地震の地域差にさらに場所や条件による違いがあるのは、地震の起こり方・地震波の通り道・地表近くの地盤が地域ごとに異なり、しかも地震ごとにその影響の組み合わせが変わるからです。同じマグニチュード、同じくらいの震源距離でも、ある地域では強く揺れ、別の地域では比較的弱くなることがあります。
つまり「この地域はいつも強く揺れる」「震源から同じ距離なら同じ震度になる」とは限りません。地震の地域差は、震源特性・伝播経路・地点地盤という三つの条件が重なって生まれ、その三つの効き方自体にも場所や地震ごとの差があります。
地震の地域差は「震源・経路・地盤」の組み合わせで決まる
地表で観測される地震動は、単純に震源からの距離だけで決まるわけではありません。
地震工学では、強い揺れを考えるときに次の三つを分けて考えることがあります。
- 震源特性:地震の規模、深さ、断層型、破壊の進む方向など
- 伝播経路特性:地震波がどの岩盤や地下構造を通ってきたか
- サイト特性:観測地点の表層地盤や堆積層が揺れをどう変えるか
USGSも、地震動の大きさは震源、伝播経路、地点地盤の影響をそれぞれ受けると整理しています。
このため、地域差を理解するときは「どこで地震が起こりやすいか」だけでなく、同じ地震波が各地域へ届くまでにどう変化するかを見る必要があります。
まず「起こる地震の種類」が地域によって違う
日本では、場所によって起こりやすい地震のタイプが違います。
海溝沿いではプレート境界地震や沈み込むプレート内部の地震が多く、内陸では活断層などによる浅い地殻内地震が起こります。これらは震源の深さ、断層面の大きさ、応力状態、地震波の出し方が同じではありません。
そのため、同じマグニチュードでも、浅い内陸地震では震源近くに非常に強い短周期地震動が集中することがあり、巨大なプレート境界地震では広い地域に長時間の揺れや長周期成分をもたらすことがあります。
日本の強震記録を用いた研究でも、震源特性にはプレート間地震・プレート内地震・内陸地震の間で差が見られることが報告されています。
同じ地域でも地震ごとに揺れ方が変わる
ある地域が過去の地震で強く揺れたからといって、次の地震でも必ず同じように揺れるとは限りません。
地震ごとに震源の位置、深さ、断層の向き、破壊開始点、破壊が進む方向が異なります。そのため、その地域へ向かう地震波の強さや周期構成も変わります。
大きな断層では、破壊が一方向へ進むことで進行方向側に地震波が集中する指向性が現れる場合があります。すると震源から同じ距離にある二地点でも、一方がより強く揺れることがあります。
したがって、地域の揺れやすさは固定した数字ではなく、震源側の条件と組み合わさって変化します。
地震波の「通り道」にも地域差がある
地震波は震源から観測地点まで、均一な岩石の中を進むわけではありません。
地下には、硬い岩盤、柔らかい堆積物、火山地域、高温領域、速度の異なる層などがあります。地震波はそれらを通る途中で反射・屈折・散乱し、少しずつエネルギーを失います。
この減衰のしやすさは地域によって違います。日本の強震記録を分析した研究では、火山フロントを境に、背弧側と前弧側で地震波の減衰特性に差があることが示されています。
USGSによる2011年東北地方太平洋沖地震の強震記録解析でも、高周波地震動は前弧側より背弧側で速く減衰する傾向が報告されています。
つまり、「震源から何km離れているか」が同じでも、地震波がどの地域の地下を通ってきたかによって揺れの強さは変わるのです。
火山地域をまたぐと揺れ方が変わることがある
日本列島のような火山弧では、地下の温度や減衰特性が一様ではありません。
火山フロントより背弧側では、高温の地下構造や火山活動に関連する不均質な領域が広がる場所があります。こうした領域では、特に高周波の地震波が吸収・散乱されやすくなることがあります。
その結果、震源距離だけを見れば同程度でも、前弧側と背弧側で地震動の振幅や周波数成分が異なる場合があります。
この違いは、全国一律の「距離が2倍なら揺れは何分の1」という単純な式だけでは地震動を表しきれない理由の一つです。
表層地盤の違いは近い場所同士にも差を作る
地震波が地表近くまで到達すると、最後に表層地盤の影響を受けます。
気象庁は、地震動は地盤や地形に大きく左右されるため、同じ市町村や地域でも場所によって震度が異なることがあると説明しています。
たとえば、硬い岩盤の上では揺れの増幅が比較的小さい一方、河川が運んだ柔らかい堆積物が厚く積もる沖積低地では、特定の周期の地震動が大きくなることがあります。
そのため、隣接する地域でも、台地と低地、岩盤地と沖積地、自然地盤と埋立地などで揺れに差が出ることがあります。
「地域差」は市町村単位より細かいことがある
地震の地域差というと、県や市町村ごとの違いを思い浮かべやすいですが、実際の地盤は行政界に沿って変わるわけではありません。
同じ市内でも、旧河道、谷底低地、台地、埋立地などが混在していれば、地表の揺れ方は数百m単位で変わる可能性があります。
気象庁も、基本的な地盤状態が異なる場合、震源からの距離がほぼ同じ隣り合う市町村でも震度差が生じるとしています。
つまり「地域差」という言葉は、広い地方同士の違いだけでなく、同じ街の中にある細かな地盤差まで含みます。
平野や盆地では揺れが大きく・長くなることがある
大きな平野や盆地では、硬い地震基盤の上に柔らかい堆積層が厚く積もっています。
こうした構造では、地震波が堆積層で増幅されたり、盆地の端で反射・屈折したりすることで、揺れが大きく、長く続く場合があります。
そのため、震源からかなり離れていても、深い堆積盆地の上にある都市で強い地震動や長周期地震動が観測されることがあります。
一方、同じ距離でも硬い岩盤が地表近くにある地域では、同じ周期成分がそれほど増幅されない場合があります。
同じ平野の中でも増幅のしかたは同じではない
平野や盆地の地下構造も一様ではありません。
堆積層の厚さ、地震基盤の深さ、地下の谷状構造などが場所によって異なるため、増幅されやすい周期も変わります。
ある地点では短い周期の揺れが強くなり、別の地点では1秒前後や数秒の揺れが強くなることがあります。建物は高さや構造によって揺れやすい周期が異なるため、この差は被害の出方にも関係します。
したがって、「柔らかい地盤はすべて同じように危険」という理解では不十分です。どの周期の地震動がどれだけ増幅されるかまで見ると、地域差をより正確に理解できます。
深い地震では「異常震域」が現れることがある
通常は震源に近いほど揺れが強くなる傾向がありますが、深い地震ではその原則から外れることがあります。
気象庁は、深さ100km程度より深い地震では、沈み込むプレートに沿って地震波が伝わりやすいため、震源直上よりも遠く離れた場所で強く揺れる異常震域が現れることがあると説明しています。
これは、沈み込む冷たいプレートの中では地震波が比較的効率よく伝わり、周囲の高温のマントルでは減衰しやすいといった伝播経路の違いが関係しています。
この現象は、地域差が単なる震央距離では説明できない代表例です。
同じマグニチュードでも最大震度が違うのはなぜか
同じ程度のマグニチュードの地震でも、最大震度は同じになりません。
浅い内陸地震が都市直下で起きれば、比較的狭い地域で非常に強い震度になることがあります。一方、同じ程度の規模でも深い地震や沖合の地震では、最大震度が小さくなることがあります。
また、震源近くに柔らかい地盤が広がっていれば、地盤増幅によって強い震度を観測しやすくなります。
つまり最大震度はマグニチュードだけでなく、震源の深さ、断層からの距離、伝播経路、地盤条件の組み合わせによって決まります。
観測網の違いも「見える地域差」に影響する
地震の物理的な地域差とは別に、観測点の密度や配置によって「どこまで細かく差を捉えられるか」も変わります。
観測点が多い地域では、局地的に強く揺れた地点を捉えやすくなります。一方、観測点が少ない地域や海域では、狭い範囲だけで起きた強い揺れを十分に記録できない場合があります。
気象庁が発表する震度は実際の震度計の観測値なので、「市全体がその震度だった」という意味ではありません。観測地点の地盤条件によっても値は変わります。
したがって、異なる地域や異なる時代の「最大震度」を単純に比較するときは、観測体制の違いにも注意が必要です。
地震ハザード評価では地域ごとの補正が必要になる
地震動予測では、世界や日本全国で一つの共通式を使うだけでは十分でない場合があります。
USGSの沈み込み帯地震の地震動モデルでは、日本、台湾、中南米、アラスカ、カスケードなど複数地域の記録を用いながら、地域ごとの減衰特性や堆積層の深さなどを補正する考え方が採用されています。
これは、地震動の地域差が偶然のばらつきだけではなく、地下構造やテクトニクスに由来する系統的な違いを含むためです。
日本の強震観測データでも、震源・伝播経路・サイトを分離して解析することで、それぞれに地域性が存在することが確認されています。
「地震が多い地域」と「強く揺れやすい地域」は同じではない
地震発生数が多い地域ほど、必ず地表の揺れも強いとは限りません。
地震が多いかどうかは、プレート境界や活断層などの震源条件に左右されます。一方、強く揺れるかどうかは、発生した地震の規模・深さに加え、伝播経路と地盤条件にも左右されます。
そのため、地震活動が比較的少ない地域でも、近くで浅い大地震が起きれば強く揺れる可能性があります。また、震源から遠くても堆積盆地などの条件が重なれば、揺れが増幅されることがあります。
防災では、「最近地震が少ないから安全」「過去に強く揺れなかったから次も大丈夫」という判断はできません。
地域差を知るときは何を見ればよいのか
地域ごとの地震リスクを考えるときは、一つの地図や一つの指標だけに頼らないことが大切です。
地震発生の可能性を知るには活断層やプレート境界の情報、揺れやすさを知るには地盤・地形情報、実際の揺れを知るには震度分布や強震記録を見る必要があります。
また、同じ地域でも地震ごとに震源条件が違うため、特定の過去地震一例だけで将来の揺れ方を決めつけることはできません。
「地域差」は固定的な地域ランキングではなく、地震ごとに変わる条件と土地固有の条件が組み合わさった結果と考えるのが適切です。
まとめ
地震の地域差に場所や条件による違いがあるのは、震源特性・伝播経路・地点地盤の三つが一様ではないからです。
プレート間地震、プレート内地震、内陸地震では震源特性が異なります。地震波が通る地下構造にも地域差があり、火山フロントの前弧側・背弧側などで減衰特性が変わることがあります。さらに、表層地盤や堆積盆地の違いによって、同じ地震波でも地表の揺れは増幅・変形されます。
そのため、同じマグニチュード、同じ震源距離でも、地域によって震度・揺れの周期・継続時間が違うことがあります。また、同じ地域でも地震ごとに震源位置や破壊方向が違えば、揺れ方は変わります。
つまり地震の地域差は、「どんな地震が起きたか」「地震波がどこを通ったか」「その場所の地盤がどう応答したか」という条件の組み合わせで決まり、その組み合わせ自体が場所と地震ごとに変化するため、地域差にも違いが生まれるのです。
参考資料
- 気象庁「震度・マグニチュード・地震情報について」
- U.S. Geological Survey「Implications of the Mw9.0 Tohoku-Oki earthquake for ground motion scaling with source, path, and site parameters」
- U.S. Geological Survey「Ground Motion」
- 日本地震工学会論文集「K-NET, KiK-net, JMA震度計観測網による強震動波形を用いた震源・パス・サイト各特性の分離解析」

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