なぜ湿雪では氷の粒のすき間に液体の水が入り込むのか?

湿雪は、見た目には普通の雪と大きく変わらなくても、内部では乾いた雪とは違う状態になっています。氷の粒だけでできているのではなく、そのすき間に液体の水が存在し、さらに空気も残っています。

結論からいうと、湿雪では雪の一部が融けたり雨水が入り込んだりすることで液体の水が生まれ、その水が氷の粒でできた骨格の空隙を毛細管力や重力によって移動するためです。湿雪は「濡れた氷の塊」ではなく、氷・液体水・空気が同時に存在する多孔質な構造として理解すると仕組みが分かりやすくなります。

目次

雪はもともと空隙の多い多孔質な物質

積もった雪は、氷の粒がぎっしり詰まった固体ではありません。雪粒同士が接触して骨格をつくり、その間には多くの空気のすき間があります。

乾いた雪では、その空隙の多くを空気や水蒸気が占めています。ところが雪が0℃近くまで暖められたり、雨が雪面に入ったりすると、空隙の中に液体の水が加わります。

湿雪は氷・液体水・空気の三相が共存する

スイス雪・雪崩研究所SLFの雪氷モデルSNOWPACKでは、雪は氷の固相、空隙中の液体水、さらに水蒸気を含む気相が同時に存在しうる三相媒体として扱われています。

湿雪では、この三つのうち液体水の割合が乾いた雪より大きくなります。ただし、雪全体が完全に水で満たされるわけではありません。氷の骨格を残したまま、そのすき間の一部に水が入り込んでいる状態です。

液体の水はどこから来るのか

湿雪中の液体水には主に二つの入り口があります。一つは、雪そのものが融けて生じる水です。日射、暖気、地面からの熱などで雪温が0℃に近づくと、氷の一部が液体へ変わります。

もう一つは、雨です。気象庁は、比較的気温の高いときの雪は水分を多く含む湿った重い雪になりやすく、さらに雨を吸うとシャーベット状になって重さが増すことがあると説明しています。

水は空隙の中を少しずつ移動する

雪の中に入った水は、その場に止まり続けるとは限りません。氷粒のすき間を通って下方や周囲へ移動します。

SLFのSNOWPACKでは、この水の移動を大きく「マトリックス流」と「選択流」に分けています。マトリックス流は、氷の骨格の空隙を水が比較的ゆっくり広がる流れです。そこでは表面張力や毛細管力が重要な働きをします。

毛細管力が水をすき間に保持する

細かなすき間では、水は重力だけで真下へ落ちるのではなく、表面張力によって氷粒の間に保持されます。細い管の中で水が上がる毛細管現象と同じように、雪の微細な空隙でも水がとどまったり広がったりします。

そのため、少量の液体水が存在する段階では、水は粒同士の接触部や細い空隙に点在します。雪全体がびしょびしょに見えなくても、内部ではすでに乾いた雪とは異なる状態になっています。

水が増えると空隙のつながり方が変わる

液体水の量が増えると、水は一部の接触点だけでなく、より多くの空隙を満たすようになります。SLFの資料では、湿雪の力学的性質は液体水量に強く左右されると説明されています。

水が増えすぎると、氷粒同士を結んでいた結合が弱まり、雪の強度が低下することがあります。つまり液体水は、単に雪を「濡らす」だけでなく、内部の力の伝わり方まで変えます。

水の移動は一様ではない

雪の中の水は、いつも均等にしみ込むとは限りません。SLFは、液体水が雪の内部を局所的に深く進む「選択流」が起こることを説明しています。

この場合、一部の経路だけが先に濡れ、別の場所は比較的乾いたまま残ることがあります。そのため、同じ積雪層の中でも含水率が場所によって異なることがあります。

雪質の境界で水がたまることがある

粒の大きさや空隙構造が異なる層が接していると、水の流れ方が急に変わることがあります。細かい雪と粗い雪の境界では毛細管の性質が異なるため、水が一時的にたまりやすくなる場合があります。

SLFは、隣り合う層で粒径差が大きい場所では水がたまり、積雪の安定性を下げることがあると説明しています。

液体水は雪粒の形も変える

湿雪では、水が存在することで雪粒の変化も速くなります。雪粒の角ばった部分が丸くなり、小さな粒が減って大きな粒へ成長する湿雪変態が進みます。

これは、雪が濡れたままでも内部構造が固定されていないことを意味します。湿雪は時間とともに、粒径、空隙、密度、強度が変化する動的な構造です。

水を含むと雪が締まりやすくなる

湿った雪では、融解や粒の再配列によって骨格が変形しやすくなります。SLFの観測・研究でも、湿潤化した雪で圧密が進むことが確認されています。

そのため、新しく濡れた雪は時間とともに沈み込み、同じ雪でも厚さや密度が変化します。液体水の存在は、雪の重さだけでなく体積の変化にも関係します。

水が多ければ多いほど強い雪になるわけではない

水があると粒同士がまとまりやすく感じることがありますが、液体水が増え続ければ雪が強くなるという意味ではありません。

湿雪では、少量の水がある段階と、多量の水が空隙を連続的に満たす段階とで力学状態が異なります。水が増えると氷同士の直接的な結合が弱まり、斜面では湿雪雪崩につながることもあります。

気象庁の「湿り雪」は含水率の大きい雪

気象庁は「湿り雪」を含水率の大きい雪と定義し、大きな雪片になりやすく、電線や樹木への着雪被害が起こりやすいとしています。

ここで重要なのは、湿雪という名前が「周囲の空気の湿度が高い雪」という意味ではないことです。雪そのものの中に液体の水が多く含まれていることが中心です。

積雪断面では含水率も観測される

防災科学技術研究所の積雪断面観測では、雪質や雪温だけでなく、含水率、密度、硬度なども層ごとに測定されています。

これは、雪の内部状態を知るには「何センチ積もっているか」だけでは足りず、どの層にどれだけ液体水があるかも重要だからです。

「なぜ気温が高めの雪は水分を多く含む重い湿雪になりやすいのか?」との違いは「湿雪になる条件」ではなく「湿雪内部の水の居場所と動き」

なぜ気温が高めの雪は水分を多く含む重い湿雪になりやすいのか?では、0℃に近い気温で雪が一部融け、なぜ湿雪になりやすいかという生成条件を中心に扱っています。

この記事では、そこから焦点を移し、湿雪になった後、液体水が氷粒のすき間にどのように存在し、毛細管力や重力で移動し、雪の微細構造や強度をどう変えるのかを中心に説明しています。

粉雪との違いは空隙を何が占めるか

なぜ粉雪は低密度で空気を多く含む構造になるのか?で扱った粉雪では、氷粒の間の空隙の多くを空気が占めています。

湿雪では、その空隙の一部へ液体水が入り込みます。この「空気だけでなく水も空隙に存在する」という違いが、重さ、まとまりやすさ、水の移動、強度変化などにつながります。

まとめ

湿雪で氷の粒のすき間に液体の水が入り込むのは、雪の一部が融けたり雨水が加わったりして液体水が生まれ、その水が多孔質な雪の空隙を毛細管力や重力で移動するためです。

湿雪の内部では、氷の骨格、液体水、空気が共存しています。水の量が増えると、粒の形、空隙構造、密度、強度、水の流れ方まで変化します。

つまり、湿雪の仕組みを理解する鍵は「雪の中に水がある」というだけでなく、その水が氷粒の空隙のどこにあり、どう移動するかを見ることにあります。

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参考資料

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