台風は、毎年同じ月に同じ場所で発生し、同じように発達するわけではありません。日本付近では夏から秋に台風の発生・接近・上陸が多くなりますが、冬や春にも台風が発生することはあります。また、同じ8月でも台風が次々に発生する年もあれば、少ない年もあります。
この違いは、台風が暖かい海だけで決まる現象ではないからです。台風が発生・発達するには、海面からの熱と水蒸気、積乱雲をまとめる大気の不安定さ、弱い鉛直風シア、もとになる低気圧性の渦など、複数の条件が重なる必要があります。さらに、発生した後の進路は太平洋高気圧や上空の風によって変わります。
気象庁によると、1991〜2020年の平均では台風の発生・日本への接近・上陸はいずれも7月から10月に多くなっています。これは、夏から秋にかけて北西太平洋の海と大気が台風の発生・発達に適した状態になりやすいためです。
台風は暖かい海からエネルギーを受け取る
気象庁は、台風が赤道付近の暖かい海上で多く発生し、海面から供給される水蒸気をエネルギー源として発達すると説明しています。
暖かい海の上では水蒸気が多く供給され、湿った空気が上昇して積乱雲をつくります。雲の中で水蒸気が水滴へ変わるときに熱が放出され、その熱がさらに上昇気流を強めます。積乱雲が渦の周囲に組織化されると、中心付近の気圧が下がり、周囲から空気が集まり、風も強くなっていきます。
NOAAは、熱帯低気圧の発生に適した条件の一つとして、海面付近だけでなく一定の深さまで暖かい海水があることを挙げています。目安として海水温26.5℃以上が約50mの深さまで続くことが、十分なエネルギー供給に役立つと説明しています。
ただし、「海面水温が26.5℃を超えたら必ず台風になる」という意味ではありません。暖かい海は重要な条件の一つですが、それだけでは台風は発生しません。
夏から秋に台風が多いのは海が十分に暖まるから
北半球では日射が強くなる夏に海面水温が上がり、夏の終わりから秋にかけても海には蓄えられた熱が残ります。陸地は日射の変化に比較的速く反応しますが、海は熱容量が大きいため、最も暖かい時期が日射のピークより遅れます。
このため北西太平洋では、夏から秋にかけて台風が発生・発達しやすい暖かい海域が広がります。気象庁の平年値でも、台風の発生数は7〜10月に多く、特に8月は発生数が多い月です。
季節による海面水温の変化が、台風活動の大きな土台をつくっているのです。
暖かい海だけでなく「積乱雲がまとまりやすい環境」が必要
熱帯の海では、暖かい海面の上に積乱雲ができても、そのすべてが台風になるわけではありません。
NOAAは、台風を含む熱帯低気圧の発生には、もとになる気象擾乱、暖かい海、活発な雷雨、弱い鉛直風シアなどが必要だと説明しています。これらの条件がそろっても、必ず発生するわけではありません。
台風になるには、バラバラに発生した積乱雲が低気圧性の渦の周囲に組織化され、中心付近で上昇流と水蒸気供給が持続する必要があります。
つまり、季節によって「海が暖かいか」だけでなく、「積乱雲を持続・組織化できる大気か」という条件も変化します。
鉛直風シアが強いと台風は発達しにくい
台風の発達に大きく影響するのが「鉛直風シア」です。これは、地上付近と上空で風向や風速がどれくらい変化しているかを表します。
鉛直風シアが強いと、台風の下層の渦と上層の積乱雲がずれやすくなり、中心付近の暖かく湿った空気を効率よく利用できなくなります。NOAAの研究では、強い風シアは台風の構造を傾け、熱と水蒸気の流れを乱すため、発達を抑える大きな要因になると説明されています。
反対に鉛直風シアが弱いと、積乱雲と渦の中心が上下にそろいやすくなり、海から供給された熱と水蒸気を利用して発達しやすくなります。
同じ海面水温でも、上空の風が違えば、台風の発達のしかたが変わるのはこのためです。
季節によって台風が発生しやすい緯度も変わる
気象庁は、春先の台風は比較的低緯度で発生し、西へ進んでフィリピン方面へ向かうものが多い一方、夏になると発生緯度が高くなり、日本へ向かって北上する台風が増えると説明しています。
これは、暖かい海域の広がり方や、太平洋高気圧の位置、熱帯の対流活動の場所が季節とともに変わるためです。
冬や春先は台風が発達できる暖かい海域が南寄りに限られやすいため、発生位置も低緯度側に偏りやすくなります。夏は暖かい海域が北へ広がり、台風がより高い緯度で発生・発達できる環境が整いやすくなります。
台風の進路は太平洋高気圧と上空の風で変わる
台風は自力だけで好きな方向へ進んでいるわけではありません。周囲の大規模な風に流されるように移動します。
北西太平洋では、太平洋高気圧の縁を回る風が台風の進路に大きく影響します。太平洋高気圧が西へ強く張り出していれば、台風はその南側を西寄りに進みやすくなります。高気圧の張り出しが弱く、北側に偏西風があると、台風は北上した後に北東へ進路を変えやすくなります。
気象庁によると、8月は台風を流す上空の風がまだ弱いため、進路が不規則になりやすい傾向があります。一方、9月以降は南海上から北上し、放物線を描くように日本付近を通る台風が増えます。
つまり、季節の違いは「発生数」だけでなく、「どこへ進みやすいか」にも現れます。
夏の台風は寿命が長くなることがある
台風の寿命も季節によって同じではありません。
気象庁によると、1991〜2020年の平均で台風の寿命は5.2日ですが、寿命が長い台風は夏に多く、不規則な進路を取る傾向があります。
夏は広い範囲で海面水温が高く、台風が暖かい海上を長く移動できることがあります。また、台風を運ぶ上空の風が弱い場合には移動速度が遅くなり、熱帯・亜熱帯の暖かい海上にとどまる時間が長くなることもあります。
ただし、動きが遅いから必ず長寿命になるわけではありません。風シアや乾燥空気の流入など、周囲の大気条件が悪化すれば衰弱することもあります。
北上すると海が冷え、台風は衰弱しやすくなる
台風が日本付近まで北上すると、熱帯より海面水温が低い海域へ進むことが多くなります。
気象庁は、海面水温が低くなると海から供給される水蒸気が減り、台風は衰弱して熱帯低気圧になったり、寒気の影響を受けて温帯低気圧へ変わったりすると説明しています。
また、陸地へ上陸すると海からの水蒸気供給が途切れるうえ、地形や地表摩擦の影響で台風の循環が乱れやすくなります。
このため、同じ台風でも熱帯の暖かい海上、夏の日本南方、秋の日本近海、上陸後では発達条件が大きく違います。
温帯低気圧へ変わると「弱くなった」とは限らない
台風が北上して寒気の影響を受けると、前線を伴う温帯低気圧へ変わることがあります。
気象庁は、温帯低気圧へ変わる段階では中心付近の最大風速のピークを過ぎていることが多い一方、強い風の範囲が広がったり、寒気との温度差を利用して再発達したりすることがあると注意しています。
つまり「台風ではなくなった=危険が小さくなった」と単純に考えることはできません。季節が秋から冬へ近づくほど中緯度の寒暖差が大きくなり、台風から温帯低気圧への性質変化が重要になります。
エルニーニョ・ラニーニャでも台風の特徴が変わる
同じ季節でも、年によって台風の発生位置や寿命が違う理由の一つが、エルニーニョ・ラニーニャ現象です。
気象庁が1951〜2021年を対象に調べた統計では、エルニーニョ現象の発生時には、台風の発生位置が平常時より南東側へずれる傾向があり、夏には最盛期の中心気圧が低く、寿命が長くなる傾向がみられます。
一方、ラニーニャ現象の発生時には、台風の発生位置が平常時より西側へずれる傾向があり、季節によって寿命や発達の程度にも違いがみられます。
これは、熱帯太平洋の海面水温が変わることで積乱雲が発生しやすい場所や大規模な風の分布が変化し、台風が生まれる環境そのものが変わるためです。
年によって発生数が違うのは「条件がそろう回数」が違うから
台風が多い年と少ない年があるのは、単に海面水温が高かったか低かったかだけでは説明できません。
台風のもとになる低気圧性の擾乱が多いか、積乱雲が活発な領域がどこにあるか、鉛直風シアが弱いか、乾燥した空気が流れ込んでいないかなど、複数の条件が重なります。
気象庁の過去の年ごとのまとめでも、エルニーニョ現象の影響などによって北西太平洋熱帯域で積乱雲が発生しにくくなり、ある時期の台風発生数が平年より少なくなった例があります。
つまり「台風が多い年」は、発生に適した条件がそろう機会が多かった年と考えるとわかりやすくなります。
気候変動と台風を考えるときは「発生数」だけを見ない
長期的な気候変動について考える場合も、単純に「海が暖かくなれば台風の数が増える」とは限りません。
台風の発生には、海面水温だけでなく、風シア、湿度、大気の安定度、熱帯の対流活動の場所などが関係するためです。海面が暖かくても、上空の風が強くずれていたり、乾燥空気が入り込んだりすれば発達しにくいことがあります。
そのため、長期変化を見るときは発生数だけでなく、発生位置、強度、急発達の頻度、降水量、進路、寿命など複数の指標を見る必要があります。
台風の「季節や環境による変化」を見るポイント
台風が発生・発達しやすいかを理解するときは、次の条件を分けて見ると整理しやすくなります。
- 海面水温が十分に高いか
- 暖かい海水がある程度の深さまで続いているか
- 積乱雲が発達しやすい湿った大気か
- もとになる低気圧性の擾乱や渦があるか
- 鉛直風シアが強すぎないか
- 太平洋高気圧がどこまで張り出しているか
- 上空の風が台風をどの方向へ流しているか
- エルニーニョ・ラニーニャなどで熱帯の大気循環が変わっていないか
これらが季節や年によって変化することで、台風の発生数、発生位置、発達の程度、進路、寿命が変わります。
まとめ
台風が季節や海・大気の環境によって発生や発達のしかたを変えるのは、台風が「暖かい海だけ」でできるのではなく、複数の海洋・大気条件が組み合わさって成立する現象だからです。
夏から秋は海面水温が高く、台風のエネルギー源となる水蒸気を得やすいため、北西太平洋では発生・接近・上陸が多くなります。しかし実際に発達するには、積乱雲が組織化できることや鉛直風シアが弱いことなども重要です。
さらに、太平洋高気圧と上空の風は進路を決め、北上して海水温が低下したり寒気の影響を受けたりすると、台風は衰弱したり温帯低気圧へ変わったりします。エルニーニョ・ラニーニャによって発生位置や寿命に統計的な違いが現れることもあります。
したがって台風を見るときは、「何月だから」「海面水温が高いから」だけで判断せず、海の熱、上空の風、湿度、太平洋高気圧、熱帯の大気循環を合わせて見ることが大切です。

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