なぜ雨の後は川の水が濁るのか?

結論からいうと、雨の後に川の水が濁るのは、雨水が地表の土や細かな砂、落ち葉などを川へ運び込み、さらに増水した流れが川底にたまっていた細粒土砂を巻き上げるからです。 特に粘土やシルトのような小さな粒子は水中に浮いたまま長く運ばれやすいため、川全体が茶色や灰色に見えることがあります。

ただし、濁った水が必ず「汚染されている」とは限りません。自然の森林や山地から流れ出た土砂でも水は濁ります。一方、都市や農地では、雨水が道路上の汚れや栄養塩などを一緒に運ぶこともあります。雨後の濁りを理解するには、どこから粒子が来たのか、どれだけ流れが強くなったのか、粒子がどれくらい細かいのかを見ることが重要です。

目次

「濁り」とは水の中に細かな物質が浮いている状態

川の水が濁って見える主な理由は、水中に光を散乱させる細かな粒子が増えることです。

USGSは、水の濁度を、光を当てたときに水中の物質によってどれだけ光が散乱されるかを示す指標と説明しています。濁りの原因になる物質には、粘土、シルト、非常に細かな無機物・有機物、藻類などがあります。

雨の後の川では、とくに土壌由来の粘土やシルトが増えやすくなります。これらは粒が小さいため沈みにくく、水の流れに乗って長い距離を運ばれます。

そのため、水量が増えた直後の川は、透明度が低下し、茶色や黄褐色に見えることがあります。

雨水が地表の土を川まで運ぶ

雨が降ると、その一部は地面へしみ込みますが、強い雨や長時間の雨では、地表を流れる水が増えます。これを表面流出と呼びます。

表面流出は斜面を下りながら、土壌の細かな粒子を削り取り、沢や側溝へ運びます。さらに小さな流れが支流へ集まり、本川へ入ることで、川の中の懸濁物質が増えます。

USGSも、雨水の表面流出は地表を移動するときに土砂などの粒子を取り込み、それを小川や河川へ運ぶと説明しています。

特に裸地、工事現場、畑、崩壊地など、地表が植物で十分に覆われていない場所では、雨滴や表面流出によって土が移動しやすくなります。

強い雨ほど土を削る力が大きくなりやすい

雨粒が地面に当たると、土の表面に衝撃を与えます。弱い雨では大きな変化がなくても、強い雨が続くと表土の粒子がはがれやすくなります。

さらに、地面が水を吸収しきれなくなると、地表を流れる水量が増えます。その流れが斜面の土を削りながら下流へ運びます。

そのため、同じ総雨量でも、弱い雨が長く降る場合と、短時間に激しく降る場合では、土砂の流出量が違うことがあります。

降雨時の浮遊懸濁物質を対象にした土木学会の研究でも、雨水流出量の増減に伴ってSS(浮遊懸濁物質)の流出負荷量が大きく変化することが示されています。

川が増水すると川底の泥や砂も巻き上がる

雨後の濁りは、流域から新しく土砂が入ってくるだけで起こるわけではありません。

普段の川底やカーブの内側、淵などには、細かな泥や砂が堆積しています。大雨で流量と流速が増えると、川底に働く力が大きくなり、それまで沈んでいた粒子が再び水中へ巻き上げられます。

熊本県の白川を対象にした研究では、出水時に河道内へ堆積していた粘土粒子などが再懸濁し、高い懸濁物質濃度につながることが示されています。

つまり、雨後の濁りには「外から入ってきた土」と「川の中に以前からたまっていた土」の両方が関係します。

細かな粒子ほど長く濁りを残しやすい

川へ入る土砂には、大きな砂利から細かな粘土までさまざまな粒径があります。

大きな礫や砂は重いため、流れが弱くなると比較的早く川底へ沈みます。一方、シルトや粘土のような細かな粒子は沈む速度が遅く、流れの乱れによって長時間水中に浮き続けます。

USGSは、速い流れほど大きな粒子まで運びやすく、洪水時には平常時より多くの懸濁土砂が輸送されると説明しています。

このため、雨が止んで水位が下がり始めても、細かな粒子が残っている間は濁りが続くことがあります。

雨がやんでもすぐ透明にならない理由

現地の雨が止んでも、上流ではまだ雨が降っていることがあります。また、流域の遠い場所から流れ出した水が時間差で到達するため、しばらく流量が多い状態が続くこともあります。

流れが強い間は、細かな土砂が沈まず、さらに河床からの巻き上げも続きます。そのため、空が晴れていても川だけが濁っていることがあります。

水位と流速が下がると、まず大きな粒子が沈み、その後、細かな粒子も徐々に沈降します。濁りが消えるまでの時間は、粒径、流速、水深、川の長さなどによって異なります。

山の川でも雨の後は濁る

山間の川は普段透明に見えることがありますが、豪雨の後には強く濁ることがあります。

山地では急な斜面が多く、大雨によって表土が流れたり、斜面崩壊や河岸侵食が起きたりします。そこから供給された土砂が沢や川へ入り、濁りを生みます。

特に大規模な崩壊が起きた流域では、崩壊土砂が河道内に長く残り、その後の雨のたびに再び運ばれることがあります。

白川の研究でも、地震による土砂崩れで河道へ供給・堆積した土砂が、その後の出水時に再懸濁して下流へ流出したと推定されています。

都市の川では道路や下水からも濁質が入る

都市では、自然の土壌だけでなく、道路や駐車場、工事現場、側溝などからも細かな粒子が流れ込みます。

雨が降る前に道路上へたまっていたほこり、土砂、落ち葉などが雨水で洗い流され、短時間に川へ入ることがあります。

また、合流式下水道のある地域では、強い雨のときに下水と雨水が混ざった水の一部が河川へ放流されることがあり、懸濁物質が増える場合があります。

都市河川を対象とした研究でも、降雨時には流出量の増加に伴って浮遊懸濁物質や汚濁負荷が大きく変動することが確認されています。

そのため、都市の雨後の濁りは、自然土砂だけでなく人の土地利用の影響も受けます。

「最初の雨」で濁りが急に増えることもある

しばらく雨が降っていないと、道路や地表、側溝などに細かな物質がたまります。

そこへ雨が降ると、初期の流出でたまっていた物質がまとめて洗い流されることがあります。このような現象は「ファーストフラッシュ」と呼ばれることがあります。

降雨時のSS流出研究では、降雨初期に流出負荷が大きくなる現象を考慮したモデルが検討されています。

ただし、すべての流域・すべての雨で明確なファーストフラッシュが起こるわけではありません。雨の強さ、雨が降る前の日数、地表の状態などによって違います。

濁りが強いからといって必ず有害とは限らない

濁った水を見ると「汚い水」と感じやすいですが、濁度と有害物質の量は同じものではありません。

自然の山地から運ばれた粘土やシルトが多いだけでも、水は強く濁ります。反対に、見た目には透明でも、水中に溶けた物質が含まれていることがあります。

ただし、細かな土砂が非常に多い状態が長く続くと、水中へ届く光が減ったり、魚のえらや底生生物の生息場所に影響したりすることがあります。また、土砂の表面に栄養塩や一部の汚染物質が付着して運ばれる場合もあります。

そのため、水質評価では見た目の濁りだけでなく、濁度、SS、栄養塩、化学物質などを必要に応じて測定します。

川によって濁りやすさが違う

同じ量の雨が降っても、川によって濁り方は違います。

  • 地質・土壌:細かな土が多く侵食されやすい流域は濁りやすい
  • 斜面勾配:急な斜面では土砂が川へ移動しやすい場合がある
  • 植生:森林や草地は雨滴や表面流出による侵食を抑えることがある
  • 土地利用:裸地、農地、工事現場、市街地などは流出する粒子の量や種類を変える
  • 河床材料:川底に細かな泥が多いと増水時に再懸濁しやすい
  • 流量:洪水規模が大きいほど多くの粒子を運べることがある
  • ダム・湖:流れが遅くなる場所では土砂が沈み、下流の濁りが弱まることがある

つまり、雨量だけで「この川はどれくらい濁る」と決めることはできません。

濁りのピークと水量のピークは同じとは限らない

雨後の川では、水量が最大になる時刻と濁度が最大になる時刻がずれることがあります。

雨の降り始めに地表の細かな物質が一気に流れ込めば、水量ピークより先に濁りが最大になることがあります。反対に、上流の崩壊地や支流から濁水が遅れて到達すれば、水量ピーク後に濁度が高くなる場合もあります。

2023年の河川技術論文集では、河川の高濁度発生を予測するため、降雨の空間分布や濁質発生源の土地利用を考慮したモデルが検討されています。

このような時間差があるため、濁りを予測するには流量だけでなく、土砂の供給源と移動時間も考える必要があります。

雨後の濁りは下流や海にも影響する

水中に浮いた細かな土砂は、川の中だけで終わるとは限りません。流れに乗って下流へ移動し、河口から海へ出ることがあります。

途中で流れが弱くなれば河床やダム湖に沈みますが、細粒土砂は河口まで到達することがあります。

そのため、上流で起きた斜面崩壊や土地利用の変化が、下流の濁度や河口沿岸域への土砂供給に影響することがあります。

雨後の川の色は、流域のどこかで土砂が動き、その粒子が川を通して下流へ運ばれていることを示す一つのサインでもあります。

まとめ

雨の後に川の水が濁るのは、雨水が地表の細かな土砂を川へ運び込み、増水した流れが河床にたまった粒子も巻き上げるためです。

  • 雨滴や表面流出によって土壌粒子が削られ、川へ運ばれる
  • 増水して流速が上がると、川底の泥や砂が再懸濁する
  • 粘土やシルトのような細粒土砂は沈みにくく、長く濁りを残す
  • 山間部では斜面崩壊や河岸侵食、都市では道路・工事現場・下水なども濁質源になる
  • 雨が止んでも、上流からの濁水や細粒土砂が残るため、すぐ透明にはならないことがある
  • 濁りと汚染は同じではなく、濁度が高いだけで有害物質が多いとは限らない

つまり、雨後の濁りは、流域の土や川底の粒子が水の流れによって動いた結果です。 川の水が茶色くなるのは、雨によって「水だけでなく土砂も流域から川へ集まっている」ことを目に見える形で示しているのです。

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参考資料

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