なぜレム睡眠は記憶や感情の働きに重要なの?

レム睡眠は、急速眼球運動がみられ、全身の筋肉の活動が大きく低下する睡眠段階です。眠っているのに脳波は比較的活発で、夢をよく見ることでも知られています。

では、レム睡眠にはどんな役割があるのでしょうか。これまでの研究では、記憶の固定、感情に関わる情報の処理、学習後の神経回路の変化などとの関連が示されています。一方で、「レム睡眠にはこの一つの役割がある」と言い切れるほど、機能が完全に解明されているわけではありません。

そのため、レム睡眠を理解するときは、「記憶や感情の処理に関与する重要な睡眠段階である」という点と、「健康への働きはノンレム睡眠を含む睡眠全体との組み合わせで考える必要がある」という点を分けて考えることが大切です。

目次

レム睡眠とはどんな睡眠なの?

厚生労働省のe-ヘルスネットでは、レム睡眠は急速眼球運動と骨格筋活動の低下を特徴とする睡眠段階と説明されています。通常の夜間睡眠では、ノンレム睡眠とレム睡眠が約90〜120分周期で繰り返され、朝方に近づくほどレム睡眠の持続時間が長くなります。

レム睡眠中は、体の大きな筋肉はゆるんでいる一方、脳波は比較的覚醒時に近い活動を示します。また、心拍や呼吸など自律神経の働きは変動しやすくなります。

この「体は休んでいるのに脳は比較的活発」という特徴が、レム睡眠の機能を考える重要な手がかりになっています。

レム睡眠は夢を見るための睡眠なの?

レム睡眠中に起こすと、高い割合で夢を見ていたと報告されます。そのため、レム睡眠は長く「夢を見る睡眠」と呼ばれてきました。

しかし現在では、夢はノンレム睡眠でも生じることが分かっています。つまり、夢を見ることだけがレム睡眠の役割ではありません。

レム睡眠では、感情に関係する脳領域や記憶に関係する回路が特徴的な活動を示すことから、研究では「夢そのもの」よりも、記憶や感情の情報処理に注目が集まっています。

レム睡眠は記憶にどう関係するの?

人は、起きている間に経験したことを、その場で完全な長期記憶にできるわけではありません。学習した情報は、その後の時間をかけて安定した記憶へ変化していきます。この過程を記憶の固定と呼びます。

睡眠全体が記憶の固定に関係することは多くの研究で支持されています。その中でもレム睡眠は、特に感情を伴う記憶や、一部の技能・手続き記憶の処理に関与する可能性が研究されてきました。

たとえば、人を対象にした研究では、昼寝中のレム睡眠量やレム睡眠中の脳波活動が、感情を伴う記憶の保持と関連した例があります。また、動物研究では、レム睡眠中の特定の神経活動を操作すると、学習後の記憶固定が変化することも報告されています。

ただし、記憶の種類ごとに「レム睡眠だけが担当」「ノンレム睡眠だけが担当」と完全に分けられるわけではありません。実際の記憶形成は、ノンレム睡眠とレム睡眠が繰り返される一連の睡眠サイクルの中で進むと考える方が適切です。

感情を伴う記憶とレム睡眠にはどんな関係がある?

レム睡眠中には、扁桃体や前頭前野など、感情処理に関係する脳領域が活発に働くことが知られています。

日本の学術レビューでも、レム睡眠には、恐怖条件づけ、恐怖記憶の消去、情動記憶の固定、感情反応の調整など複数の役割仮説があると整理されています。

実験研究では、レム睡眠を含む睡眠後に、感情を伴う出来事の記憶が保たれやすい場合や、翌日の感情反応が変化する場合が報告されています。

一方で、「レム睡眠を増やせば感情が安定する」と単純に言えるわけではありません。研究によって結果が異なる部分もあり、感情処理におけるレム睡眠の正確な役割は現在も研究が続いています。

レム睡眠は嫌な記憶を消してくれるの?

完全に消すわけではありません。一部の研究では、睡眠後も出来事そのものの記憶は残る一方、その出来事に対する感情的な反応が変化する可能性が示されています。

このことから、レム睡眠は感情を伴う経験を「忘れさせる」のではなく、記憶を保ちながら感情の強さを再調整する過程に関与するのではないかという仮説があります。

ただし、これはすべての人・すべての出来事に当てはまる確定した仕組みではありません。トラウマ、うつ病、不安症などでは睡眠と感情処理の関係が複雑に変化するため、単純化はできません。

レム睡眠は技能の学習にも関係する?

関係する可能性があります。睡眠後に、指を動かす課題や視覚的な課題などの成績が改善することがあり、これを睡眠依存性の学習効果と呼びます。

過去の研究では、こうした手続き記憶や知覚学習にレム睡眠が関与する可能性が示されてきました。

一方、近年のレビューでは、技能学習をレム睡眠だけに結びつけるのは単純すぎるとも指摘されています。深いノンレム睡眠や浅いノンレム睡眠も学習後の情報処理に関わり、課題によって必要な睡眠段階が異なる可能性があります。

したがって、「レム睡眠は技能記憶専用」と考えるのではなく、睡眠全体の中で特有の役割を担っている可能性があると理解する方が正確です。

レム睡眠中の脳では何が起きているの?

レム睡眠中の脳では、覚醒時とは異なる神経伝達物質のバランスになります。アセチルコリンの活動が高い一方、ノルアドレナリンやセロトニンなど一部の神経伝達系は大きく低下します。

また、海馬では特徴的なリズム活動がみられ、感情や記憶に関係する脳領域が再び活動することがあります。

こうした状態が、記憶を再編成したり、感情的な情報を処理したりするのに適した環境を作っているのではないかと考えられています。

ただし、「この脳活動がこの機能を必ず生み出す」という因果関係は、すべて解明されているわけではありません。

レム睡眠と脳の発達には関係がある?

あります。レム睡眠は乳幼児期に非常に多く、成長とともに割合が減少していきます。

この特徴から、レム睡眠は発達期の神経回路形成や脳の成熟に関係する可能性が長く研究されています。動物研究では、レム睡眠中の神経活動が新しいシナプスの維持や整理に関わる例も報告されています。

ただし、人間の乳幼児でレム睡眠が多い理由を「脳の発達のため」と一つに決めることはできません。発達期のレム睡眠には複数の役割がある可能性があります。

レム睡眠は体の回復にも重要なの?

レム睡眠中は骨格筋の活動が大きく低下し、体は安静に近い状態になります。一方で、心拍や呼吸は変動しやすく、ノンレム睡眠とは異なる生理状態です。

そのため、「体を回復させるのがレム睡眠、脳を休ませるのがノンレム睡眠」という単純な分担ではありません。

実際には、深いノンレム睡眠では徐波活動、成長ホルモン分泌、副交感神経優位などがみられ、レム睡眠では神経活動や感情・記憶処理に特徴があります。健康な睡眠は、この二つの睡眠段階が周期的に繰り返されることで成り立っています。

健康のためにはレム睡眠を増やした方がいいの?

「レム睡眠を多くすればするほど健康になる」とは言えません。

成人では一晩の睡眠の約20%がレム睡眠であることが一般的ですが、その割合には年齢や睡眠時間、睡眠時刻などによる変動があります。また、レム睡眠が増えること自体が健康改善を意味するわけでもありません。

重要なのは、十分な睡眠時間があり、ノンレム睡眠とレム睡眠の周期が自然に繰り返されることです。睡眠時間を削れば、朝方に多いレム睡眠が減りやすくなりますが、「レム睡眠だけを補えばよい」というものではありません。

レム睡眠が少ないと病気になるの?

レム睡眠が少ないという一つの数値だけから、病気になると判断することはできません。

短い睡眠、薬、アルコール、年齢、睡眠障害などによってレム睡眠量は変化します。また、一部の抗うつ薬ではレム睡眠が抑制されますが、それでも長期的に生活している人がいます。

こうした事実からも、レム睡眠の機能を「一定量を下回ると健康が壊れる」という単純な形で考えることはできません。

一方、睡眠全体が短い、分断される、睡眠障害があるといった状態は、心身の健康に悪影響を与える可能性があります。評価するときはレム睡眠だけでなく、睡眠全体を見る必要があります。

レム睡眠と心の健康には関係がある?

うつ病、PTSD、不安障害など多くの精神疾患では、レム睡眠の時刻や量、脳活動に変化がみられることがあります。

また、感情調整に関する研究では、正常な睡眠やレム睡眠が翌日の感情反応と関連することが示されています。

ただし、「レム睡眠の異常が精神疾患を直接起こす」と一方向に決めることはできません。精神状態が睡眠を変化させ、睡眠の変化がさらに気分や感情処理へ影響するという双方向の関係が考えられます。

レム睡眠の異常が関係する睡眠障害はある?

あります。代表例の一つがレム睡眠行動障害です。

通常のレム睡眠では、夢に合わせて体を大きく動かさないよう、骨格筋の活動が強く抑えられます。レム睡眠行動障害では、この筋肉の抑制が不十分になり、夢に合わせるように殴る、蹴る、起き上がるなどの行動が現れることがあります。

また、ナルコレプシーでは、レム睡眠に関係する特徴が通常とは異なる時刻に現れることがあります。

こうした病気は、「レム睡眠が多い・少ない」というだけでは判断できません。睡眠中の行動や日中の眠気など症状全体を評価する必要があります。

スマートウォッチのレム睡眠の数字はどこまで信用できる?

家庭用のスマートウォッチや睡眠トラッカーは、体動や心拍などから睡眠段階を推定しています。

医療用の睡眠検査では、脳波、眼球運動、筋電図などを使ってレム睡眠を判定します。家庭用機器は同じ方法ではないため、表示されたレム睡眠時間には誤差があります。

そのため、一晩だけ「レム睡眠が少ない」と表示されても、それだけで異常と考える必要はありません。複数日の睡眠時間、日中の眠気、夜間覚醒、体調などを合わせて見ることが大切です。

レム睡眠の役割を整理すると

研究されている役割 現在の考え方
感情記憶の固定 人の実験研究で関連が示されている
感情反応の調整 複数の仮説と実験結果があるが、詳細は研究途上
技能・知覚学習 関与が示されるが、他の睡眠段階も重要
神経回路の再編成 主に動物研究でシナプスの整理や維持との関係が示されている
脳の発達 乳幼児期に多いことから重要性が考えられるが、役割は一つに確定していない
健康維持 レム睡眠単独より、ノンレム睡眠を含む正常な睡眠構造全体が重要

よくある疑問

レム睡眠が多いほど頭がよくなる?

そうとは言えません。記憶や学習にレム睡眠が関与する可能性はありますが、ノンレム睡眠も重要です。レム睡眠量だけで学習能力を判断することはできません。

夢を覚えていないとレム睡眠が少ない?

必ずしもそうではありません。夢を見たかどうかと、朝に夢を思い出せるかどうかは別です。

レム睡眠を増やす方法はある?

レム睡眠だけを安全に増やすことを目標にする必要はありません。まず十分な総睡眠時間を確保し、自然な睡眠周期を保つことが基本です。

朝寝坊するとレム睡眠が増える?

朝方はレム睡眠が長くなりやすいため、睡眠時間を延長するとレム睡眠が多く含まれることがあります。ただし、それが必ず健康上の利益を増やすという意味ではありません。

まとめ

レム睡眠が重要なのは、単に夢を見るためではありません。研究では、感情を伴う記憶の固定、感情反応の調整、技能学習、神経回路の再編成などとの関係が示されています。

一方、レム睡眠の正確な機能は完全には解明されておらず、研究結果には議論が残る分野もあります。そのため、「レム睡眠だけが記憶を作る」「多いほど健康」といった単純な理解は適切ではありません。

健康な睡眠では、深いノンレム睡眠とレム睡眠が一晩の中で何度も繰り返されます。大切なのはレム睡眠だけを増やすことではなく、十分な睡眠時間を確保し、自然な睡眠構造全体を保つことです。

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