吹雪では、雪がただ横向きに流されているように見えます。しかし雪粒一つ一つの動きを詳しく見ると、すべてが同じ高さを同じように飛んでいるわけではありません。雪面を転がる粒、低い高さを跳ねる粒、さらに上空へ浮かんで運ばれる細かな粒が混在しています。
結論からいうと、風が雪面に加える力が一定の強さを超えると雪粒が動き始め、重い粒は地表近くを転がったり跳ねたりし、細かな粒は乱流に取り込まれて浮遊するためです。吹雪は、雪粒の運動が一つの形ではなく、転がり・跳躍・浮遊という複数の輸送モードが連続して起こる現象です。
吹雪は風が雪粒を運ぶ現象
気象庁は「ふぶき」を、やや強い風程度以上の風が雪を伴って吹く状態と説明しています。雪が実際に降っている場合だけでなく、すでに積もった雪が風で舞い上げられる地ふぶきも含まれます。
NOAAのNational Weather Serviceも、blowing snowを、降っている雪または積もった雪が強風で運ばれ、地上付近の視程を悪化させる現象と定義しています。
雪粒が動き始めるには風の強さにしきい値がある
雪面の雪粒は、弱い風ならその場にとどまっています。しかし風速がある一定値を超えると、風が雪面へ及ぼすせん断力が雪粒をとどめる力を上回り、粒が動き始めます。
防災科学技術研究所は、このしきい値を「吹雪発生臨界風速」と説明しています。The Cryosphereの2024年の研究でも、雪面近くのsaltationは、風が十分強くなって雪粒を持ち上げられるようになったときに始まると整理されています。
最初に起こるのが雪面上の「転がり」
風の力が比較的弱い段階では、雪粒の中でも大きく重いものは空中へ高く持ち上がらず、雪面の上を転がったり滑ったりします。
防災科研は、この運動を「転がり」とし、雪面上数mm程度の高さで起こると説明しています。英語の研究ではcreepやreptationに近い運動として扱われることがあります。
さらに風が強くなると「跳躍」が起こる
風が強くなると、雪粒は地面を離れて短い距離を飛び、再び雪面へ落ちるようになります。この運動が「跳躍」です。
防災科研では、雪面付近およそ10cm程度の高さで粒が飛び跳ねる運動として説明されています。研究分野ではsaltationと呼ばれ、風で運ばれる雪を考えるうえで重要な輸送モードです。
跳ねた雪粒が雪面へ衝突すると別の粒も動き出す
跳躍していた雪粒が雪面へ落ちると、その衝突で別の雪粒が弾き出されることがあります。すると新たに飛び出した粒も跳躍を始めます。
このため、吹雪は単に「風が一粒ずつ持ち上げる」だけの現象ではありません。動き始めた粒が雪面へ衝突し、さらに別の粒を動かすことで、雪の輸送が続きやすくなります。
細かな雪粒は乱流に乗って「浮遊」する
跳躍や衝突を繰り返すうちに、雪粒の一部は細かく砕かれます。また、もともと小さな雪粒も存在します。
こうした軽い粒は風の乱れに取り込まれ、雪面から離れた高さまで運ばれます。防災科研はこの運動を「浮遊」とし、地上100m程度まで広く分布する場合があると説明しています。
2024年の吹雪モデル研究でも、重い粒は地表近くをsaltationで移動し、小さな粒は乱流拡散によってsuspensionへ入り、より高い高度まで運ばれるとされています。
転がり・跳躍・浮遊は別々ではなく連続している
実際の吹雪では、「ここまでは転がり、ここからは跳躍」という明確な境界が常にあるわけではありません。同じ雪粒でも、風速や粒径、衝突の仕方によって運動形態が変わります。
そのため、吹雪は転がり、跳躍、浮遊が同時に存在し、粒がその間を移り変わりながら運ばれる複雑な現象です。
雪面近くほど雪粒の濃度が高い
吹雪では、雪面に近いほど雪粒の数が多く、高くなるほど少なくなる傾向があります。
これは、転がりや跳躍が地表近くで起こり、さらにその一部だけが浮遊へ移るためです。防災科研も、吹雪時の雪粒子の空間密度は雪面近くで高く、雪面から離れるほど低くなると説明しています。
雪質によって動き始めやすさが違う
すべての雪が同じ風速で動き始めるわけではありません。軽く乾いた新雪は粒同士の結びつきが弱く、風で動かされやすい傾向があります。
一方、湿った雪や風で締め固められた雪は粒同士の結合が強く、同じ風でも動きにくいことがあります。そのため吹雪発生臨界風速は固定値ではなく、雪面の状態によって変わります。
粉雪は吹雪の輸送に入りやすい
なぜ粉雪は低密度で空気を多く含む構造になるのか?で説明したように、粉雪は低密度で空隙が多く、粒同士の結びつきも比較的弱い状態です。
そのため、乾いた軽い粉雪は風で移動しやすく、転がりや跳躍から浮遊へ移りやすい条件をつくります。
湿雪は同じようには舞い上がりにくい
なぜ湿雪では氷の粒のすき間に液体の水が入り込むのか?で扱った湿雪では、液体水によって粒同士のまとまり方や重さが変わります。
そのため乾いた新雪に比べると、湿雪は一般に風で細かく持ち上げられにくい傾向があります。ただし非常に強い風なら、湿った雪でも移動することがあります。
吹雪は雪面を削る
風上側や風が強く当たる場所では、雪粒が次々に持ち去られ、雪面が削られます。これは雪面の侵食です。
The Cryosphereの研究でも、風による雪輸送は露出した場所の積雪を侵食し、別の場所へ雪を再配置すると説明されています。
運ばれた雪は風の弱い場所へ再び積もる
風で運ばれた雪粒は、建物の陰、斜面の風下側、地形のくぼみなど、風が弱まる場所で落ちやすくなります。
そのため吹雪は、積雪を減らす場所と増やす場所を同時につくります。この再配置によって吹きだまり、雪庇、雪面の波状構造などが形成されます。
吹雪は積雪を「横方向にも運ぶ」
通常の降雪では、雪は主に上から下へ供給されます。しかし吹雪が起こると、すでに積もった雪まで横方向へ移動します。
その結果、同じ地域でも風の当たり方や地形によって積雪深が大きく変わります。積雪は降雪量だけで決まるのではなく、風による輸送と再配置でも変化します。
浮遊した雪粒は昇華しやすくなる
雪面から持ち上げられた雪粒は、乾いた空気に広い表面積をさらしながら風に運ばれます。そのため一部は昇華し、氷から直接水蒸気へ変わります。
The Cryosphereの研究では、吹雪による雪粒の浮遊は雪の再配置だけでなく、昇華による質量損失も増やすとされています。
浮遊雪は視程を悪化させる
空気中に大量の雪粒が浮かぶと、光が雪粒で散乱され、遠くの物体が見えにくくなります。
NOAAは、blowing snowを地表付近の視程を低下させる風駆動の雪と定義しています。強い吹雪では、降っている雪だけでなく、地表から再び舞い上がった雪も視界を遮ります。
吹雪と地ふぶきは輸送源が少し違う
吹雪では、降っている雪と地面から舞い上がった雪の両方が混じることがあります。地ふぶきは、すでに積もった雪が風で吹き上げられる現象です。
気象庁は、降雪がなくても積雪が風で舞い上げられる場合を地ふぶきとして区別しています。つまり、空から新しい雪が供給されなくても、雪面の転がり・跳躍・浮遊だけで視程障害が起こりえます。
「なぜ雪は強い風で舞い上がると吹雪や地ふぶきになるのか?」との違いは「吹雪になる理由」ではなく「雪粒輸送の内部構造」
なぜ雪は強い風で舞い上がると吹雪や地ふぶきになるのか?では、雪と強風が組み合わさると視程悪化や吹きだまりが起こる理由を広く扱っています。
この記事ではそこから一段深く入り、雪粒がどのように転がり、跳び、乱流に乗って浮遊し、雪面の侵食と再堆積を生むのかという粒子輸送の仕組みに焦点を絞っています。
吹雪は粒子輸送の連鎖として理解できる
吹雪の発達は、風が雪面へ力を加えることから始まります。まず一部の粒が動き、転がりや跳躍を始めます。跳躍粒の衝突でさらに別の粒が動き、小さな粒は乱流に取り込まれて浮遊します。
そして運ばれた雪は、風の強い場所から弱い場所へ移り、雪面を削ったり吹きだまりをつくったりします。この一連の連鎖が、吹雪の内部構造です。
まとめ
吹雪で雪粒が転がり・跳躍・浮遊しながら運ばれるのは、風の力と雪粒の重さ・大きさ・雪面との結びつきが異なるためです。
比較的大きな粒は雪面を転がり、風が強くなると跳躍します。さらに細かな粒は乱流に取り込まれて上空へ浮遊します。これらの運動は同時に起こり、吹雪の雪粒輸送を形づくります。
つまり、吹雪は単に「雪が風で飛ぶ現象」ではなく、雪粒が転がり・跳躍・浮遊へ移りながら、雪面を侵食し、別の場所へ再び積もる粒子輸送システムなのです。

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