なぜ黒潮は暖かく、親潮は冷たいのか?

黒潮が暖かく、親潮が冷たいのは、2つの海流がそれぞれ違う緯度の海から水を運んでくるからです。黒潮は、太陽から強い日射を受ける熱帯・亜熱帯の暖かい海水を日本の南から北東方向へ運ぶ海流です。反対に親潮は、北太平洋の亜寒帯や千島列島周辺の冷たい海水を日本の東側へ南下させる海流です。

つまり、黒潮と親潮の水温差は「日本の近くで急に温められたり冷やされたりするから」ではなく、もともと温度の違う海域でつくられた海水が、海洋の大きな循環によって運ばれてくるために生じます。

この違いは水温だけではありません。黒潮は比較的高温・高塩分、親潮は低温・低塩分という特徴を持ち、日本の東方では両者がぶつかって複雑に混ざり合います。その境界付近は、世界でも有数の豊かな漁場として知られています。

目次

黒潮は南の暖かい海から流れてくる

黒潮は、北太平洋の亜熱帯循環を構成する強い海流の一つです。気象庁によると、黒潮は太平洋西部の熱帯域を起源とし、東シナ海からトカラ海峡を通って日本の南岸へ入り、房総半島沖から東へ流れる黒潮続流へつながっています。

熱帯や亜熱帯の海では、年間を通して太陽高度が高く、海面が受け取る日射エネルギーが大きくなります。そのため表層の海水は中緯度や高緯度に比べて暖かくなります。黒潮は、その暖かい水を大量に北へ運んでいます。

NOAAも、黒潮から続く黒潮続流について、暖かい熱帯の海水を北へ運び、低緯度で得た熱を中緯度へ輸送する重要な役割を持つと説明しています。つまり黒潮は、単に「暖かい海流」というだけでなく、地球規模の熱の偏りを小さくするための巨大な熱輸送システムの一部なのです。

親潮は北の冷たい海から南下してくる

親潮は、北太平洋の亜寒帯循環を構成する海流です。千島列島に沿って南下し、北海道東方や三陸沖へ達します。

親潮の源となる亜寒帯の海域は、黒潮の起源である熱帯・亜熱帯より太陽から受け取るエネルギーが少なく、冬には大気によって強く冷やされます。そのため、そこで形成される表層の海水は低温になります。

さらに親潮には、オホーツク海やベーリング海周辺などの冷たい水の影響も加わります。気象庁は親潮を、低温・低塩分で、溶存酸素量が多く、栄養塩に富んだ水として説明しています。

こうして北の寒冷な海域でつくられた冷たい海水が、亜寒帯循環に乗って日本の東へ運ばれてくるため、親潮は黒潮より低温になるのです。

「暖流」「寒流」は、その場所の気温ではなく水の出身地で決まる

黒潮は暖流、親潮は寒流と呼ばれますが、これは「その海流が流れる地域の空気がいつも暖かいか、寒いか」という意味ではありません。

暖流とは、一般に低緯度側の比較的暖かい水を高緯度側へ運ぶ海流です。寒流は、高緯度側の比較的冷たい水を低緯度側へ運ぶ海流です。

そのため、冬の黒潮域でも海水温が低下することはありますし、夏の親潮域がいつも極端に冷たいわけでもありません。海流の水温そのものは季節や年によって変化します。それでも平均的に見ると、南から来る黒潮は周辺より暖かく、北から来る親潮は周辺より冷たいという性質が保たれています。

黒潮はなぜ大量の熱を北へ運べるのか

黒潮は、世界でも特に強い海流の一つです。気象庁によると、速いところでは毎秒2メートル以上で流れ、幅は100km程度に及ぶことがあります。輸送する海水量も非常に大きく、毎秒数千万トン規模です。

この巨大な流れが暖かい海水を運ぶため、熱の輸送量も大きくなります。日本の南岸や黒潮続流付近では、海から大気へ多くの熱が放出されます。

冬にはアジア大陸から冷たく乾いた空気が海上へ吹き出します。その空気が暖かい黒潮や黒潮続流の上を通ると、海から顕熱や潜熱が大気へ供給され、空気が暖められます。NOAAは黒潮続流域について、冬季に海から大気への非常に大きな熱放出が起きる地域だと説明しています。

つまり黒潮は、低緯度で受け取った太陽エネルギーの一部を北へ運び、日本周辺の海と大気の温度にも影響を与えているのです。

親潮が冷たいのは「北から来る」だけではない

親潮の低温には、その流路上での大気との熱交換も関係します。親潮の源となる北太平洋亜寒帯域は冬の冷却が強く、冷たい空気によって海面から熱が奪われます。

さらに高緯度では、海氷の形成や融解、降水、河川水などの影響を受けて海水の塩分も低くなりやすくなります。JAMSTECは、親潮が低塩分である理由として、亜寒帯で降水が多いことや、オホーツク海の低塩分水が流入することを挙げています。

塩分が低い水は、同じ温度なら塩分の高い水より密度が小さくなります。このため親潮系の水は表層に広がりやすく、冷たい水塊として日本の東側に分布します。

黒潮と親潮はどこで出会うのか

黒潮は日本の南岸から東へ、親潮は北海道東方から南へ流れます。両者は日本の東、特に三陸沖から東方の海域で接近し、その間に混合域が形成されます。

気象庁によると、この海域では黒潮系の暖かい水と親潮系の冷たい水が複雑に入り組み、暖水渦や冷水渦も多数発生します。そのため海面水温や水深100m付近の水温分布を見ると、暖かい水と冷たい水が入り組んだ複雑な模様になります。

黒潮と親潮の境目には、黒潮前線や親潮前線と呼ばれる大きな水温差の帯ができます。この前線はいつも同じ場所に固定されているわけではなく、季節や年、黒潮・親潮の勢力、暖水渦・冷水渦の動きなどによって位置が変化します。

なぜ黒潮と親潮が出会う海は好漁場になるのか

黒潮と親潮が出会う海域は、世界でも有数の豊かな漁場です。その理由は、両者が異なる性質の水を運んでいるからです。

黒潮は暖かく比較的栄養塩が少ない水ですが、親潮は冷たく、硝酸塩やリン酸塩などの栄養塩を多く含む傾向があります。親潮が運ぶ栄養塩は植物プランクトンの成長を支えます。

そこへ黒潮系の比較的暖かい水が混ざることで、プランクトンが増殖しやすい環境が生まれます。気象庁は、日本東方の混合域では栄養豊富な親潮と暖かな黒潮が混じるため、プランクトンが大量に発生し、それを食べる魚が集まると説明しています。

サンマ、サバ、イワシ、カツオなど多くの魚は、海流の境界や水温の分布と深く関係しながら回遊します。そのため黒潮や親潮の流路の変化は漁場の位置にも影響を与えます。

黒潮と親潮の温度は一定ではない

「黒潮は暖かい、親潮は冷たい」という基本的な特徴はありますが、実際の水温は常に同じではありません。

黒潮の流路が岸から離れたり近づいたりすれば、沿岸の水温は大きく変化します。また黒潮から暖水渦が切り離されると、その渦が親潮域へ入り込み、通常より高い水温をもたらすことがあります。

JAMSTECの研究では、2010年代に親潮域の一部で高水温が続いた時期があり、その原因の一つとして黒潮由来の暖水渦が増え、親潮の南下を妨げたことが示されています。

逆に、親潮から切り離された冷水渦が黒潮系の海域へ入り込むこともあります。日本の東の海は、暖流と寒流が単純な一本線で接しているのではなく、渦や蛇行を通じて絶えず水を交換しているのです。

黒潮と親潮の違いを比較すると

  • 黒潮の起源:太平洋西部の熱帯・亜熱帯。暖かい海水を北へ運ぶ。
  • 親潮の起源:北太平洋の亜寒帯域。冷たい海水を南へ運ぶ。
  • 黒潮の水温:周辺海域より高温になりやすい。
  • 親潮の水温:周辺海域より低温になりやすい。
  • 黒潮の塩分:比較的高い。
  • 親潮の塩分:比較的低い。
  • 黒潮の役割:低緯度の熱を中緯度へ運び、大気へ熱を供給する。
  • 親潮の役割:冷たく栄養塩に富む水を南へ運び、海の生産力を支える。

「日本の南だから暖かい、北だから冷たい」だけでは不十分

黒潮と親潮の違いを単純に「南は暖かく、北は寒いから」と説明するだけでは、海流の仕組みを十分には捉えられません。

大切なのは、海水がその場にとどまらず、海盆規模の循環によって遠くまで運ばれているということです。黒潮は亜熱帯循環の西側を北上し、親潮は亜寒帯循環の西側を南下します。どちらも北太平洋全体の風や地球の自転、大陸の配置によって生み出された大規模な海洋循環の一部です。

その循環が、低緯度の暖かい水と高緯度の冷たい水を日本の周辺へ運び込みます。つまり黒潮と親潮の水温差は、地域的な現象であると同時に、北太平洋全体の循環の結果でもあるのです。

結局、なぜ黒潮は暖かく親潮は冷たいのか

黒潮は、太陽のエネルギーを多く受ける熱帯・亜熱帯の暖かい海水を北へ運ぶため暖かく、親潮は、日射が弱く冬の冷却が強い亜寒帯の冷たい海水を南へ運ぶため冷たいのです。

さらに黒潮は高温・高塩分、親潮は低温・低塩分という異なる性質を持ち、日本の東で混ざり合います。この水温差と水質の違いが、海面水温の分布、気候、海洋生態系、漁場の位置などに大きな影響を与えています。

黒潮と親潮を比べるときは、「暖流・寒流」という名前だけでなく、どこから来た水なのか、どの海洋循環に属しているのか、どんな熱や栄養を運んでいるのかまで見ると、違いがよりよく理解できます。

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参考資料

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