植物の葉は、いつも同じように光へ向くわけではありません。ヒマワリの若い茎葉のように太陽の動きを追うもの、インゲンマメのように強い光を受けると葉面を光線と平行に近づけて受光を減らすもの、そして大きく向きを変えず固定的な葉を保つ植物もあります。なぜ植物によって、葉が光を追うもの・強光を避けるもの・ほとんど動かないものがあるのでしょうか。
結論からいうと、葉を動かす利益とコストが、植物種・光強度・水分状態・葉の構造・動かす器官の有無によって違うためです。弱光では葉を光へ向けて受光を増やすことが有利ですが、強光・高温・乾燥では光を避けて葉温や水分損失を抑えるほうが有利になることがあります。また、葉枕を持つ植物は膨圧変化で比較的速く葉角を変えられますが、葉枕を持たない植物では成長によるゆっくりした屈光性が中心になります。
「光を追う葉」と「光を避ける葉」は目的が逆
葉が太陽や光源へ正対するように向く運動は、正向日性やdiaheliotropismと呼ばれます。
この向き方では、葉面が光線に対して垂直に近くなり、受け取る光の量が増えます。弱光や朝夕のように光が限られる条件では、光合成に使える光を増やす利点があります。
一方、葉面を光線と平行に近づけて直射光を避ける運動はparaheliotropismと呼ばれます。こちらは受光量を減らし、過剰光・高温・水分損失を抑える方向に働きます。
同じ植物でも光の強さで向き方が変わることがある
葉の向きは、植物種ごとに一つに固定されているとは限りません。
弱い光では葉面を光へ向けて受光を増やし、強すぎる光では逆に葉を立てて受光を減らす植物があります。
海外の高光適応レビューでも、マメ科植物などでparaheliotropismが過剰光による光阻害を避ける仕組みとして働くことが整理されています。
つまり、葉角は「光があるかないか」だけでなく、「今の光が不足しているか、過剰か」という状態に応じて変わります。
インゲンマメは葉枕を使って葉角を素早く変えられる
インゲンマメなどのマメ科植物では、葉身の基部に葉枕という運動器官があります。
葉枕の運動細胞がK+などのイオンを出し入れすると、浸透圧が変わり、水が移動して膨圧が変化します。
葉枕の左右や上下で膨圧差ができると、葉柄や小葉の角度が変わります。
日本の研究では、インゲンマメの青色光依存的な葉運動にフォトトロピンが関与し、葉枕が重要な役割を持つことが示されています。
葉枕運動は成長による屈光性より可逆的
葉枕による運動では、細胞を新しく伸ばして器官を曲げる必要がありません。
膨圧を変えることで、葉を比較的短時間に動かし、条件が変われば元の角度へ戻すことができます。
一方、成長による屈光性は、器官の左右で細胞伸長に差をつくることで曲がるため、よりゆっくりで、変化が成長形として残りやすくなります。
ヒマワリの若い茎葉は成長運動で太陽を追う
ヒマワリは「花が一日中太陽を追う植物」と説明されることがありますが、実際には成長段階によって挙動が違います。
若い成長中のヒマワリでは、茎の伸長差と概日時計が関係して、上部の茎と葉が東から西へ日周的に向きを変え、夜間に東へ戻ります。
海外のレビューでは、この太陽追跡は成長中の個体で見られ、開花期になると茎頂の追跡運動は止まり、花頭は主に東向きで固定されることが整理されています。
つまり、同じ植物でも葉齢・成長段階によって「よく動く時期」と「動かなくなる時期」があります。
光を追うと光合成量を増やせることがある
葉を太陽へ正対させると、特に朝夕の斜めから来る光を多く受けられます。
ヒマワリなどの研究では、太陽追跡によって一日の受光量が増え、光合成上の利益が生じる可能性が示されています。
ただし、正午の強光条件では、常に光へ正対することが有利とは限りません。過剰光や高葉温の危険があるため、植物によっては強光回避型の葉運動が有利になります。
強光を避ける葉運動は光阻害を抑える
強い直射光を受けると、光化学系が処理できる以上の光エネルギーが葉へ入ります。
過剰な励起エネルギーは活性酸素の発生や光阻害につながります。
そこでparaheliotropismを行う植物では、葉面を光線に平行に近づけ、受光面積を小さくします。
これにより、葉へ入る光エネルギーそのものを減らし、光化学系への負担を軽くできます。
強光回避は葉温を下げる意味もある
直射日光を多く受けるほど、葉は多くの放射エネルギーを吸収します。
水が十分なら蒸散による気化冷却で葉温を下げられますが、乾燥時には気孔が閉じやすく、蒸散冷却が低下します。
このような条件で葉を立てて直射光を減らせば、葉温上昇を抑えられます。
海外の高温ストレス研究でも、葉を光線と平行に近づけるparaheliotropismは熱負荷を減らす適応の一つとして扱われています。
水不足になると強光回避が強まる植物がある
インゲンマメ属の研究では、paraheliotropicな葉運動が高光、高温、乾燥と関連することが示されています。
土壌水分が不足すると、葉温を下げる蒸散能力が小さくなるため、葉を強光から逃がす価値が高まります。
日本のインゲンマメ研究でも、水分ストレスと葉の傾斜運動の関係が調べられ、葉面への水散布による葉温変化が光忌避運動に影響することが示されています。
光を追うか避けるかは光合成だけで決まらない
葉角には、光合成による炭素獲得だけでなく、水利用、葉温、光阻害、風、葉の寿命など複数の要因が関わります。
光を多く受ければ光合成には有利ですが、同時に葉温上昇や蒸散増加のコストが生じます。
そのため、光が少ないときには受光を増やし、光と熱が過剰なときには受光を減らすという切り替えが有利になる場合があります。
植物によって「動かす装置」の有無が違う
葉を素早く動かすには、葉枕のような専門化した運動器官が必要です。
マメ科では葉枕がよく発達していますが、すべての植物が葉枕を持つわけではありません。
葉枕を持たない植物では、葉柄や茎の成長差、葉柄の形、固定的な葉角によって光環境へ対応します。
この解剖学的な違いが、「大きく動く植物」と「ほとんど動かない植物」の差を生みます。
動かない葉でも固定角度そのものが適応になる
葉が日中ほとんど動かなくても、光環境へ適応していないわけではありません。
例えば、強光環境の植物では、葉を最初から立ち気味に配置することで正午の直射光を減らせます。
一方、日陰環境では葉を水平に近く広げ、弱い光を受けやすくすることがあります。
つまり、可逆的に動く代わりに、発生時に最適な葉角を作る戦略もあります。
葉が厚く丈夫だと大きく動かしにくい場合がある
厚く重い葉や、硬い葉柄を持つ葉は、大きく頻繁に角度を変えるために必要な力も大きくなります。
一方、薄く軽い小葉や柔軟な葉柄では、比較的小さな膨圧変化でも角度を変えやすくなります。
そのため、葉の大きさ・厚さ・葉柄構造も、葉運動の速さや範囲へ影響します。
葉齢によって運動能力が変わる
若い葉や茎では成長が活発なため、屈光性によって方向を変えやすくなります。
成熟して伸長が終わった器官では、成長差による屈曲は起こりにくくなります。
一方、葉枕を持つ植物では成熟葉でも膨圧運動を続けられるため、成長終了後も日中の葉角調節が可能です。
概日時計も葉の向きを調節する
太陽追跡は、その瞬間の光だけに反応しているとは限りません。
ヒマワリのように、夜間に東方向へ戻る運動には概日時計が関わります。
概日時計によって翌朝の太陽位置を先取りするように姿勢を戻せば、朝から効率よく光を受けることができます。
植物の葉運動は、外部光刺激と内部時計を組み合わせた制御になることがあります。
強光回避と葉巻きは似た役割を持つことがある
イネ科植物などでは、葉全体の向きを大きく変える代わりに、葉身を巻くことで受光面積を減らすことがあります。
葉巻きは光を受ける面積を小さくし、同時に蒸散面積や風との交換も変えます。
つまり、強光・乾燥への対応には、葉角運動だけでなく葉身形状を変える方法もあります。
同じ「光への向き」でも分子機構は一つではない
成長による屈光性では、フォトトロピンが青色光方向を感知し、NPH3/RPT2やオーキシン輸送系を介して左右の細胞伸長差を作ります。
一方、葉枕運動では、光受容後に運動細胞のイオン輸送と膨圧変化が起こります。
さらに、概日時計や水分ストレス、温度シグナルも葉角へ影響します。
同じ「葉が向きを変える」現象でも、成長運動と膨圧運動では仕組みが異なります。
ほとんど動かない植物にも利点がある
可逆的な葉運動には、運動器官を作り、イオン輸送を繰り返し制御するコストがあります。
また、葉がすでに安定した光環境へ適した角度に配置されているなら、頻繁に動かす利益は小さくなります。
森林下層のように太陽の直達光が少ない場所や、葉冠全体で光を分散できる植物では、個々の葉を大きく動かさない戦略でも十分に機能します。
光環境が不安定な場所ほど葉運動の利益が大きいことがある
一日の中で日射方向や強度が大きく変わる開放環境では、葉角を変えられることが受光調節に役立ちます。
一方、林床の散乱光のように方向性が弱い光では、特定方向を追う利益が小さくなります。
植物が生育する環境の光の方向性と変動幅も、葉運動の進化的な価値へ影響します。
「光へ向く理由」と「向き方が違う理由」は別の問い
植物の葉が光方向を向く基本理由を考えるときは、屈光性や葉枕運動、光捕集と強光回避が中心になります。
また、光方向感知の分子機構を考えるときは、フォトトロピンやオーキシン輸送が重要です。
一方、本記事で扱っているのは、植物によって光を追う・強光を避ける・ほとんど動かないという違いがなぜ生じるかという比較の問いです。
身近な植物で葉の向きの違いを観察するポイント
- 朝・昼・夕方で葉面の向きが変わる植物があるか
- 真昼の強光で葉が立ち気味になるか
- 水不足時に葉角が変わるか
- 葉柄の根元に葉枕のような膨らみがあるか
- 若い茎葉と成熟葉で動き方が違うか
- 鉢を回したあと、数時間〜数日で葉や茎の方向が変わるか
観察するときは、成長によるゆっくりした曲がりと、葉枕による可逆的な日内運動を分けて考えると違いがわかりやすくなります。
まとめ
植物によって葉が光を追うもの・強光を避けるもの・ほとんど動かないものがあるのは、受光量を増やす利益と、過剰光・高温・水分損失を避ける利益のバランスが植物種や環境によって異なり、さらに葉枕などの運動器官の有無や成長段階も違うためです。
弱光では光を追って受光を増やす正向日性が有利になることがあります。強光・高温・乾燥では、葉を光線と平行に近づけるparaheliotropismによって葉温や光阻害を抑えられます。葉枕を持つ植物は膨圧変化で素早く可逆的に葉角を変えられますが、葉枕を持たない植物では成長による屈光性や固定的な葉角が中心になります。
葉の向きの違いは、単なる「光好き・光嫌い」の差ではありません。植物がその環境で、光合成・温度・水分をどうバランスさせるかという戦略の違いが、葉の動き方として表れているのです。
参考資料
- 井上晋一郎ほか「青色光に依存したインゲンマメの葉の運動はフォトトロピンによって制御される」
- 佐藤肇「インゲンマメの葉の調位運動に関する研究:水の葉面散布が葉面傾斜に及ぼす影響」
- Control of Paraheliotropism in Two Phaseolus Species
- Phototropic solar tracking in sunflower plants: an integrative perspective
あわせて読みたい
- なぜ葉の光合成速度はC3・C4・CAMや光・CO2・水分条件によって違うのか?
- なぜ同じ緑色の葉でも種類や環境によって濃さや色合いが違うのか?
- なぜ葉脈の太さ・密度・網目は植物の種類や環境によって違うのか?

コメント