なぜ谷はできるのか?

谷は、川や氷河などが地表を侵食して低い部分をつくり、その周囲の斜面が風化・崩壊しながら後退することで、周囲より低く細長い地形として成り立ちます。 とくに日本で多く見られる河川の谷では、雨水が集まって流路ができ、川が河床を下へ削る「下刻」と、谷壁が崩れて広がる作用が長い時間をかけて組み合わさっています。

つまり、谷は単なる「地面のくぼみ」ではありません。地表の高低差、流水の侵食、岩石の性質、斜面崩壊、地殻の隆起、土砂の運搬などが相互に働いて発達する地形です。谷の形を見ると、その土地がどのような力で削られ、どの程度持ち上げられ、どのように土砂が運び出されてきたのかを考える手がかりになります。

目次

谷とはどのような地形なのか

谷とは、周囲より低く、一般に細長く延びる地形です。多くの谷では最も低い部分に川が流れ、その両側に谷壁や斜面があります。山地では狭く深い谷が多く、低地に近づくにつれて谷底が広がり、谷底平野が形成されることもあります。

国土地理院は、山間部を流れる渓流河川がつくる峡谷について、谷壁が急斜面をなし、谷底平野を欠き、横断面がV字型になる地形として説明しています。これは、河川が地面を下方向へ強く削る段階の代表的な谷です。

ただし、すべての谷がV字形になるわけではありません。氷河によって削られた谷はU字型になることがあり、断層や地質構造に沿って発達する谷もあります。谷の形は、その場所でどの侵食作用が強かったかを反映します。

谷ができる基本の仕組み

1.雨水が集まり、流れの筋ができる

雨が降ると、一部は地中にしみ込み、一部は地表を流れます。斜面にはわずかな高低差があるため、水は低い方向へ集まりやすくなります。最初は小さな溝でも、同じ場所に水が繰り返し流れると地表の土や岩石が削られ、溝が深くなります。

複数の小さな流れが合流すると水量が増え、より大きな侵食力を持つ流路になります。このような小さな水路が発達し、斜面を刻み込むことで谷の原型がつくられます。

2.川が河床を下方向へ削る

山地では地表の傾斜が大きいため、川の流れが速くなりやすく、河床を削る力も大きくなります。川底を下方向へ削る作用を下刻といいます。

下刻が進むと、流路の両側との高低差が大きくなり、谷は深くなります。国土地理院が示すV字谷や峡谷は、この下刻が強く働いてできる代表的な地形です。

川が河床を削る方法には、流れる水そのものの力だけでなく、川が運ぶ砂や礫が岩盤にぶつかったりこすれたりする作用も含まれます。洪水時には大きな礫まで移動し、河床の岩盤を削ることがあります。

3.谷壁が風化・崩壊して谷が広がる

川が河床を深く削ると、両側の谷壁は急になります。急斜面では岩石が風化し、割れ目が広がり、大雨や地震をきっかけに崩壊が起こることがあります。

崩れた土砂が谷底へ落ちると、川はそれを下流へ運びます。土砂が運び去られると谷壁の下部が再び不安定になり、さらに崩壊しやすくなります。この繰り返しによって、谷は深くなるだけでなく横方向にも広がります。

地形発達の実験研究でも、隆起した地表に流水による細かな溝が生じ、それらが谷へ成長し、谷系が発達すると斜面崩壊による侵食が重要になる過程が示されています。

なぜ谷の横断面はV字形になりやすいのか

山地の河川では、川が谷底を下方向へ削る一方で、その両側の斜面では崩壊や土砂移動が起こります。谷底が下がるほど斜面は急になり、斜面物質が谷底へ移動しやすくなります。

この「川による下刻」と「斜面の後退」が同時に進むと、横断面がV字形に近い谷が形成されます。川が狭い範囲を深く削る段階では、谷底平野がほとんどなく、急な谷壁が川の近くまで迫ります。

ただし、谷が成長して河川の側方侵食が強くなったり、土砂が谷底に堆積したりすると、谷底は次第に広がることがあります。そのため、同じ川でも上流と中流では谷の形が異なります。

谷はどのように幅を広げるのか

谷の形成では、下方向への侵食だけでなく、横方向への侵食も重要です。川が蛇行すると、流れの速い外側の岸が削られ、河道が横へ移動します。

河道が長期間にわたって左右へ移動すると、谷底の広い範囲が削られます。同時に、洪水時には砂や泥が堆積し、平らな谷底が形成されます。このような平坦面を谷底平野と呼びます。

つまり、狭いV字谷から谷底平野を持つ広い谷への変化は、川の作用が弱くなったというより、下刻だけでなく側方侵食や堆積が目立つようになった結果と考えることができます。

地面が隆起すると谷はどう変わるのか

谷の深さは、侵食だけでなく地殻変動とも関係します。土地が隆起すると、川は相対的に高い場所を流れることになります。下流側との高度差が大きくなれば、河床をさらに深く削る力が働くことがあります。

このため、隆起が続く山地では、地表全体が高くなりながら川が深い谷を刻むことがあります。USGSがグランドキャニオンで行った研究でも、河川の下刻速度と地殻の隆起・断層運動との関係が検討されています。

逆に、隆起が弱く、河床付近に土砂が多く堆積する条件では、谷が深くなるより谷底が埋められることもあります。谷の深さは、隆起量、侵食量、堆積量のバランスで決まります。

岩石の種類によって谷の形が変わるのはなぜか

同じ量の雨や流水を受けても、岩石の種類によって削られやすさは異なります。硬く割れにくい岩石では急な谷壁や峡谷が残りやすく、やわらかい地層や風化しやすい岩石では斜面が崩れやすく、幅の広い谷になりやすい場合があります。

また、断層に沿って岩石が砕かれている場所は周囲より侵食されやすく、その弱い部分に沿って谷が発達することがあります。地質構造や岩質の違いによって侵食量に差が生まれることを差別侵食といいます。

そのため、地形図と地質図を重ねて見ると、谷がなぜその方向へ伸びているのか、なぜ特定の場所だけ深く削られているのかを理解できる場合があります。

谷は川だけでつくられるのか

谷の多くは河川侵食と深く関係しますが、川だけが谷をつくるわけではありません。代表例が氷河です。

国土地理院は、谷氷河や溢流氷河の侵食によってできた谷を氷食谷とし、横断面がU字型のものをU字谷と呼んでいます。USGSも、河川がつくる谷は一般にV字型なのに対し、氷河は谷底と谷壁の広い範囲を削るためU字型の谷を形成すると説明しています。

氷河は厚い氷の底に岩片を取り込みながら移動し、谷底や谷壁を強く削ります。そのため、もともと河川がつくったV字谷が氷河によって広げられ、幅広いU字谷へ変化することもあります。

また、地殻変動で断層沿いに低地ができ、それを後から川が利用して谷として発達させる場合もあります。つまり谷の形は、侵食主体と地質構造の両方を反映します。

谷の上流側はどのように伸びるのか

谷は下流から上流へ向かっても成長します。谷の最上部では流水や湧水、斜面崩壊などによって谷頭が削られ、谷が少しずつ上流方向へ伸びることがあります。この作用を頭部侵食と呼びます。

隣り合う二つの川で頭部侵食の速さに差があると、一方の谷が分水界を越えて他方の川の上流を取り込むことがあります。これが河川争奪です。国土地理院も、河川争奪によって過去の流路が切り離され、風隙や谷中分水界などの特徴的な地形が形成される例を示しています。

このように谷は、単に深くなるだけでなく、上流方向へ伸びたり、隣の谷とつながったりしながら水系全体を変えていきます。

谷底に土砂がたまるとどうなるのか

谷は侵食だけの場所ではありません。上流から運ばれた土砂が谷底にたまることもあります。

大規模な崩壊や火山噴出物によって大量の土砂が供給されると、川が一時的にそれを運びきれず、谷底が埋められることがあります。また、下流側がせき止められたり、海面が上昇したりすると、川の流れが弱まり、谷の内部に砂や泥が堆積しやすくなります。

USGSのコロラド川研究では、河川が下刻する時期と谷を堆積物で埋める時期が繰り返され、古い谷が堆積物で満たされた後、再び新しい流路が刻み込まれる事例が報告されています。

したがって、現在は深い谷に見える場所でも、過去には土砂で埋まっていた時期がある可能性があります。

谷と峡谷は何が違うのか

峡谷は谷の一種で、とくに谷壁が急で谷幅が狭く、河川が深く刻み込んだ地形を指します。国土地理院は峡谷を、谷底平野を欠き、横断面がV字型を示す山間部の谷として整理しています。

一方、「谷」はより広い概念で、峡谷だけでなく、谷底平野を持つ幅広い谷、氷河がつくったU字谷、浅い谷なども含みます。

つまり、「深く狭い谷」が峡谷であり、谷という言葉の中にさまざまな形が含まれていると考えるとわかりやすいでしょう。

谷と盆地は何が違うのか

谷と盆地はどちらも周囲より低い地形ですが、形や水の流れ方が異なります。

谷は一般に細長く、川の流れる方向に沿って延びます。一方、盆地は周囲を山地や丘陵に囲まれ、比較的幅広い低地を形成します。

盆地の内部を川が流れ、その出口で狭い谷を通ることもあります。逆に大きな谷の途中に幅広い盆地状の低地が発達することもあるため、両者は水系の中で連続的につながっています。

谷の成り立ちは災害とどう関係するのか

谷は水と土砂が集まりやすい地形です。そのため、大雨時には急な増水や土石流、斜面崩壊などに注意が必要な場所があります。

狭い谷では川幅が限られるため、水位が短時間で上昇することがあります。谷の出口では流れが広がって土砂が堆積し、扇状地が形成されることがあります。急な谷壁では崩壊した土砂が谷底へ集中しやすく、それが大量の水と混ざれば土石流となる場合があります。

ただし、「谷にあるから必ず危険」と一律には判断できません。地質、勾配、流域面積、砂防施設、過去の災害履歴などによって条件は異なるため、地形図や土砂災害ハザードマップなどを合わせて確認する必要があります。

地図から谷の成り立ちを読み取るポイント

地形図では、等高線の形を見ると谷を見つけられます。谷では等高線が上流側へ食い込むようなV字形を示し、その低い部分に川や沢が通ることが多くあります。

さらに、次の点を見ると谷の形成過程を考えやすくなります。

  • 谷が深く狭ければ、下刻が強く働いた可能性を考える
  • 谷底が広ければ、側方侵食や堆積による谷底平野の発達を考える
  • 谷が直線的なら、断層や地層構造との関係を確認する
  • 高い位置に平坦面が残れば、過去の谷底や河岸段丘の可能性を考える
  • U字型の幅広い谷なら、氷河侵食の証拠を確認する

陰影起伏図や地質図、空中写真を組み合わせると、現在の川だけでは見えにくい古い谷や侵食の方向も読み取りやすくなります。

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まとめ

谷は、雨水や川などが地表を侵食して低い流路をつくり、河床の下刻と谷壁の風化・崩壊、土砂の搬出が繰り返されることで発達します。

  • 雨水が集まる場所に小さな溝ができ、それが侵食されて谷へ成長する
  • 山地では河川の下刻によってV字谷や峡谷が形成されやすい
  • 谷壁の崩壊と河川による土砂搬出によって、谷は深く・広くなる
  • 隆起、岩石の硬さ、断層などによって谷の深さや方向が変わる
  • 氷河による侵食では、V字谷が幅広いU字谷へ変化することがある

谷を見るときは、「何が地面を削ったのか」「削られた土砂はどう運ばれたのか」「土地そのものは隆起していなかったか」を考えると、谷の形の背景にある地形形成の仕組みを理解しやすくなります。

参考資料

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