なぜ植物の葉は種類や環境によって形が違うのか?

植物の葉には、丸い葉、細長い葉、深い切れ込みのある葉、複数の小葉に分かれた葉など、さまざまな形があります。同じ種類の植物でも、光や水分などの環境条件によって葉の大きさや厚さ、切れ込み方が変わることがあります。なぜ植物の葉は、種類や環境によって形が違うのでしょうか。

結論からいうと、葉の形は葉原基がつくられる初期段階から、オーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモン、KNOXやCUCなどの遺伝子群が細胞分裂・細胞伸長・葉縁の成長位置を調節し、その発生プログラムが種類ごとに異なるうえ、光・温度・水分などの環境情報によって同じプログラムの働き方も変化するためです。つまり葉形は、遺伝的な設計と環境に応じた可塑性の両方で決まります。

目次

葉の形は葉が完成してから決まるのではない

葉の形は、若い葉が十分に大きくなってから後付けで決まるものではありません。茎の先端にある茎頂分裂組織の周辺から葉原基ができる段階で、すでに将来の葉の基本的な形づくりが始まります。

葉原基では、先端から基部へ向かう軸、表側と裏側を分ける軸、中央から左右へ広がる軸が形成され、それぞれの方向で細胞分裂と細胞伸長が調節されます。

日本の葉形態形成研究でも、葉の最終形は、どこで細胞が増え、どの方向へ伸び、いつ分裂をやめるかという時間的・空間的な制御の積み重ねとして理解されています。

葉原基ができる場所にはオーキシンの局所的な蓄積が関わる

新しい葉は、茎頂分裂組織のどこからでも無秩序に出てくるわけではありません。オーキシンが局所的に集まる場所で葉原基の形成が始まります。

オーキシンはPIN1などの輸送体によって細胞間を移動し、その流れによって茎頂の特定の場所に濃度の高い領域がつくられます。

このオーキシン最大域が葉原基の開始点となり、同時に未分化状態を保つKNOX1遺伝子群の発現が抑えられることで、葉として分化する領域が茎頂から切り分けられます。

KNOX遺伝子は葉の「分化する時期」に関わる

KNOX1遺伝子群は、茎頂分裂組織で細胞を未分化な状態に保つ働きを持ちます。単葉をつくるシロイヌナズナでは、葉原基ができるとその領域でKNOX1の発現が抑えられます。

一方、複葉をつくる植物では、葉原基の一部でKNOX1の働きが再び維持・再活性化される場合があります。これによって葉縁が長く形づくり能力を保ち、小葉を繰り返し形成できます。

つまり、丸い一枚葉になるか、複数の小葉に分かれるかという違いの一部は、「葉縁がいつまで新しい突起をつくれる状態を保つか」という発生時間の違いで説明できます。

CUC遺伝子は葉の切れ込みや境界づくりに関わる

葉の縁にギザギザや深い切れ込みができるには、全体が一様に成長するだけでは不十分です。ある場所では成長を進め、別の場所では成長を抑える必要があります。

CUC遺伝子群は、葉縁の境界領域で成長を抑え、切れ込みや小葉間の境界をつくることに関わります。

一方、その隣ではPIN1によってオーキシンが集まり、葉縁の突出部が成長します。成長する場所と抑えられる場所が交互に生じることで、鋸歯や裂片、小葉といった複雑な輪郭が形成されます。

丸い葉と細長い葉は細胞分裂・伸長の方向が違う

葉の長さと幅は、細胞数だけでなく、細胞がどの方向へ分裂し、どの方向へ伸びるかによって決まります。

先端方向への成長が強ければ細長い葉になりやすく、左右方向への葉身拡大が大きければ幅広い葉になります。

葉の形態形成研究では、器官の形を理解するには細胞分裂の回数だけでなく、分裂面の向きや細胞伸長の方向を組み合わせて考える必要があることが示されています。

葉身と葉柄の比率も葉形を変える

同じ「葉」でも、広い葉身が目立つもの、長い葉柄を持つもの、葉柄がほとんどないものがあります。

葉原基では先端側と基部側で発生プログラムが異なり、葉身になる領域と葉柄になる領域の境界がつくられます。

その境界位置や各領域の成長量が変われば、最終的な葉の輪郭も大きく変化します。葉形は縁の切れ込みだけでなく、葉身・葉柄の配分によっても決まります。

同じ種類でも環境によって葉形が変わることがある

植物には、同じ遺伝子型でも環境に応じて形を変える表現型可塑性があります。

葉は光、温度、水分、湿度など外界と直接接する器官なので、環境条件による形態変化が特に現れやすい器官です。

海外のレビューでは、同じ遺伝子型でも光の強さや質、温度、湿度、水分条件によって葉面積、葉厚、葉縁の切れ込み、葉柄の伸長などが変化することが整理されています。

光環境は葉の大きさや角度を変える

弱い光の下では、少ない光をより多く受け取るため、葉身面積を大きくしたり、葉を水平に近づけたりする反応が見られることがあります。

反対に、強い光の下では厚い葉をつくったり、葉面積を小さくしたり、葉を立て気味にしたりすることがあります。

また周囲の植物による日陰では、赤色光と遠赤色光の比が変化し、避陰反応として葉柄が伸びたり葉が上向きになったりします。

ただし、日向葉と日陰葉の詳細な違いは別の主題であり、ここでは環境が葉形形成のプログラムを変化させる代表例として理解するとよいでしょう。

乾燥条件では葉面積を小さくすることがある

葉が大きいほど光を受けやすい一方、蒸散する面積も大きくなります。

水分が不足する環境では、植物は葉の成長を抑え、葉面積を小さくすることがあります。これによって水分損失を抑えやすくなります。

乾燥条件では、葉を小さくするだけでなく、クチクラを厚くする、葉を厚くする、気孔密度や配置を変えるなど複数の形質が組み合わされます。

葉形は、光を受ける利益と水を失うコストのバランスによっても変わります。

水中と空気中でまったく違う葉をつくる植物もある

環境による葉形変化の極端な例が異形葉です。

水生・湿生植物の中には、水中では細長く細裂した葉をつくり、空気中では幅広い葉をつくるものがあります。

日本の研究では、Ludwigia arcuataのような水生植物で、エチレンなどの植物ホルモンが細胞分裂面の方向を変え、水中葉と気中葉の形の違いに関わることが示されています。

同じ個体が環境だけで大きく異なる葉形をつくれることは、葉形が遺伝子だけで固定されているわけではないことをよく示しています。

植物ホルモンは環境情報と葉の発生をつなぐ

環境が変わっても、それだけで細胞の形が直接変わるわけではありません。光、温度、水分などの情報は、植物ホルモンや遺伝子発現の変化へ変換され、その結果として細胞分裂や伸長が変化します。

オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシシン酸、エチレンなどは、葉の形成や環境応答に関わります。

たとえばサイトカイニンは細胞分裂や葉縁の形態形成能力の維持に関係し、アブシシン酸は乾燥や水中・陸上環境の切り替えに伴う葉形変化へ関わる例があります。

葉の形は「光をたくさん受ければよい」だけでは決まらない

広い葉は光を多く受けられますが、風を強く受け、蒸散面積も大きくなります。

細い葉や切れ込みの深い葉では、葉面の境界層が薄くなりやすく、熱を逃がしやすい場合があります。また、強風を受ける面積を小さくできる場合もあります。

一方、寒冷地や日陰では、大きな葉が限られた光を受け取るうえで有利になることがあります。

葉形は一つの機能だけを最大化した結果ではなく、光獲得、水分保持、温度調節、力学的強度など複数の要求の折り合いとして進化してきました。

種類ごとの違いは進化の中で固定されてきた

植物の系統ごとに、葉の発生を調節する遺伝子の発現場所やタイミングが少しずつ変化してきました。

KNOXやCUC、オーキシン輸送系など共通の発生部品を使いながら、その働かせ方を変えることで、単葉、複葉、深裂葉、鋸歯葉など多様な形が生まれたと考えられています。

進化はまったく新しい仕組みを毎回つくるのではなく、既存の発生ネットワークの使う場所や時間を変えることで、多様な葉形を生み出してきました。

同じ植物でも若い時期と成長後で葉形が違うことがある

植物によっては、幼植物の葉と成植物の葉で形が大きく異なります。

これは、成長段階に応じて葉の発生プログラムそのものが変化するためです。葉縁の切れ込み、葉身の広がり、葉柄の長さなどが、植物の齢や発育段階によって変わることがあります。

そのため、一株の中で葉形が違っていても、必ずしも環境だけが原因とは限りません。植物体の発育段階も重要です。

一枚の葉でも場所ごとに成長速度が違う

葉の先端、中央、基部、縁では、細胞分裂と細胞伸長のタイミングが同じではありません。

多くの葉では、成長が進むにつれて先端側から細胞分裂を終え、基部側ではしばらく分裂が続くという発生勾配があります。

この成長の時間差が葉の長さや幅、葉縁の形に影響します。最終的な葉形は、一枚の葉の各場所がいつまで成長を続けたかという履歴の結果でもあります。

葉の形と葉脈の配置は協調してつくられる

葉が広がるには、その内部へ水や養分を届ける葉脈も同時に形成する必要があります。

オーキシンは葉原基形成だけでなく、葉脈パターンの形成にも重要です。そのため、葉身の成長と葉脈形成は独立ではなく、同じ発生制御の中で協調しています。

葉の形が変われば、水を届ける距離や必要な輸送網も変わります。葉の外形と内部構造は一体として形成されます。

葉の形が違っても基本機能は共通している

丸い葉、細い葉、複葉など形が違っても、多くの葉は光合成、ガス交換、水輸送という共通の役割を持ちます。

違うのは、その役割をどの環境条件でどのように効率化しているかです。

広い葉は受光面積を確保しやすく、細い葉は熱や風への対応に有利な場合があります。複葉や深裂葉では葉全体の面積を保ちながら、風や熱の影響を分散できる場合があります。

葉形の多様性は、共通する機能を異なる構造で実現している例と考えられます。

身近な植物で葉形の違いを観察するポイント

葉形の原因を考えるときは、種類間だけでなく同じ植物の中でも比較するとわかりやすくなります。

  • 丸い葉と細長い葉で長さと幅の比がどう違うか
  • 葉縁が滑らかか、鋸歯や切れ込みがあるか
  • 単葉か複葉か
  • 若い葉と成熟した葉で形が違うか
  • 日なたと日陰で葉の大きさや厚さが違うか
  • 乾燥した場所と湿った場所で葉面積が違うか
  • 一株の上部と下部で葉形が違うか
  • 葉脈の配置が葉の輪郭にどう対応しているか

こうした観察から、葉形が単なる種類の見分け方ではなく、発生プログラムと環境応答の結果としてつくられていることが見えてきます。

まとめ

植物の葉が種類や環境によって違う形になるのは、オーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモン、KNOX・CUCなどの遺伝子群が、葉原基の細胞分裂・細胞伸長・葉縁の成長位置や時間を種類ごとに異なるパターンで調節し、さらに光・温度・水分などの環境情報がその発生プログラムを変化させるためです。

つまり葉の形は、遺伝的に決まった設計だけでも、環境だけでも決まりません。進化の中で形成された発生ネットワークを基盤に、植物が置かれた環境へ応じて形を調整することで、丸い葉、細い葉、切れ込みのある葉、複葉など多様な葉形が生まれます。

参考資料

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