ヨーグルト、漬物、味噌、しょうゆ、清酒、ワイン、発酵肉などは、いずれも発酵を利用した食品です。しかし、同じ「発酵食品」でも、冷蔵が必要なもの、比較的長く保存しやすいもの、開封後は早く品質が変わるものなど、保存性には大きな違いがあります。
発酵食品の保存性が食品や保存条件によって違うのは、食品ごとにpH、食塩濃度、水分活性、エタノール濃度、酸素条件、発酵微生物、包装、保存温度の組み合わせが異なるからです。発酵によって酸やアルコールが作られていても、それだけで保存性が決まるわけではありません。どの保存因子がどの程度働いているかによって、腐敗微生物が増えやすいかどうかが変わります。
発酵食品の保存性は「何が発酵したか」だけでは決まらない
発酵食品では、乳酸菌、酵母、麹菌などが原料を変化させます。その結果、乳酸、酢酸、エタノール、二酸化炭素などが生じ、腐敗菌や一部の病原菌が増えにくい環境が作られることがあります。
しかし、食品ごとに原料と製造法は異なります。牛乳から作るヨーグルト、野菜に塩を加える漬物、大豆と米麹を使う味噌、米から作る清酒では、水分量、塩分、アルコール、pHなどが同じではありません。
2024年の伝統発酵食品と乳酸菌に関する国内総説でも、発酵食品は乳、肉、魚介、野菜、果実、穀類、豆類など原料が多様で、温度、pH、塩分、水分活性などの組み合わせによって、それぞれ異なる微生物生態系が形成されると説明されています。
保存性の違いも、この食品環境の違いから生まれます。
ヨーグルトは酸性でも冷蔵が必要
ヨーグルトでは乳酸菌が乳糖から乳酸を作り、pHを下げます。酸性化によって多くの細菌は増殖しにくくなります。
一方で、ヨーグルトは水分が多く、水分活性も高い食品です。酸に比較的強い酵母やカビなどは、条件が合えば増える可能性があります。
そのため、ヨーグルトの保存性は低pHだけに依存しているわけではありません。発酵後に冷却して乳酸菌の活動を抑え、腐敗微生物の増殖速度も低下させることで品質を保ちます。
つまり、ヨーグルトでは「発酵による酸性化」と「冷蔵」という二つの条件が重要です。発酵食品だから常温で保存できる、という意味ではありません。
漬物は酸・塩・低温の組み合わせで保存性が変わる
発酵漬物では、乳酸菌が野菜中の糖を利用して乳酸を作り、pHを下げます。同時に、製造時に加えた塩が水分活性や浸透圧へ影響し、塩に弱い微生物を抑えます。
しかし、塩分と酸があるだけで保存期間が固定されるわけではありません。保存温度が高いと、酸に強い酵母や他の微生物が増えたり、乳酸発酵が進みすぎたりして品質が変化しやすくなります。
発酵漬液を調べた国内研究では、25℃保存では数日後に濁りが増えた一方、4℃では1か月間清澄状態を保ったと報告されています。
この例からも、漬物の保存性は「乳酸発酵したかどうか」だけでなく、保存温度によって大きく変わることが分かります。
味噌では塩分と低い水分活性が大きな役割を持つ
味噌は、ヨーグルトより水分が少なく、一般に塩分も高い食品です。
塩分が高いと、微生物の細胞外の浸透圧が高まり、多くの微生物は増殖しにくくなります。また、食品中で微生物が利用できる水の程度を示す水分活性も低下します。
国内の味噌研究では、食塩濃度と水分活性の関係が調べられ、食塩が高いほど水分活性が低くなる傾向が示されています。別の自家製味噌の調査でも、比較的高い食塩濃度と低い水分活性が測定されています。
そのため、味噌では発酵中に生じる酸などに加えて、塩分と水分活性が保存性へ大きく寄与します。
しょうゆでは高塩環境そのものが微生物を選ぶ
しょうゆのもろみでは高い塩分条件が使われます。高塩環境では、多くの一般細菌は増殖しにくくなります。
一方で、しょうゆ発酵に必要な乳酸菌や酵母には、塩に耐えて活動できる微生物が選ばれています。
国内のしょうゆもろみ研究では、仕込み後に塩へ弱い細菌群が減少し、耐塩性の乳酸菌が優勢になる微生物相の変化が報告されています。
つまり、しょうゆでは塩分が単なる味付けではなく、発酵に参加できる微生物を選択し、同時に他の微生物の増殖を抑える環境条件になっています。
酒類ではエタノール濃度が重要な保存因子になる
清酒やワインなどでは、酵母のアルコール発酵によってエタノールが蓄積します。一定濃度のエタノールは、多くの微生物の細胞膜やタンパク質へ影響し、増殖を抑えます。
そのため、アルコールをほとんど含まない発酵食品と比べると、酒類ではエタノールが保存性を支える大きな要因になります。
ただし、エタノールがあればすべての微生物が増えないわけではありません。清酒では、エタノールに比較的強い火落菌として知られる乳酸菌が問題になることがあります。
国内研究では、火落菌の中に高いエタノール濃度でも生育できる株が存在することが報告されています。酒類でも、アルコールだけを安全性の根拠にすることはできません。
発酵肉ではpH・水分活性・温度が同時に効く
発酵ソーセージなどの発酵肉では、乳酸菌によるpH低下に加えて、塩分や乾燥による水分活性の低下が重要です。
このような食品では、酸性化だけでなく乾燥が進むことで、腐敗菌や病原菌が増殖しにくい環境が作られます。
発酵肉におけるEscherichia coliの不活化を44研究から解析したメタ解析では、pH、水分活性、温度が生残へ影響し、特に他の条件によって増殖が抑えられている状況では温度が不活化速度へ大きく影響することが示されています。
つまり、発酵肉の保存性は「酸っぱいから」だけではなく、酸、乾燥、塩、温度が重なった結果です。
同じ低pHでも保存性は同じとは限らない
二つの発酵食品のpHが同じでも、保存性が同じになるとは限りません。
たとえば、ヨーグルトは低pHでも水分が多いため冷蔵が必要です。一方、塩分が高く水分活性が低い食品では、同じ程度のpHでも別の微生物抑制効果が加わります。
また、有機酸の種類によっても抗菌力は異なります。乳酸、酢酸などの弱酸は、非解離型の割合や細胞膜への入りやすさが異なるため、同じpHでも微生物への影響が完全には同じになりません。
保存性を比較するときは、pHだけでなく、酸の種類、水分活性、塩分、温度などを合わせて見る必要があります。
同じ塩分でも水分量が違えば効果は変わる
塩分は保存性を考える重要な指標ですが、重量百分率の塩分だけで微生物の増殖可能性を決めることはできません。
食品中の水分量や他の溶質によって、水分活性は変わります。水分活性が低くなると、微生物は細胞内の水分を維持しにくくなり、増殖が制限されます。
味噌やしょうゆのような高塩発酵食品では、塩による浸透圧と水分活性低下が重要ですが、低塩の発酵野菜では酸性化と冷蔵の役割がより大きくなることがあります。
つまり、同じ「塩を使う発酵食品」でも、塩の位置づけは食品によって違います。
保存温度はほぼすべての発酵食品で重要
温度が低いと、多くの微生物では酵素反応や細胞分裂が遅くなります。そのため、冷蔵は発酵食品の品質保持に広く使われます。
特に、水分が多く、塩分やアルコールが低い発酵食品では、低温の重要性が高くなります。
一方、味噌やしょうゆのように塩分と水分活性が強い障壁になる食品でも、高温では化学反応や微生物活動が進み、香りや色が変わることがあります。
保存温度は微生物の安全性だけでなく、発酵後の品質変化の速さにも関係します。
開封すると保存条件が変わる
未開封の発酵食品では、包装によって酸素や外部微生物の侵入が制限されています。
開封すると空気に触れ、容器や器具から新しい微生物が入る可能性が高まります。表面では酸素が利用できるため、カビや好気性酵母が増えやすくなる場合があります。
また、取り分けるたびに水分や食品残渣が混入すると、局所的に塩分や水分活性が変化することもあります。
このため、同じ発酵食品でも未開封時と開封後では保存性が同じとは限りません。表示された保存方法を守る必要があります。
保存性と安全性は同じ意味ではない
発酵によって腐敗しにくくなることと、食品が無条件に安全になることは同じではありません。
発酵が十分に進まずpHが下がっていない場合、塩分が少なすぎる場合、保存温度が高すぎる場合には、望ましくない微生物が増える可能性があります。
また、食品によっては発酵以外に加熱、冷蔵、衛生的な包装などが安全性確保に重要です。
したがって、「発酵食品だから長持ちする」という一般論ではなく、その食品に設定された製造・保存条件を守ることが必要です。
食品ごとに保存性を支える主役が違う
発酵食品を比較すると、保存性を支える主な要因には違いがあります。
- ヨーグルト:低pH+冷蔵
- 発酵漬物:有機酸+塩分+冷蔵
- 味噌:塩分+低い水分活性+発酵生成物
- しょうゆ:高塩環境+低い水分活性+酸・アルコールなど
- 清酒・ワイン:エタノール+酸性条件+包装・温度管理
- 発酵肉:低pH+塩分+乾燥による水分活性低下+温度管理
どの食品でも一つの要因だけで保存性が決まるわけではありませんが、どの障壁が強く働くかは食品ごとに異なります。
保存性の違いは「ハードルの組み合わせ」の違い
食品保存では、pH、塩分、水分活性、温度、エタノール、包装、抗菌物質など、複数の条件を組み合わせる考え方があります。
発酵食品でも、ヨーグルトは酸性化と冷蔵、味噌は塩分と低水分活性、発酵肉は酸性化と乾燥というように、食品ごとに異なるハードルの組み合わせが使われています。
発酵による保存性を広く扱った海外レビューでも、乳酸菌などの発酵微生物が作る有機酸や抗菌性物質に加え、塩分、温度、包装など複数の条件を組み合わせることが食品保存の基本とされています。
つまり、発酵食品の保存性の差は「発酵の強さ」の差というより、どの保存障壁が、どの程度、どの順番で重なっているかの差と考えると理解しやすくなります。
保存期間は食品名だけでは決められない
同じ種類の食品でも、製品ごとに保存期間が違うことがあります。
塩分、pH、水分量、加熱の有無、包装方法、スターター菌、保存温度などが違えば、微生物の増殖条件も変わるからです。
さらに、家庭で作った発酵食品と管理された工場製品では、初期菌数や包装条件も異なります。
そのため、保存期間を判断するときは「味噌だから大丈夫」「漬物だから長持ちする」と食品名だけで考えず、製品ごとの表示や保存条件を確認することが重要です。
まとめ
発酵食品の保存性が食品や保存条件によって違うのは、食品ごとにpH、塩分、水分活性、エタノール、温度、酸素、包装、微生物相の組み合わせが異なるためです。
ヨーグルトでは酸性化に加えて冷蔵が重要で、発酵漬物では酸・塩・低温が組み合わさります。味噌やしょうゆでは塩分と低い水分活性が大きく働き、酒類ではエタノールが重要な障壁になります。発酵肉では酸性化、塩分、乾燥、温度が重なります。
したがって、発酵食品の保存性を比較するときには、「発酵しているか」だけではなく、どの保存因子がどの程度働き、どの微生物を抑えているのかを見る必要があります。発酵は保存性を高める重要な仕組みですが、その効果は食品と保存条件によって大きく変わります。
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参考資料
- 小栁喬「乳酸菌と伝統発酵食品―多様な菌株の分離源として―」日本乳酸菌学会誌, 2024.
- 小田尚子・澤田佳与子「発酵漬液の漬物用調味液としての利用とその保存性」日本食品工業学会誌, 1991.
- McQuestin OJ, Shadbolt CT, Ross T. Quantification of the relative effects of temperature, pH, and water activity on inactivation of Escherichia coli in fermented meat by meta-analysis. Applied and Environmental Microbiology, 2009.
- Ross RP, Morgan S, Hill C. Preservation and fermentation: past, present and future. International Journal of Food Microbiology, 2002.

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