霧というと「風が弱いときに出やすい」というイメージがありますが、移流霧は風があるときにも発生します。
理由は、移流霧では風そのものが、暖かく湿った空気を冷たい地面や海面の上へ運ぶ役割をするからです。
暖かく湿った空気が冷たい面の上を流れると、下から冷やされて気温が露点へ近づきます。空気が飽和すれば、水蒸気の一部が細かな水滴となり、霧ができます。
移流霧の「移流」とは何?
移流とは、風によって空気や水蒸気、熱などが水平方向へ運ばれることです。
移流霧では、暖かく湿った空気が風で冷たい場所へ移動します。
長野地方気象台も、移流霧を「暖かく湿った空気が、それより冷たい水面や地面を移動するときに、下から冷やされて発生する霧」と説明しています。
つまり、放射霧のようにその場所の空気が夜間に静かに冷えてできるのではなく、別の場所から運ばれてきた空気が冷たい面に触れて冷やされるのが特徴です。
なぜ風があるのに霧が消えないの?
強い風は一般に霧を散らす方向へ働きますが、移流霧では「風があること」と「霧ができること」が矛盾しません。
風が暖かく湿った空気を次々に冷たい面へ送り込めば、新しい空気が次々と露点まで冷やされます。
霧粒が多少混合されても、その一方で新たな霧が連続的に作られるため、霧域が維持されます。
米国National Weather Serviceも、移流霧は放射霧と異なり、曇天や中程度から比較的強い風のもとでも形成し得ると説明しています。
放射霧と何が違うの?
放射霧は、晴れて風の弱い夜に地面が放射冷却で冷え、その近くの空気が露点まで下がってできます。
風が強いと、地表付近の冷たい空気と上空の暖かい空気が混ざり、放射冷却による局地的な冷え込みが弱まるため、放射霧はできにくくなります。
一方、移流霧では、風が湿った空気を冷たい面へ運ぶこと自体が形成過程の一部です。
そのため「弱風が有利な放射霧」と「一定の風が必要な移流霧」では、風の役割が逆に見えます。
どんな地面や水面の上でできやすいの?
冷たい海面、雪に覆われた地面、寒冷な陸地などが代表例です。
暖かく湿った空気が、こうした低温の面の上を流れると、地表付近の空気が下から冷やされます。
National Weather Serviceは、移流霧が暖湿気の冷たい地表上への移動で生じ、冷たい地面や冷水域、積雪面などが形成に適した面になると説明しています。
海の上でも移流霧はできるの?
できます。
暖かく湿った空気が冷たい海面の上へ流れ込むと、海面付近の空気が冷やされて飽和し、海霧になることがあります。
気象衛星センターは、関東沿岸から三陸沖にかけて暖湿流の流入による移流霧が見られる事例を紹介しています。
ただし、海霧は移流霧の代表的な一例であり、移流霧は陸上の冷たい地面でも発生します。
なぜ暖かい空気ほど霧の材料を多く持てるの?
暖かい空気は、飽和できる水蒸気圧が高いため、多くの水蒸気を含むことができます。
その暖湿気が冷たい面で冷やされると、飽和水蒸気圧が低下します。
やがて実際の水蒸気圧と飽和水蒸気圧が一致すると相対湿度は100%近くになり、それ以上気体として存在しにくい水蒸気が水滴へ変わります。
この水滴が地表付近に浮遊すると霧になります。
どのくらいの風が適しているの?
風は弱すぎても強すぎても、典型的な移流霧に不利になる場合があります。
風が弱すぎると、暖湿気を冷たい面へ運び続ける移流が不足します。
一方、非常に強い風では乱流混合が大きくなり、霧層が持ち上げられて低い雲へ変わったり、乾いた空気が混ざって霧が薄くなったりすることがあります。
NWSの教材では、移流霧ではおおむね5〜15ノット程度の風が好条件になる例が示されています。
ただし実際の適条件は、海面温度、気温、湿度、地形、安定度によって変わります。
なぜ移流霧は広い範囲に広がりやすいの?
原因となる暖湿気の流れが広域で続くと、冷たい面の上で次々に霧が作られるからです。
放射霧は谷や盆地など局地的な冷却で発生することが多いのに対し、移流霧は海岸線や冷たい海域、広い積雪面などをまたいで広範囲に発生することがあります。
風が霧域そのものを下流へ運ぶため、形成地点から離れた地域へ霧が流れ込むこともあります。
日の出後も残りやすいのはなぜ?
放射霧では、日の出後に地面が暖まると形成原因である夜間冷却が終わり、霧が急速に消えやすくなります。
移流霧では、日の出後も暖湿気が冷たい面へ流れ続ければ、冷却と飽和の条件が残ります。
気象衛星センターも、放射霧が朝の日射で急速に消散するのに対し、沿岸の移流霧は同じようには急速に消えないと説明しています。
この持続性も、移流霧が「その場の日射」より「空気の流れと地表面温度差」に強く支配されることを示しています。
陸地へ流れ込むとどうなる?
海上でできた移流霧が風で沿岸や内陸へ流れ込むことがあります。
陸上が海面より暖かければ、霧粒が蒸発して霧が薄くなる場合があります。
反対に、陸上も冷たければ霧が維持されます。
成田空港の事例では、比較的暖かく湿った海上の空気が東よりの風で冷たい陸地へ流れ込み、移流霧が形成されたと気象庁が分析しています。
釧路で霧が多いのも移流と関係する?
関係します。
北海道東部では、夏に太平洋側から湿った空気が流れ込み、冷たい海面で形成された海霧が陸上へ運ばれることがあります。
日本地理学会の釧路の観測でも、南よりの風のときに霧が多く、太平洋側からの移流霧・海霧の流入が考えられるとされています。
これは、風向が「どこから湿った空気が運ばれてくるか」を決めるためです。
移流霧ができやすい条件を整理すると
- 暖かく湿った空気が存在する
- その空気より冷たい地面や海面がある
- 風が暖湿気を冷たい面の上へ運ぶ
- 空気が十分長く冷たい面の影響を受ける
- 冷却によって気温が露点まで下がる
- 極端に強い乱流で霧層が壊れない
まとめ
移流霧が風があるのに発生しやすいのは、風が霧を壊すだけでなく、暖かく湿った空気を冷たい地面や海面へ運び、空気を露点まで冷やすために必要な役割を持つからです。
放射霧では強い風が地表付近の冷却を壊しますが、移流霧では一定の風が暖湿気を連続的に供給します。
そのため移流霧は曇天や風のある条件でも発生し、広い範囲に流れたり、日の出後も残ったりすることがあります。
霧を見るときは「風があるかないか」だけでなく、その風がどんな温度・湿度の空気を、どんな地表面の上へ運んでいるかを見ることが重要です。

コメント