なぜ火山の火砕流は場所や条件によって違うのか?

火山の火砕流に場所や条件による違いがあるのは、火砕流が生まれる仕組み、含まれる火山灰や岩塊の量、火山ガスの割合、噴出量、発生する高さ、斜面や谷の地形、水との接触などが噴火ごとに異なるためです。その結果、谷に沿って進みやすい高濃度の火砕流もあれば、粒子が少なくガスの多い火砕サージのように尾根を越えて広がる流れもあります。

つまり、「火砕流」と呼ばれる現象はすべて同じものではありません。同じ火山でも、噴煙柱が崩れて起こる場合と溶岩ドームが崩れて起こる場合では、流れに含まれる粒子の大きさや密度、流れ方、到達範囲が変わることがあります。

目次

まず火砕流とは何か

気象庁は、火砕流を、噴火によって放出された破片状の固体物質と火山ガスなどが混ざった状態で、地表に沿って流れる現象としています。温度は数百℃、速度は時速100kmを超えることもあるため、火山災害の中でも特に危険な現象です。

火砕流の中には、火山灰や軽石、岩塊が多い比較的高密度の流れと、ガスの割合が大きく粒子濃度の低い希薄な流れがあります。後者は「火砕サージ」と呼ばれます。

米国地質調査所(USGS)も、火砕流を高温の火山岩片・軽石・火山灰・火山ガスなどが高密度で混ざった流れとして説明し、その上部や周囲に希薄な灰雲が発達することがあるとしています。

火砕流の違いを生む第一の要因は「どう発生したか」

火砕流には複数の発生パターンがあります。代表的なのは、噴煙柱の崩壊と溶岩ドームの崩壊です。

噴煙柱の崩壊で発生する場合

爆発的噴火では、火山灰、軽石、火山ガスなどが高く吹き上げられ、噴煙柱を形成します。噴煙柱が周囲の空気を取り込みながら十分な浮力を保てれば上昇を続けますが、噴出物が多すぎる、冷却する、密度が高くなるなどして上昇を維持できなくなると、噴煙柱が崩れます。

崩れた高温の粒子とガスは重力で斜面を流れ下り、大規模な火砕流になることがあります。USGSは、ガスに富むデイサイト質マグマなどが爆発的に噴出した際、上昇中の噴煙柱が冷えて支えきれなくなると、高い流動性を持つ火砕流が生じると説明しています。

溶岩ドームの崩壊で発生する場合

粘性の高い溶岩は火口付近にたまり、急斜面の溶岩ドームをつくることがあります。成長したドームの一部が重力で崩壊すると、高温の岩塊が細かく砕けながら斜面を落下し、火山灰とガスを巻き込んで火砕流になります。

産業技術総合研究所・地質調査総合センターは、1991年の雲仙普賢岳で発生した火砕流が、溶岩ドームの崩壊によって生じたことを紹介しています。

この2種類だけでも、噴煙柱崩壊型は細粒の軽石や火山灰を多く含みやすく、ドーム崩壊型は大きな高温岩塊を多く含む場合があるなど、流れの性質に違いが生じます。

高濃度の火砕流と火砕サージはどう違うのか

火砕密度流の内部では、粒子が多く地面近くを流れる高濃度部分と、粒子が少なくガスの割合が大きい希薄部分が同時に存在することがあります。

気象庁は、火砕サージを火山ガスを主体とする希薄な火砕流とし、流動性が高く、高速で、尾根を乗り越えて流れることがあるとしています。

USGSも、火砕サージは火砕流より密度が低く、ガスを多く含む乱流状の流れであるため、谷に閉じ込められにくく、丘や尾根を乗り越える場合があると説明しています。

一方、高密度の火砕流は地形の低い場所へ集まりやすく、谷筋に沿って進むことが多くなります。つまり、粒子とガスの割合が違うだけで、地形への反応も大きく変わります。

噴出量が多いほど必ず遠くまで行くのか

一般に、火砕流の体積が大きいほど、内部の熱と運動量を保ちやすく、長距離を移動する可能性は高くなります。しかし、体積だけで到達距離が決まるわけではありません。

USGSがまとめる火山性質量流の研究では、火砕密度流の到達距離や浸水域を考えるとき、発生機構、流れの種類、体積、速度、落差、地形など複数の条件を扱う必要があるとされています。

小規模でも急斜面を高い位置から流れ始めれば大きく加速することがあります。一方、大規模でも平坦な地形や障害物で減速・分流する場合があります。

「どの高さから落ちるか」も流れ方を変える

火砕流は重力によって動くため、発生地点と到達地点の高低差が大きいほど、位置エネルギーを運動エネルギーへ変えやすくなります。

噴煙柱崩壊型では、噴煙がある程度高く上昇した後に崩れるため、粒子とガスの混合物が高い位置から地表へ落ち込むことがあります。溶岩ドーム崩壊型でも、ドームの高さや斜面勾配が流れの初期加速に影響します。

このため、同じ体積の火砕流でも、どの高さから、どの斜面に向かって発生したかで速度や到達距離が変わります。

谷があると火砕流はそこへ集まりやすい

高濃度の火砕流は周囲の空気よりはるかに密度が大きく、重力に従って低い場所へ移動します。そのため、谷や沢などの地形に沿って進むことが多くなります。

USGSは、火砕流の多くが火山斜面を下り、谷に沿って流れると説明しています。また、1980年のセント・ヘレンズ山の火砕密度流堆積物の研究でも、斜面や不規則な地形が流路、流れの状態、侵食能力に強く影響したことが示されています。

つまり、同じ規模の火砕流でも、深い谷へ流れ込む場合と、広い平坦地へ広がる場合では、到達範囲や堆積の仕方が違います。

火砕サージはなぜ尾根を越えられるのか

火砕サージは高濃度の火砕流より粒子が少なく、ガスの割合が大きい希薄な流れです。密度が比較的小さく、乱流的に動くため、地表の細かな凹凸に強く拘束されにくくなります。

USGSは、1980年のセント・ヘレンズ山噴火で、火砕サージが約150mの尾根を越えた一方、関連する高密度の火砕流はその地形に阻まれた例を紹介しています。

この違いは、防災上とても重要です。「谷から外れているから安全」と考えられない場合があるのは、希薄な火砕サージが地形障害を越えることがあるためです。

水との接触で火砕流の性質が変わることがある

マグマや高温の火砕物が水と接触すると、水が急激に水蒸気へ変わり、大きく膨張します。火口湖、海、地下水などが関わる噴火では、この作用によって粒子濃度の低いベースサージが発生することがあります。

気象庁は、ベースサージをマグマ水蒸気噴火によって生じる噴煙から側方に高速で広がる希薄な流れとしています。

USGSも、火口湖などでマグマと水が相互作用する場合、空気・火山ガス・水蒸気・火山砕屑物が混ざった高速の火砕サージが発生し得ると説明しています。

このため、水がある火山環境では、乾いた火山斜面とは異なるタイプの火砕密度流が生じることがあります。

温度も火砕流ごとに違う

火砕流は高温ですが、その温度は発生機構によって幅があります。

新しいマグマが直接関わる噴煙柱崩壊型や溶岩ドーム崩壊型では、数百℃に達する非常に高温の流れが生じることがあります。一方、水との相互作用が強い火砕サージでは、水蒸気が大量に含まれ、乾いた火砕流とは温度条件が異なることがあります。

それでも火砕サージが危険であることに変わりはありません。USGSは、水との相互作用で生じるサージでも、沸騰水温度付近からマグマ温度に近い範囲まで高温になり得るとしています。

大きな岩塊が多い流れと細粒主体の流れでは動きが違う

溶岩ドーム崩壊型の火砕流では、大きな溶岩塊と細かな火山灰が同時に流れることがあります。大きな岩塊は地面近くを転動・滑走し、細かな火山灰はその上部の乱流雲に取り込まれやすくなります。

一方、噴煙柱崩壊型では、軽石や細かな火山灰が多い場合があります。粒径組成の違いは、流れの密度、空気の取り込みやすさ、堆積速度などに影響します。

そのため、「火砕流の速度や到達距離」を比較するときは、単に火山名だけでなく、どのような粒子がどの割合で含まれているかを見る必要があります。

流れの途中で性質が変わることもある

火砕密度流は、発生してから停止するまで同じ状態を保つわけではありません。移動中に大きな粒子が沈降すると、残った上部の流れは相対的に希薄になります。

逆に、希薄な火砕サージから粒子が急速に沈降し、局所的に高濃度の二次的な火砕流が形成される場合もあります。

モントセラト島スーフリエール・ヒルズ火山の研究では、溶岩ドーム崩壊に伴う火砕流の上部から希薄なサージが分離して本体より遠くまで進んだり、大規模なサージが粒子を沈降させて高密度の二次流へ変化したりすることが報告されています。

このように、火砕流と火砕サージは常に完全に分かれた二種類ではなく、一つの流れの中で相互に変化することがあります。

同じ火山でも火砕流の規模が違うのはなぜか

同じ火山でも、毎回同じ大きさの溶岩ドームが崩れるわけではありません。崩壊する体積、崩壊にかかる時間、崩壊場所、マグマ供給量などが変われば、火砕流の規模も変わります。

スーフリエール・ヒルズ火山の研究では、小規模なドーム崩壊では到達距離が1km未満の火砕流が生じた一方、大きな崩壊では6kmを超えて移動する火砕流が記録されています。

これは、「この火山の火砕流は必ず何km」という一つの数字だけでは表せないことを示しています。過去の最大規模だけでなく、どのような条件で発生したかを合わせて見る必要があります。

噴火の途中で火砕流のタイプが変わることもある

一回の噴火でも、地下のマグマ供給や噴煙柱の高さ、溶岩ドームの成長状態は時間とともに変わります。

噴火初期には噴煙柱崩壊型の火砕流が発生し、その後に溶岩ドームが形成されてドーム崩壊型へ移ることもあります。また、ドーム崩壊の途中で爆発が加われば、より細粒でガスに富む流れが発生する場合があります。

したがって、火砕流の違いは「火山ごとの固定された特徴」ではなく、噴火の進行段階にも左右されます。

火砕流の違いを整理すると

  • 発生機構:噴煙柱崩壊、溶岩ドーム崩壊、火口からの直接流出などがあります。
  • 粒子濃度:高濃度の火砕流と希薄な火砕サージでは流動性が異なります。
  • 粒径:岩塊が多い流れと火山灰・軽石主体の流れでは挙動が変わります。
  • 噴出量・体積:大きいほど熱と運動量を保ちやすい傾向があります。
  • 落差:高い位置から流れ始めるほど加速しやすくなります。
  • 地形:高濃度流は谷に沿いやすく、希薄サージは尾根を越える場合があります。
  • 水との接触:マグマ水蒸気噴火ではベースサージなどが生じることがあります。
  • 時間変化:一つの噴火中でも流れのタイプや規模が変化します。

まとめ:火砕流の違いは「発生の仕方・中身・地形」の違い

火山の火砕流に場所や条件による違いがあるのは、発生機構、粒子とガスの割合、体積、発生高度、地形、水との接触などが噴火ごとに異なるためです。

噴煙柱が崩れて生じる火砕流と、溶岩ドーム崩壊で生じる火砕流では、含まれる粒子や発生高度が違います。また、高濃度の火砕流は谷に沿って進みやすい一方、希薄な火砕サージは尾根を越えて広がることがあります。

さらに、一つの流れでも移動中に粒子が沈降し、濃い部分と薄い部分に分かれたり、サージから二次的な高濃度流が生じたりします。

「発生機構が違う→粒子とガスの割合が違う→体積・落差・地形の影響を受ける→移動中にも濃度が変わる→到達範囲や堆積の仕方が変わる」という流れで考えると、火砕流の場所・条件による違いを理解しやすくなります。

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