結論からいうと、雲の氷晶には、雲の中の温度や湿度、氷晶をつくるきっかけとなる微粒子、雲の高さ、上昇気流の強さなどが場所ごとに違うため、数・大きさ・形・成長のしかたに違いが生まれます。
同じ「氷晶」でも、上空の薄い巻雲にある小さな氷晶と、積乱雲の中で成長している氷粒、雪として地上へ落ちてくる結晶は、同じ条件でできているわけではありません。氷晶は、できた場所で経験する温度・水蒸気量・微粒子・気流の違いを反映して変化します。
雲の氷晶はどこでも同じではない
雲の中の水は、液体の水滴だけでなく氷晶として存在することがあります。高くて温度の低い雲では氷晶が多くなり、巻雲のようにほぼ氷晶からできる雲もあります。一方、中層や積乱雲の一部では、氷点下でも液体のままの過冷却水滴と氷晶が共存します。
Met Officeは、高い雲では低温のため氷晶が主体となり、巻雲は氷晶からできると説明しています。気象庁も、雪は大気中の水蒸気が核となる粒子をきっかけに氷の結晶となり、その後さらに水蒸気を取り込んで成長すると説明しています。
つまり、氷晶は「気温が0℃未満なら自動的に同じものができる」という単純な現象ではありません。
最も大きな違いを生むのは温度
氷晶の形や成長速度を左右する重要な条件が温度です。氷の結晶は基本的に六角形の結晶構造を持ちますが、成長する温度によって板状、柱状、針状、樹枝状など、見かけの形が変わります。
NOAAは、雪の結晶の基本的な形は形成時の温度に強く左右され、湿度もその形に影響すると説明しています。たとえば、ある温度帯では板状の結晶が成長しやすく、別の温度帯では柱状や針状になりやすくなります。
気象庁の南極・昭和基地の解説でも、大きな樹枝状結晶はおよそマイナス15℃で湿度が高く、風が弱い条件で成長しやすいと紹介されています。
したがって、同じ雲の中でも高度が変わって温度が違えば、氷晶の成長のしかたも変わります。
湿度の違いで氷晶の枝分かれや大きさが変わる
温度だけでなく、周囲にどれだけ水蒸気があるかも重要です。
氷晶は周囲の水蒸気が表面に付着することで成長します。氷に対して十分に湿った空気では、水蒸気の供給が多く、結晶が速く成長しやすくなります。とくに湿度が高い条件では、結晶の角や突起が成長しやすくなり、枝分かれした複雑な形になることがあります。
NOAA NESDISは、わずかな温度や水分量の違いでも結晶の成長のしかたが変わると説明しています。氷晶が雲の中を移動すれば、異なる温度と湿度の場所を次々に通るため、一つの結晶でも成長途中で形が変わることがあります。
このため、地上へ落ちてきた雪の結晶には非常に多様な形が見られます。
氷晶ができる「きっかけ」の微粒子も場所によって違う
雲の中で氷ができるとき、ちりや鉱物粒子などが氷晶形成のきっかけになることがあります。こうした粒子は氷晶核や氷核粒子と呼ばれます。
すべての大気中の微粒子が同じように氷をつくりやすいわけではありません。NOAAの研究では、巻雲の氷晶の残留粒子を調べた結果、鉱物ダストや金属粒子が重要な氷晶形成核になっている例が確認されています。
また、近年の研究では、生物由来粒子や海洋起源粒子なども特定条件で氷晶形成に関与することが示されています。どの種類の氷晶核が多いかは、砂漠の風下、海上、極域、森林付近など、空気がどこから来たかによって変わります。
そのため、同じ温度の雲でも、氷晶核の種類や量が違えば、氷晶が生まれる数や温度条件に差が出ることがあります。
非常に低温なら核が少なくても氷ができやすくなる
比較的高い氷点下では、過冷却水滴が液体のまま残ることがあります。この場合、氷晶核があるかどうかが氷の形成に大きく影響します。
一方、温度が非常に低くなると、特定の氷晶核がなくても水滴が凍結しやすくなります。したがって、雲の温度がどこまで下がっているかによって、氷晶のでき方の主役が変わります。
これは、低温の上層雲と、比較的暖かい混合相の雲で氷晶の数や成り立ちが違う理由の一つです。
巻雲と積乱雲では氷晶の条件が違う
巻雲は非常に高い空にあり、主に氷晶からできています。Met Officeによると、巻雲は高高度で少量の水蒸気が氷へ直接変化することで形成されます。高い空は非常に低温で、水蒸気量も低層より少ないため、薄く繊維状の雲になりやすくなります。
一方、積乱雲では強い上昇気流によって大量の水滴や氷粒が上空へ運ばれます。雲の下部には液体水滴が多く、上部では過冷却水滴と氷晶が混在し、さらに高い場所では氷粒子が増えます。
積乱雲の内部では、氷晶に過冷却水滴が衝突して凍りつくこともあります。この過程が進むと、氷晶というより丸みを帯びたあられやひょうへ成長することがあります。
このように、巻雲と積乱雲では「低温で氷がある」という点は同じでも、水蒸気量、上昇気流、過冷却水滴の量が違うため、氷粒子の性質も異なります。
強い上昇気流ほど氷晶を長く雲の中に保ちやすい
上昇気流の強さも、氷晶の成長に大きく影響します。
氷晶は重力で落下しようとしますが、粒が小さければ上昇気流によって雲内にとどまることができます。強い上昇気流があれば、氷晶やあられはより長く雲の中に滞在し、水蒸気や過冷却水滴を取り込みながら成長できます。
積乱雲ではこの作用が強く、氷粒子が上昇と落下を繰り返しながら大きくなり、あられやひょうになることがあります。反対に、上昇気流が弱い雲では、成長した粒は比較的早く下へ落ちやすくなります。
つまり、氷晶の大きさの違いには、単なる温度差だけでなく「雲の中にどれだけ長く滞在できるか」も関係しています。
過冷却水滴が多い雲では氷晶の成長が変わる
氷点下の雲では、氷晶と過冷却水滴が同時に存在することがあります。このような雲を混合相雲と呼びます。
氷晶があると、周囲の水蒸気が氷晶側へ移動して成長を助けることがあります。また、氷晶に過冷却水滴が衝突すると、その水滴が瞬時に凍りつき、氷粒子の形や密度を変えます。
このため、同じ温度でも過冷却水滴が豊富な雲と少ない雲では、氷晶の成長過程が違います。過冷却水滴が多い積乱雲では、樹枝状のきれいな結晶だけではなく、表面に凍った水滴をまとった不規則な氷粒子も多くなります。
海上・大陸・極域でも氷晶形成の条件は変わる
場所による違いを見ると、空気中の微粒子の種類が異なることが重要です。
砂漠由来のダストが多い地域では、鉱物粒子が氷晶核として働くことがあります。NOAA GFDLは、鉱物ダストが雲や氷の核として重要な役割を持つと説明しています。
一方、極域では海氷や海洋、生物由来の粒子が氷晶核として関与する研究もあります。2026年にNOAAが紹介した北極域の研究では、海氷上の融解水に含まれる生物由来の氷晶核が比較的高い温度でも氷形成を促す可能性が示されています。
このように、雲が通過する場所や空気の起源によって、氷晶形成を助ける粒子の種類と濃度が変わり、氷晶の発生条件も変わります。
同じ氷晶でも成長途中で姿が変わる
氷晶は生まれたときの形を保ったまま地上へ落ちるとは限りません。雲の中を上下・水平に移動する間に、違う温度と湿度を経験します。
NOAA NESDISは、結晶が雲の中を移動すると、温度や水分量のわずかな変化によって結晶の成長様式が切り替わると説明しています。最初は板状に成長し、その後別の条件で枝分かれが進むなど、一つの粒に複数の環境の履歴が刻まれることがあります。
そのため、雪の結晶の形を見ると、その粒が雲の中でどのような温度・湿度の場所を通ったかを推測できる場合があります。
氷晶が多い雲でも地上で雪になるとは限らない
雲の中に氷晶が多くても、地上まで雪として届くとは限りません。
氷晶が十分に成長して落下しても、途中に0℃より高い空気の層があれば融けて雨になります。気象庁は、雲の中で成長した雪の結晶が落下途中で融ければ雨、融けずに地上まで届けば雪になると説明しています。
したがって、氷晶の違いは雲の中だけの問題ではなく、最終的な降水の種類にも関係します。
場所や条件による違いを整理すると
- 温度:結晶の形、凍結の起こりやすさ、液体水との共存状態を左右する
- 湿度・水蒸気量:氷晶の成長速度や枝分かれの程度に影響する
- 氷晶核:鉱物ダスト、金属粒子、生物由来粒子など、場所によって種類と量が異なる
- 高度:高いほど低温になりやすく、巻雲などでは氷晶主体になる
- 上昇気流:強いほど氷晶を雲内に長く保ち、成長させやすい
- 過冷却水滴:量が多いと氷晶への付着凍結が進み、あられなどへ変化しやすい
- 雲の種類:巻雲、混合相雲、積乱雲では氷晶の形成・成長条件が異なる
- 移動経路:一つの氷晶でも、通過した温度・湿度の履歴によって形が変わる
まとめ
「なぜ雲の氷晶には場所や条件による違いがあるのか?」への最も簡単な答えは、氷晶ができて成長する環境の温度・湿度・氷晶核・上昇気流・過冷却水滴の量が場所ごとに異なるからです。
高い巻雲では低温のため氷晶が主体になり、積乱雲では強い上昇気流と過冷却水滴によって多様な氷粒子が成長します。また、砂漠・海洋・極域など空気の起源が違えば、氷晶核の種類も変わります。
雲の氷晶は、単に「凍った水の粒」ではありません。それぞれの氷晶は、雲の中の温度、水蒸気、微粒子、気流という条件の違いを反映してできた、小さな気象記録ともいえる存在です。
参考資料
- 気象庁「雨・雪について」
- 気象庁「南極・昭和基地周辺の自然現象」
- NOAA NESDIS「How Do Snowflakes Form?」
- NOAA CSL「The origins of cirrus」
- Met Office「High clouds」

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