なぜ同じ磁気シールドでも磁場源の距離や向きで遮蔽率が変わるのか?

同じ磁気シールドでも磁場源の距離や向きで遮蔽率が変わるのは、シールドへ入ってくる磁場の空間分布が、磁場源との位置関係によって変わるからです。とくに磁場源の近くでは、磁場は一様ではなく、距離によって急激に弱まり、向きも場所ごとに変化します。

磁気シールドは、材料の透磁率や導電率だけで性能が決まるわけではありません。磁場がシールドのどの面へ、どの向きで、どれほど局所的に入射するかによって、磁束の迂回経路や渦電流の流れ方が変わります。そのため同じ箱・同じ厚さ・同じ材料でも、磁場源を近づけたり回転させたりすると、内部で測る残留磁場と遮蔽率は変化します。

つまり磁気シールドの性能は「シールド単体の固定値」ではなく、磁場源・シールド形状・測定位置を含む配置全体の性能として評価する必要があります。

目次

遮蔽率とは何を表すのか

磁気シールドの性能は、シールドがないときの磁場と、シールドを置いた後の内部磁場を比較して評価します。

磁気シールドのレビューでは、遮蔽係数は一般に、ある測定位置での「シールドなしの磁場」と「シールドありの磁場」の比として定義されます。

重要なのは、測定位置が定義に含まれていることです。シールド内部でも磁場は完全に一様ではないため、中央と壁際では残留磁場が異なる場合があります。

磁場源が遠いと一様磁場に近づきやすい

磁場源から十分離れると、シールド全体から見た磁場の変化は比較的緩やかになり、一様磁場に近い条件で考えやすくなります。

このような条件では、球・円筒・直方体などの単純形状について、材料の透磁率、厚さ、寸法から遮蔽係数を近似する式が使いやすくなります。

一方、磁場源がシールドのすぐ近くにある場合は、シールドの手前側と奥側で磁場強度が大きく異なるため、一様磁場を前提とした簡単な式だけでは実際の分布を表しにくくなります。

近接場では距離による磁場変化が大きい

コイル、電源ケーブル、モーター、変圧器などの近くでは、磁場は距離とともに急速に変化します。

KAKENの「近傍磁界シールド効果評価法に関する研究」では、近傍磁界のシールド効果は測定距離、波源の向き、シールド板の大きさによって異なるため、測定法を指定して評価する必要があると説明されています。

つまり近距離では、「同じシールド板だから同じ遮蔽率」とは言えません。磁場源を数cm動かしただけでも、シールド面での磁場分布が変わり得ます。

なぜ磁場源が近いほどシールドが難しくなることがあるのか

磁場源が近いと、シールドの一部へ磁束が集中しやすくなります。

高透磁率材料は磁束を内部へ取り込んで迂回させますが、特定部分へ磁束が集中しすぎると、その部分が磁気飽和へ近づくことがあります。

飽和すると透磁率が実効的に低下し、磁束を十分に迂回させられなくなるため、理想条件より遮蔽性能が下がる場合があります。

磁場源の向きでも分布が変わる

磁場源がコイルや磁気双極子に近い場合、磁場には強い方向性があります。

コイルの軸方向と横方向では磁場分布が異なるため、シールドに対して磁場源を回転させると、入ってくる磁束の向きと集中位置も変わります。

KAKENの研究でも、磁気ヘルツダイポールをシールド板に対して垂直に置く場合と平行に置く場合で、近傍磁界シールド効果が異なることが示されています。

円筒シールドは軸方向と横方向で効き方が違う

円筒形の磁気シールドでは、円筒軸に平行な磁場と、軸に垂直な磁場で磁束の迂回経路が異なります。

高透磁率円筒では、横方向の磁場は側壁へ流しやすい一方、軸方向の磁場では端部を回り込む磁束が重要になります。

磁気シールドのレビューでも、開放端を持つ円筒の遮蔽係数は横方向と軸方向で別の式として扱われています。

開口部があると磁場源の向きの影響がさらに大きくなる

シールドに穴や開放端がある場合、磁力線はその部分から内部へ入り込みやすくなります。

磁場源の向きによって、磁力線が開口へ正面から入る配置と、開口に沿うように流れる配置では漏れ込み方が異なります。

そのため同じ開口寸法でも、磁場源の配置を変えると内部残留磁場が変化します。

近接磁場では「どこで測るか」も重要

磁場源が近い場合、シールド内部にも磁場の勾配が残りやすくなります。

中心部ではよく遮蔽できていても、磁場源に近い壁面付近では残留磁場が大きい場合があります。

そのため高感度センサーを保護するときは、「シールド内部の平均磁場」ではなく、実際にセンサーを置く位置で遮蔽効果を確認する必要があります。

実際の医療施設でも磁場源との距離が問題になる

MRIは外部の変動磁場に敏感な装置です。

J-STAGEの研究では、エレベータのような移動磁性体がMRIへ与える変動磁場を低減するため、エレベータシャフトとMRIの距離が十分に確保できない場合を想定し、シャフト壁へ設置する磁気シールド形状が検討されています。

これは、磁場源との距離が変わればMRI位置で受ける磁場も変わり、必要なシールド設計も変わることを示す実例です。

低周波磁場では距離による材料の有利不利も変わることがある

低周波磁場の遮蔽では、高透磁率材料と導電材料で働く仕組みが異なります。

高透磁率材料は磁束を迂回させ、アルミニウムなどの導電材は時間変化する磁場による渦電流で反対向きの磁場を作ります。

医療機器の低周波磁場対策を扱った研究では、磁場源とシールドの距離を変えると、同じ厚さのアルミニウムと電磁鋼板の相対的な遮蔽効果も変化することが示されています。

磁場源が近いと局所的な飽和を考える必要がある

高透磁率材料のシールドは、磁束をシールド材の中へ集中させることで内部磁場を小さくします。

磁場源が近く、狭い領域へ強い磁束が入ると、その部分だけ磁束密度が高くなります。

材料が飽和へ近づくと、追加の磁場に対する透磁率が低下し、遮蔽率が予想より悪化する可能性があります。

大きなシールドほど一様磁場を前提にしやすいとは限らない

シールドが大きくても、磁場源がその壁のすぐ近くにあれば、局所的な近接場になります。

逆に小さなシールドでも、磁場源が十分遠ければ、シールド全体には比較的一様な磁場が入ることがあります。

したがって「大きなシールドだから近接場」「小さなシールドだから遠方場」とは決められず、磁場源までの距離をシールド寸法や波長と合わせて考える必要があります。

周波数が上がると距離の意味も変わる

電磁場では、波源に近い領域を近接場、十分遠い領域を遠方場として扱います。

電磁シールドのレビューでは、波源からの距離が波長に比べて十分小さい領域では、電場と磁場の比が一定ではなく、磁場源の種類や距離に応じて別々に評価する必要があると説明されています。

低周波では波長が非常に長いため、現実の建物や装置内では磁気的な近接場として扱う場面が多くなります。

磁気シールド試験で発生コイルを使う理由

磁気シールドの性能を公平に比較するには、磁場源の条件を再現可能にする必要があります。

そのため磁気シールド室の試験では、外側に大きなコイルを配置して、できるだけ一様な試験磁場を作る方法が使われます。

磁気シールドのレビューでも、遮蔽係数の試験には外部に均一磁場を作るコイルを設置し、シールド前後の磁場を比較する方法が紹介されています。

実機では試験条件より磁場源が複雑になる

実際の装置周辺には、電源ケーブル、モーター、トランス、エレベータ、車両など、形も周波数も異なる複数の磁場源があります。

これらの磁場は、理想的な一様磁場とは異なり、位置や時間によって大きく変化します。

したがってカタログの遮蔽係数だけで実機性能を判断するのではなく、実際の磁場源の位置・向き・周波数を測定した上で設計することが重要です。

磁場源を遠ざけること自体が有効な対策になる

近接場では磁場強度が距離によって大きく低下するため、シールドを厚くする前に磁場源を遠ざけることが有効な場合があります。

電源トランスや大電流ケーブルを高感度センサーから離す、エレベータシャフトとMRIの距離を確保する、といったレイアウト変更は、シールドへ入る磁場そのものを減らします。

これは磁気シールドだけに負担をかけず、発生源対策と受け側対策を組み合わせる設計です。

磁場源の向きを変えることも対策になる

磁場源がコイルやループ電流のように方向性を持つ場合、向きを変えるだけで保護対象へ届く磁場を減らせることがあります。

さらにシールドの開口部や円筒軸と磁場源の向きを調整すれば、磁束が内部へ入りにくい配置を選べる場合があります。

ただし、別の位置では逆に磁場が大きくなることもあるため、最終的には三次元の磁場分布で確認する必要があります。

高感度計測では勾配まで評価する必要がある

脳磁計や高感度磁気センサーでは、磁場の絶対値だけでなく空間勾配も問題になります。

磁場源が近いほど、位置を少し動かしただけで磁場が変わる大きな勾配が生じやすくなります。

そのため遮蔽設計では、中心点の磁場を小さくするだけでなく、センサーが動く範囲や測定空間全体で磁場と勾配を小さくすることが重要です。

同じシールドでも遮蔽率が変わる本質

同じ磁気シールドでも磁場源の距離や向きで遮蔽率が変わる本質は、シールドへ入射する磁場の空間分布が変わることにあります。

磁場源が遠く一様磁場に近いときと、近くて強い勾配を持つときでは、磁束がシールド材へ流れ込む位置も量も違います。磁場源の向きを変えれば、円筒軸・開口部・壁面に対する磁場方向も変わります。

だから磁気シールドの性能は、材料名や厚さだけでは表せません。磁場源の距離・向き・周波数、シールド形状、測定位置まで含めた条件付きの性能として評価する必要があるのです。

関連記事

参考資料

関連する「なぜ?」

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次