多くの植物の葉は緑色に見えます。春の若葉から夏の濃い葉まで色合いには違いがありますが、健康な葉の多くが緑色なのは偶然ではありません。なぜ植物の葉は緑色に見えるのでしょうか。
結論からいうと、葉の細胞にある葉緑体にはクロロフィル(葉緑素)という色素が多く含まれ、クロロフィルが青色と赤色の光を強く吸収する一方、緑色付近の光は相対的に吸収されにくく、反射・透過されやすいためです。私たちの目には、その葉から戻ってくる緑色の光が多く届くので、葉が緑色に見えます。
色は「物体がどの波長の光を吸収し、どの光を返すか」で決まる
太陽光や白色光には、赤、橙、黄、緑、青、紫などさまざまな波長の可視光が含まれています。物体に光が当たると、波長によって吸収される光、反射される光、内部を透過する光の割合が異なります。
私たちが物体の色を見るとき、目に届いているのは主にその物体から反射された光です。赤い物体なら赤い光が比較的多く目へ届き、青い物体なら青い光が多く届きます。
葉の場合も同じで、葉を構成する色素や組織が波長ごとに光を選択的に吸収します。その結果、青や赤よりも緑色付近の光が相対的に多く葉から戻ってくるため、緑色に見えます。
葉の緑色の中心にあるのがクロロフィル
葉の細胞には葉緑体という細胞小器官があります。葉緑体の内部にはチラコイド膜と呼ばれる膜系があり、そこにクロロフィルa、クロロフィルbなどの光合成色素が存在します。
クロロフィルは光合成に必要な光エネルギーを受け取る中心的な色素です。光合成では、吸収した光エネルギーを利用して電子伝達反応を進め、最終的に二酸化炭素から有機物をつくるためのエネルギーへ変換します。
つまり、葉が緑色なのは「緑色にするための色素」があるというより、光合成に使うクロロフィルが特定の波長を選んで吸収した結果として緑色が残って見える、と考えるとわかりやすくなります。
クロロフィルは青色と赤色の光を強く吸収する
クロロフィルaとクロロフィルbは、可視光のすべてを同じ強さで吸収するわけではありません。一般に青色付近と赤色付近の吸収が強く、緑色から黄緑色付近では吸収が相対的に弱くなります。
日本の作物研究でも、葉の光吸収率や光合成の分光反応は波長によって異なり、葉色や葉の発育状態によっても変化することが調べられています。
クロロフィルによって青と赤が強く吸収される結果、それらより吸収されにくい緑色の光が葉から反射・透過されやすくなります。これが葉が緑色に見える基本的な理由です。
「緑色の光はまったく吸収されない」わけではない
葉の色の説明では、「植物は赤と青を吸収し、緑を反射する」と簡略化されることがあります。しかし、実際の葉は緑色の光をまったく吸収しないわけではありません。
クロロフィル単体では緑色域の吸収が比較的弱いものの、葉全体では組織内で光が何度も散乱し、進む距離が長くなります。そのため、緑色光の一部も葉の内部で吸収され、光合成に利用されます。
海外の葉の光学研究では、緑色光は赤色や青色より深い組織へ到達しやすく、表面近くの葉緑体だけでなく、より内部の葉緑体にも光を届けることが示されています。
葉の表面だけでなく内部構造も見える色に影響する
葉は薄い板のように見えますが、内部には表皮、柵状組織、海綿状組織など複数の層があります。細胞の形や細胞間隙によって光は複雑に屈折・散乱します。
青色や赤色の光はクロロフィルに強く吸収されるため、葉の表面近くで多くが吸収されます。一方、緑色光は比較的吸収されにくいため、より深い位置まで進みやすくなります。
葉の内部で散乱された光の一部は再び外へ出て、私たちの目へ届きます。このため、葉の緑色はクロロフィルの吸収特性だけでなく、葉の立体的な内部構造によっても形づくられています。
クロロフィルaとクロロフィルbは少し異なる光を吸収する
高等植物の葉では、主にクロロフィルaとクロロフィルbが働いています。二つはよく似た分子ですが、吸収しやすい波長には少し違いがあります。
クロロフィルaは光化学反応の中心で重要な役割を持ち、クロロフィルbは光を集めるアンテナ色素系に多く存在して、利用できる光の範囲を広げる役割を持ちます。
日本の植物生理学研究でも、クロロフィルb量が光捕集アンテナの大きさや光環境への適応に関係することが示されています。葉の緑色は一種類の色素だけでなく、複数の光合成色素の組み合わせによって生じています。
葉が緑色になるには葉緑体が発達する必要がある
葉は最初から完成した緑色をしているわけではありません。暗い場所で発芽した被子植物では、子葉や若い葉が黄色っぽく見えることがあります。
暗所では葉緑体の前段階であるエチオプラストが発達し、クロロフィルの前駆体が蓄積します。光が当たるとクロロフィル合成が進み、チラコイド膜が形成され、エチオプラストが葉緑体へと変化します。
日本の葉緑体形成研究では、この緑化過程に伴ってクロロフィルと光合成膜タンパク質が蓄積し、黄色かった組織が緑色へ変わることが説明されています。
もやしが黄色いのはクロロフィルが十分に蓄積していないから
暗い場所で育てたもやしが黄色や淡い色をしているのは、葉緑体の発達とクロロフィル蓄積が十分に進んでいないためです。
そのような芽生えを明るい場所へ出すと、しだいに緑色になることがあります。光を受けることで葉緑体形成が進み、クロロフィル量が増えるからです。
この変化を見ると、葉の緑色が単なる表面の色ではなく、細胞内の葉緑体とクロロフィルの形成状態を反映していることがわかります。
カロテノイドも葉の中にある
緑の葉にはクロロフィルだけでなく、カロテノイドと呼ばれる黄色から橙色系の色素も含まれています。
カロテノイドは青色付近の光を吸収し、光合成の補助色素として働くほか、強すぎる光から光合成装置を守る役割も持っています。
通常の健康な葉ではクロロフィルが多いため、カロテノイドの黄色は目立ちません。しかしクロロフィル量が減ると、もともと存在していたカロテノイドの色が見えやすくなります。
秋に葉が黄色く見えるのはクロロフィルが分解されるから
落葉樹では秋になると日長が短くなり、気温も下がります。葉を落とす準備が始まると、葉のクロロフィルが分解されていきます。
クロロフィルによる強い緑色が弱まると、それまで隠れていた黄色系のカロテノイドが目立つようになります。種類によってはアントシアニンがつくられ、赤や紫に見える葉もあります。
つまり、紅葉や黄葉は「葉から緑色の光がなくなった」というより、緑色を生み出していたクロロフィルの量が減り、別の色素の影響が強く見えるようになった現象です。
窒素不足などでも葉の緑が薄くなることがある
クロロフィルは窒素を含む分子であり、葉緑体の光合成装置をつくるタンパク質にも多くの窒素が必要です。
そのため、窒素不足や葉の老化、病害などでクロロフィルの量が減ると、葉色は淡い緑から黄色へ変わることがあります。このような葉の黄化はクロロシスと呼ばれます。
ただし、葉が黄色い原因は窒素不足だけではありません。鉄やマグネシウムなどの不足、根の障害、病害、低温など複数の原因があるため、色だけで原因を一つに決めることはできません。
若葉が淡い緑で成熟葉が濃い緑になることがあるのはなぜ?
若い葉では、葉緑体や光合成装置がまだ発達途中で、クロロフィル量が成熟葉より少ないことがあります。
葉が展開し、葉緑体とチラコイド膜が発達すると、クロロフィルや光捕集タンパク質が増え、緑色が濃く見えるようになることがあります。
ただし、若葉の色は植物種によって大きく異なり、赤みを帯びるものもあります。若葉にアントシアニンが多い種類では、緑色より赤や紫が目立つことがあります。
日なたの葉と日陰の葉では緑色の見え方が違うことがある
植物は光環境に応じて葉の構造や光合成装置を調整します。日陰の葉では、限られた光を効率よく受け取るため、光捕集アンテナの構成やクロロフィルaとbの比などが日なたの葉と異なることがあります。
その結果、同じ植物でも葉の厚さやクロロフィル濃度、緑色の濃さが違って見えることがあります。
葉色は植物の種類だけでなく、光環境、葉齢、栄養状態などの影響も受けるため、緑色の濃さは固定された特徴ではありません。
葉が緑色なのは「緑色光が光合成に不要だから」ではない
葉が緑色に見えることから、「植物は緑色の光を使わない」と考えられることがあります。しかしこれは正確ではありません。
緑色光はクロロフィルによる吸収が赤・青より弱いため反射・透過される割合が高いものの、葉全体ではかなりの部分が吸収されます。しかも緑色光は葉内部へ深く入りやすいため、表面近くではなく内部の葉緑体の光合成を支えることがあります。
葉が緑に見えることと、緑色光が光合成に利用されることは矛盾しません。「相対的に反射されやすい」と「まったく利用されない」は別の意味です。
なぜ植物は緑色光まで全部吸収するようにならなかったのか
太陽光をすべて吸収できれば効率がよさそうに思えます。しかし、強い日射の下では、吸収した光エネルギーのすべてを光合成に使えるわけではありません。
過剰な光エネルギーは光合成装置へ負担をかけ、活性酸素の発生や光阻害につながることがあります。葉には余分なエネルギーを熱として逃がしたり、葉緑体の位置を変えたりする仕組みがあります。
九州大学の研究レビューでは、クロロフィルや葉構造の分光吸収特性が、強い太陽光を安全かつ効率よく利用することと関係する可能性が論じられています。葉の緑色は単なる「光の取りこぼし」ではなく、強光環境での光利用全体の結果として理解できます。
すべての植物の葉が同じ緑色ではない
植物によってクロロフィル量、カロテノイド量、アントシアニン量、葉の厚さ、表面構造などが異なるため、緑色の濃さや色味にも違いがあります。
黄緑色の葉、青緑色の葉、赤紫色を帯びる葉、斑入りの葉などもあります。斑入りでは、部分的にクロロフィルが少ない組織があるため、白や黄色の模様が生じます。
このため「葉は緑」と一括りにできますが、実際の葉色は色素量と組織構造の組み合わせによって連続的に変化します。
身近な葉で緑色の仕組みを観察するポイント
葉の緑色を観察するときは、一枚の葉だけでなく、光環境や成長段階の違いを比べると仕組みが見えやすくなります。
- 若葉と成熟葉で緑色の濃さが違うか
- 日なたの葉と日陰の葉で色味が違うか
- 葉の表側と裏側で緑色の濃さが違うか
- 秋に緑から黄・赤へどう変化するか
- 暗所で伸びた芽を光に当てると緑化するか
- 斑入り葉の白い部分と緑の部分で違いがあるか
- 古い葉と新しい葉で黄化の進み方が違うか
こうした観察をすると、葉色が固定された塗料のようなものではなく、葉緑体の発達、クロロフィル量、ほかの色素、葉の内部構造によって変わることが理解しやすくなります。
まとめ
植物の葉が緑色に見えるのは、葉緑体に多く含まれるクロロフィルが青色と赤色の光を強く吸収し、緑色付近の光は相対的に吸収されにくいため、緑色の光が反射・透過して私たちの目へ届きやすいからです。
ただし、緑色光も葉内部で散乱しながら一部は吸収され、光合成に利用されます。また、葉の緑色はクロロフィルだけでなく、葉緑体の発達、葉の組織構造、カロテノイドなどほかの色素、葉齢や栄養状態によっても変わります。葉の緑色は、光を選択的に吸収しながら光合成を行う植物の仕組みが、目に見える形で表れたものなのです。
参考資料
- 稲田勝美「作物の光合成反応スペクトルに及ぼす葉色ならびに葉の発育期間中に照射した光質の影響」日本作物学会紀事
- 吉原晶子・小林康一「植物特有の膜脂質が駆動する葉緑体形成」生物物理
- Kume A. Importance of the green color, absorption gradient, and spectral absorption of chloroplasts for the radiative energy balance of leaves
- Terashima I, Hanba YT, Tholen D, Niinemets Ü. Leaf Functional Anatomy in Relation to Photosynthesis

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