濃い色のジーンズやシャツは、乾いているときには問題なくても、雨や汗で濡れた状態でバッグや白い服とこすれると、色が移ることがあります。これは、濡れることで布の表面や染料の状態が変わり、摩擦によって色材が相手側へ移動しやすくなるためです。
色移りの起こりやすさは、染料と繊維の結びつき、布の表面に残っている未固着染料、水分量、摩擦の強さ、こすられる回数などで変わります。そのため、同じ衣服でも乾燥時と湿潤時では摩擦に対する強さが同じとは限りません。
色移りは「色が薄くなること」とは少し違う
衣服の色が変わる現象には、布そのものの色が薄くなる「変退色」と、別の布や物へ色が付く「汚染・色移り」があります。摩擦による色移りでは、布表面の染料や着色された繊維片が、こすられた相手側へ移動します。
この抵抗性は摩擦堅ろう度として評価され、乾いた白布でこする乾燥摩擦と、湿らせた白布でこする湿潤摩擦を分けて試験します。乾燥時に強い衣服でも、湿潤時には評価が下がることがあるためです。
水分があると、布の表面状態が変わる
布が濡れると、糸や繊維の間へ水が入り込みます。吸水性のある繊維では膨潤が起こり、糸や表面の状態が乾燥時とは変わります。また、水分によって摩擦面が柔らかくなり、接触面積が増える場合もあります。
こうした変化によって、布表面にある染料や着色成分が摩擦相手へ移りやすくなることがあります。特に表面近くに染料が多い衣服では、濡れと摩擦が重なることで色移りが目立ちやすくなります。
未固着の染料が残っていると湿潤摩擦で移りやすい
染色後には、繊維と十分に結びつかなかった染料や、表面に残った染料を洗浄して取り除く工程があります。しかし製品や染色方法によっては、表面付近に移動しやすい色材が残ることがあります。
水分があると、こうした色材が溶けたり移動したりしやすくなり、そこへ摩擦が加わると相手の白布などへ移ります。海外の湿潤摩擦試験でも、湿った条件では乾燥時より摩擦堅ろう度が低くなる例が多く報告されています。
国内研究でも湿潤摩擦の方が色移りしやすい
ブルージーンズを対象にした国内研究では、洗濯、水、摩擦、日光に対する堅ろう度を比較したところ、乾燥摩擦では3級以上だった試料でも、湿潤摩擦では3級以下となりました。研究では、ジーンズは濡れた状態でこすると色落ちや色移りが起こりやすいとまとめられています。
また、反応染料で染めた綿布の湿潤摩擦堅ろう度を調べた研究では、染色布そのものの湿潤率によって堅ろう度が変化することが示されています。つまり、「濡れているかどうか」だけでなく、どの程度水分を含んでいるかも影響します。
水分が多ければ必ず比例して悪くなるわけではない
湿潤摩擦は乾燥摩擦より色移りしやすい傾向がありますが、水分量が増えるほど単純に一直線で悪化するとは限りません。国内研究では、湿潤率が一定範囲までは堅ろう度が低下し、その後は変化の仕方が異なる結果も報告されています。
これは、水分が染料の移動を助けるだけでなく、摩擦条件や潤滑状態、染料の溶解性など複数の要因を同時に変えるためです。そのため、実際の色移りは「少し湿っている」「汗でかなり濡れている」「雨でびしょ濡れ」といった状態によって同じではありません。
デニムは表面の色が変化しやすい設計もある
インディゴ染めのデニムでは、糸の中心まで完全に染めず、表面付近を染める方法がよく使われます。そのため、着用や洗濯、摩擦によって表面の色が少しずつ変化し、独特の色落ちが生まれます。
この特徴はデニムの風合いとして楽しまれる一方、濃色の新品では白い衣服、バッグ、椅子などへ色が移ることがあります。特に雨や汗で湿っていると、摩擦が加わった部分で色移りが起こりやすくなります。
汗の場合は水分だけでなく塩類なども含まれる
汗は純粋な水ではなく、塩類などを含みます。衣服が汗で濡れると、染料や繊維の状態は単なる蒸留水とは異なる条件になります。
反応染料染色綿布を人工汗液で調べた国内研究では、条件によっては人工汗液中の塩類が未固着染料の水への移行を抑える方向に働く結果も報告されています。つまり、「汗なら水より必ず色移りが多い」と単純には言えません。
大切なのは、汗によって衣服が湿潤し、そこへ繰り返し摩擦が加わることで、色移りの条件がそろいやすくなることです。
こすれる回数と力でも色移りは変わる
同じ湿潤状態でも、軽く一度触れるだけの場合と、バッグの肩ひもや椅子の座面が長時間こすれ続ける場合では、色移りの程度が違います。
摩擦堅ろう度試験でも、一定の荷重をかけ、決められた回数だけ往復摩擦して色移りを評価します。実生活では、歩行、座る動作、腕の振り、重ね着などによって繰り返し摩擦が起こるため、使用状況によって差が出ます。
白い衣服や淡色品ほど色移りが目立ちやすい
同じ量の染料が移っても、黒い布より白や淡色の布の方が色差が大きく見えます。そのため、濃色デニムと白いシャツ、濃色バッグと淡色パンツなどの組み合わせでは、少量の色移りでも目立ちやすくなります。
色移りのしやすさそのものと、目立ちやすさは別の問題ですが、実際の使用では両方が影響します。
家庭では「濡れたまま強くこすらない」が基本
濃色の衣服で色移りを抑えるには、取扱い表示や注意表示を確認し、濡れた状態で淡色品と強くこすれ続けないようにすることが基本です。
- 雨や汗で濡れた濃色衣料を白い衣服やバッグと長時間密着させない
- 濃色品と淡色品を分けて洗う
- 新品の濃色衣料では、色移りに関する注意表示を確認する
- 濡れたまま椅子やソファへ長時間強くこすりつけない
ただし、家庭での扱いだけで完全に色移りを防げるわけではありません。もともとの染料、染色方法、後処理、布表面の状態によって湿潤摩擦堅ろう度そのものが異なるためです。
まとめ
同じ衣服でも濡れた状態でこすると色移りしやすくなるのは、水分によって布表面や染料の状態が変わり、移動しやすい色材が摩擦によって相手側へ運ばれやすくなるためです。
特にデニムなどでは、乾燥摩擦より湿潤摩擦の堅ろう度が低い例が確認されています。ただし、水分量が増えれば必ず比例して悪化するわけではなく、染料の種類、繊維、未固着染料、摩擦力、汗の成分などによって結果は変わります。
衣服の色移りを理解するときは、「何色か」だけでなく、「濡れているか」「どれだけこすれるか」「どのように染められているか」まで見ることが重要です。
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参考資料
- 日本家政学会「ブルージーンズの品質に及ぼす取り扱い方法の影響」
- 繊維製品消費科学「反応染料染色綿布の湿潤摩擦堅ろう度―人工汗液の影響―」
- Coatings「Analysis of Color Fastness and Shrinkage of Dyed and Printed Linen/Silk Fabrics」
- Chemistry「Sustainable Coloration and Functionalization of Cotton Fabric Dyed with Bombax ceiba Flower Extract and Bio-Mordants」

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