なぜ同じ地震でもマグニチュードの値が異なることがあるのか?

地震のマグニチュードに場所や条件による違いがあるように見えるのは、地震そのものの物理的な規模が場所で変わるからではなく、使うマグニチュードの種類、観測する地震波、観測距離、震源の深さ、地震のタイプなどによって計算方法や得られる値が異なるからです。

一つの地震には一つの物理的な規模があります。しかし「マグニチュード」と呼ばれる指標には複数の種類があり、それぞれが地震の別の特徴を使って規模を推定しています。そのため、同じ地震でも気象庁マグニチュード(Mj)とモーメントマグニチュード(Mw)などで値が少し異なることがあります。

目次

マグニチュードは一種類ではない

気象庁は、マグニチュードには、どの地震計を使うか、地震波形のどの部分を使うか、どのような補正式を使うかによって非常に多くの種類が存在すると説明しています。

代表的なものには次のようなものがあります。

  • 気象庁マグニチュード(Mj):日本で地震情報に広く用いられる
  • モーメントマグニチュード(Mw):断層運動の物理的規模をもとにする
  • ローカルマグニチュード(ML):比較的近距離の地震波振幅をもとにする
  • 実体波マグニチュード(mb):主にP波などの実体波を使う
  • 表面波マグニチュード(Ms):比較的長い周期の表面波を使う

USGS(米国地質調査所)も、地震の規模や観測距離に応じて複数のマグニチュード尺度を使い分けています。

つまり、「マグニチュード」という一つの名前の中に、測り方の異なる複数の物差しがあるのです。

なぜ同じ地震でもマグニチュードが少し違うのか

同じ地震を測っているのに値が違うのは、それぞれの尺度が見ている地震波の特徴が異なるためです。

地震は断層がずれている間、さまざまな周期の地震波を出します。短周期の波が強い地震もあれば、長周期の成分が大きい地震もあります。

あるマグニチュードは短周期の最大振幅を重視し、別のマグニチュードは長周期の波形や断層運動全体を重視します。そのため、地震波の性質が異なる地震では、同じ物理的規模でも尺度ごとの値に差が出ることがあります。

これは「どちらかが必ず間違っている」という意味ではありません。それぞれが異なる方法で地震の大きさを推定しているためです。

気象庁マグニチュードとモーメントマグニチュードは何が違うのか

日本で特に重要なのが、気象庁マグニチュード(Mj)とモーメントマグニチュード(Mw)の違いです。

気象庁によると、Mjは地震計で観測した速度波形または変位波形の最大振幅に、距離による減衰などの補正を加えて求めます。比較的すばやく計算できるため、地震発生直後の情報に向いています。

一方、Mwは地震波形全体を解析し、断層運動の物理量である地震モーメントから求めます。

地震モーメントは、概念的には次の3つの要素で決まります。

  • 断層がずれた面積
  • 断層がどれくらいずれたか
  • 周囲の岩石がどれくらい硬いか

USGSでは、地震モーメントを「岩石の剛性×断層面積×すべり量」として表しています。Mwはこの地震モーメントを対数変換した値です。

大きな地震では測り方の違いが目立ちやすい

短周期の地震波の振幅を中心に求めるマグニチュードには、非常に大きな地震になると数値が頭打ちになりやすいものがあります。これを飽和といいます。

たとえばUSGSによると、実体波マグニチュードmbは大きな地震ではおよそM6.5以上で飽和しやすく、表面波マグニチュードMsも非常に大きな地震では飽和します。

巨大地震では断層が長時間・広範囲に動き、長周期の波を大量に放出します。特定の短い周期の振幅だけを見る尺度では、その巨大さを十分に表せない場合があります。

そのため、非常に大きな地震では、断層運動全体を反映しやすく飽和しにくいMwが重視されます。

震源の深さによって補正方法が変わることがある

地震波は、震源から観測点まで伝わる間に弱くなります。その弱まり方は距離だけでなく、震源の深さにも影響されます。

そのため、地震波振幅を使うマグニチュードでは、震源距離や深さを考慮する補正が必要になります。

USGSの実体波マグニチュードmbの式でも、観測された波の振幅だけでなく、震央距離と震源深さに応じた補正項が使われます。

日本でも、深い地震に対するマグニチュード計算では深さ依存性を考慮した手法が用いられてきました。

つまり、同じ大きさの波が地震計に記録されたとしても、「どの深さから、どの距離を伝わってきた波なのか」を考慮しなければ地震そのものの規模を比較できません。

観測距離によって適したマグニチュードが違う

マグニチュード尺度には、それぞれ得意な観測距離があります。

USGSのマグニチュード一覧では、ローカルマグニチュードMLは主に地域内の比較的近距離の地震、実体波マグニチュードmbは遠地のP波、表面波マグニチュードMsは遠くまで伝わる表面波を利用するなど、距離範囲が異なります。

これは、地震波の種類によって伝わり方や減衰のしかたが違うためです。

近距離では利用しやすい波が、遠距離では別の波に隠れたり弱くなったりすることがあります。逆に、遠距離で安定して観測できる長周期波が、小さな地震では十分に記録できないこともあります。

そのため、地震の規模や観測距離に合わせて、適したマグニチュード尺度を選ぶ必要があります。

地域によって計算式や補正値が違うことがある

地震波の減衰のしかたは、世界中どこでも完全に同じではありません。

地下の岩石、地殻の厚さ、構造、減衰特性などが地域によって異なるため、同じ地震波でも距離による弱まり方に差があります。

もともとのローカルマグニチュードは、南カリフォルニアの地震と特定の地震計を前提として作られた尺度でした。その後、他地域で使うためには地域の地震波伝播特性や観測機器に合わせた補正が必要になりました。

そのため、各国・各観測機関が同じ「ローカルマグニチュード」という名前を使っていても、細かな計算式や校正条件が異なる場合があります。

気象庁も、マグニチュードには国際的に完全に統一された一つの規格があるわけではなく、さまざまな計算法が存在すると説明しています。

地震のタイプによってMjとMwの関係が違うことがある

マグニチュード尺度の差は、観測地域だけでなく、地震を起こした断層のタイプにも関係することがあります。

2025年の日本地震工学会論文では、1989年から2024年1月までの日本の地震について、気象庁マグニチュードMjと地震モーメントから求めたMwの関係が調べられています。

その研究では、海溝型のプレート境界地震やプレート内地震ではMjとMwがおおむね対応する一方、内陸地殻内地震では両者にほぼ一定の差が見られることが報告されています。

これは、Mjが地震波の振幅を中心にした経験的尺度である一方、Mwは断層運動の物理的な規模を基礎とするためです。地震の震源特性や波の出方が異なると、両尺度の関係にも違いが現れることがあります。

内陸地震でも断層型による差が報告されている

さらに、日本の内陸地震については、横ずれ断層型と縦ずれ断層型などで、各種マグニチュードの関係が異なるという研究もあります。

これは、同じMwでも、短周期地震波をどれくらい強く出すかが断層運動のタイプによって異なる可能性があるためです。

ただし、個々の地震にはばらつきがあり、「横ずれなら必ず何ポイント大きくなる」という単純なルールとして使えるわけではありません。

重要なのは、異なるマグニチュード尺度は同じ物理量を完全に同じ方法で測っているわけではないという点です。

速報値と後から発表される値が違うのはなぜか

地震直後に発表されたマグニチュードが、その後変更されることがあります。

これは、地震そのものの大きさが後から変化したわけではありません。

地震発生直後は、まだ利用できる観測点や波形データが少ないため、まず限られた情報から速報値を求めます。その後、時間がたつと遠くの観測点にも地震波が到達し、より多くの波形を解析できるようになります。

気象庁によると、2011年東北地方太平洋沖地震では、マグニチュードは速報値7.9(Mj)から8.4(Mj)、8.8(Mw)、最終的に9.0(Mw)へ順次更新されました。

このような更新は、観測データが増え、巨大地震に適したMwを解析できるようになった結果です。

観測点が少ないとマグニチュードの精度も変わる

マグニチュードは複数の地震観測点の記録から求めるため、観測網の密度や配置も精度に影響します。

震源の近くに観測点が多ければ、距離や方向の異なる多数の波形を利用できます。一方、海域の地震などで周囲に観測点が少ないと、利用できるデータが偏ることがあります。

また、非常に大きな地震では近くの地震計の記録が振り切れたり、小さな地震では遠くの観測点で波が十分に検出できなかったりすることもあります。

そのため、どの観測点のデータを採用できるかによって、速報段階のマグニチュードには一定の不確実性があります。

小さな地震と大きな地震では同じ尺度が最適とは限らない

非常に小さな地震では、断層運動全体を詳しく解析してMwを求めるのが難しいことがあります。地震波が小さく、長周期成分を十分な精度で測りにくいためです。

一方、巨大地震では短周期振幅を中心とした尺度が飽和する可能性があります。

そのため、USGSでは規模や距離に応じてMww、Mwr、ML、mbなど複数の方式を使い分けています。気象庁でも、小さな地震まで過去と一貫して比較しやすいMjと、大地震にも適したMwの長所を使い分けています。

つまり、「すべての地震を一つの計算法だけで最も正確に測る」ことは難しく、条件に応じて適した尺度を選ぶ必要があります。

マグニチュードの違いと震度の違いは別の話

ここで、マグニチュードの尺度による違いと、震度の地域差を混同しないことが大切です。

一つの地震のマグニチュードは、地震そのものの規模を表す代表値です。一方、震度は地点ごとの揺れの強さなので、場所によって大きく変わります。

同じ地震について東京と大阪で別々の「マグニチュード」があるわけではありません。東京と大阪で違うのは主に震度です。

ただし、異なる観測機関や異なる尺度が同じ地震を計算した場合には、Mj6.8、Mw6.6のようにマグニチュード値そのものに少し差が出ることがあります。

したがって、「場所によるマグニチュード差」という場合には、地震そのものの規模が地点ごとに変わるのではなく、地域特性や観測条件を反映した計算法の違いとして理解するのが正確です。

異なる時代の地震を比べるときにも注意が必要

古い地震では現在のような高性能の広帯域地震計がありませんでした。そのため、過去の地震のマグニチュードは、当時の地震計記録や被害分布、津波記録などから推定されている場合があります。

観測機器や解析方法は時代とともに変化しているため、長期間の地震カタログを比較するときには、異なるマグニチュード尺度を換算してそろえる必要が生じます。

USGSの地震ハザード研究でも、地震カタログに複数種類のマグニチュードが混在すると評価に偏りが生じるため、統一した尺度へ変換する作業が行われています。

ただし、その換算式自体にも不確実性があります。異なる時代・地域・尺度のマグニチュードを比較するときには、数字だけを機械的に比べないことが重要です。

まとめ

地震のマグニチュードに場所や条件による違いがあるように見えるのは、一つの地震に複数の物理的規模があるからではありません。

マグニチュードには多くの尺度があり、使う地震波、観測距離、震源の深さ、地域の減衰特性、地震の規模、断層タイプなどによって適した計算方法が異なります。そのため、同じ地震でもMj、Mw、ML、mbなどで少し違う値が得られることがあります。

また、大地震では一部の尺度が飽和しやすく、速報段階では観測データが少ないため、後からより適切な値へ更新されることもあります。

つまりマグニチュードの「違い」は、地震の大きさが観測地点ごとに変わるのではなく、「どの地震波を、どの距離・深さ・地域条件で、どの尺度を使って測るか」の違いによって生まれるものです。

参考資料

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