なぜ睡眠の長さや深さは年齢によって変わるのか?

赤ちゃんは一日の多くを眠って過ごしますが、成長すると睡眠時間は短くなり、思春期には夜型になりやすくなります。さらに高齢になると、若い頃より早く眠くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりします。

結論から言うと、睡眠の長さや深さが年齢によって変わるのは、脳の発達と加齢に合わせて、睡眠を調節する仕組み、体内時計、睡眠圧、睡眠段階の割合が変化するからです。

ただし、年齢による変化には大きな個人差があります。また、「年を取れば眠れなくて当然」という意味でもありません。正常な加齢変化と、治療できる睡眠障害は分けて考える必要があります。

目次

睡眠は一生を通して同じ形ではない

睡眠は、起きている時間の残りに起こる単純な休息ではありません。

人の睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠が周期的に入れ替わり、夜の前半と後半でも構成が変わります。さらに、その睡眠構造そのものが年齢によって変化します。

乳幼児期、学童期、思春期、成人期、高齢期では、必要な睡眠時間、眠くなる時刻、深い睡眠の割合、夜中に目覚める頻度などが同じではありません。

そのため「何時間眠るか」だけでなく、「どのような睡眠段階がどれくらい含まれるか」「いつ眠りやすいか」も年齢とともに変わります。

乳幼児は一日の睡眠時間が長い

新生児や乳児は、成人よりはるかに長い時間を眠って過ごします。

この時期は脳や身体の発達が急速に進んでおり、睡眠と覚醒のリズムもまだ成人のように一晩へまとまっていません。昼夜を問わず、短い睡眠と覚醒を何度も繰り返します。

成長とともに、睡眠は夜へまとまり、日中の睡眠回数も減っていきます。

つまり、赤ちゃんの長い睡眠は成人の睡眠を単純に長くしたものではなく、発達段階に応じた別の睡眠パターンです。

新生児ではレム睡眠に相当する状態が多い

睡眠段階の割合も年齢によって大きく異なります。

米国国立心肺血液研究所は、新生児では成人よりレム睡眠が多いことを説明しています。発達初期には、レム睡眠に似た「活動睡眠」が睡眠時間の大きな割合を占めます。

レム睡眠が発達中の脳で多い理由については、神経回路形成や感覚運動系の発達との関連が研究されています。

ただし、レム睡眠が多い理由を一つの機能だけで説明することはできません。発達に伴い、睡眠段階の配分そのものが大きく再編成されます。

幼児期から学童期には睡眠が夜へまとまっていく

乳幼児期を過ぎると、夜間の睡眠が長くまとまり、昼寝の回数は少なくなっていきます。

これは、体内時計の発達や、起きている時間に応じて睡眠圧を調節する仕組みが成熟することと関係します。

昼夜の明暗、食事、活動、家庭や学校の生活時刻なども、睡眠・覚醒リズムを安定させる手がかりになります。

成長に伴って、「いつでも数時間ずつ眠る」形から、「日中に起き、夜にまとまって眠る」形へ移っていくのです。

深いノンレム睡眠は子どもの時期に多い

深いノンレム睡眠であるN3睡眠では、脳波にゆっくりした大きな徐波が多く現れます。

徐波睡眠は小児期に多く、成長とともに減っていきます。米国国立心肺血液研究所も、徐波睡眠は幼児期から小児期に多く、その後、思春期に大きく減少すると説明しています。

この変化には、脳の発達、とくに大脳皮質の成熟や神経回路の再編成が関係すると考えられています。

子どもが大人より「深く眠る」ように見える背景の一つに、この睡眠構造の違いがあります。

思春期になると睡眠時刻が遅くなりやすい

思春期には、必要な睡眠時間だけでなく、眠くなる時刻にも変化が起こります。

多くの若者では、体内時計の時刻が後ろへずれる方向に変化し、夜遅くまで起きていられる一方、朝早く起きることが難しくなります。

ここへ学校の早い始業時刻、夜間の光、スマートフォン利用などが重なると、睡眠時間が不足しやすくなります。

思春期の夜型化は単なる生活態度だけでなく、生物学的な体内時計の変化も関係しています。

成人期には睡眠時間が徐々に短くなる

成人になると、睡眠時間は若年期より少しずつ短くなる傾向があります。

厚生労働省の睡眠情報では、必要な睡眠時間は若いほど長く、高齢になるほど短くなる傾向が示されています。成人後は年齢とともに夜間の実睡眠時間がゆるやかに減少します。

ただし、これはすべての人が同じ速度で短くなるという意味ではありません。

同じ年齢でも、遺伝、活動量、健康状態、季節、生活時刻などによって必要な睡眠時間にはかなり個人差があります。

高齢になると深い睡眠が減りやすい

加齢で特徴的に変化するものの一つが、睡眠の深さです。

高齢者では、若年成人と比べて深いノンレム睡眠である徐波睡眠が減り、浅いN1・N2睡眠の割合が増える傾向があります。

日本老年医学会のレビューでも、加齢に伴って徐波睡眠の割合が低下し、浅い睡眠が増えることが示されています。

そのため高齢者の睡眠は、同じ総睡眠時間でも若い頃より浅く感じられることがあります。

夜中に目が覚める時間も増えやすくなる

年齢が上がると、眠ってから朝まで一度も起きずに眠り続けることが難しくなる傾向があります。

睡眠検査では、高齢者ほど入眠後の覚醒時間が増え、睡眠効率が低下することが報告されています。

浅い睡眠が増えることに加え、尿意、痛み、室温、騒音、呼吸の問題などでも目覚めやすくなります。

ただし、夜中に何度か目が覚めること自体は加齢で増える正常な変化の一部であり、必ずしも不眠症を意味しません。

高齢になると早寝早起きへ変化しやすい

加齢に伴って、睡眠・覚醒の時刻は前へずれる傾向があります。

若い頃より夕方早く眠くなり、朝早く目覚める「朝型」の傾向が強くなります。

日本老年医学会の資料でも、睡眠覚醒リズムが加齢とともに前進することが示されています。

そのため、高齢者が早朝に自然に目覚めることは、睡眠時間が極端に不足していなければ、生理的な体内時計の変化である場合があります。

体内時計のリズムも年齢とともに変化する

睡眠時刻の変化には、脳の視交叉上核を中心とする体内時計が関係しています。

加齢すると、体温、メラトニン、睡眠・覚醒などの概日リズムの振幅が小さくなったり、時刻が前進したりすることが報告されています。

また、高齢になると日中に強い光を浴びる機会が減ることもあります。光は体内時計を外界の昼夜へ合わせる重要な手がかりです。

こうした内因性の変化と生活環境の変化が重なって、睡眠時刻が若い頃と変わっていきます。

睡眠圧のたまり方や下がり方も加齢で変わる可能性がある

睡眠は、体内時計だけでなく睡眠恒常性によっても調整されています。

起きている時間が長いほど睡眠圧が高まり、眠ると下がります。高齢者では、この睡眠圧の強さや徐波活動との関係が若年者と異なる可能性が研究されています。

海外レビューでは、加齢に伴う深い睡眠の減少や睡眠維持の変化に、睡眠恒常性と概日リズムの両方が関係すると整理されています。

ただし、どの変化がどの程度「必要睡眠時間の低下」を示すのか、それとも「深い睡眠を生み出す能力の低下」を示すのかは、現在も研究が続いています。

「高齢になると睡眠が必要なくなる」とは言い切れない

高齢者では実際の睡眠時間が短くなる傾向がありますが、それを「年を取ると睡眠が不要になる」と単純に解釈することはできません。

研究では、加齢によって睡眠必要量そのものが少し減る可能性と、深く連続した睡眠を維持する能力が低下する可能性の両方が議論されています。

また、高齢者でも十分な睡眠は認知機能、気分、代謝、心血管系などの健康維持に重要です。

「若い人ほど眠らなくてもよい」「高齢者は短時間睡眠で問題ない」と年齢だけで決めることは適切ではありません。

高齢者で昼寝が増えることもある

夜間睡眠が浅く短くなったり、朝早く目覚めたりすると、日中に眠気を感じやすくなる人もいます。

退職後に生活時刻の制約が少なくなることや、日中の活動量が減ることも昼寝の増加へ影響します。

短い昼寝は日中の眠気を軽減することがありますが、夕方以降に長時間眠ると夜の睡眠圧が下がり、さらに夜眠りにくくなることがあります。

年齢による睡眠変化を考えるときには、夜だけでなく24時間全体の睡眠・覚醒パターンを見ることが大切です。

年齢による変化と不眠症は同じではない

高齢になると睡眠が浅くなり、中途覚醒や早朝覚醒が増えます。

しかし、これらがあるだけで不眠症とは診断されません。不眠症では、眠れない状態が続くだけでなく、日中の疲労、集中困難、気分の問題など生活上の支障が伴います。

日本老年医学会も、高齢者に生理的な睡眠変化があることを踏まえ、それをすべて病的な不眠として扱わないことが重要だとしています。

年齢相応の変化と、治療が必要な睡眠障害を区別することが大切です。

一方で睡眠障害そのものは高齢者で増えやすい

正常な加齢変化とは別に、睡眠時無呼吸、むずむず脚症候群、周期性四肢運動、レム睡眠行動障害などは高齢になるほど増える傾向があります。

痛み、夜間頻尿、心肺疾患、神経疾患、うつ病なども睡眠を妨げることがあります。

さらに、複数の薬を使用する機会が増えることで、薬剤の副作用が睡眠・覚醒へ影響することもあります。

そのため「年齢のせい」と決めつけると、治療可能な原因を見逃す可能性があります。

睡眠時間が短くても日中に問題がなければ年齢相応の場合がある

高齢になると、若い頃と同じ8時間を眠ろうとしても、途中で目が覚めてしまうことがあります。

厚生労働省の情報でも、必要睡眠時間は加齢とともに短くなる傾向があり、高齢者では若年成人ほど長い睡眠を必要としない場合があります。

そのため、6時間前後の睡眠でも日中に強い眠気がなく、活動できている人が「8時間眠れない」ことだけを問題にする必要はない場合があります。

平均値ではなく、実際の日中機能と休養感を見ることが重要です。

長く寝床にいるほどよく眠れるとは限らない

高齢者では、実際に必要な睡眠時間より長く寝床で過ごすことで、かえって睡眠が途切れやすくなることがあります。

たとえば6時間程度しか眠れない人が9時間寝床にいれば、残りの時間は眠れずに過ごすことになります。

その結果、「夜中に何度も目が覚めた」「長く布団にいるのに眠れない」という印象が強まることがあります。

自分に必要な睡眠時間に合わせ、寝床時間を必要以上に長くしないことは、年齢に応じた睡眠を考えるうえで重要です。

年齢だけでなく個人差や生活条件も大きい

睡眠の加齢変化には平均的な傾向がありますが、同じ70歳でも睡眠の形は人によってかなり違います。

遺伝、性別、運動量、光環境、仕事、病気、薬、ストレス、飲酒、カフェインなどが睡眠へ影響します。

海外の加齢睡眠レビューでも、年齢に関連した変化には大きな個人差があることが強調されています。

そのため「この年齢なら必ず何時間」「この年齢なら深い睡眠はこれだけ」と個人へそのまま当てはめることはできません。

年齢に合った睡眠を見るには夜だけでなく日中も確認する

睡眠が年齢に合っているかを判断するとき、夜の睡眠時間だけを見るのは不十分です。

朝に休養感があるか、日中に強い眠気がないか、活動を続けられるか、休日だけ極端に長く眠っていないかなどを合わせて考えます。

高齢者では早寝早起きや短い睡眠が年齢相応の場合がありますが、それで日中に強い眠気や疲労があるなら別の原因を検討する必要があります。

「何時間眠ったか」より、「その睡眠で日中を無理なく過ごせているか」が重要です。

強い眠気や急な睡眠変化がある場合は年齢のせいにしない

以前はよく眠れていたのに急に眠れなくなった、夜に何度も息が止まる、大きないびきがある、昼間に耐えがたい眠気がある場合には、正常な加齢だけでは説明できないことがあります。

また、夢の内容に合わせて激しく動く、脚の不快感で眠れない、気分の落ち込みが強いなどの症状も、別の睡眠・心身の問題を示すことがあります。

こうした状態が続いて日常生活に支障がある場合は、自己判断で「年だから仕方ない」とせず、医療機関へ相談することが大切です。

まとめ

睡眠の長さや深さが年齢によって変わるのは、脳の発達と加齢に伴って、睡眠段階の割合、睡眠圧、体内時計、睡眠を維持する能力が変化するためです。

乳幼児では睡眠時間が長く、レム睡眠に相当する状態が多く見られます。小児期には深い徐波睡眠が多く、思春期には体内時計が遅れやすくなります。成人後は睡眠時間が徐々に短くなり、高齢期には深い睡眠が減り、中途覚醒や早寝早起きが増える傾向があります。

ただし、加齢による正常変化と睡眠障害は同じではありません。高齢になっても良好な睡眠を保つ人は多く、睡眠時無呼吸や不眠症など治療可能な病気を「年齢のせい」と見過ごしてはいけません。

つまり、睡眠は一生を通して固定された仕組みではなく、発達と加齢に合わせて形を変える生理現象です。年齢ごとの平均的な特徴を知りつつ、自分の日中の状態と休養感を合わせて見ることが大切なのです。

参考資料

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