結論からいうと、同じ山でも斜面の急さが場所によって違うのは、岩石や地層の性質、川による侵食、崩壊や地すべり、断層運動、氷河作用などが場所ごとに異なるからです。 山は一つのかたまりに見えても、斜面ごとに「削られやすさ」と「削られてきた履歴」が違います。その差が、急崖、なだらかな斜面、深い谷、広い尾根などの形として現れます。
つまり、斜面の急さは山全体の標高だけでは決まりません。同じ山の中でも、硬い岩石が残る場所、川が深く谷を刻む場所、地すべりで斜面が崩れた場所、堆積物がたまった場所では、傾斜が大きく変わります。
まず、斜面の急さはどうやって決まるのか
山の斜面には、地面を高くする作用と、低くする作用が同時に働いています。地殻変動や火山活動は地形を持ち上げたり新しい山体をつくったりします。一方、雨、川、風化、崩壊、氷河などは山を削ります。
この「つくる作用」と「削る作用」が場所ごとに違うため、同じ山でも斜面の角度に差ができます。特に重要なのは、次のような条件です。
- 岩石や地層の硬さ・割れ目の多さ
- 川や沢による侵食の強さ
- 崩壊や地すべりの履歴
- 断層や褶曲など地殻変動の影響
- 雪や氷河による侵食
- 斜面下部に土砂が堆積するかどうか
国土地理院は、地形を「形態、成り立ち、性質」から分類しており、急崖、地すべり地形、河川侵食地形など、同じ山地の中にも異なる成因の斜面があることを示しています。
岩石の違いで斜面の急さが変わる
山の内部は必ずしも同じ岩石でできているわけではありません。硬い岩石、風化しやすい岩石、割れ目の多い岩石などが隣り合っていることがあります。
硬く侵食されにくい岩石は、周囲が削られても急な岩壁や尾根として残ることがあります。一方、風化しやすい岩石や未固結に近い地層では、雨や重力によって崩れやすく、斜面の形が変わりやすくなります。
国土地理院は、地質の違いを反映した地形として、硬い岩層に覆われたメサ、岩峰、バッドランド、地すべり地などを整理しています。たとえばバッドランドは、粘土やシルトなど侵食されやすい物質が多い場所で、無数の谷が刻まれた急斜面が発達することがあります。
このため、同じ山の北側と南側、尾根と谷で地質が切り替わっていれば、斜面の急さも大きく変わることがあります。
川が谷を深く削ると斜面は急になる
山に降った雨は、低い場所へ集まって沢や川になります。川は水だけでなく砂や石も運び、それらが川底や谷壁を削ります。
国土地理院は、山間部を流れる渓流河川がつくる峡谷について、谷壁が急斜面となり、谷底平野をほとんど持たないV字型の谷になると説明しています。
川が谷底を深く削ると、谷の両側には高低差が生まれます。その斜面が崩れながら後退すると、谷壁は急な状態を保つことがあります。
そのため、同じ山でも大きな沢や川に面した側は急斜面になりやすく、川から離れた尾根上や侵食の弱い場所は比較的なだらかになることがあります。
斜面崩壊が繰り返される場所では形が大きく変わる
急な斜面では、雨や地震などをきっかけに土や岩が崩れることがあります。一度の崩壊でも、斜面上部に急な崖ができ、下部には崩れた土砂がたまるため、同じ斜面の中で傾斜が大きく変わります。
産総研・地質調査総合センターが調査した大分県耶馬溪の斜面崩壊では、周辺に多数の侵食谷や古い地すべり地形が確認され、斜面崩壊の繰り返しが地域特有の複雑な地形の形成に関係しているとされています。
崩壊が起きた直後の上部には急崖が残りやすい一方、崩れた土砂が斜面の下部に堆積すると、そこは比較的緩い斜面になることがあります。
つまり、一つの山腹でも上部は急で下部は緩いという形ができる理由の一つが、侵食と堆積の組み合わせです。
地すべり地ではなだらかな斜面ができることがある
地すべりでは、山体の一部がまとまった土塊として下方へ移動します。頭部には急な滑落崖ができる一方、移動した土塊の上には比較的緩い斜面や凹地が形成されることがあります。
国土地理院の地形分類でも、地すべりの滑落崖は急斜面として扱われ、その下にある移動土塊は別の地形をつくります。
そのため、同じ山の中に「急な崖のすぐ下になだらかな面がある」という不規則な地形が見られる場合、過去の地すべりが関係していることがあります。
ただし、見た目が緩やかだから安全とは限りません。過去の地すべり地形は再び動くこともあり、現在の傾斜だけで斜面の安定性を判断することはできません。
断層があると急な崖ができることがある
地殻変動で断層が動き、地表に上下のずれが生じると、断層に沿って急な段差ができます。これを断層崖と呼びます。
新しくできた断層崖は急ですが、その後は雨や崩壊によって少しずつ削られ、斜面は丸みを帯びていきます。USGSも、形成直後の断層崖は鋭く急である一方、侵食によって崩れた物質が斜面下部へ堆積すると、時間とともにより緩やかな形へ変化することを示しています。
したがって、同じ山でも活断層や古い断層に沿う場所では、周囲とは異なる急斜面や段差が残ることがあります。
氷河が削った山では斜面の急さが大きく変わる
高山では、過去の氷河作用が現在の斜面形に強く残っていることがあります。
国土地理院によると、カールは氷河によって山腹がえぐられてできた半円形の地形で、周囲を急峻なカール壁に囲まれます。一方、カールの底は比較的平らです。
つまり、一つの山の中でも、氷河に削られた壁は非常に急なのに、その下の谷底は緩やかという大きな違いが生まれます。複数のカールに挟まれた場所では、アレートと呼ばれる鋭い稜線が形成されることもあります。
現在氷河がない日本の山でも、過去の寒冷期につくられた氷河地形が残っており、斜面の急さの地域差を説明する重要な手がかりになります。
尾根が緩やかで谷側が急になることがあるのはなぜか
山の尾根は、両側へ水が分かれて流れる分水界になっていることが多く、水が集まりにくい場所です。一方、谷には水が集中し、川による侵食が強くなります。
そのため、尾根上には比較的古い地表面が残る一方、谷側だけが深く削られ、斜面が急になることがあります。
国土地理院は、河川の侵食が強い側では分水界が移動する「河川争奪」が起こる場合があると説明しています。これは、同じ山でも隣り合う谷の侵食速度が違い、尾根の位置や斜面の急さが時間とともに変わることを示します。
山の上部と下部で傾斜が違うのはなぜか
斜面上部では岩盤が露出しやすく、崩壊による急崖が残ることがあります。そこから落ちた岩屑や土砂は斜面下部へ移動し、谷底や山麓に堆積します。
国土地理院は、急崖で風化して生じた岩屑が崖の基部にたまってできる地形を「崖錐」としています。崖錐の表面は、その上の岩壁より一般に緩い傾斜になります。
このため、「山の上は切り立っているのに、ふもとは比較的なだらか」という地形ができます。侵食で急斜面をつくる作用と、土砂の堆積で緩斜面をつくる作用が隣り合って働いているからです。
日当たりや雪の違いも斜面形に影響する
北向き斜面と南向き斜面では、日射、積雪、雪解け時期、凍結と融解の回数などが異なることがあります。こうした違いは岩石の風化速度や植生、土壌水分に影響し、長期的には斜面の削られ方にも差を生むことがあります。
寒冷な高山では、雪が長く残る場所で雪食凹地が形成されたり、凍結融解によって岩石が砕かれたりします。国土地理院は、雪の働きによる侵食でできる雪食凹地や、周氷河環境で生じる非対称山稜・非対称谷などを分類しています。
ただし、斜面の向きだけで急さが決まるわけではありません。地質や谷の侵食、崩壊履歴などの影響と合わせて考える必要があります。
人の手で斜面の急さが変わっている場所もある
山地の道路や住宅地では、斜面を削る「切土」や、土を盛る「盛土」によって自然の傾斜が人工的に変えられていることがあります。
国土地理院の地形分類でも、自然地形とは別に人工改変地形が扱われています。道路沿いの急な法面や造成地の段差は、自然の侵食だけでできた斜面ではありません。
そのため、現在見える斜面の形を理解するときには、地質や侵食だけでなく、人為的な改変があるかどうかも確認する必要があります。
「急な斜面=硬い岩」「緩い斜面=柔らかい岩」とは限らない
岩石の性質は重要ですが、斜面角度を一つの要因だけで説明することはできません。
硬い岩石でも多数の割れ目があれば大きく崩落して急崖が後退することがあります。反対に、比較的柔らかい地層でも植生や乾燥条件、緩い地形のため侵食が進みにくい場所があります。
USGSも、地すべりの起こりやすさについて、斜面の急さや曲率だけでなく、地質材料など局地的な地形・地質条件が関係すると説明しています。
斜面の急さは、岩石、地形、水、重力、過去の崩壊、地殻変動などを総合した結果です。
同じ山でも斜面の急さが違う理由を比較すると
- 硬い岩石の場所:侵食されにくく、急な岩壁や峰が残ることがある
- 風化しやすい地層:崩壊や侵食が進み、複雑な斜面になりやすい
- 川に面した谷側:下方侵食で谷が深くなり、斜面が急になりやすい
- 地すべり地:上部に急崖、移動土塊上に緩斜面ができることがある
- 断層沿い:地殻変動による急な段差が形成されることがある
- 氷河地形:カール壁は急で、カール底は比較的平らになる
- 斜面下部:崩れた土砂の堆積で上部より緩くなることがある
同じ山でも、こうした条件が場所ごとに組み合わさっているため、斜面の角度は一様にはなりません。
まとめ
同じ山でも斜面の急さが場所によって違う最大の理由は、各場所で地質と侵食・崩壊・堆積の履歴が異なるからです。
- 岩石や地層の種類によって侵食されやすさが違う
- 川が深く谷を刻む場所では急斜面が発達しやすい
- 崩壊や地すべりは急崖と緩斜面を同時につくることがある
- 断層運動によって急な段差ができることがある
- 過去の氷河作用は急なカール壁や鋭い稜線をつくる
- 崩れた土砂が下部に堆積すると、ふもとは緩やかになりやすい
- 斜面の向きや積雪、人為的な地形改変も局地的な違いを生む
つまり山の斜面は、山全体が同じ材料で均一につくられた表面ではありません。それぞれの場所が異なる岩石と地形変化の歴史を持つため、一つの山の中に急斜面となだらかな斜面が入り交じるのです。

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