なぜ火山ガスは場所や条件によって違うのか?

火山の火山ガスに場所や条件による違いがあるのは、マグマに含まれる揮発性成分の量や種類、ガスがマグマから分離する深さ、火山ガスの温度、地下水との接触、地下を通る経路、火山活動の段階などが異なるためです。その結果、同じ火山でも、火口では二酸化硫黄を比較的多く含む高温のガスが見られる一方、離れた噴気地帯では地下水との反応を受けて二酸化炭素や硫化水素の割合が高くなることがあります。

つまり、地表で観測される火山ガスは「マグマから出た瞬間のガス」がそのまま現れたものとは限りません。地下を上昇する途中で成分が分離し、地下水や岩石と反応し、温度が下がることで組成が変わります。火山ガスの違いを理解するには、「もとのマグマ」「分離する深さ」「地表までの経路」の3つを分けて考えることが大切です。

目次

まず火山ガスにはどのような成分があるのか

気象庁は、火山ガスを火山活動によって地表へ噴出する気体としています。主な成分には、水蒸気、二酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素などがあります。

気象庁の火山ガス解説では、一般に火山ガスの主成分は水蒸気で、90%以上を占める場合があるとされています。そのほか、二酸化炭素(CO2)、二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)、塩化水素(HCl)、フッ化水素(HF)などが含まれます。

ただし、これらの割合はどの火山でも同じではありません。個々の火山だけでなく、同じ火山の中でも噴出場所、温度、地下水との接触状態などによって成分と濃度が変わります。

場所による違いの出発点は「マグマの違い」

火山ガスのもとは、地下のマグマに溶けている揮発性成分です。水素、酸素、炭素、硫黄、塩素、フッ素などを含む成分が、高圧の地下ではマグマに溶けた状態で存在します。

マグマの化学組成や、できた場所、地下での結晶化の程度が異なれば、含まれる揮発性成分の量も変わります。そのため、玄武岩質マグマをもつ火山と、デイサイト質・流紋岩質のマグマをもつ火山では、放出されるガスの量や成分比が異なることがあります。

さらに、一つの火山でも地下から新しいマグマが供給された時期と、マグマが長く地下に滞留した時期では、ガスの放出状態が変化します。

成分ごとにマグマから分離する深さが違う

火山ガスの違いを考えるうえで重要なのが、揮発性成分ごとの「マグマへの溶けやすさ」です。

マグマが上昇すると周囲の圧力が低下し、溶けていた揮発性成分が気泡として分離します。しかし、すべての成分が同じ深さで一斉に出てくるわけではありません。

米国地質調査所(USGS)は、二酸化炭素はマグマへの溶解度が比較的低いため、深い場所から分離し始める一方、二酸化硫黄は一般により浅い場所でマグマから分離しやすいと説明しています。

そのため、地下深部から新しいマグマが上昇している段階では、CO2の変化が先に現れる場合があります。SO2が増えるときには、マグマが比較的浅部まで達している可能性を示すことがあります。

ただし、実際の観測値は地下水や噴出経路の影響も受けるため、一つのガスだけでマグマの位置を断定することはできません。

地下水があると火山ガスの成分が大きく変わる

マグマから分離したガスは、地下の割れ目を通って地表へ上昇します。その途中に地下水や熱水があると、ガスの一部が水へ溶け込み、地表へ届く成分が変化します。

USGSは、このように上昇する火山ガスの成分が地下水に取り込まれる作用を「scrubbing(スクラビング)」と呼んでいます。特にSO2やHCl、HFなど、水に溶けやすい成分は地下水によって除去されやすくなります。

一方、CO2は比較的深部から分離し、熱水系でも完全には取り除かれにくいため、地下水の多い火山でも地表で観測されることがあります。

このため、同じマグマから出たガスでも、「乾いた火道を直接上昇したガス」と「地下水の多い熱水系を通ったガス」では、地表で測定される成分比が大きく違うことがあります。

火口と噴気地帯でガスの組成が違うのはなぜか

活動的な火口では、地下のマグマから分離したガスが比較的短い経路で地表へ出ることがあります。この場合、マグマ由来のSO2などが地表まで届きやすくなります。

一方、火口から離れた噴気地帯では、ガスが長い距離を移動し、地下水や岩石と反応してから地表へ出ることがあります。そのため、SO2が減り、H2SやCO2などが目立つ組成になる場合があります。

USGSのカスケード火山帯の解説でも、平穏時の噴気では地下の熱水が沸騰して生じた水蒸気、CO2、H2Sを多く含むガスが一般的で、その熱とガスの根本的な供給源には深部のマグマ脱ガスがあると説明されています。

つまり、地表でガスを採取した場所が違えば、そのガスが通ってきた地下経路も違うため、成分が変わります。

温度が違うと火山ガスの組成も変わる

気象庁は、火山ガスの化学組成が噴出場所や温度によって異なると説明しています。

高温の噴気では、マグマ由来の成分が比較的直接的に地表へ届く場合があります。一方、温度が低い噴気では、地下水との反応やガス同士の化学反応が進み、もとの組成から大きく変化していることがあります。

硫黄成分もその一例です。SO2が地下水や岩石と反応すると、H2Sや硫酸塩など別の形へ変化することがあります。そのため、低温の噴気からSO2が少ないからといって、地下のマグマに硫黄が少ないとは限りません。

二酸化硫黄と硫化水素の割合は何を示すのか

SO2とH2Sはいずれも硫黄を含む火山ガスですが、地下で安定しやすい条件が異なります。

比較的高温でマグマに近い環境ではSO2が現れやすく、地下水を多く含む低温の熱水系ではH2Sが目立つ場合があります。USGSは、火山ガス観測においてSO2/H2Sなどの比が、熱水系によるガスの変化や地下の温度状態を考える手がかりになるとしています。

ただし、この比率も火山ごとに基準値が異なります。一つの数字だけを他の火山へそのまま当てはめることはできず、同じ火山で長期的に観測して変化を見ることが重要です。

火山活動が活発になるとガスはどう変わるのか

地下から新しいマグマが上昇すると、火山ガスの放出量や成分比が変化する場合があります。

マグマが深い段階ではCO2の増加が捉えられることがあり、さらに浅く上昇して地下水の影響が小さくなるとSO2の放出が増えることがあります。また、マグマの供給量そのものが増えれば、総ガス放出量が増加することもあります。

気象庁は、SO2が遠隔から測定可能であることから、その放出量を火山ガス放出量の指標として火山活動の評価に利用しています。

ただし、「SO2が増えたら必ず噴火する」「減ったら安全」という単純な関係ではありません。ガスの変化は、地震活動、地殻変動、噴煙の状態など他の観測データと組み合わせて評価されます。

同じ火山でも噴火前・噴火中・噴火後で違う

火山ガスの状態は時間とともに変化します。噴火前にはマグマが地下を上昇し、ガスの放出量や成分比が変化することがあります。

噴火中には、マグマに含まれていた大量の揮発性成分が短時間に放出され、SO2などの放出量が大きく増えることがあります。噴火後も、地下に残ったマグマが冷却・結晶化する過程でガスを放出し続ける場合があります。

そのため、同じ火口で測定していても、活動段階によって「火山ガスの特徴」は変わります。

地面から広く染み出すガスもある

火山ガスは、必ず火口や目立つ噴気孔からだけ出るわけではありません。地下の亀裂や多孔質な地層を通り、広い範囲の地面から少しずつ放出されることがあります。これを拡散的なガス放出として扱うことがあります。

特にCO2は、深部から分離しやすく、割れ目を通って地表へ移動するため、明確な噴気孔がない場所でも土壌ガスとして観測されることがあります。

一方、SO2のように地下水に取り込まれやすい成分は、地下水の多い地域では地表へ届きにくくなることがあります。こうした性質の違いも、場所による火山ガス組成の差を生みます。

雨や地下水の量でもガスの見え方が変わる

降雨が多い時期や地下水位が高い時期には、地下の熱水系へ供給される水の量が増えることがあります。すると、上昇するガスの一部が地下水へ溶け込んだり、化学反応を受けたりする程度が変化します。

そのため、地表で測定されるガス量の変化が、必ずしもマグマそのものの変化だけを意味するとは限りません。火山ガス観測では、気象条件や地下水の状態も考慮する必要があります。

火山ガスのにおいだけで成分を判断できるのか

硫化水素は腐卵臭をもつため、噴気地帯で特徴的なにおいを感じることがあります。一方、二酸化炭素は無色・無臭で、二酸化硫黄は刺激臭があります。

しかし、においの強さだけでガス濃度を正確に判断することはできません。硫化水素は高濃度になると嗅覚が麻痺し、においを感じにくくなることもあります。

また、見えている白い噴気の多くは冷えて細かな水滴になった水蒸気であり、CO2やSO2そのものが白く見えているわけではありません。場所ごとの火山ガスの違いを判断するには、機器による測定が必要です。

なぜ二酸化硫黄が火山観測でよく使われるのか

気象庁は、SO2が特定の波長の紫外線を吸収する性質を利用し、小型紫外線スペクトロメータで放出量を測定しています。

SO2は火山ガスの主要成分の一つであり、地下のマグマ活動と関係します。また、遠隔から測定できるため、火口へ直接近づかなくても放出量を推定できます。

一方、地下水の強い影響を受ける火山では、SO2が地下で除去され、地表でほとんど観測されないこともあります。USGSは、地下水によるスクラビングによって、浅部へ上昇するマグマのSO2信号が弱められる場合があると指摘しています。

したがって、SO2観測は非常に重要ですが、CO2やH2S、熱水の化学組成など複数の指標と組み合わせることが有効です。

火山ガスの違いを整理すると

  • マグマの性質:もともと含まれる揮発性成分の量や種類が異なります。
  • 分離する深さ:CO2は比較的深部、SO2はより浅部で分離しやすい傾向があります。
  • 地下水:SO2やHClなどが水に取り込まれ、地表のガス組成を変えます。
  • 温度:高温のマグマ性ガスと低温の熱水性ガスでは成分比が変わります。
  • 噴出場所:火口、噴気孔、地面からの拡散放出では通ってきた経路が異なります。
  • 火山活動の段階:マグマ上昇、噴火、冷却の各段階で放出量と成分が変化します。
  • 地下の通り道:乾いた割れ目を通るか、熱水系を通るかで地表に届く成分が変わります。
  • 降雨・地下水位:熱水系によるガスの吸収・反応の程度に影響することがあります。

まとめ:火山ガスの違いは「分離する深さ」と「地表までの経路」で生まれる

火山の火山ガスに場所や条件による違いがあるのは、もとのマグマの性質だけでなく、ガス成分ごとの溶けやすさ、マグマから分離する深さ、地下水との接触、温度、地下の移動経路が異なるためです。

CO2は比較的深い場所からマグマを離れやすく、SO2はより浅い場所で分離しやすい傾向があります。さらに、SO2などは地下水によって取り込まれやすいため、火口ではSO2が多くても、離れた熱水性噴気ではH2SやCO2が目立つ場合があります。

同じ火山でも、火口・噴気地帯・土壌ガスで組成が違い、噴火前後でも放出量や成分比が変わります。

「マグマに揮発性成分が溶ける→成分ごとに異なる深さで分離する→地下水や岩石と反応する→通る経路と温度によって組成が変わる→場所ごとに異なる火山ガスとして地表へ出る」という流れで考えると、火山ガスの違いを理解しやすくなります。

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