なぜ年齢とともに睡眠の長さや深さが変わるの?

子どものころは長く眠れたのに、大人になると睡眠時間が短くなり、高齢になると夜中に目が覚めやすくなる――。こうした変化には、単なる生活習慣だけでなく、脳の睡眠調節、体内時計、睡眠の深さを作る神経活動などの加齢変化が関係しています。

ただし、「年をとると眠れなくなるのが普通」と決めつけるのは適切ではありません。加齢によって睡眠の構造や時刻は変わりやすくなりますが、強い不眠や日中の眠気が必ず起こるわけではありません。痛み、病気、服薬、睡眠時無呼吸など、年齢そのものとは別の要因が睡眠を乱していることもあります。

目次

睡眠は年齢によってどう変わるの?

睡眠は一生を通じて同じ形ではありません。乳幼児では一日の多くを睡眠が占め、成長とともに総睡眠時間は短くなります。成人後も、年齢が上がるにつれて夜間の睡眠時間が短くなる傾向があり、深い睡眠が減り、夜中に目が覚める時間が増えやすくなります。

米国国立老化研究所(NIA)は、高齢者では若い成人に比べて早く寝て早く起きる傾向があり、睡眠が短く浅くなり、夜間に目覚める回数が増えやすいと説明しています。一方で、高齢者にも十分な睡眠は必要であり、「年齢が上がれば極端に少ない睡眠でよくなる」という意味ではありません。

厚生労働省の睡眠に関する情報でも、必要な睡眠時間には個人差があるものの、客観的な睡眠時間は成人後に年齢とともに短くなる傾向が示されています。また、高齢になるほど寝床で過ごす時間と実際に眠っている時間の差が広がりやすいため、単に長く床に入ればよいわけではありません。

なぜ年齢とともに深い睡眠が減るの?

夜の睡眠は、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しながら進みます。ノンレム睡眠の中でもN3と呼ばれる段階は、脳波にゆっくり大きな波が多く現れる「深い睡眠」です。この深い睡眠は、若い成人で多く、加齢とともに減少することが知られています。

睡眠と老化を扱った研究レビューでは、正常な加齢でも徐波睡眠が減り、浅いノンレム睡眠の割合や夜間の覚醒が増える傾向が報告されています。つまり、同じ6〜7時間寝床にいたとしても、若いころと高齢期では睡眠の中身が同じとは限りません。

なぜ深い睡眠が減るのかは、一つの原因だけでは説明できません。脳の構造や神経回路の加齢変化、睡眠圧を作る仕組みの弱まり、体内時計の変化などが複合的に関係すると考えられています。

睡眠圧の働きは年齢でどう変わる?

人は起きている時間が長くなるほど眠気が強くなります。この「眠る必要性の高まり」は睡眠圧と呼ばれます。睡眠圧は起きている間に高まり、眠ると下がります。

若い人では、長く起きたあとに睡眠圧が強く高まり、夜の前半に深いノンレム睡眠が多く現れます。ところが加齢すると、睡眠圧の高まり方や深い睡眠を生み出す反応が弱くなる傾向があります。そのため、夜になっても非常に強い深睡眠が出にくくなり、睡眠が浅く細切れになりやすいと考えられています。

ただし、「高齢者は睡眠圧がない」ということではありません。睡眠不足になれば高齢者でも眠気は強くなります。年齢によって調節の強さや反応の仕方が変わる、という理解が適切です。

体内時計も年齢とともに変化する

睡眠の時刻を決めるもう一つの仕組みが体内時計です。脳の視交叉上核を中心とする体内時計は、約24時間周期で睡眠・覚醒、体温、ホルモン分泌などを調整しています。

加齢すると、この概日リズムの振幅が小さくなり、昼と夜の生理的な差が弱くなる傾向があります。また、睡眠・覚醒の時刻が前にずれ、早い時間に眠くなり、早朝に目覚めやすくなる「朝型化」もみられます。

これは、高齢になると必ず早起きになるという意味ではありません。個人差は大きく、生活習慣や光の浴び方も影響します。ただ、集団としてみると、若年成人より高齢者の方が睡眠時刻が前進しやすいことが多くの研究で確認されています。

なぜ夜中に目が覚めやすくなるの?

高齢期には、睡眠が浅くなり、深い睡眠の割合が減るため、音や光、尿意、体の不快感などで覚醒しやすくなります。また、睡眠そのものの連続性が低下し、短い覚醒が増えることもあります。

一方で、夜間覚醒のすべてを「加齢だから」で説明することはできません。高齢になるにつれて、関節痛、心肺疾患、夜間頻尿、うつ、不安、睡眠時無呼吸、むずむず脚症候群など、睡眠を妨げる別の要因も増えやすくなります。服用する薬の種類が増えることも睡眠に影響します。

つまり、正常な加齢による睡眠の浅さと、病気や環境による睡眠障害は重なって見えることがあります。夜中に何度も目が覚めて生活に支障がある場合は、「年齢のせい」と決めつけないことが大切です。

年齢ごとの主な睡眠変化

時期 睡眠の主な特徴
乳幼児期 総睡眠時間が長く、昼夜に分かれて眠る時期から徐々に夜中心の睡眠へ移行する
学童期 成長とともに総睡眠時間が短くなり、夜にまとまって眠る形が安定する
思春期・青年期 体内時計が遅い方向へずれやすく、夜型になりやすい
成人期 睡眠時間は徐々に短くなり、深い睡眠も年齢とともに減少する
高齢期 睡眠が浅く分断されやすく、早寝早起き方向へ時刻が前進しやすい

この表はあくまで一般的な傾向です。同じ年代でも睡眠の長さや深さには大きな個人差があります。

高齢になると必要な睡眠時間そのものが減るの?

ここは注意が必要です。年齢が上がると、実際に眠れる夜間睡眠時間や深い睡眠は減る傾向があります。しかし、それをそのまま「高齢者は少ししか睡眠を必要としない」と言い換えることはできません。

公的機関の推奨にも表現の違いがあります。厚生労働省は、加齢に伴って生理的な睡眠時間が短くなる傾向を示しつつ、高齢者では長すぎる床上時間を避け、必要な睡眠時間を確保することを勧めています。一方、米国NIAは、高齢者も成人としておおむね7〜9時間の睡眠を必要とすると案内しています。

この違いは、「実際に眠っている時間」「寝床で過ごす時間」「健康のために推奨される睡眠機会」を同じものとして扱えないことを示しています。年齢だけで一律の数字を決めるのではなく、日中の眠気、睡眠休養感、活動状態などをあわせて見ることが重要です。

なぜ高齢になると早寝早起きになりやすいの?

加齢に伴って概日リズムの時刻が前にずれると、夕方から夜に眠気が現れる時刻も早まり、朝は早い時間に覚醒しやすくなります。これを概日位相の前進と呼びます。

さらに、高齢期には日中の光を浴びる量や活動量が少なくなることがあります。光は体内時計を外界の昼夜に合わせる重要な手がかりなので、屋内中心の生活が続くと睡眠・覚醒リズムのメリハリが弱くなる場合があります。

日中に適度な光を浴び、活動的に過ごすことは、昼夜の区別を体内時計に伝える助けになります。逆に、日中に長時間眠り、夜も早くから寝床に入る生活が続くと、夜間の睡眠が分断されやすくなることがあります。

昼寝は年齢とともに増えるの?

高齢者では夜間睡眠が細切れになりやすく、日中の活動量も変化するため、昼寝が増えることがあります。ただし、短い昼寝がただちに問題というわけではありません。

注意したいのは、夕方近くまで長く眠ることです。日中に長時間眠ると、夜に向けて高まるはずの睡眠圧が下がり、寝つきが悪くなったり、夜間の睡眠が浅くなったりすることがあります。厚生労働省も、高齢者では長時間の昼寝を避け、日中を活動的に過ごすことを勧めています。

年齢による変化と睡眠障害はどう見分ける?

多少の早寝早起き、深い睡眠の減少、短い夜間覚醒は、加齢に伴う変化としてみられます。一方、次のような状態が続く場合は、単なる年齢変化だけでは説明できない可能性があります。

  • 十分な睡眠機会をとっても強い日中の眠気が続く
  • 寝つけない、途中で何度も目が覚める状態が長く続き生活に支障がある
  • 大きないびきや呼吸停止を指摘される
  • 脚の強い不快感で眠れない
  • 夜間に激しく手足を動かし、本人や同室者がけがをする
  • 睡眠の変化とともに気分や認知機能が大きく変わった

高齢者では睡眠障害の頻度も高くなるため、「年齢相応だから治療できない」と考える必要はありません。原因となる病気や薬、生活リズムを確認することで改善できることがあります。

年齢が変わっても良い睡眠を保つには?

若いころと同じ睡眠時間や寝方にこだわるより、年齢に応じて睡眠と生活のバランスを調整することが大切です。

  • 朝から日中に明るい光を浴びる
  • 日中はできる範囲で体を動かす
  • 必要以上に長く寝床で過ごさない
  • 長い昼寝や遅い時刻の昼寝を避ける
  • 眠れない時間を「年齢のせい」と決めつけず、痛みや病気、服薬も確認する
  • 睡眠時間だけでなく、起床後の休養感や日中の眠気を見る

睡眠の形は年齢とともに変わっても、日中に十分活動でき、眠ったあとに休養感が得られていることが重要です。

よくある疑問

高齢者は5時間くらい眠れれば十分なの?

一律には言えません。実際の夜間睡眠時間が若いころより短くなる傾向はありますが、必要な睡眠量には個人差があります。日中の眠気や活動状態、睡眠休養感とあわせて判断する必要があります。

夜中に一度目が覚めるだけでも不眠症?

夜間に短く目が覚めること自体は珍しくありません。不眠症は、眠れない症状が続き、日中の生活に支障が出ているかどうかも含めて判断されます。

年をとるとレム睡眠もなくなるの?

なくなりません。レム睡眠は高齢期にもあります。加齢による変化は深いノンレム睡眠の減少が特に目立ちますが、睡眠全体の構造にも変化が起こります。

早朝に目が覚めるのは必ず加齢のせい?

いいえ。体内時計の前進による場合もありますが、うつ、睡眠不足、薬、生活時刻、睡眠障害など別の原因でも起こります。急な変化や生活への支障がある場合は、年齢だけで判断しない方がよいでしょう。

まとめ

睡眠が年齢とともに変わるのは、睡眠圧を作る仕組み、深いノンレム睡眠を生み出す神経活動、体内時計の強さや時刻などが少しずつ変化するためです。その結果、成人後は夜間睡眠が短くなり、深い睡眠が減り、夜中に目が覚めやすくなり、高齢期には早寝早起き方向へ移りやすくなります。

一方で、高齢になれば強い不眠が当然というわけではありません。病気、痛み、服薬、睡眠時無呼吸などの影響も大きいため、生活に支障がある睡眠問題を「年齢のせい」と片づけないことが重要です。

年齢による自然な変化を理解しつつ、睡眠時間の数字だけでなく、日中の眠気、活動性、睡眠休養感まで含めて見ることが、その年代に合った睡眠を考える手がかりになります。

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