なぜ扇状地はできるのか?

扇状地は、山地の狭い谷を流れてきた川が平地へ出たときに流れの勢いを弱め、運んできた砂や礫を堆積させることで成り立つ地形です。 谷の出口付近を頂点として、川が洪水のたびに流路を変えながら土砂を広い範囲へ積み重ねるため、上から見ると扇を開いたような形になります。

大切なのは、扇状地が一度の洪水で完成するわけではないことです。山地で生まれた土砂が何度も運ばれ、谷口で堆積し、流路が移動し、場所によっては再び侵食されるという過程が長期間繰り返されて成長します。そのため、扇状地の形や大きさは、川の勾配、洪水の規模、集水域の広さ、地質、土砂供給量などによって大きく異なります。

目次

扇状地とはどのような地形なのか

国土地理院は、扇状地を河川が山間の狭い谷から広い低平地へ出る場所に形成され、運搬してきた土砂や砂礫が洪水とともに氾濫・堆積し、谷の出口を頂点として平地側へ扇状に広がった比較的緩やかな地形と説明しています。

地形図や空中写真で見ると、谷口から外側へ向かって半円形に広がり、全体として緩い円すい状の傾斜を持つのが特徴です。上流側の谷口付近を扇頂、中央部を扇央、外側の末端部を扇端と呼びます。

扇状地は主として砂や礫からできています。山地から近いため、氾濫平野や三角州より粗い粒子を多く含むことが一般的です。ただし、粒径や地層の厚さは河川ごとに違い、土石流が卓越する扇状地もあれば、洪水流による砂礫輸送が中心の扇状地もあります。

扇状地ができる基本の仕組み

1.山地で大量の土砂が生まれる

扇状地をつくる材料は、主に上流の山地で生み出されます。岩石は風化によって割れ、豪雨や地震による斜面崩壊、土石流、河川侵食などで砂や礫になります。

山地の谷は勾配が急く、川の流れも速いため、大きな礫まで下流へ運ぶことができます。とくに洪水時には普段より水量が増え、河床にたまっていた砂礫や斜面から供給された岩屑が一気に移動することがあります。

このため、扇状地の成長には「谷口で何が起こるか」だけでなく、「上流の山地でどれだけ土砂が生産されるか」が重要です。

2.谷口で勾配が急にゆるくなる

山地の狭い谷を流れてきた川が平地へ出ると、地表の傾斜が急に小さくなります。同時に、流れは横方向へ広がりやすくなります。

川が土砂を運べる力は、流速や水深、勾配などに左右されます。谷口で勾配がゆるくなって流れの勢いが弱まると、それまで運んでいた大きな礫や砂を持ち運び続けることが難しくなります。

USGSも、山地の峡谷から平地へ出た河川が流速を落とし、運搬していた沖積物を堆積させることで扇状地が発達すると説明しています。

3.谷口付近から砂礫がたまり始める

運搬力を失った川は、まず比較的大きく重い礫を谷口に近い場所へ堆積させます。流れがさらに弱くなると、より細かな砂なども下流側へ堆積します。

この堆積が何度も繰り返されると、谷口の前に砂礫の高まりができます。高まりは少しずつ前方や横方向へ広がり、扇状地の骨格になります。

ただし、粒子が大きい順に完全にきれいに並ぶわけではありません。大洪水や土石流では大きな礫が扇端近くまで運ばれることもあり、流路の位置や洪水規模によって堆積物は複雑に重なります。

4.川が流路を変えながら扇形に広がる

扇状地が扇のような形になる最大の理由は、川が同じ場所だけを流れ続けないからです。

ある流路に砂礫がたまり続けると、その河床は周囲より高くなります。すると洪水時に水が別の低い場所へあふれ、新しい流路ができることがあります。

新しい流路でも土砂が堆積し、そこが高くなると、また別方向へ流れが移ります。このように、流路の移動・消滅・再形成が繰り返されることで、谷口を中心に土砂が放射状に広がります。

扇状地形成の数値解析でも、堆積地形の拡大が流路の移動・消滅・再形成と密接に関係することが示されています。扇形は、川が長い時間をかけて流れる場所を変えた結果なのです。

なぜ扇状地は半円すい形になるのか

山地の谷では、川は両側の谷壁に挟まれているため、流れる方向がある程度固定されています。ところが平地へ出ると、左右を制限する谷壁がなくなります。

そのため洪水時の水と土砂は、谷口から低い方向へ放射状に広がることができます。堆積物が谷口の近くほど厚く、外側へ向かって薄くなると、地形全体は谷口を頂点とする緩い円すい形になります。

上から見るとその円すいの一部が扇形に見えるため、「扇状地」と呼ばれます。

ただし実際には、周囲の山地、既存の川、別の扇状地、海岸線、断層などに成長を妨げられることがあります。そのため、すべての扇状地が整った半円形になるわけではありません。

扇状地の大きさは何で決まるのか

扇状地の大きさは、単に川の長さだけで決まりません。研究では、集水域の面積、岩屑の供給量、地盤の上下変動、山間盆地の有無、火山の影響など複数の要因が扇状地の体積や形態に関係することが示されています。

とくに重要なのが、上流からどれだけ土砂が供給されるかです。侵食されやすい岩石が広く分布していたり、斜面崩壊や土石流が多かったりすると、谷口へ届く砂礫の量が増え、扇状地が成長しやすくなります。

一方、集水域が非常に大きくなり河川勾配が緩くなると、粗い礫が谷口まで届きにくくなる場合があります。斉藤享治の研究では、集水域の面積と地質条件が、扇状地形成のしやすさや土砂の運搬様式に関係することが示されています。

洪水と土石流は扇状地の形成にどう関係するのか

扇状地は、普段の穏やかな流れだけでなく、大きな洪水や土石流によって急速に地形が変化することがあります。

洪水では水量が増え、多量の砂礫が河床を移動します。谷口へ出て流れが広がると、土砂が広い範囲へ堆積します。

小さな急流では、土石流が扇状地形成の主要な作用になる場合があります。土石流は水だけでなく大量の礫や土砂を高濃度で含み、短時間に厚い堆積物を残します。地質調査でも、土石流堆積物と網状河川堆積物が繰り返し重なる扇状地の例が確認されています。

つまり扇状地は、少しずつ砂礫が積もるだけでなく、大きな出水によって一度に地形が更新されることもある地形です。

扇頂・扇央・扇端では何が違うのか

扇頂

扇頂は山地の谷口に最も近い部分です。川の勾配がまだ比較的大きく、大きな礫や粗い砂がたまりやすい場所です。

豪雨時には急流や土石流の影響を受ける可能性があり、河道が急に変わることもあります。

扇央

扇央は扇状地の中央部分です。砂礫が厚く堆積している場所では水が地中へしみ込みやすく、川の表流水が減ったり、地下へ伏流したりすることがあります。

そのため、扇央では昔から水の確保が土地利用上の課題になった地域もあります。ただし、地下の地層構造によって浸透の程度は異なります。

扇端

扇端は扇状地の外側の低い部分です。扇央で地下へしみ込んだ水が地表近くへ現れ、湧水が見られる地域があります。

国土地理院は、扇端部では地下水位が浅いことが多く、強い地震時には液状化に注意が必要な場合があるとしています。

なぜ扇状地の川は流路が安定しにくいのか

扇状地の河川では、砂礫の堆積によって河床が高くなりやすく、洪水時に流れが周囲の低い場所へ移ることがあります。

自然状態では、河道が扇状地上を移動すること自体が扇状地形成の仕組みの一部です。現在は堤防や護岸によって流路が固定されている地域が多いものの、もともとは複数方向へ河川が移動しうる地形でした。

そのため古い空中写真や地形図を見ると、現在の河道とは別方向に延びる旧流路や、放射状の流路跡が見つかることがあります。

国土地理院も、扇状地を空中写真から判読するポイントとして、谷口から広がる緩斜面と放射状の網状流痕を挙げています。

扇状地は平野とどのようにつながっているのか

扇状地は、山地と平野の境界にある地形です。山地側では侵食が卓越し、岩石や土砂が生産されます。扇状地では、その粗い砂礫が堆積します。

さらに下流へ行くと勾配がゆるくなり、細かな砂や泥が多くなって氾濫平野が発達します。河口付近ではさらに細粒の土砂が堆積して三角州が形成されることがあります。

つまり、一つの河川を上流から下流まで見ると、山地での侵食、扇状地での粗い砂礫の堆積、氾濫平野や三角州でのより細かな土砂の堆積が連続しています。

扇状地は、山地で削られた物質が平野をつくる過程へ移る「中継地点」と考えることができます。

扇状地は完成した後も変化するのか

扇状地は形成後も変化し続けます。新しい土砂が供給されれば地表が高くなり、河道が移れば別の場所へ堆積域が移ります。

反対に、川の侵食力が強くなると、扇状地の表面を川が削り込むことがあります。国土地理院は、河川の側刻などで開析され、現在の河床より一段高い位置に残った扇状地を開析扇状地として区別しています。

地盤の隆起や下流側の基準面低下が起これば、河川が扇状地を深く切り込むこともあります。扇状地の表面に段丘状の地形が見られる場合は、堆積後に侵食へ転じた履歴を示している可能性があります。

扇状地の成り立ちは災害とどう関係するのか

扇状地は、河川が洪水や土石流で砂礫を運び、流路を変えながら形成してきた土地です。そのため、その成り立ち自体が自然災害と深く関係しています。

国土地理院は、扇状地では大雨時に土石流などの土砂災害が発生することがあるとしています。とくに扇頂や谷口付近では、山地から流れ出す水や土砂の影響を受けやすい場合があります。

また、現在の河道だけを見て安全性を判断するのは十分ではありません。過去の流路跡に沿って洪水が流れる可能性もあるため、地形分類図や土砂災害・洪水ハザードマップを合わせて確認することが重要です。

ただし、扇状地全体が同じ危険度ではありません。標高、河道との距離、堤防、砂防施設、地質、地下水位などによって条件は異なります。

地図から扇状地の仕組みを読み取るポイント

地形図や地理院地図で扇状地を探すときは、山地と平地の境界に注目します。

  • 山地の狭い谷が平地へ開く場所にある
  • 谷口を頂点として扇形・半円形に広がる
  • 外側へ向かって緩やかに低くなる
  • 古い流路が放射状に広がることがある
  • 扇頂側ほど礫が多く、扇端側ほど細かい堆積物が増える傾向がある

空中写真、陰影起伏図、地形分類図を組み合わせると、現在は市街地や農地になって形が分かりにくい扇状地でも、本来の地形を読み取りやすくなります。

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まとめ

扇状地は、山地から平地へ出た川が運搬力を弱め、砂礫を堆積させ、洪水のたびに流路を変えながら土砂を扇状に広げることで成り立ちます。

  • 山地で風化・崩壊・侵食によって大量の砂礫が生まれる
  • 川が谷口で平地へ出ると勾配と流速が低下し、土砂が堆積する
  • 河床が高くなると流路が別方向へ移り、堆積域が放射状に広がる
  • 集水域面積、地質、洪水、土石流、土砂供給量によって扇状地の形や大きさが変わる
  • 形成後も侵食や河道変化が続き、開析扇状地になることもある

扇状地を見るときは、「なぜ山の出口で砂礫がたまるのか」と「なぜ川が一方向ではなく扇状に堆積域を広げるのか」を分けて考えると、成り立ちの仕組みを理解しやすくなります。

参考資料

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