自由落下中では、重力そのものが消えているわけではありません。それでも体重計は0に近い値を示します。
理由は、体重計が測っているのが「重力の強さ」そのものではなく、足裏が床や体重計から受ける押し返しの力だからです。自由落下中は、人も体重計も同じ重力加速度で落ちるため、足裏を押し返す力がほぼなくなります。
つまり、重力は働いているのに、支持力がなくなるため「重さを感じない」のです。
まず「質量」と「重さ」は同じではない
質量は、その物体がどれだけ物質を持っているかを表す量です。宇宙へ行っても、基本的には変わりません。
一方、日常でいう「重さ」は、重力場の中で物体が床や体重計を押す力として現れます。
NASAは、自由落下中の物体について「質量は変わらないが、体重計では0を示す」と説明しています。
地上で体重計が値を示すのは、床が押し返しているから
地上に立つ人には、下向きに地球の重力が働いています。
そのままなら人は地球中心方向へ落下するはずですが、床があるため落ちません。床は人を上向きに押し返します。
この上向きの力を支持力、または垂直抗力と呼びます。
体重計は、この支持力をばねやセンサーで測って「体重」として表示します。
静止しているときは、支持力と重力がつり合う
人が静止して立っているとき、下向きの重力と上向きの支持力はほぼ同じ大きさです。
たとえば質量60kgの人なら、地上ではおよそ60kg重に相当する支持力を受けます。
体重計はこの押し返しを検出して「60kg」と表示します。
自由落下すると、人も体重計も同じ加速度で落ちる
エレベーターのかご、人、体重計がすべて自由落下すると、それぞれに地球重力が働きます。
しかし、空気抵抗などを無視すれば、どれも同じ重力加速度で落下します。
人だけが体重計へ強く押しつけられる状況ではなく、体重計そのものも同じように落ち続けます。
そのため、足裏と体重計の間の押し合う力がほぼ消えます。
体重計が0を示すのは、重力が0だからではない
ここが最も重要な点です。
自由落下中にも、地球の重力は人にも体重計にも働いています。
それでも体重計が0を示すのは、体重計が重力を直接測っているのではなく、足から押される力を測っているからです。
押しつける力がなくなれば、表示は0に近づきます。
エレベーターで下向きに加速すると、体重は軽く表示される
完全な自由落下でなくても、エレベーターが下向きに加速すると体重計の表示は小さくなります。
床も一緒に下がるため、人を押し返す力が弱くなるからです。
反対に、エレベーターが上向きに加速すると、床が人を強く押すため体重計の表示は一時的に大きくなります。
「見かけの重さ」は支持力で決まる
このように、体重計が示す値は加速度によって変わります。
物理では、体重計が示すような支持力を「見かけの重さ」と考えることがあります。
静止中は通常の重さ、下向き加速中は軽く、上向き加速中は重く、自由落下中は0に近づきます。
ISSでも同じことが起きている
国際宇宙ステーション(ISS)は地球重力から逃げているわけではありません。
JAXAは、ISS高度でも地球重力は地上より約10%弱い程度しか減っていないと説明しています。
それでも宇宙飛行士が浮くのは、ISS本体、宇宙飛行士、船内の物体がすべて一緒に地球へ落ち続けているからです。
軌道とは「地球に落ち続けながら、地面を外し続ける運動」
ISSには大きな横向き速度があります。
重力で地球方向へ落ちながらも、その間に地球表面が丸く下へ曲がっていくため、地面へ衝突せず地球を回り続けます。
NASAとJAXAは、人工衛星やISSを「地球の周りを自由落下し続けている」と説明しています。
だからISS内の体重計は通常の方法では使えない
ISS内で地上用の体重計に乗っても、床へ十分押しつけられないため、通常の体重測定はできません。
宇宙では、質量を測るために別の方法が必要です。
たとえば、ばねなどで人を前後に振動させ、その周期から質量を求める方法が使えます。
質量は残っているので、慣性を利用すれば測定できるのです。
質量が大きい人も小さい人も、自由落下では同じ加速度になる
重い物体には大きな重力が働きます。
一方で、質量が大きい物体ほど加速しにくいという性質もあります。
この二つが釣り合うため、空気抵抗を無視すれば質量に関係なく同じ重力加速度で落下します。
JAXAも、ISS船内のすべての物体が同じように落下することが無重量の理由だと説明しています。
ハンマーと羽根も真空なら同じように落ちる
地上では羽根は空気抵抗を強く受けるため、ハンマーより遅く落ちます。
しかし真空なら、空気抵抗がないため両方とも同じ重力加速度で落ちます。
自由落下で「重さを感じない」現象を理解するとき、空気抵抗の影響と重力そのものを分けて考えることが重要です。
放物線飛行でも体重計は0に近づく
宇宙へ行かなくても、航空機を放物線状に飛行させると短時間の自由落下状態を作れます。
航空機、人、実験装置が同じ軌道をたどる間、機内では無重量に近い状態になります。
ESAは、この状態が約20秒前後続き、ISS内と同じ原理で体が浮くと説明しています。
落下塔でも同じ原理を使える
NASAは落下塔を使い、実験装置を自由落下させて数秒間の微小重力環境を作っています。
装置とその内部の試料が同じ加速度で落ちるため、支持力がほぼなくなります。
この方法は、ISSへ持ち込む前の実験確認などに使われます。
自由落下中に「内臓が浮く感じ」がするのも同じ理由
フリーフォール型の遊具や急降下する乗り物では、体がふわっと浮く感覚があります。
これは重力が消えたからではありません。
座席や床から体へ押し返す力が小さくなり、体の各部分が一緒に落下するためです。
逆に加速すれば、宇宙でも重さを感じられる
宇宙船がエンジンで加速すると、船体の床が人を押します。
すると支持力が生まれ、人は「重さ」を感じます。
つまり、宇宙にいるか地上にいるかより、床からどのような力を受けているかが見かけの重さを決めます。
回転する宇宙船でも見かけの重さを作れる
宇宙船を回転させると、船内の人は外側の壁へ押しつけられます。
壁から支持力を受けるため、その壁を床として重さを感じることができます。
これが人工重力の基本的な考え方の一つです。
無重量と微小重力は厳密には同じではない
理想的な自由落下では、支持力は完全に0になります。
しかし実際のISSでは、残留大気による抵抗、姿勢制御、機器振動、重力勾配などによって小さな加速度が残ります。
そのため実際の環境は「完全な0G」ではなく微小重力と呼ばれます。
この詳しい仕組みはW01357で扱います。
W01352との違いは「無重量の原因全体」ではなく「体重計が何を測るか」
W01352では、ISSが軌道上を自由落下し、宇宙飛行士が無重量になる全体の仕組みを説明します。
本記事W01362では、そこから一歩絞り込み、なぜ重力が残っていても体重計が0を示すのかを、支持力と見かけの重さの観点から説明します。
つまりW01352が「なぜ浮くのか」の総合説明、W01362が「なぜ体重計が0になるのか」という測定の仕組みを扱う記事です。
状態ごとの体重計表示を整理すると分かりやすい
| 状態 | 体重計の表示 | 理由 |
|---|---|---|
| 地上で静止 | 通常の体重 | 床が重力と同程度の力で押し返す |
| 上向きに加速 | 重く表示 | 床からの支持力が大きくなる |
| 下向きに加速 | 軽く表示 | 床からの支持力が小さくなる |
| 自由落下 | 0に近い | 人と体重計が同じ加速度で落ち、支持力がほぼなくなる |
| ISS軌道 | 通常の体重計では0に近い | ISSと人が一緒に地球を回りながら自由落下している |
まとめ
自由落下中に重力が働いていても体重計が0を示すのは、体重計が重力そのものではなく、体が体重計を押す力を測っているからです。
- 地上では、重力で落ちようとする体を床が押し返すため、体重計に値が出ます。
- 自由落下中は、人と体重計が同じ重力加速度で落ちます。
- そのため足裏と体重計の間の支持力がほぼ0になり、表示も0に近づきます。
- 質量は消えず、慣性も残っています。
- ISSでも同じ原理で宇宙飛行士が無重量になります。
- 実際のISSには小さな外乱があるため、厳密には完全な0Gではなく微小重力です。
つまり、「重力があるのに体重が0」というのは矛盾ではありません。重力と、体重計が測る支持力は別のものだからです。自由落下では重力が体と体重計を一緒に動かし、押し合う力を消してしまうため、体重計だけを見ると0になるのです。
参考資料
- JAXA「どうしてISS内では、無重力になるのでしょうか」
- JAXA「人工衛星やISSは、なぜ、地球に落ちてこないのでしょうか」
- NASA「What Is Microgravity?」
- ESA「Microgravity and ISS」

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