なぜ同じ磁性体でも細長い棒と薄い板では磁化しやすい向きが違うのか?

同じ磁性体でも細長い棒と薄い板で磁化しやすい向きが違うのは、磁化すると物体自身が作る反磁場の強さが、試料の形と磁化方向によって変わるからです。反磁場は外から加えた磁場に逆らう向きに働くため、反磁場が小さい方向ほど磁化をそろえやすくなります。

細長い棒では、長手方向へ磁化したときの反磁場が小さくなりやすいため、磁化は棒の長手方向へ向きやすくなります。薄い板では、板に垂直な方向へ磁化すると大きな反磁場が生じやすいため、磁化は板面に平行な方向へ向きやすくなります。このように形状によって磁化しやすい方向が生まれる性質を形状磁気異方性と呼びます。

つまり磁化しやすさは材料の種類だけでは決まりません。同じ材料でも、棒・板・薄膜・微細パターンなど形を変えると、反磁場と磁気エネルギーが変わり、磁化容易軸も変わるのです。

目次

磁化すると磁性体自身も磁場を作る

強磁性体を外部磁場で磁化すると、内部の磁気モーメントがある方向へそろい、物体全体として磁化を持ちます。

この磁化は外部空間だけでなく、磁性体自身の内部にも磁場を作ります。その内部磁場のうち、元の磁化を弱める向きに働く成分を反磁場と呼びます。

東京大学物性研究所の解説でも、強磁性体では自身の磁化に由来する反磁場が形状磁気異方性を生み、棒状試料では長手方向、薄膜では面内方向が磁化しやすくなると説明されています。

反磁場はなぜ磁化と反対向きに働くのか

磁化された有限サイズの物体では、表面に磁極に相当する磁気的な源が現れます。

たとえば棒を長手方向へ磁化すると、両端にN極とS極に相当する表面磁極が生じます。この両端の磁極が物体内部へ作る磁場は、元の磁化方向と反対向きになります。

そのため外部磁場を加えても、磁性体内部で実際に磁化を進める有効磁場は、外部磁場より小さくなります。

反磁場の大きさは形と方向で変わる

反磁場の強さは、磁化の大きさだけでなく試料形状にも依存します。

単純な形状では、反磁場係数と呼ばれる量を使って反磁場の強さを表せます。反磁場係数は、同じ物体でも磁化する方向によって異なります。

細長い棒では長手方向の反磁場係数が小さく、短手方向では大きくなります。薄い板では、面内方向の反磁場係数は小さく、面に垂直な方向では大きくなります。

細長い棒はなぜ長手方向へ磁化しやすいのか

細長い棒を長手方向へ磁化すると、正負の表面磁極は主に棒の両端へ現れます。

両端の距離が大きいため、内部へ戻る反磁場は比較的小さくなります。すると外部磁場の効果が打ち消されにくく、長手方向へ磁化しやすくなります。

東京大学物性研究所は、強磁性体では棒状であれば長手方向へ磁化がそろうことでエネルギーが低くなると説明しています。

棒を横向きに磁化すると反磁場が大きくなる

同じ細長い棒でも、短手方向へ磁化すると事情が変わります。

この場合、磁極に相当する領域が互いに近い側面へ現れやすく、内部へ戻る磁場が強くなります。その結果、磁化と逆向きの反磁場が大きくなります。

そのため長手方向よりも強い外部磁場を加えないと、同じ程度まで磁化をそろえにくくなります。

薄い板ではなぜ面内方向へ磁化しやすいのか

薄い板を板面に平行な方向へ磁化すると、磁極は主に板の端へ現れます。

一方、板面に垂直へ磁化すると、広い上面と下面に正負の表面磁極が向かい合う形になります。この配置では大きな反磁場が生じやすくなります。

そのため多くの強磁性薄膜では、形状効果だけを見れば磁化は面内方向へ向きやすくなります。

薄膜の垂直磁化が難しいのは形状磁気異方性のため

東京大学大学院理学系研究科は、強磁性薄膜では形状磁気異方性によって磁化が膜面内へ向きやすくなると説明しています。

磁化を膜面に垂直へ向けたい場合には、この形状磁気異方性に打ち勝つ別の磁気異方性が必要です。

実際の磁気メモリでは、界面磁気異方性などを利用して、薄膜でも垂直方向へ磁化しやすくする設計が使われています。

形状磁気異方性とは何か

磁気異方性とは、磁化しやすさが方向によって異なる性質です。

そのうち、試料の形によって生じるものが形状磁気異方性です。反磁場が方向によって異なるため、磁気エネルギーが低くなる方向と高くなる方向が生まれます。

磁化しやすい方向を磁化容易軸、磁化しにくい方向を磁化困難軸と呼びます。

球形では形状による方向差が小さい

球のようにどの方向から見ても同じ形なら、理想化した場合、反磁場係数も各方向で同じになります。

そのため球では、形状だけを原因とする特定方向の磁化しやすさは生まれません。

これは、形状磁気異方性が「材料の種類」ではなく「方向ごとの形の違い」から生じることを示しています。

結晶磁気異方性とは別の効果

磁化しやすい方向は形状だけで決まるわけではありません。

結晶の原子配列に由来する結晶磁気異方性や、異種材料界面に由来する界面磁気異方性、応力に由来する磁気弾性異方性などもあります。

実際の磁性材料では、これら複数の異方性の合計によって最終的な磁化容易軸が決まります。

材料が同じでも形を変えると磁化曲線が変わる

同じNi-Fe系軟磁性薄膜でも、細長い長方形へ加工するか、ほぼ正方形にするかで反磁場分布は変わります。

海外のNi-Fe薄膜研究では、パターン形状による反磁場の違いで有効な形状磁気異方性が変わり、磁化特性へ影響することが実験・計算の両面から確認されています。

そのためデバイス設計では、材料定数だけでなく縦横比やパターン寸法まで磁気特性の一部として扱います。

細長さを変えると磁化しやすさも連続的に変わる

棒が「細長いか、細長くないか」は二択ではありません。

長さと幅の比であるアスペクト比が大きくなるほど、長手方向と短手方向の反磁場差が大きくなり、形状磁気異方性も強くなる傾向があります。

海外の磁性薄膜研究でも、パターンのアスペクト比を変えることで飽和磁場や磁化容易方向が変化することが示されています。

形状磁気異方性は微細デバイスほど重要になる

磁性体を小さな素子へ加工すると、磁石全体の形が磁化状態へ強く影響します。

特に細長いストライプ、円盤、長方形薄膜などでは、形状による反磁場の違いが磁化反転や共鳴特性に影響します。

そのため磁気メモリ、磁気センサー、高周波インダクタなどでは、磁性材料の組成だけでなく素子形状まで最適化します。

磁化しやすい向きは永久に固定されているわけではない

形状磁気異方性が長手方向や面内方向を磁化しやすくしていても、十分に強い外部磁場を別方向へ加えれば磁化を回転させることはできます。

ただし磁化困難軸へ向けるには、容易軸より大きなエネルギーが必要です。

そのため「磁化できない方向」ではなく、「磁化するためにより強い磁場が必要な方向」と考える方が正確です。

薄膜でも垂直磁化を実現できるのはなぜか

薄膜の形状だけを考えると面内磁化が有利ですが、界面や結晶による垂直磁気異方性を十分大きくすれば、形状磁気異方性を上回ることができます。

その場合、薄膜でも磁化は面に垂直な方向を向きやすくなります。

つまり実際の磁化容易軸は、形状・結晶・界面・応力など複数のエネルギーを比較して決まります。

形状による違いを理解する鍵は反磁場

同じ磁性体でも細長い棒と薄い板で磁化しやすい向きが違う本質は、磁化によって生じる反磁場が、試料の形と磁化方向によって変わることにあります。

細長い棒では長手方向の反磁場が小さいため長手方向へ磁化しやすく、薄い板では面に垂直な反磁場が大きいため面内方向へ磁化しやすくなります。

この形状磁気異方性は、材料そのものの磁気特性に加えて、形状までが磁化の向きを決める重要な要素であることを示しています。

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