なぜ植物工場では赤色光と青色光を使い分けるのか?

植物工場や植物育成用LEDを見ると、赤色と青色の光が目立つことがあります。赤と青を同時に点灯すると、栽培室全体が紫色やマゼンタ色に見えることもあります。

なぜ、白い光ではなく赤色光と青色光をわざわざ使い分けるのでしょうか。

結論からいうと、植物は波長によって光の使い方が違い、赤色光と青色光が光合成だけでなく、茎や葉の形、気孔の開閉、光の方向への反応などに異なる影響を与えるからです。

さらにLEDは、必要な波長を狙って出しやすく、光量や点灯時間も細かく制御できます。そのため植物工場では、作物や生育段階、収量・形・品質・消費電力などの目的に合わせて光の色を設計します。

目次

植物にとって光は「エネルギー」と「情報」の両方

植物にとって光は、光合成のエネルギー源であるだけではありません。

光の色、強さ、方向、点灯時間から、植物は周囲の環境を読み取っています。

たとえば、十分な日光があるか、ほかの植物の陰に入っているか、どちら側に光源があるか、昼が長いか短いか、といった情報です。

そのため、同じ光量でも波長の組み合わせが違えば、葉の広がり方、茎の伸び方、気孔の状態、開花などが変わる場合があります。

光合成ではどの波長が使われるのか

植物の葉にはクロロフィルa、クロロフィルb、カロテノイドなどの色素があります。

OpenStaxが示す吸収スペクトルでは、クロロフィルaとbは可視域のうち青側と赤側の光をよく吸収し、緑付近の吸収は比較的小さくなっています。

葉が緑色に見えるのも、緑付近の光が赤や青より反射・透過されやすいためです。

このため、植物育成用照明では赤色光と青色光が重要な波長帯として長く利用されてきました。

赤色光はなぜ植物工場でよく使われるのか

赤色光はクロロフィルがよく吸収する波長帯の一つです。

光化学反応へ利用されやすく、葉の光合成を支える主要な光源として使えます。

またLEDでは、赤色域の光を比較的高い電気効率で出せる製品が発達してきたことも、植物工場で普及した理由の一つです。

J-STAGEに掲載されたレタス栽培研究では、赤色光をベースにした光質条件を比較し、赤単色光や赤緑混合光で生体重増加に有効な結果が報告されています。

ただし、これは「どんな植物でも赤だけが最適」という意味ではありません。

青色光は何のために使うのか

青色光もクロロフィルやカロテノイドに吸収され、光合成へ使われます。

さらに青色光には、植物の形や生理を制御する情報としての重要な役割があります。

植物にはクリプトクロムやフォトトロピンなど、青色光に反応する光受容体があります。

OpenStaxでは、青色光受容体が光の方向や量を検知し、光屈性などの応答に関わることが説明されています。

そのため青色光は、単なる「もう一つの光合成用の色」ではなく、植物の形づくりを調節する信号としても働きます。

赤だけで育てると何が起こるのか

植物の種類や栽培条件によっては、赤色光だけでも生育できます。

一方で、赤単色光では茎や葉の形が、自然光下とは異なる場合があります。

青色光を加えると、茎の伸び、葉の厚さ、気孔応答などが変化し、より目的に合った草姿を作れることがあります。

J-STAGEのレタス研究では、赤青混合光が茎長抑制に有効だった一方、その供試植物では青色光による草姿改善が必須ではないという結果も示されました。

ここから分かるのは、青色光の必要量は作物や目標によって変わるということです。

「赤は成長、青は形」と覚えてよいのか

大まかな入口としては理解しやすい表現ですが、厳密には単純化しすぎです。

赤色光も光形態形成へ関わり、青色光も光合成へ使われます。

赤色光にはフィトクロム系の光受容が関係し、発芽、茎伸長、葉の展開、開花など多くの反応へ影響します。

青色光も光合成色素に吸収されるため、炭素固定を支えるエネルギー源です。

したがって、赤と青は「担当が完全に分かれている」のではなく、複数の役割が重なりつつ、影響の出方が違うと考えるほうが正確です。

植物は赤色光をどう感知しているのか

植物にはフィトクロムという光受容体があります。

フィトクロムは主に赤色光と遠赤色光の比率に反応し、周囲にほかの植物があるかなどの環境情報を読み取ります。

植物の葉は赤色光をよく吸収しますが、遠赤色光は相対的に透過・反射されやすいため、植物の陰では赤色光に対して遠赤色光が多い光環境になります。

植物はこの変化を利用して、日陰に入ったことを検知し、茎を伸ばすなどの反応を示すことがあります。

青色光は植物のどんな反応に関わるのか

青色光受容体は、光屈性、葉緑体の移動、気孔の開閉、茎の伸長抑制などに関係します。

そのため青色光の割合を変えると、単純な乾物重だけでなく、葉の形、節間長、葉の角度、見た目の締まりなどが変化する場合があります。

植物工場では、収量だけでなく商品としての形や品質も重要なので、青色光の割合は重要な調整項目になります。

なぜLEDは植物工場に向いているのか

LEDには、必要な波長を選びやすいという大きな利点があります。

赤色LED、青色LED、緑色LED、遠赤色LEDなどを組み合わせれば、照明スペクトルを目的に応じて設計できます。

また、点灯・消灯を高速に制御でき、光強度も調整しやすく、蛍光灯や放電灯に比べて光源を植物へ近づけやすい特徴があります。

J-STAGEのLED植物生長実験用光源の研究でも、狭い波長帯を持つLEDを使うことで、特定の光受容系が植物の形態形成に与える影響を分けて調べられることが示されています。

NASAでも赤・青LEDが使われているのはなぜか

国際宇宙ステーションの植物栽培装置でもLEDが利用されています。

NASAは、Veggieなどの栽培装置で赤・青・緑のLEDを組み合わせており、植物は特に赤と青の光を利用する一方、緑色光は植物を自然な色で見やすくする目的などにも役立つと説明しています。

宇宙では電力、発熱、質量、設置空間に厳しい制約があるため、必要な光を効率よく供給できるLEDは相性のよい光源です。

赤と青だけなら植物は紫色に見えてしまう

赤色光と青色光を同時に当てると、人の目には照明全体がマゼンタ色に見えます。

その環境では葉本来の緑色や、病気・障害による変色を人が確認しにくくなります。

NASAの植物栽培研究でも、緑色LEDを加えることで植物をより自然な見え方にし、健康状態を視覚的に確認しやすくする利点が指摘されています。

つまり、栽培照明は植物だけでなく、人が作業する環境としての使いやすさも考えて設計されます。

緑色光は植物にとって無駄なのか

無駄ではありません。

葉が緑色に見えることから「緑色光は全部反射されて使われない」と誤解されることがあります。

実際には緑色光の一部も葉に吸収され、光合成へ利用されます。

また、赤や青に比べて葉の内部や群落の奥まで届きやすい場合があり、上葉だけでなく下側の葉へ光を届ける役割も考えられます。

したがって、現代の植物工場では赤と青だけに限定せず、緑や白色LEDを含めてスペクトルを設計する例もあります。

なぜ作物によって最適な赤青比が違うのか

植物種によって葉の構造、光合成色素の量、光受容体の応答、成長戦略が異なります。

さらに同じ植物でも、苗の時期と収穫直前では必要な形や生理状態が違います。

そのため、レタスに適した赤青比がトマトやイチゴにもそのまま最適とは限りません。

栽培目的が「最大収量」なのか、「コンパクトな草姿」なのか、「特定成分を増やす」のかによっても照明条件は変わります。

光の色だけ決めれば十分なのか

十分ではありません。

植物の生育には、光の色に加えて、

  • 光量
  • 一日の照射時間
  • 明暗周期
  • 葉面での光分布
  • 温度
  • 二酸化炭素濃度
  • 水分・養分

などが関係します。

同じ赤青比でも、光が弱すぎれば十分な光合成はできず、強すぎれば光阻害や熱負荷などが問題になります。

植物工場は、これらをまとめて制御できる点に強みがあります。

PPFDとは何か

植物栽培では、明るさを人間の視覚基準で表すルクスより、植物が受け取る光子数を基準にした指標がよく使われます。

その代表が光合成光量子束密度 PPFDです。

一般に400〜700nmの光合成有効放射域について、単位面積・単位時間あたりに届く光子の量を表します。

植物は光子を吸収して光化学反応を進めるため、人間にとっての見た目の明るさだけでは栽培照明の性能を評価できません。

青色光のほうが光子一個のエネルギーが高いなら有利なのか

単純に「エネルギーが高いほど光合成に有利」とは言えません。

青色光の光子は赤色光よりエネルギーが高いですが、光合成では吸収された光子のエネルギーのすべてをそのまま化学エネルギーへ変えるわけではありません。

余分なエネルギーは熱などとして失われる場合があります。

したがって、照明効率を考えるときは、光子エネルギーだけでなく、LEDの電気効率、植物の吸収、光化学効率、形態形成への影響をまとめて評価する必要があります。

赤色光だけにすると省エネになる場合があるのはなぜか

植物が必要とする形態を維持できる条件なら、赤色光の比率を高めることで照明の電力効率を上げられる場合があります。

J-STAGEのレタス研究では、供試条件では赤単色光でも十分な栽培が可能で、節電の観点から赤単色の利用可能性が示されました。

ただし、その結果をすべての作物へ一般化することはできません。

青色光を減らしすぎると、形態や品質が目標から外れる作物もあるためです。

赤と青を同時に当てる必要はあるのか

必ずしも常時同時でなければならないわけではありません。

植物工場では、赤と青の比率を変えるだけでなく、時間帯や生育段階によって照射条件を変える研究も行われています。

J-STAGEでは、赤色光と青色光を交互に照射する栽培法なども紹介されています。

LEDは点灯条件を細かく変えられるため、「どの色を何時間、どの順序で当てるか」まで栽培条件として設計できます。

遠赤色光も植物工場で使われるのはなぜか

遠赤色光は、人の目には暗く感じる700nmより長い波長域を含みます。

フィトクロムは赤色光と遠赤色光の比率を読み取り、日陰応答や伸長、開花などに関わります。

そのため、遠赤色LEDを加えて草姿や開花時期を調整することがあります。

NASAのAdvanced Plant Habitatでも、赤・青・緑・白に加えて遠赤色LEDを調整できる構成が使われています。

植物工場で白色LEDも使われるのはなぜか

白色LEDは広い波長範囲をまとめて含むため、自然光に近い見え方を作りやすく、作業性も高められます。

また、赤・青だけでは不足する波長を補い、群落内部の光環境を改善できる場合があります。

近年は白色LED自体の効率も高くなっているため、赤青LEDだけが唯一の選択肢ではありません。

実際の栽培設備では、収量、品質、作業性、設備費、電気代を総合して光源を選びます。

葉が緑なのに赤と青をよく吸収するのはなぜか

物体の見える色は、その物体が強く吸収した色ではなく、目へ戻ってきた光で決まります。

葉のクロロフィルは赤と青をよく吸収し、緑付近を比較的多く反射・透過します。

そのため葉は緑に見えます。

つまり、葉が緑色だから緑色光を最もよく使うという意味ではありません。

野菜の栄養成分も光の色で変わることがあるのか

あります。

光は光合成だけでなく、二次代謝や色素合成、ストレス応答にも影響します。

そのため、青色光や紫外域、遠赤色などの照射条件を変えることで、アントシアニンなどの色素や一部の機能性成分が変化する場合があります。

ただし効果は植物種、品種、光強度、栽培期間などに大きく依存するため、「この色なら必ず栄養価が上がる」と一律には言えません。

植物工場ではなぜ光を「レシピ」のように設計するのか

植物工場では、日射が不安定な屋外と違い、照明条件を人工的に再現できます。

赤、青、緑、遠赤色などの割合、PPFD、明暗時間、生育段階ごとの変更を組み合わせれば、同じ品種でも成長速度や草姿、品質を調節できます。

このため照明条件は、温度や養液と同じように「栽培レシピ」の一部として扱われます。

LEDの価値は、単に省エネな光源であることだけでなく、光環境を細かく再現・制御できる点にあります。

赤と青の最適比率は一つに決まるのか

決まりません。

作物、品種、生育段階、光量、温度、CO₂濃度、目標品質などで最適条件が変わります。

J-STAGEのレタス研究でも、赤単色や赤緑、赤青で生育反応が異なりました。

したがって植物工場では、一般論として赤・青が重要であっても、実際には栽培試験によって最適なスペクトルを決める必要があります。

既存の「なぜ人が感じる光の色は三つの値で表せるのか?」との違い

既存の色の記事では、人の目にある三種類の錐体とRGB表示を中心に、光の色を三つの値で表現できる理由を扱っています。

本記事では、植物が波長ごとに異なる光合成色素と光受容体を持つため、植物工場で赤色光・青色光などを目的別に使い分ける理由に焦点を限定しています。

つまり、一方は人間の色覚、もう一方は植物の光利用と栽培技術です。

まとめ

植物工場で赤色光と青色光を使い分けるのは、植物が波長によって異なる反応を示すためです。

  • クロロフィルは赤色域と青色域の光をよく吸収する
  • 赤色光は光合成エネルギー源として重要で、フィトクロムを通じた形態応答にも関わる
  • 青色光も光合成に使われ、さらにクリプトクロムやフォトトロピンなどを通じて形態や気孔応答へ影響する
  • LEDなら必要な波長と光量を細かく制御できる
  • 最適な赤青比は作物や生育段階、目標品質によって異なる
  • 緑色光や白色光、遠赤色光にも役割があり、赤青だけが唯一の正解ではない
  • 植物工場ではスペクトル・光量・照射時間を栽培レシピとして設計する

つまり、植物工場の赤色光と青色光は「植物が好きな色だから」使うのではなく、波長ごとに異なる光合成・光受容反応を利用し、収量・形・品質・省エネを目的に合わせて制御するために使い分けられているのです。

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