なぜ台風は季節によって進みやすいコースが違うのか?

台風の経路図を見ると、春先には低緯度を西へ進むものが多く、夏には日本の南から北上するものが増え、9月以降は日本付近で北東へ向きを変える台風が目立ちます。台風は毎回ばらばらに動いているように見えて、季節ごとに「通りやすいコース」があります。

では、なぜ台風は季節によって進みやすいコースが違うのでしょうか。結論からいうと、台風を流す周囲の風の配置が季節によって変わり、とくに太平洋高気圧の位置・張り出し方と偏西風の位置が変化するからです。台風は自力で自由に進路を選ぶのではなく、対流圏の広い範囲の環境風に流されながら移動します。

目次

台風の進路は周囲の風に大きく左右される

NOAA/AOMLは、熱帯低気圧の移動は第一近似として、対流圏の深い層にわたる周囲の環境風によって決まると説明しています。低緯度では亜熱帯高気圧の南側を吹く東寄りの風に流されて西寄りへ進みやすく、高気圧の弱い部分や縁へ近づくと北へ向きを変え、その後は偏西風に乗って東寄りへ進みやすくなります。

つまり、台風の進路を理解するうえで重要なのは、台風単体を見ることではなく、その周囲にどのような大規模な風の流れがあるかを見ることです。

春先は低緯度を西へ進みやすい

気象庁によると、春先の台風は比較的低い緯度で発生し、西へ進んでフィリピン方面へ向かうものが多くなります。

この時期は、日本の南まで太平洋高気圧が大きく張り出す夏とは大気の配置が異なり、発生位置も低緯度側に偏ります。低緯度では亜熱帯高気圧の南側の東寄りの風に流されやすいため、進路も西〜北西方向になりやすくなります。

夏になると日本方面へ北上する台風が増える

夏になると、台風の発生する緯度が春より高くなり、太平洋高気圧も日本付近へ張り出します。気象庁は、夏には太平洋高気圧のまわりを回るようにして日本へ向かって北上する台風が多くなると説明しています。

台風は高気圧の中心部を突き抜けて進むというより、その縁を回るように移動しやすい性質があります。そのため、太平洋高気圧がどこまで西や北へ張り出しているかによって、日本の西側へ進むのか、日本の南海上を北上するのかが変わります。

8月は進路が不安定になりやすい

8月は台風の発生数が多い時期ですが、気象庁は、台風を流す上空の風がまだ弱いため、不安定な経路をとることが多いとしています。

周囲の風が強く一定なら、台風はその流れに乗って比較的はっきりした方向へ進みます。しかし、上空の流れが弱い場合は、太平洋高気圧の張り出し方や周囲の小さな気圧配置の変化に進路が左右されやすくなります。

そのため、8月には動きが遅くなったり、複雑に曲がったりする台風も見られます。

9月以降は北東へ向きを変えやすくなる

9月以降になると、偏西風が夏より南へ下がってきます。南海上から北上した台風が太平洋高気圧の縁を回り、その後偏西風に乗ると、進路を北東へ変えやすくなります。

気象庁は、9月以降には南海上から放物線を描くように日本付近を通る台風が多くなると説明しています。過去に日本へ大きな災害をもたらした台風にも、この時期の典型的な経路をとったものがあります。

この「西寄りから北上し、その後北東へ曲がる」動きは、太平洋高気圧と偏西風の両方の影響を順番に受けることで生じます。

太平洋高気圧の位置が少し違うだけでも経路は変わる

同じ8月や9月でも、毎年まったく同じ位置に太平洋高気圧があるわけではありません。高気圧が西へ強く張り出していれば、台風はその南側をより西へ進みやすくなります。反対に、高気圧が東へ後退したり弱まったりすると、その縁に沿って早めに北上・北東進することがあります。

つまり、「季節による典型的なコース」はあっても、それは固定された一本の道ではありません。同じ月でも、その年・その日の気圧配置によって進路は大きく変わります。

偏西風の蛇行も進路を変える

偏西風は西から東へ一直線に流れているわけではなく、南北に蛇行します。偏西風の谷が南へ張り出すと、太平洋高気圧の縁が弱まり、台風が北へ抜けやすくなることがあります。

NOAA/AOMLも、亜熱帯高気圧がジェット気流の谷などによって弱まると、熱帯低気圧が極側へ曲がり、その後東向きへ再転向することがあると説明しています。

このため、秋だから必ず日本付近で北東へ曲がるとは限らず、偏西風の位置と蛇行の仕方が重要です。

発生場所の季節変化も進路の違いにつながる

季節による経路の違いは、周囲の風だけでなく、台風がどこで発生しやすいかにも関係します。

気象庁によると、春先は低緯度での発生が多く、夏には発生緯度が高くなります。出発点が違えば、その後に太平洋高気圧のどの側へ入りやすいかも変わります。

そのため、季節ごとの進路の特徴は「発生場所」と「大規模な風の配置」の両方が重なって生まれます。

季節の傾向は予報そのものではない

「9月は日本へ来やすい」「春は西へ進みやすい」といった傾向は、長年の統計から見た典型です。しかし、個々の台風の進路予報をそのまま決めるものではありません。

実際の予報では、その時点の太平洋高気圧、偏西風、上空の気圧の谷、台風周辺の風などを観測し、数値予報モデルを使って将来の進路を計算します。

季節の傾向は「どのコースが出やすいか」を理解する背景であり、個別の台風では最新の進路予報を確認する必要があります。

W00655・W00665との違い

W00655「なぜ台風の進路は太平洋高気圧や偏西風で変わるのか?」は、太平洋高気圧と偏西風という個別の気圧・風系が進路へ与える影響を説明する記事です。

W00665「なぜ台風の進路は周囲の風に流されて決まるのか?」は、台風移動の基本原理である環境風によるステアリングを扱います。

この記事では、それらの風系や発生場所が季節ごとに変化するため、春・夏・秋で進みやすいコースが違って見える理由に焦点を当てています。

関連する「なぜ?」

まとめ

台風が季節によって違うコースを進みやすいのは、台風を流す周囲の風と発生場所が季節によって変わるからです。

春先は低緯度で発生し、亜熱帯高気圧の南側の風に流されて西へ進みやすくなります。夏は太平洋高気圧の縁に沿って日本方面へ北上する台風が増え、8月は上空の流れが弱いため複雑な進路も起こりやすくなります。9月以降は偏西風が南下し、日本付近で北東へ転向する台風が増えます。

ただし、これはあくまで季節ごとの典型です。実際の進路は、その時々の太平洋高気圧や偏西風の位置・強さで大きく変わります。

参考資料

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