすれる場所
衣服全体へ均等に毛玉ができるとは限りません。
わき、袖口、ひじ、腰、腹部、バッグが当たる肩、シートベルトが触れる胸元などは、同じ場所へ繰り返し摩擦が加わりやすいため、毛玉が目立ちやすくなります。
一方、ほとんど物へ触れない場所では、同じ素材でも毛玉が少ない場合があります。
この違いからも、毛玉の発生には素材だけでなく「どこで、どのようにこすられるか」という使用条件が大きく関係していることが分かります。
繊維が糸から抜け出しやすいと毛羽が増えやすい
布は、多数の繊維をまとめた糸から作られています。
摩擦によって繊維が糸の内部から表面へ移動しやすい構造だと、毛羽が増えやすくなります。
糸や布の構造と毛羽の関係を扱った研究では、糸から繊維が滑り出しにくい構造ほど毛羽が発生しにくいことが示されています。
つまり、毛玉のできやすさは「何の繊維か」だけでなく、繊維がどのように糸へまとめられ、その糸がどのように布を作っているかにも左右されます。
糸の撚りが弱いと、繊維が表面へ出やすい場合がある
紡績糸では、短い繊維をねじり合わせる「撚り」によって一本の糸を作ります。
撚りが適度に強いと、繊維同士がまとまりやすく、表面へ飛び出しにくくなります。反対に、柔らかい風合いを出すために撚りが弱い糸では、繊維が動きやすく、毛羽が出やすくなる場合があります。
ただし、撚りを強くすれば必ず良いわけではありません。撚りが強すぎると風合いや柔らかさが変わります。
衣服では、毛玉の起きにくさと肌触り、ふくらみ、柔らかさなどのバランスを取って糸が設計されています。
編物は構造が柔らかいため、毛羽が動きやすいことがある
セーターなどの編物では、糸がループ状につながっています。
編物は伸縮性や柔らかさに優れる一方、織物と比べて糸が動きやすい構造のものもあり、摩擦で表面の繊維が引き出されやすい場合があります。
特に柔らかく、ふくらみのあるニットでは、表面の毛羽も多くなりやすいため、ピリングが目立つことがあります。
ただし、編物なら必ず毛玉が多いわけではありません。編み密度、糸の種類、撚り、仕上げ加工などによって毛玉の発生しやすさは大きく変わります。
繊維が強いと、できた毛玉が残りやすいことがある
毛玉のできやすさを考えるときは、毛羽ができるかどうかだけでなく、できた毛玉が布表面へどれだけ長く残るかも重要です。
毛玉は、数本の繊維によって布表面へつながっています。摩擦が続くうちに、そのつながりが切れれば毛玉は自然に脱落します。
一方、強度の高い繊維では、毛玉を支える繊維が切れにくく、できた毛玉が長く残る場合があります。
抗ピル加工に関する繊維分野の解説でも、合成繊維では繊維強度が高いため、形成された毛玉が脱落しにくく、外観上目立ちやすい場合があると説明されています。
天然繊維でも毛玉はできる
毛玉は、ポリエステルやアクリルなどの合成繊維だけに起こる現象ではありません。
ウールや綿などの天然繊維でも、摩擦によって毛羽が生じれば毛玉はできます。
ただし、繊維の強さ、長さ、表面形状などによって、毛玉の成長や脱落のしやすさが異なります。
そのため、「天然繊維なら毛玉ができない」「合成繊維なら必ず毛玉ができる」というような単純な分け方はできません。
混紡素材では、異なる繊維の特徴が同時に影響する
衣服では、綿とポリエステル、ウールとナイロンなど、複数の繊維を混ぜた糸がよく使われます。
混紡すると、吸湿性、強度、乾きやすさ、耐久性などを組み合わせられる一方、毛玉の発生にも複数の繊維特性が影響します。
たとえば、毛羽になりやすい繊維と、切れにくい高強度の繊維が一緒に使われていると、できた毛玉が表面へ残りやすくなる場合があります。
ただし、結果は混率や糸構造、布構造によって変わるため、混紡というだけで毛玉の多さを決めることはできません。
起毛素材は、もともと表面に多くの毛羽がある
フリースや起毛ニットなどは、柔らかさや保温性を高めるため、布表面へ意図的に毛羽を作ることがあります。
この毛羽は空気を含みやすく、暖かく柔らかな触感につながります。
一方、表面に繊維が多く出ているため、摩擦を受けると毛羽同士が絡みやすく、毛玉や毛羽のまとまりが生じることがあります。
つまり、表面の毛羽は快適性に役立つ一方、ピリングの起点にもなり得ます。衣服設計では、この両方の性質を考える必要があります。
毛玉のできやすさは、試験で比較できる
ピリングは感覚だけで判断するものではなく、繊維製品の品質評価として試験方法が定められています。
ISO 12945-1:2020では、回転するピリングボックスを使って布へ摩擦を与え、毛羽立ち、毛玉、表面の絡まりに対する抵抗性を評価します。
ISO 12945-2:2020では、改良マーチンデール法を使って、布のピリング、毛羽立ち、マット化の起こりやすさを評価します。
こうした試験は、実際の着用を完全に再現するものではありませんが、素材や加工方法の違いを一定条件で比較するために使われます。
「毛玉ができない素材」ではなく「できにくい設計」がある
衣服のピリングを抑えるためには、表面へ繊維が出にくくし、毛羽が絡みにくくし、できた毛玉が目立ちにくい状態にする必要があります。
対策として、糸の撚りを調整する、布を高密度にする、表面の余分な毛羽を焼き取る、繊維を固定する加工を行うなどの方法があります。
海外の繊維工学資料でも、ピリング対策には、繊維、糸、布構造、製造工程をまとめて考える必要があるとされています。
ただし、毛玉を減らすために布を硬くしすぎれば、柔らかさやふくらみが失われることがあります。そのため、抗ピル性と着心地の両立が重要です。
洗濯ネットは摩擦を減らす助けになる
家庭で毛玉を減らしたい場合、洗濯時の摩擦を必要以上に増やさないことが基本です。
衣服を裏返す、洗濯ネットに入れる、ファスナーや面ファスナーを適切に処理する、詰め込みすぎを避けるなどは、衣服表面が他の物と強くこすれる機会を減らす助けになります。
ただし、洗濯ネットへ入れれば完全に毛玉を防げるわけではありません。着用中の摩擦や素材そのもののピリング傾向も関係します。
洗濯表示で弱い洗い方が指定されている場合は、その表示を優先することが大切です。
バッグやシートベルトの摩擦も見落とせない
毛玉対策というと洗濯だけに注目しがちですが、着用中の摩擦も大きな原因です。
同じ肩へ毎日バッグを掛ける、長時間シートベルトが同じ位置へ当たる、机や椅子へ袖が繰り返し触れるといった状況では、局所的に毛羽立ちが進みやすくなります。
この場合、洗濯方法を変えても摩擦源が同じなら、同じ場所へ毛玉が再発することがあります。
毛玉がいつも同じ場所にできるなら、衣服の素材だけでなく、日常の動作や持ち物との接触も確認すると原因を見つけやすくなります。
毛玉を取るときは、生地を傷めないことが重要
できた毛玉は、毛玉取り器などで取り除けますが、強く削りすぎると布そのものを薄くしたり、糸を切ったりすることがあります。
毛玉は布表面と数本の繊維でつながっているため、その部分だけを切ることが基本です。
手で強く引きちぎると、周囲の繊維まで引き出し、新しい毛羽を増やす場合があります。
毛玉を取る目的は見た目を整えることなので、生地を傷めて寿命を短くしないよう、製品の取扱表示や毛玉取り器の説明に従うことが大切です。
まとめ
衣服に毛玉ができるのは、着用や洗濯による摩擦で布表面の繊維が毛羽立ち、その毛羽が絡み合って小さな球状のかたまりへ成長するからです。
毛玉のできやすさは、繊維の種類や強さだけでなく、糸の撚り、布の密度、編み方や織り方、起毛の有無、摩擦の強さ、洗濯方法などによって変わります。また、強い繊維では、できた毛玉が切れて脱落しにくく、長く表面へ残ることがあります。
つまり、毛玉は衣服に必要な機能ではなく、布表面の毛羽が摩擦によって発生し、絡み合い、成長することで起こる外観変化です。摩擦を減らす扱い方と、毛羽が出にくい素材・糸・布構造の工夫によって、毛玉は起こりにくくできます。
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参考資料
- 日本家政学会「編布の摩擦による損傷と外観特性変化」
- 繊維製品消費科学「第11回 ピリングとスナッグ」
- Journal of the Textile Machinery Society of Japan, Effects of the Structure of Spun Yarns and Fabrics on Their Fuzz
- ISO 12945-1:2020 Textiles — Determination of fabric propensity to surface pilling, fuzzing or matting — Part 1
- Engineering of High-Performance Textiles, Pilling-resistant knitwear

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