住まいの「湿気」は、室内の空気中にじっととどまっているわけではありません。水蒸気として空気と一緒に移動したり、壁や天井などの材料をゆっくり通り抜けたり、木材や壁紙などに吸収されて後から放出されたりします。さらに、雨水や地面の水分は液体のまま材料の細かなすき間を移動することもあります。
そのため、同じ住宅でも、キッチンや浴室で発生した水分が別の部屋へ広がったり、壁体内へ入り込んだり、家具や内装材へ一時的に蓄えられたりします。
つまり、住まいの湿気が空気や材料を通って移動するのは、水分が「空気に運ばれる」「水蒸気として拡散する」「材料に吸われて放出される」「液体の水として毛細管を進む」という複数の経路を持つからです。
住宅の湿気は一つの方法だけで移動しない
米国エネルギー省のBuilding Science Educationでは、建物の水分移動を主に、液体水の侵入、毛細管移動、空気に運ばれる水分、水蒸気拡散という複数の経路に分けて説明しています。
住宅の中では、これらが同時に起こることがあります。たとえば、雨で外壁が濡れた後に材料へ水分が吸い込まれ、日射で温められて水蒸気となり、壁体内や室内へ移動することがあります。
湿気対策を考えるときに重要なのは、「湿度が高いか低いか」だけでなく、水分がどこから入り、どの経路を通り、どこへ蓄えられ、どこから出ていくかを見ることです。
空気が動くと水蒸気も一緒に移動する
空気には水蒸気が含まれています。そのため、湿った空気そのものが移動すれば、水分も一緒に運ばれます。
たとえば、浴室のドアを開けると、入浴で湿った空気が廊下や隣室へ広がります。キッチンで発生した水蒸気も、換気が弱ければリビングや他の部屋へ移動します。
壁体内でも同じです。建物にすき間があり、室内外の圧力差によって空気が壁の中へ流れ込むと、その空気に含まれる水蒸気も一緒に運ばれます。
DOEの建築科学資料では、空気漏れは水蒸気を建物内部へ運ぶ大きな経路であり、空気の流れを制御するには気密層が重要だとされています。
水蒸気は空気が動かなくても材料を通って移動する
水蒸気は、空気の流れがほとんどなくても、材料を通して少しずつ移動します。これを水蒸気拡散といいます。
拡散は、水蒸気圧の高い側から低い側へ進みます。一般に、冬は暖かく湿った室内側から寒く乾いた屋外側へ向かいやすく、夏の高温多湿時には条件によって逆方向へ進むこともあります。
石膏ボード、木材、断熱材、塗膜などは、水蒸気をまったく通さないわけではありません。材料ごとに水蒸気の通しやすさが異なります。
そこで、壁体内へ入る水蒸気量を抑えるために、防湿層や防湿性のある材料を使うことがあります。ただし、必要な位置や性能は気候や壁構成によって変わります。
「空気漏れ」と「水蒸気拡散」は何が違う?
空気漏れでは、水蒸気を含んだ空気そのものがすき間を通って移動します。一方、水蒸気拡散では、空気全体が流れていなくても、水蒸気分子が材料を通って移動します。
この二つは別の現象なので、対策も違います。
空気漏れを抑えるには、連続した気密層を設けてすき間を減らします。水蒸気拡散を抑えるには、必要に応じて防湿層や透湿抵抗の大きい材料を使います。
DOEは、空気に運ばれる湿気を抑える「air barrier」と、水蒸気拡散を抑える「vapor barrier / vapor retarder」を別の役割として説明しています。
そのため、「防湿シートを貼れば空気漏れも止まる」「気密を高めれば水蒸気拡散も完全になくなる」と単純には考えられません。
壁や家具は湿気を吸ったり放したりする
住宅を構成する材料の中には、周囲の湿度に応じて水分を吸収したり放出したりするものがあります。これを吸放湿といいます。
木材、紙、布、畳、石膏系材料などは、空気が湿っていると水分を吸い、空気が乾くと蓄えた水分を放出します。
建築研究所の室内温湿度研究では、室内湿度は、水蒸気の発生、換気による流出入、結露に加えて、壁などの吸放湿によって大きく影響されるとされています。
日本建築学会の研究でも、壁の吸放湿が室内湿度や冷暖房負荷へ影響することが数値解析で示されています。
このため、室内へ水蒸気を加えても、その全量がすぐ空気中へ残るとは限りません。一部は壁や家具へ吸収され、時間がたってから再び空気へ戻ることがあります。
吸放湿は「湿気をなくす」仕組みではない
吸放湿性のある材料は、湿度の急激な変化をやわらげる働きを持ちますが、水分を永久に消しているわけではありません。
湿度が高いときに材料へ吸収された水分は、周囲が乾けば再び放出されます。
そのため、室内で大量の水蒸気が発生し続け、換気や除湿で外へ出せない状態では、吸放湿材料だけで湿気問題を解決することはできません。
吸放湿は、水分を一時的に蓄えて湿度変化を緩やかにする仕組みと考える方が正確です。
液体の水は材料の細かなすき間を進むことがある
湿気の移動には、水蒸気だけでなく液体の水も関係します。
レンガ、コンクリート、木材などの多孔質材料には、目に見えない細かな孔があります。液体の水が材料へ触れると、この細孔を通って水分が吸い上げられることがあります。これが毛細管移動です。
たとえば、地面と接する基礎や床下、雨に濡れた外壁、漏水した部分などでは、液体水が材料内部へ広がる場合があります。
DOEは、建物の水分移動を考える際に、液体水の侵入と毛細管移動を、水蒸気や空気輸送とは別の経路として扱っています。
毛細管移動を抑えるためには、防水層、排水、地面から水分を切る材料などで液体水の経路を断つ必要があります。
湿気の移動は温度によってどう変わる?
水分の移動と温度は密接に関係します。
暖かい空気は、冷たい空気より多くの水蒸気を含めます。そのため、暖かく湿った空気が冷たい場所へ移動すると、温度低下によって相対湿度が上がります。
さらに露点を下回ると、水蒸気は液体の水へ変わります。壁体内でこれが起これば内部結露になります。
また、日射で外壁が温められると、材料に含まれていた水分が水蒸気として放出され、別の場所へ移動することもあります。
つまり、湿気の移動は水分量だけでなく、住宅内外の温度分布にも左右されます。
換気は湿気の移動をどう変える?
換気は、室内空気を外気と入れ替えるため、室内の水蒸気収支を変えます。
屋外の空気が室内より乾いている場合は、換気によって水蒸気を外へ排出し、室内湿度を下げやすくなります。
一方、夏の高温多湿時など、屋外の絶対湿度が高い場合には、外気を取り入れることで室内へ水蒸気を運び込むこともあります。
そのため、換気は常に「除湿」と同じではありません。外気条件によっては、冷房や除湿機で水分を除去する必要があります。
壁の中の湿気を安全に扱うには何が必要?
液体水を入れない
雨漏り、配管漏れ、地面からの水分など、液体の水が建物内部へ入る経路を防ぎます。
空気漏れを減らす
気密層を連続させ、湿った空気が意図しないすき間から壁体内へ大量に入り込むのを抑えます。
水蒸気拡散を調整する
地域や壁構成に応じて、防湿層や透湿性のある材料を使い、水蒸気が過剰に壁体内へ入らないようにします。
入った水分が乾けるようにする
建物へ水分が完全に入らないようにすることは難しいため、通気層や透湿性などによって、入った水分が長期間残らず乾燥できる構成にすることも重要です。
室内の湿気を考えるときに確認したい4つの経路
どこで水蒸気が発生しているか
調理、入浴、室内干し、加湿器、人の呼吸など、室内の水蒸気源を確認します。
どこへ空気が流れているか
換気設備、ドア、給気口、建物のすき間などを通じて、湿った空気がどこへ移動しているかを見ます。
どの材料が水分を吸っているか
木材、壁紙、布、家具など、吸放湿する材料が室内湿度の変化を一時的に緩和している場合があります。
液体水が入っていないか
雨漏り、結露、配管漏れ、地面からの水分など、水蒸気以外の水分源がないか確認します。
まとめ
住まいの湿気が空気や材料を通って移動するのは、水分が一つの形だけで存在しているわけではないからです。
水蒸気は、湿った空気と一緒に移動したり、水蒸気圧の差によって材料を拡散したりします。木材や壁材は水分を吸ったり放したりし、雨水や地面の水分は液体のまま材料の細孔を毛細管で移動することがあります。
さらに、温度が変われば相対湿度や結露の起こりやすさも変わり、水分の移動先や状態も変化します。
そのため、住宅の湿気対策では「換気する」「除湿する」だけでなく、液体水、空気漏れ、水蒸気拡散、材料の吸放湿という複数の経路を分けて考えることが重要です。水分がどこから入り、どの経路を通り、どこへ抜けるかを整理することで、結露やカビ、建材の劣化を防ぎやすくなります。

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