暑い日に風通しのよいシャツを着ると、肌の近くにこもった熱や湿気が外へ逃げやすくなります。この働きを支えているのが衣服の「通気性」です。
通気性とは、布や衣服のすき間を空気が通り抜ける性質です。布には、織り目や編み目のような比較的大きな通り道と、糸や繊維の間にある細かな通り道があります。外と内に圧力差ができると、空気はこれらのすき間を通って移動します。
ただし、通気性は素材名だけで決まるものではありません。糸の太さや密度、織り方・編み方、布の厚さ、仕上げ加工、重ね着の枚数、衣服のゆとり、袖口や裾の開き、さらに歩行や風による衣服の動きまで関係します。つまり、衣服の通気性は「布の穴」と「衣服全体の空気の流れ」の両方で成り立っています。
通気性は、空気が布を通り抜けやすいかを表す
ISO 9237:1995は、布の表裏に一定の圧力差を与えたとき、どれだけ空気が通過するかを測定する方法を定めています。この規格は2023年にも確認され、現在も有効です。
ここで重要なのは、空気が自然に「吸い込まれる」のではなく、布の内外に圧力差があるときに、その差を埋める方向へ流れるという点です。
風が当たる、体を動かして衣服が揺れる、衣服内の暖かい空気が上昇する、といった状況では圧力や温度の差が生まれ、布や開口部を通じた空気移動が起こります。
布には二種類の空気の通り道がある
布の通気機構を調べた繊維製品消費科学の研究では、布は大きく、織り目や編み目のような「ノズル状の通り道」と、繊維同士の間にある「毛管状の細かな通り道」からなるものとして説明されています。
空気は、この二つの経路を合わせて通過します。
目の粗いメッシュでは、織り目や編み目の直通するすき間から多くの空気が通ります。一方、目が細かい布でも、糸の内部や繊維同士の間には小さなすき間があり、そこを少量の空気が通ることがあります。
つまり、見た目に穴がない布でも、完全に空気を通さないとは限りません。
織り目や編み目が大きいほど、空気は通りやすくなる
布を構成する糸と糸の間に大きなすき間があれば、空気が通る抵抗は小さくなります。
家政学分野の研究でも、衣服地の直通気孔面積が大きいほど通気性が高くなることが示されています。直通気孔の大きさは、布の組織、糸の太さ、糸密度、仕上げ加工などによって変化します。
たとえば、同じ素材でも糸密度を下げればすき間を作りやすくなり、逆に高密度に織れば空気は通りにくくなります。
このため、「綿だから通気性が高い」「ポリエステルだから通気性が低い」と素材名だけで決めることはできません。
糸の太さと密度が空気の通り道を変える
太い糸を密に並べた布では、糸同士のすき間が小さくなりやすく、空気の抵抗が大きくなります。
反対に、細い糸を低密度で配置した布では、空気の通る経路を確保しやすくなります。
ただし、糸の太さだけでは決まりません。細い糸でも非常に高密度に織れば空気は通りにくくなり、太い糸でも粗い編み構造なら大きな開口を作れます。
通気性は、糸そのものより「糸がどのように配置されているか」という布構造に強く左右されます。
布の厚さが増えると、空気の通り道も長くなる
布が厚くなると、空気は表面から裏面まで、より長い経路を通る必要があります。
そのため、同じ程度のすき間があっても、厚い布ほど空気抵抗が大きくなる場合があります。
一方、厚い布でも粗い構造で大きな空隙を持つものは、比較的空気を通しやすいことがあります。
厚さだけで通気性を判断できないのは、空気の通路の長さと、通路の広さや数が同時に影響するためです。
仕上げ加工によって通気性は変化する
布は、織ったり編んだりした後に、さまざまな仕上げ加工を受けます。
たとえば、圧力をかけて表面を平らにする加工、樹脂を付ける加工、防水・防風性を持たせるコーティングなどは、糸や繊維のすき間を狭くし、空気を通りにくくする場合があります。
逆に、メッシュ構造や開孔を利用して通気経路を意図的に増やす設計もあります。
通気性は布構造の変化を敏感に反映する性能の一つであり、同じ素材でも加工前後で大きく変わることがあります。
布を重ねると、空気は通りにくくなる
衣服は一枚だけで着るとは限りません。肌着、シャツ、上着などを重ねると、空気は複数の布を順番に通る必要があります。
衣服地を重ねた実験では、枚数が増えるほど通気性が低下する傾向が示されています。
これは、布一枚ごとに空気抵抗が加わるうえ、各層の孔が完全に一直線へ重なるとは限らないためです。
そのため、夏に何枚も重ね着すると熱や湿気がこもりやすくなり、冬には逆にその空気の通りにくさが保温に役立つことがあります。
衣服の通気性は、布の性能だけでは決まらない
実際の衣服では、空気は布を通るだけでなく、襟、袖口、裾、前開きなどからも出入りします。
同じ布を使っていても、体へ密着した服と、ゆとりのある服では、衣服内の空気の動きが違います。
ゆとりがある衣服では、体の動きによって布が体へ近づいたり離れたりし、衣服内の空気を押し出したり吸い込んだりできます。
したがって、着用時の「風通し」は、布の空気透過性と衣服形状による換気を合わせた結果です。
歩くと衣服が動き、空気を押し出す
歩行中は、腕や脚の動きによって衣服が繰り返し変形します。
このとき衣服内の容積が変化すると、内部の空気が袖口や裾などから押し出され、外の空気が再び入ります。この働きはポンピング効果と呼ばれます。
日本生理人類学会誌のスカートを用いた研究でも、衣服内気流は布の違いだけでなく、移動速度、歩行運動、衣服の動きによるポンピング効果の影響を受けることが確認されています。
つまり、じっと立っているときの通気性と、実際に歩いているときの換気量は同じとは限りません。
暖められた空気が上昇することでも換気が起こる
皮膚の近くの空気は体温で暖められます。暖かい空気は密度が小さくなり、上昇しやすくなります。
衣服の上下に開口があると、暖かい空気が上から抜け、その分だけ下から比較的冷たい空気が入ることがあります。これは煙突効果に近い空気の流れです。
衣服内の気流を測定した研究でも、皮膚と外気の温度差によって衣服内に空気流が生じることが示されています。
衣服の通気は、外から風が吹くときだけでなく、体温による自然対流でも起こります。
空気が動くと対流によって熱を外へ運びやすくなる
皮膚や衣服の近くにある空気は、体から熱を受け取って暖まります。
その空気がその場にとどまれば断熱層として働きますが、外の空気と入れ替わると、暖められた空気と一緒に熱も外へ運ばれます。
暑い環境では、この対流による熱移動が体の放熱を助けます。反対に寒い環境では、空気の入れ替わりが多すぎると保温性が低下します。
このため、夏服では通気を増やし、冬の上着では風を通しにくくするというように、目的に応じて布構造が変えられます。
空気の流れは汗の蒸発にも影響する
汗が蒸発すると、体から熱が奪われます。しかし、衣服内に湿った空気がたまり続けると、新しい汗は蒸発しにくくなります。
通気や換気によって湿った空気が外へ出て、より乾いた空気と入れ替わると、蒸発を続けやすくなります。
NIOSHも、厚く空気を通しにくい衣服は、対流による冷却と汗の蒸発を妨げ、熱を身体の近くへ閉じ込める場合があると説明しています。
通気性は、熱そのものだけでなく、水蒸気を運ぶ空気の交換にも関係しています。
通気性と透湿性は別の仕組み
通気性と透湿性は似た言葉ですが、同じではありません。
通気性は、空気のかたまりが布のすき間を通り抜ける性質です。一方、透湿性は、水蒸気が材料を通して移動する性質です。
防風膜のように空気の流れはほとんど止めても、水蒸気は分子レベルである程度通す材料があります。
そのため、「風を通さないのに蒸れにくい」という衣服も作れます。衣服の快適性を考えるときは、通気と透湿を分けて考えることが重要です。
通気性を高くしすぎると、保温や防護性能と両立しにくい
衣服には通気性以外にも、防風、防水、紫外線遮蔽、粉じんや化学物質からの防護などの役割があります。
空気を自由に通す大きなすき間を増やせば、一般には風や液体も通りやすくなります。
NIOSHは、通気しにくい保護衣が身体の熱放散を妨げる一方、その閉鎖性が外部の危険から守るために必要な場合があるとしています。
そのため衣服設計では、通気性を最大にするのではなく、必要な防護性能を保ちながら、どこまで熱や湿気を逃がせるかというバランスを取ります。
部位ごとに通気性を変える設計もできる
体は全身で同じ量の熱や汗を出すわけではありません。背中、脇、胸などは、活動時に熱や湿気がこもりやすい場所です。
そこでスポーツウェアなどでは、汗の多い部位へメッシュを配置し、風を受けやすい前面では防風性を高めるなど、場所によって布構造を変えることがあります。
こうした設計なら、必要な部分だけ換気を増やし、保護や保温が必要な部分では空気の流れを抑えられます。
通気性は布全体で一様に高くするだけでなく、衣服の中で配置することもできる性能です。
通気性は「素材名」より布と衣服の構造を見る
衣服を選ぶとき、綿、麻、ポリエステルといった素材名だけで通気性を判断するのは十分ではありません。
同じ綿でも、高密度の布と粗いガーゼでは空気の通り方が大きく違います。同じポリエステルでも、緻密な防風布とメッシュでは通気性はまったく異なります。
実際の着心地を見るときは、布の密度、厚さ、メッシュの有無、衣服のゆとり、襟や袖口の開き、重ね着の枚数などを合わせて見る必要があります。
まとめ
衣服が空気を通して熱や湿気を逃がせるのは、布の織り目・編み目や繊維間隙、そして襟・袖口・裾などの開口部を通って空気が移動できるからです。
布の中では、大きな直通気孔と細かな繊維間隙の両方が空気の経路になります。その通りやすさは、糸密度、厚さ、織り方・編み方、仕上げ加工、重ね枚数によって変化します。さらに実際の衣服では、歩行によるポンピング効果や、体温による自然対流も衣服内の換気を生みます。
つまり衣服の通気性は、単に「穴の多い素材」の性質ではありません。布の微細な構造と衣服全体の形・動きが組み合わさり、空気の流れを作ることで、熱や湿気を外へ運ぶ仕組みなのです。
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参考資料
- 繊維製品消費科学「布の通気性に関する研究」
- 日本生理人類学会誌「通気性の異なるスカートの衣服内気流に及ぼす効果」
- 日本衣服学会誌「家庭科教育における衣服地の通気性簡便測定法」
- ISO 9237:1995 Textiles — Determination of the permeability of fabrics to air
- NIOSH, Heat Stress in Construction

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