雪の結晶には、六角形の板、細長い柱、針、複雑に枝分かれした樹枝状など、さまざまな形があります。しかも同じ場所で観察していても、ある日は樹枝状が多く、別の日には板状や針状が目立つことがあります。季節が進むにつれて、よく見られる結晶の傾向が変わる場合もあります。
結論からいうと、観測される雪の結晶の種類が季節や気象条件によって変わるのは、雪雲の温度、水蒸気の多さ、過飽和度、上昇流や雲の厚さなどの成長環境が時間とともに変わり、その環境ごとに成長しやすい結晶形が異なるためです。季節そのものが結晶を直接変えるのではなく、季節に伴って変化する大気の状態が、雪結晶の成長条件を変えます。
雪の結晶は雲の中の環境を反映して成長する
雪の結晶は、雲の中で生まれた小さな氷晶に水蒸気が取り込まれながら成長します。NOAAは、雪の結晶が成長する間に経験する温度や空気中の水分量のわずかな違いが、最終的な形を大きく左右すると説明しています。
したがって地上で見える結晶の種類は、地上の気温だけでなく、その結晶が雲の中でどのような温度・水蒸気条件を通ってきたかを反映しています。
温度によって板状と柱状の育ちやすさが切り替わる
雪結晶の形は、温度によって単調に変わるわけではありません。Caltechの雪結晶形態図では、0℃より少し低い温度域では板状、さらに低い特定の温度域では柱状、その後また板状が優勢になるなど、温度によって成長しやすい形が切り替わることが示されています。
これは、六角柱の氷結晶のどの面が速く成長するかが温度によって変化するためです。そのため、雪雲の温度構造が変われば、同じ地点で観測される結晶の種類も変わります。
水蒸気が豊富なときほど複雑な枝が発達しやすい
温度だけでなく、氷に対する水蒸気の過飽和度も重要です。成長に使える水蒸気が多いほど、結晶の角や先端が速く成長し、複雑な枝分かれが発達しやすくなります。
Caltechの形態図では、同じ温度でも過飽和度が低いと比較的単純な板や柱になりやすく、高くなると樹枝状や針状など、より複雑な形が現れることが示されています。
気象庁も雪結晶から雲の状態を読み取っている
気象庁は、雪結晶の形が、その結晶が成長する雲の気温や水蒸気量によって変化すると説明しています。そのため、地上で観測した雪結晶の形や状態は、雪雲内部の性質を推定する手がかりになります。
つまり、結晶形の変化は単なる見た目の違いではなく、雲の中の成長環境が変わったことを示す情報でもあります。
季節が変わると雪雲の温度構造も変わる
冬の初め、厳冬期、春先では、大気全体の温度や寒気の強さが同じではありません。そのため、雪結晶が成長する雲の中の温度帯も季節によって変わりやすくなります。
たとえば同じ地域でも、強い寒気が入った日と比較的暖かい雪の日では、結晶が長く滞在する温度帯が異なります。その違いによって、地上で多く観測される結晶の種類が変わることがあります。
ただし「真冬ならこの形」と固定的には決まらない
季節と雪結晶の形には関係がありますが、「1月なら必ず樹枝状」「春なら必ず板状」といった一対一の対応はありません。
実際の結晶形を直接決めるのは、雲の中の温度と水蒸気条件です。同じ真冬でも気団や低気圧の構造が違えば結晶形は変わり、同じ月でも降雪ごとに違う種類が観測されます。
寒気の強さが変わると成長する温度帯も変わる
上空に強い寒気が入ると、雪雲の中で低温の領域が広がります。一方、寒気が弱いと、0℃に比較的近い温度層が厚くなる場合があります。
このような温度場の違いによって、柱状や板状など、どの形が成長しやすい環境を長く通るかが変わります。
湿った空気が多い雪雲では結晶が大きく複雑になりやすい
雪雲に十分な水蒸気が供給されると、氷晶は成長に使える材料を多く得られます。特に適した温度条件と高い水蒸気量が組み合わさると、枝がよく発達した結晶ができやすくなります。
気象庁は昭和基地周辺の観測について、大きな樹枝状結晶が成長しやすい条件として、およそ−15℃、高い湿度、弱い風を挙げています。この例からも、温度だけでなく湿度や風を含む複数の条件が重要だとわかります。
乾いた空気では単純な形にとどまりやすい
雪雲の水蒸気量が少ないと、結晶の成長速度は遅くなり、枝分かれが十分に発達しにくくなります。
そのため同じ温度帯でも、乾いた条件では比較的単純な板や柱が多く、高い過飽和度ではより複雑な形が増えるという違いが生じます。
低気圧や前線の構造でも結晶の種類は変わる
雪を降らせる雲はいつも同じ構造ではありません。低気圧、前線、季節風による雪雲などでは、上昇流の強さ、雲の厚さ、温度分布、水蒸気供給が異なります。
そのため、同じ地域の降雪でも気象場が変われば、雪結晶が成長する環境が変化し、観測される形の構成も変わります。
同じ一回の降雪中でも結晶の種類は変化する
降雪が数時間続く間にも、雪雲は移動し、発達や衰弱を繰り返します。上空の温度や湿り方が変われば、地上に届く結晶の種類も時間とともに変化します。
気象庁は関東の降雪事例で、観測された雪結晶の形の時間変化から雪雲の温度変化を読み取れる例を紹介しています。結晶形は、一つの降雪イベントの途中でも変わり得るのです。
季節差とは「その季節に多い雲の条件」の差
雪結晶の季節変化を考えるときは、「季節」という言葉を直接の原因として扱わないことが大切です。
季節が変わると、寒気の強さ、海面からの水蒸気供給、低気圧や前線の通り方、上空の温度構造などが変わります。こうした背景条件の変化によって、特定の結晶形が成長しやすい環境の出現頻度が変わります。
地域によって季節変化の現れ方も同じではない
北海道、日本海側の山地、太平洋側の平地などでは、雪を降らせる気象場が異なります。そのため「冬の前半と後半でどの結晶が増えるか」という傾向も全国一律ではありません。
直接の支配要因はあくまで雲内の温度と水蒸気条件なので、地域差は、それぞれの地域で経験しやすい気象場の違いを通して現れます。
風も結晶の成長環境に影響する
風は結晶を雲の中で運び、異なる温度や湿度の領域へ移動させます。また強い乱流があると、同じ結晶が複数の成長条件を次々に経験することがあります。
そのため、結晶がどの温度帯に何分いたかという成長履歴も最終形に影響します。
一つの結晶の形と、多数の結晶の「割合」は別に考える
一つ一つの雪結晶は、それぞれ異なる経路を通るため形が違います。一方、ある日に地上で観測される雪全体を見ると、そのときの雪雲で多かった温度・水蒸気条件を反映して、特定の結晶タイプが多くなることがあります。
W00731で扱う「季節や環境による変化」とは、主にこの観測される結晶タイプの傾向や割合が、気象条件の変化に応じて変わることです。
W00711との違いは「六角形や枝分かれの基本原理」ではない
なぜ雪の結晶は六角形を基本に枝分かれして成長するのか?では、氷の分子構造、六回対称、枝先への水蒸気集中など、雪結晶の形を生み出す基本的な成長原理を説明しました。
本記事では、その基本原理を前提に、季節や気象場が変わると、どの温度・水蒸気条件が雪雲の中に現れるかが変わり、その結果として地上で観測される結晶の種類の傾向が変化する理由を扱います。
W00721との違いは「一つの結晶の成長経路」だけではない
なぜ雪の結晶は雲の中を通る場所や条件によって形が違うのか?では、一つの結晶が雲の中で異なる温度や水蒸気量を経験することで、最終的な形が変わる理由を比較しました。
W00731では視点を広げ、季節や天候の変化によって雪雲全体の成長環境が変化し、ある地域・ある時期に観測される結晶タイプの構成そのものが変わることを中心に説明します。
雪結晶を観察すると上空の変化を推測できる
気象庁が雪結晶観測を研究に活用しているように、地上で結晶形を継続して観察すると、上空の雪雲がどのように変化しているかを考える手がかりになります。
樹枝状が多かった時間帯から針状が増えた場合、単に「雪の見た目が変わった」と見るだけでなく、結晶が成長した温度や水蒸気条件が変化した可能性を考えることができます。
まとめ
観測される雪の結晶の種類が季節や気象条件によって変わるのは、雪雲の中の温度、水蒸気量、過飽和度、上昇流、雲の構造などが時間とともに変化するためです。
温度によって板状・柱状などの成長しやすさが切り替わり、水蒸気が豊富なほど複雑な枝が発達しやすくなります。季節が変わると寒気や雪雲の性質も変わるため、結果として地上で多く見られる結晶タイプの傾向も変化します。
つまり、雪結晶の季節変化は「季節そのもの」の作用ではなく、その季節や天候がつくる雲内の成長環境の変化を映したものなのです。

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