植物の葉を触ってみると、薄く柔らかい葉もあれば、厚く硬い葉もあります。同じ種類でも、明るい場所につく葉と暗い場所につく葉で厚さが違うことがあります。なぜ植物の葉には、厚いものと薄いものがあるのでしょうか。
結論からいうと、葉の厚さは表皮・柵状組織・海綿状組織などを構成する細胞の大きさや層数、細胞分裂と伸長の程度によって決まり、その発生過程が植物の種類ごとに異なるうえ、光の強さ、水分、温度などの環境条件によっても変化するためです。厚い葉は強光や乾燥条件で有利になることがあり、薄い葉は少ない材料で広い受光面積をつくりやすいという利点があります。
葉の厚さは「細胞の積み重なり」で決まる
葉は一枚の膜ではありません。外側には表皮があり、その内側には光合成を行う葉肉組織があります。多くの双子葉植物では、上面側に柵状組織、下面側に海綿状組織が発達します。
葉が厚くなるか薄くなるかは、これらの組織で細胞が何層並ぶか、各細胞がどの程度伸長するか、細胞間隙がどの程度あるかによって変わります。
特に柵状組織の細胞が長く伸びたり、層数が増えたりすると、葉全体は厚くなります。つまり葉厚は一つの組織だけで決まるのではなく、葉の内部構造全体の発達結果として生じます。
葉が成長する途中で厚さが作られる
葉の厚さは、完成した葉にあとから材料が貼り付けられて決まるのではありません。若い葉の発生中に、細胞分裂と細胞伸長が進むことで形成されます。
葉原基では、表側と裏側の性質が分かれ、葉身が横へ広がるのと同時に、内部の葉肉細胞も分化します。細胞が葉面に対して垂直方向へどれだけ伸びるか、何回分裂するかによって厚さが変わります。
このため、同じ葉面積でも、細胞層が多い葉と少ない葉では厚さが異なります。葉厚は、葉の発生プログラムが三次元的に作り出す形質です。
明るい場所では厚い葉ができることがある
同じ植物でも、強い光の下で形成された陽葉は、弱い光の下で形成された陰葉より厚いことがあります。
シロザを用いた日本の研究では、陽葉は陰葉より葉や柵状組織が厚くなることが示されています。また、光強度に応じて柵状組織の発達が変化することも報告されています。
強い光環境では、葉の表面近くで多くの光を受けます。柵状組織を発達させることで、葉内部に多くの葉緑体を配置し、強い光を複数の細胞層で利用できるようになります。
弱い光では薄い葉が有利になる場合がある
日陰では使える光が少ないため、葉を厚くするより、同じ量の炭素や窒素で広い葉面積をつくるほうが受光には有利な場合があります。
薄い葉は一枚あたりの材料投資が小さく、限られた資源で広い面積を展開できます。そのため、弱光条件では薄く広い葉が形成されることがあります。
この違いは「薄い葉は性能が低い」という意味ではありません。暗い場所では、光を多く拾うことが重要なので、薄い葉はその環境に適した構造になり得ます。
葉厚と比葉面積は反対方向に変わりやすい
植物生態学では、葉の性質を表す指標として比葉面積がよく使われます。比葉面積は、葉の乾燥重量あたりにどれだけの葉面積があるかを示す値です。
一般に、厚く密度の高い葉は同じ重量で広げられる面積が小さくなるため、比葉面積が低くなりやすく、薄い葉は比葉面積が高くなりやすい傾向があります。
海外の多数種を比較した研究でも、葉厚は比葉面積や葉乾物含量と密接に関係することが示されています。葉厚は、植物が資源を「薄く広く使うか」「厚く長く使うか」という戦略の一部です。
厚い葉は一枚に多くの組織を投資している
厚い葉には、単位面積あたりに多くの細胞や細胞壁、葉緑体、維管束周辺組織などが含まれます。
そのため、厚い葉を一枚つくるには多くの炭素や養分が必要です。一方で、一度つくった葉を長く使える種類では、この大きな初期投資を長い葉寿命で回収できます。
常緑樹や乾燥地植物に厚く丈夫な葉が多いのは、葉を長期間維持する資源保全型の戦略と関係することがあります。
乾燥環境では厚い葉が有利になることがある
乾燥地や水不足条件では、葉が厚くなる植物があります。
厚い葉では、単位面積あたりに多くの細胞や水分を保持できる場合があります。また、葉面積を小さくして厚みを増すことで、外気にさらす面積に対して内部組織の量を大きくできます。
近年の植物機能形質研究でも、乾燥条件では葉厚の増加や比葉面積の低下がみられることがあり、水分保持や長期的な資源保全と関連づけられています。
ただし、すべての植物が乾燥すると必ず厚葉になるわけではありません。葉を小さくする、落葉する、葉を巻くなど、別の方法で乾燥に対応する種類もあります。
多肉植物では水をためる組織が葉を厚くする
アロエや一部のベンケイソウ科植物などでは、葉の内部に水を多く蓄える貯水組織があります。
このような植物では、葉の厚さそのものが水の貯蔵容量に関係します。乾燥時に外から水を得られなくても、葉内部の水を利用して代謝を続けられます。
同じ「厚い葉」でも、柵状組織が発達して厚い葉と、貯水組織が大きいため厚い葉では、内部構造と機能が異なります。葉厚は一つの原因だけで生じる形質ではありません。
厚い葉では光が内部まで届く必要がある
葉が厚くなると、表面から深い位置にある葉肉細胞までの距離が長くなります。
青色や赤色の光はクロロフィルに強く吸収されるため、葉の表面近くで多くが吸収されます。一方、緑色光は比較的深くまで届きやすく、厚い葉の内部の葉緑体にも光を供給できます。
葉の内部では細胞壁や細胞間隙で光が散乱するため、単純に表面から直線的に光が進むわけではありません。厚い葉では、葉内部の光環境に合わせて葉緑体や組織構造が配置されています。
厚さが増えるとCO₂の移動距離も長くなる
葉が厚ければ光合成細胞を多く配置できますが、二酸化炭素が気孔から葉緑体まで移動する距離も長くなる可能性があります。
そのため、葉を厚くするだけで無条件に光合成能力が上がるわけではありません。細胞間隙の配置、葉肉細胞表面積、気孔密度、葉緑体の位置なども重要です。
葉厚は、受光量を増やす利点と、ガス拡散距離や材料コストが増える不利の両方を持つ形質です。
厚い葉は強い光から光合成装置を守ることにも関係する
強い日射の下では、葉が吸収する光エネルギーが光合成で使える量を超えることがあります。
厚い葉では複数の葉肉層に光を分散できるため、表面近くの葉緑体だけに光が集中しすぎるのを和らげられる場合があります。
さらに、カロテノイドや熱放散、葉緑体の位置変化などと組み合わせて、過剰光による光阻害を避けます。厚い葉は、強光環境での光利用と保護のバランスに関係します。
葉の厚さは温度や標高とも関係することがある
葉厚は光と水分だけで決まるわけではありません。温度、風、標高、土壌養分なども葉の形態へ影響します。
広域の植物形質をまとめた研究では、降水量、土壌水分、気温、日照時間など複数の環境要因が葉厚や比葉面積に関係することが示されています。
高山や寒冷地では、低温・強風・短い生育期間など複数の要因が同時に作用するため、葉厚の違いを一つの環境要因だけで説明できない場合があります。
同じ植物でも樹冠の上と下で葉厚が違うことがある
樹木では、同じ一本の木でも樹冠上部の葉と下部の葉で厚さが異なることがあります。
上部は強い光、風、大きな蒸気圧差を受けやすく、下部は弱光で比較的湿潤です。その結果、上部では厚い葉、下部では薄い葉が形成される例があります。
ブナの研究でも、樹冠位置に伴って葉厚や比葉面積が変化する形態的可塑性が報告されています。
このことは、葉厚が植物種ごとの固定値ではなく、同じ個体の中でも環境に応じて調整される形質であることを示します。
同じ植物でも葉が作られる時期によって厚さが違うことがある
葉の発生中に受けた光、水分、温度などの条件が違えば、最終的な葉厚も変わることがあります。
一度成熟した葉は、若い葉ほど自由に厚さを変えられません。したがって、葉厚はその葉が形成された時期の環境履歴を反映します。
春の弱い光の中で展開した葉と、夏の強い光の中で展開した葉で形態が異なる植物があるのは、この発生段階の環境応答が関係します。
糖の状態も葉厚形成のシグナルになることがある
光環境が葉厚へ影響するとき、光そのものだけでなく、光合成でつくられた糖の量も発生シグナルとして働く可能性があります。
日本の植物生理学研究では、糖の供給が葉厚形成へ与える影響が調べられており、葉が受ける光環境と光合成産物の状態が葉の発達を結びつける可能性が示されています。
植物は単に光の強さだけを測っているのではなく、実際にどれだけ炭素を獲得できているかという代謝状態も使いながら葉の形態を調節していると考えられます。
葉が厚いほど必ず光合成能力が高いわけではない
厚い葉には多くの葉肉細胞を配置できるため、単位面積あたりの光合成能力が高い場合があります。
しかし、厚い葉をつくるには多くの資源が必要で、二酸化炭素の拡散距離も長くなる可能性があります。さらに、日陰では厚い葉に投資しても十分な光が得られず、投資を回収できないことがあります。
そのため、植物にとって重要なのは「できるだけ厚い葉」をつくることではなく、その環境に対して適切な厚さをつくることです。
薄い葉にも明確な利点がある
薄い葉は、少ない乾物で大きな面積を展開できます。
成長の速い一年草や、光の限られた場所に生える植物では、短期間で多くの葉面積を確保することが重要です。薄い葉を多数つくれば、少ない資源で広い受光面を得られます。
一方で、薄い葉は物理的な損傷や乾燥に弱く、寿命が短い傾向を持つことがあります。薄葉と厚葉は、どちらが優れているというより、資源獲得と資源保存の異なる戦略です。
常緑樹に厚い葉が多い理由
常緑樹は一枚の葉を一年以上使うものが多くあります。
葉を長期間維持するには、乾燥、寒さ、強光、病害、物理的損傷などに耐える必要があります。そのため、丈夫な細胞壁や厚い葉、低い比葉面積など、耐久性の高い形質を持つ種類が多く見られます。
葉をつくる初期コストは高くても、長期間光合成に使えれば、その投資を回収できます。厚葉は長寿命戦略と結びつくことがあります。
葉厚は種類差と環境応答の両方で決まる
同じ場所に生えていても、植物種が違えば葉の厚さは異なります。これは、遺伝的に決まった発生プログラムや生活史戦略が異なるためです。
さらに同じ種類の中でも、光・水分・温度などの違いによって葉厚が変化します。
したがって葉厚を理解するときは、「この植物は厚葉種だから」と種類だけで説明するのでも、「日当たりが強いから」と環境だけで説明するのでも不十分です。遺伝的な基盤と環境への可塑性の両方を見る必要があります。
身近な植物で葉の厚さを観察するポイント
葉厚は、種類や生育場所を比べると違いを観察しやすい形質です。
- 同じ植物の外側の葉と内側の葉で厚さが違うか
- 日当たりのよい場所と日陰で葉の感触が違うか
- 常緑樹と落葉樹で葉の硬さ・厚さが違うか
- 乾燥した場所の植物に厚い葉や多肉質の葉が多いか
- 若い葉と成熟葉で厚さが変わるか
- 厚い葉ほど葉面積が小さい傾向があるか
- 葉を光に透かしたとき、薄い葉と厚い葉で光の通り方が違うか
葉を傷つけずに観察するなら、触った感触、光への透け方、葉の大きさを比べるだけでも違いがわかります。正確な測定では、葉の断面を顕微鏡で観察し、表皮・柵状組織・海綿状組織の厚さを測ります。
まとめ
植物の葉に厚いものと薄いものがあるのは、葉の発生中に表皮・柵状組織・海綿状組織の細胞層数や細胞伸長が異なるよう調節され、その発生プログラムが種類ごとに違ううえ、光・水分・温度などの環境条件によっても変化するためです。
厚い葉は強光、乾燥、長寿命な葉の維持に有利になる場合があり、薄い葉は少ない材料で広い受光面積を確保するのに有利です。葉厚は単なる見た目の違いではなく、光を得ること、水を守ること、葉をどれだけ長く使うかという植物の資源利用戦略を反映する重要な形質なのです。
参考資料
- 矢野覚士・寺島一郎「シロザ Chenopodium album L. の陽葉・陰葉の発生過程」日本植物生理学会年会要旨集
- 矢野覚士・塚谷裕一「糖が葉の厚さに与える影響」日本植物生理学会年会講演要旨集
- Vile D et al. Specific Leaf Area and Dry Matter Content Estimate Thickness in Laminar Leaves
- Plant Architectural Structure and Leaf Trait Responses to Environmental Change: A Meta-Analysis

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