釧路の海霧が同じ夏でも年によって多い年と少ない年があるのは、海霧を作る冷たい親潮そのものだけでなく、北太平洋高気圧やオホーツク海高気圧の張り出し方、南寄りの風の強さ、暖かく湿った空気の流入量、海面と空気の温度差が年ごとに変わるからです。
釧路の夏に海霧が多いという気候的な傾向があっても、毎年まったく同じ条件になるわけではありません。ある年は海から暖湿気が繰り返し流れ込み、霧が多くなります。別の年は風向や気圧配置が変わり、海霧が海上でできても陸へ入りにくくなったり、そもそも霧ができにくくなったりします。
釧路の海霧はどんな仕組みでできるの?
釧路の海霧の多くは、暖かく湿った空気が冷たい親潮の海面上を通り、下から冷やされることでできます。
気象庁は、北海道太平洋側では南からの暖かく湿った空気が冷たい親潮に冷やされて海霧が発生し、それが南寄りの風で陸上へ流れ込むと説明しています。
つまり釧路で霧が観測されるには、少なくとも「冷たい海面」「暖湿気」「海から陸へ向かう風」という条件が組み合わさる必要があります。
なぜ毎年同じように霧が出るわけではないの?
親潮の影響を受ける海域があっても、大気の流れは毎年変わるからです。
夏の日本付近では、北太平洋高気圧の位置や張り出し方が年によって異なります。高気圧の縁辺に沿って南寄りの風が北海道太平洋側へ入りやすい年には、暖かく湿った空気が釧路沖へ運ばれやすくなります。
一方、北太平洋高気圧が東へずれたり、張り出しが弱かったりすると、南寄りの風が弱まり、暖湿気の供給も少なくなることがあります。
この大気循環の違いが、年ごとの海霧日数の差につながります。
北太平洋高気圧が強いと霧が増えやすいの?
釧路では、その位置と張り出し方が重要です。
釧路地方気象台は、太平洋高気圧の勢力が強まり夏型の気圧配置になると、釧路地方では霧が発生しやすくなると説明しています。
高気圧の縁を回る南寄りの風が、暖かく湿った空気を北海道太平洋側へ送り込むためです。
ただし「高気圧が強ければ必ず霧が増える」という単純な関係ではありません。高気圧の中心位置や広がり方によって、釧路へ入る風向が変わるからです。
2012年に霧が非常に多かったのはなぜ?
北海道大学の杉本氏による研究では、2012年の8月中旬から9月中旬にかけて、釧路の霧頻度が過去32年間で最も高くなりました。
この年は北太平洋高気圧が北西方向へ大きく張り出し、北海道南東部へ平年より強い南寄りの風が吹きました。
その結果、暖かく湿った空気が釧路沖へ多く運ばれ、海霧を陸上へ流し込む条件が強まりました。
さらに暖気流入によって、空気と冷たい親潮の海面との温度差も大きくなり、海上で霧そのものが発生しやすくなった可能性が指摘されています。
霧が少ない年には何が違うの?
釧路で夏の霧が少ない年には、南から南東方向の風が弱い傾向があります。
北海道大学の長期変動研究では、霧頻度が低い年にはオホーツク海高気圧が強まったり、北太平洋高気圧が南へ縮小・東へ移動したりすることで、釧路へ向かう南〜南東風が弱まることが示されています。
このような年は、海上でできた霧が釧路へ流れ込みにくくなります。また暖湿気の供給が弱まるため、海霧の形成そのものも減る場合があります。
霧の多さは「海上でできる量」と「陸へ入る量」の両方で決まるの?
その通りです。
釧路で霧が多く観測されるには、まず沖合で海霧が形成される必要があります。そのうえで、霧を含む空気が陸上へ運ばれなければなりません。
したがって、年々変動には二つの要素があります。
- 海上でどれだけ海霧が形成されるか
- 形成された海霧がどれだけ釧路へ流れ込むか
2012年の多霧年は、この二つが同時に強まった例と考えられます。
海面水温が違うと海霧の多さも変わるの?
変わります。
移流霧は、暖かく湿った空気が冷たい面の上へ移動し、下から冷やされて飽和することで発生します。
NOAAのNational Weather Serviceも、移流霧を「暖かく湿った空気が冷たい地表面の上を流れ、下から冷やされて飽和する霧」と説明しています。
そのため、海面が平年より冷たい年には、流れ込む空気との温度差が大きくなり、霧ができやすくなる場合があります。反対に海面が暖かければ、同じ暖湿気が流れてきても冷却が弱くなります。
親潮が強い年ほど必ず霧が多いの?
必ずしもそうではありません。
冷たい海面は海霧を作る重要な条件ですが、それだけでは十分ではありません。
たとえば親潮の冷水が広がっていても、そこへ流れ込む空気が乾いていたり、風が陸から海へ吹いていたりすれば、釧路の霧は増えないことがあります。
逆に海面水温の低下がそれほど大きくなくても、非常に暖かく湿った空気が南から大量に流れ込めば、空気と海面との温度差が大きくなり、海霧が増えることがあります。
重要なのは親潮単独ではなく、海と大気の組み合わせです。
風向が少し変わるだけでも霧日数は変わるの?
変わります。
海上で霧ができていても、風が海から釧路へ向かわなければ、陸上の観測地点には霧が届きません。
南〜南東の風が続けば、海霧を含む空気が釧路沿岸へ運ばれます。一方、陸から海へ向かう風や、西寄りの乾いた風が多ければ、海霧の流入は弱まります。
つまり「沖に霧があるか」と「釧路で霧が観測されるか」は同じではなく、両者をつなぐ風向が重要です。
風速も年々変動に関係するの?
関係します。
風が弱すぎれば、暖湿気や海霧を陸へ運ぶ力が弱くなります。適度な風があれば、海霧は広い範囲へ移動できます。
一方、風が強すぎると、上空の乾いた空気との混合が強まり、霧が薄くなったり低い雲へ変わったりする場合があります。
そのため、年ごとの平均的な風速や強風日の多さも、海霧の出方に影響します。
オホーツク海高気圧も海霧の多さに関係するの?
関係します。
オホーツク海高気圧が強い年には、北海道付近の風系が変わり、釧路へ向かう南寄りの暖湿気流入が弱くなる場合があります。
長期変動研究では、釧路で霧頻度が低い年に、オホーツク海高気圧の強まりと北太平洋高気圧の縮小が組み合わさる例が示されています。
つまり釧路の海霧は、親潮だけでなく、北太平洋全体の高気圧配置にも左右されています。
同じ「暑い夏」でも霧の多さは違うの?
違います。
北海道の内陸が暑い夏でも、釧路では海霧が多く涼しい日が続くことがあります。
釧路地方気象台は、釧路の海霧が多い年には、北海道のほかの地域では気温が高く、日照時間も多くなる傾向があると説明しています。
これは、北太平洋高気圧が強く張り出すことで、北海道全体では夏らしい気圧配置になる一方、釧路には南寄りの暖湿気が冷たい親潮上を通って流れ込み、海霧をもたらすためです。
霧が多い年は釧路の気温も低くなるの?
低くなりやすい傾向があります。
海霧が陸へ入ると、霧によって日射が弱まり、海からの冷たい空気も流れ込みます。そのため日中の気温が上がりにくくなります。
つまり海霧は大気循環の結果として発生するだけでなく、発生した後に釧路の気温や日照時間へ影響を返します。
霧の多い夏に「釧路だけ涼しい」と感じやすいのは、このためです。
年ごとの霧日数は長期的にも変化しているの?
変化しています。
北海道大学の研究では、釧路の夏季霧頻度には長期的な減少傾向があり、その背景として北太平洋高気圧やオホーツク海高気圧に関連する総観規模の大気循環の変化が指摘されています。
つまり年々の多い・少ないだけでなく、数十年規模で霧が出やすい大気循環の頻度そのものが変化する可能性があります。
海面水温の長期変化だけを見れば将来の霧は分かるの?
分かりません。
海霧には、海面水温だけでなく、空気の温度・湿度、風向・風速、気圧配置、海霧の陸上移流が同時に関係します。
海面が暖かくなれば霧が減る方向に働く場合がありますが、同時に暖湿気の流入が変われば結果は単純ではありません。
将来の海霧を考えるには、海と大気の両方の変化を見る必要があります。
なぜ釧路は年々変動を調べるのに適した場所なの?
釧路は日本でも霧日数が非常に多く、長期の気象観測資料があります。
また、親潮という明確な冷水域と、夏の北太平洋高気圧に伴う暖湿気流入が組み合わさるため、海と大気の関係を調べやすい地域です。
そのため釧路の海霧は、海面水温、風、大気循環が霧にどう影響するかを研究する代表的な対象になっています。
「海霧の地域・季節差」の記事とは何が違うの?
海霧の地域・季節差を扱う記事では、寒流・季節風・暖湿気の組み合わせによって、なぜ寒流沿岸や特定の季節に海霧の発生頻度が高くなるかが中心です。
一方、この記事では、同じ釧路の同じ夏という条件でも、北太平洋高気圧やオホーツク海高気圧、南寄りの風、海面と空気の温度差が年ごとに変わることで、霧日数が増減する理由を扱っています。
前者は場所・季節の違い、こちらは年々変動の違いです。
まとめ
釧路の海霧が同じ夏でも年によって多い年と少ない年があるのは、海霧の形成と陸上への流入を支配する大気循環が毎年同じではないからです。
北太平洋高気圧が北西へ張り出し、南寄りの暖湿気が強く流れ込む年には、冷たい親潮との温度差が大きくなって海霧が作られやすくなり、その霧も釧路へ運ばれやすくなります。反対に南〜南東風が弱い年には、海霧の流入も弱まります。
釧路の海霧の年々変動を理解するには、「親潮が冷たいか」だけでなく、「北太平洋高気圧・オホーツク海高気圧・風向・暖湿気・海面水温がその年にどう組み合わさったか」を見ることが重要です。

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