なぜ川幅は洪水の起こりやすさに影響するのか?

結論からいうと、川幅は川が一度に流せる水の量、つまり「流下能力」に関係するため、洪水の起こりやすさに影響します。 同じ水深や流れ方を仮定すれば、川幅が広いほど水が通れる横断面積が大きくなり、多くの水を流しやすくなります。反対に、川幅が狭く流下能力が小さい場所では、大雨で流量が増えたときに水位が上がりやすく、堤防を越えたり周囲へあふれたりする危険が高まります。

ただし、洪水の起こりやすさは川幅だけで決まりません。水深、河床の高さ、川の勾配、流れを妨げる樹木や構造物、河床の粗さ、堤防の高さ、上流から来る洪水流量なども関係します。大切なのは、川幅を「川が水を流すための断面をつくる要素の一つ」として考えることです。

目次

洪水は「来る水の量」が「川が流せる量」を上回ると起こりやすい

大雨が降ると、流域に降った水の一部が地表や支流を通って本川へ集まります。雨が強かったり長く続いたりすると、川を流れる水の量である流量が大きく増えます。

一方、川には、その河道の形や勾配などに応じて安全に流せる水量の限界があります。国土交通省では、洪水を安全に流下させることが可能な水位以下で流せる最大の流量を、河道の「流下能力」として評価します。

上流から流れてくる洪水流量が河道の流下能力に近づくと水位は高くなり、さらに大きな流量になると、堤防のない場所では川岸から水があふれたり、堤防のある場所では計画上の安全な水位を超えたりする可能性が高まります。

つまり、洪水の起こりやすさを考える基本は、「どれだけの水が川へ来るか」と「その川がどれだけの水を流せるか」の比較です。川幅は後者に関係します。

川幅が広いと水が通れる横断面積が大きくなる

川を横からではなく、流れに直角の方向に切って見ると、水が通っている断面が見えます。この水の通り道の面積を「河積」と呼びます。

河積は、おおまかには川幅と水深によって決まります。単純な長方形の水路を考えれば、幅10メートル、水深2メートルなら断面積は20平方メートルです。幅20メートルで同じ水深なら40平方メートルとなり、水が通れる空間は2倍になります。

実際の川底は平らではなく、岸の形も複雑なので単純な長方形ではありません。それでも、川幅を広げれば一般に河積を大きくできるという基本的な関係は変わりません。

国土交通省の災害復旧に関する技術資料でも、河川の流下能力を増やすために河積を拡大する場合、原則として河道の拡幅を基本とする考え方が示されています。実際の河川整備でも、川幅を広げて洪水を流しやすくする方法が使われています。

流量は「断面積×流速」で考えられる

川幅が流下能力に関係する仕組みは、流量の基本式を考えるとわかりやすくなります。

米国地質調査所(USGS)は、河川の流量を基本的に「水が流れる横断面積×平均流速」で求めています。式で表せば、流量=横断面積×平均流速です。

たとえば、同じ平均流速で流れるなら、横断面積が大きい川ほど一定時間に多くの水を通すことができます。川幅が広くなれば横断面積を大きくしやすいため、洪水時の大量の水を流す余裕も増えます。

反対に、川幅が狭い区間では、同じ量の水を流すために水深が増したり流速が速くなったりする必要があります。洪水時には水位が大きく上昇し、堤防や川岸に近づきやすくなります。

狭い場所では「ボトルネック」ができることがある

川は上流から下流まで同じ幅ではありません。広い場所もあれば、地形、橋、堤防、護岸、住宅地などの条件によって狭くなっている場所もあります。

このような狭窄部では、上流から大量の水が来ても、下流へ流せる量が制限されることがあります。流れにくくなった水は上流側で水位を押し上げ、周辺の浸水リスクを高めることがあります。

道路で車線が減る場所に渋滞が起こりやすいのと少し似ています。ただし、水は自動車と違って止まって待つのではなく、水位を上げたり流速を変えたりしながら通ろうとします。その水位上昇が大きくなると、越水や氾濫につながります。

川幅が狭いと水位が上がりやすいのはなぜか

洪水時には、短時間に非常に大きな流量が川へ入ります。広い河道なら、水平方向にも広がって流れることができます。しかし川幅が限られていると、増えた水は主に水深を増すことで断面を確保しようとします。

そのため、同じ洪水流量なら、他の条件が似ている場合、幅の狭い断面では水位が高くなりやすくなります。水位が堤防の高さに近づけば、波や流れの変動も含めて安全上の余裕が小さくなります。

国土交通省が河川の流下能力を検討するときも、河道の横断形、粗度、洪水時の水位や流速などを使って水位計算を行います。川幅だけを見て安全性を判断するのではなく、「その断面で洪水流量を流したときに水位がどこまで上がるか」を評価するのです。

川幅を広げると洪水対策になる理由

河川改修では、必要な流下能力を確保するために川幅を広げる「河道拡幅」や「引堤」が行われることがあります。

川幅を広げると河積を増やせるため、同じ洪水流量でも水深や流速の増加を抑えやすくなります。国土交通省の「美しい山河を守る災害復旧」でも、流下能力を増大させる場合には河積の拡大を原則として拡幅によって行う考え方が示され、実際の整備例として川幅を広げて洪水時の流速が過度に増えないようにした事例が紹介されています。

川底を掘り下げても河積を増やすことはできますが、深く掘りすぎると洪水時の流速や川底を動かす力が増え、河床低下や護岸への影響が生じることがあります。そのため、用地などの条件が許す場合は、単に深くするより川幅を確保することが重視される場合があります。

ただし「広い川なら洪水にならない」わけではない

川幅が広いほど一般に多くの水を流せますが、それだけで洪水の安全性が決まるわけではありません。

たとえば、非常に広い川でも、上流の流域が大きく、記録的な大雨によって莫大な流量が集中すれば氾濫することがあります。逆に、川幅が比較的狭くても、水深が十分にあり、勾配があり、流れを妨げるものが少なく、上流の洪水流量が小さければ、安全に流せる場合があります。

USGSの河川流量の説明でも、流量は幅だけでなく水深と流速によって決まります。また、流速は河道の勾配や形、川底・河岸の粗さなどの影響を受けます。

したがって、「川幅が2倍なら洪水に2倍強くなる」といった単純な比例関係ではありません。

川幅以外に洪水の起こりやすさを左右する条件

水深と河床の高さ

川幅が同じでも、深い川は横断面積を大きく確保できます。一方、土砂が堆積して川底が高くなると河積が小さくなり、流下能力が低下することがあります。

川の勾配

水面や河床の勾配は流速に影響します。一般に勾配が急なら水は速く流れやすく、緩ければ流れは遅くなりやすくなります。ただし、流速が速すぎると河床や河岸の侵食が問題になることもあります。

河床や河岸の粗さ

大きな石、植生、樹木などは水の流れに抵抗を与えます。国土交通省も、同じ流量でも河床の岩や樹木などによる抵抗、つまり粗度が大きいほど水位が高くなることがあると説明しています。

橋脚や堰などの構造物

橋脚、堰、狭い橋梁部などは流れを局所的に妨げることがあります。流木が橋に引っかかれば、さらに水が流れにくくなり、上流側の水位を上げる場合があります。

堤防の高さと強さ

同じ川幅・同じ水位でも、堤防の高さや構造によって氾濫の危険性は変わります。水位が高くても堤防内に収まる場合と、低い堤防を越える場合では結果が大きく異なります。

上流から来る洪水流量

最も基本的なのは、そもそもどれほどの水が川へ集まるかです。流域が広い、大雨が強い、都市化で雨水が地面へしみ込みにくい、といった条件では洪水流量が大きくなりやすくなります。

川幅と洪水の関係は「流下能力」で見ると理解しやすい

川幅と洪水の関係を正確に理解するには、「広い・狭い」という見た目だけでなく流下能力という考え方を使うとわかりやすくなります。

土木学会の研究では、河道の維持管理では現在の河道が持つ流下能力を継続して評価することが重要だとされています。土砂の堆積や樹木の繁茂によって河道が変わると、もともと確保されていた流下能力が低下する場合があるためです。

つまり、完成した河川改修も永遠に同じ能力を持つとは限りません。川幅が十分でも、土砂や樹木によって実際に水が流れる空間が狭くなれば、洪水時の水位が上がる可能性があります。

自然の川は洪水に合わせて川幅自体が変わることもある

川幅は人工的に決められた固定値だけではありません。自然河川では、大洪水によって河岸が侵食され、川幅が広がることがあります。

土木学会の研究では、流下能力を大きく超える洪水によって河岸侵食が起こり、河幅や河道形状が変化した事例が研究されています。これは、川が非常に大きな流量を受けたとき、河道そのものが水や土砂の力によって変形することを意味します。

したがって、川幅は洪水を左右する条件であると同時に、洪水によって変えられる地形でもあります。

「川を広げれば解決」だけではない理由

川幅を広げることは有力な洪水対策の一つですが、都市部では住宅、道路、鉄道などが川の近くまで存在し、大規模な拡幅が難しいことがあります。

また、上流から来る洪水流量そのものが非常に大きくなれば、河道だけですべてを受け持つことには限界があります。そのため実際の洪水対策では、河道拡幅や掘削だけでなく、ダム、遊水地、雨水貯留施設、田んぼや公園での貯留、土地利用の工夫などを組み合わせます。

近年の「流域治水」も、川の中だけで洪水を処理するのではなく、流域全体で水を貯めたり流出を遅らせたりしながら被害を減らす考え方です。

身近な水路を考えるとイメージしやすい

川幅の影響は、雨どいや側溝を想像するとわかりやすくなります。

同じ雨量でも、幅も深さも小さい側溝では大量の水が一度に入るとすぐ満水になります。幅や深さが十分にある側溝なら、同じ水量でも余裕を持って流せます。

河川は側溝よりはるかに複雑ですが、「入ってくる水の量に対して、水が通る断面に十分な余裕があるか」という基本は同じです。川幅は、その余裕を決める重要な要素の一つです。

まとめ

川幅が洪水の起こりやすさに影響するのは、川幅が河積と流下能力を左右し、洪水時にどれだけの水を安全に流せるかに関係するからです。

  • 川幅が広いほど、同じ水深なら水が通る横断面積を大きくできる
  • 河積が大きいほど、大量の洪水流を流せる余裕を確保しやすい
  • 狭い区間では洪水時に水位が上がり、越水や氾濫の危険が高まることがある
  • 河道拡幅は流下能力を高める代表的な治水対策の一つ
  • ただし洪水リスクは川幅だけでなく、水深、勾配、粗度、土砂堆積、堤防、上流からの流量などにも左右される

「川幅が狭いから洪水になる」のではなく、「洪水時に来る水量に対して、その川の横断面や流れ方が十分な流下能力を持っているか」が本質です。 川幅は、その流下能力を形づくる重要な条件だからこそ、洪水の起こりやすさに影響するのです。

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参考資料

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