なぜ山の標高は長い時間をかけて変わるのか?

結論からいうと、山の標高が長い時間で変わるのは、地殻変動や火山活動によって山を高くする作用と、雨・川・氷河・崩壊などによって山を削る作用が同時に続いているからです。 山は完成したまま動かない地形ではありません。地下では地殻が隆起したりマグマが供給されたりし、地表では侵食や崩壊によって岩石が失われています。この差し引きによって、山頂の高さや山全体の標高は数千年、数万年、数百万年という時間の中で変化します。

しかも変化はいつも一定方向ではありません。長期的には隆起している山でも、一度の大地震や噴火、巨大崩壊で一時的に低くなることがあります。反対に、侵食で削られている山でも、その荷重が減ったことで地殻が浮き上がる「アイソスタシー」の影響を受け、内部では上昇が続く場合があります。

目次

山の標高は固定された数字ではない

標高は、平均海面を基準として地表の高さを表したものです。地図には山頂の標高が一つの数字で書かれているため、永久に変わらないように見えます。

しかし実際の山頂は、岩石や土からできた地表の一部です。地殻が上昇すれば高くなり、山頂部が崩れたり侵食されたりすれば低くなります。

国土地理院は、日本列島では複数のプレートがぶつかり合うことで、隆起・沈降・水平移動などさまざまな地殻変動が起きていると説明しています。変化には、大地震や火山活動のように短時間で起こるものと、山脈の隆起のように長い年月をかけて進むものがあります。

つまり地図に記された標高は、その時点で測られた地形の高さであり、地質学的には変化の途中にある数字なのです。

山を高くする最大の要因の一つが「隆起」

山の標高を高くする代表的な作用が地殻の隆起です。

プレート運動によって地殻が横から押されると、地層が折れ曲がったり、逆断層が動いたり、地殻そのものが厚くなったりします。こうした変形が長期間積み重なると、広い範囲が持ち上がって山地になります。

一回の変動は数mmや数cmでも、それが何万年、何十万年と続けば大きな高度差になります。たとえば年間1mmの上昇でも、単純計算では10万年で100mに相当します。

ただし実際には、その間に侵食も進むため、地表の標高がそのまま100m増えるとは限りません。隆起量と侵食量を分けて考える必要があります。

北アルプスは現在も隆起している

日本で現在の隆起を示す例の一つが飛騨山脈、いわゆる北アルプスです。

国土地理院は、前穂高岳山頂の一等三角点「穂高岳」でGNSS観測を行い、1999年、2005年、2008年の観測から年間約5mmの隆起傾向を確認しました。2012年の観測では2008年より低い値が得られ、大地震などの影響が考えられていますが、周辺の連続GNSS観測と合わせると、飛騨山脈は現在も隆起していると考えられています。

この例からわかるのは、「長期的な隆起」と「短期間の上下動」は同じではないということです。山地全体が長期的には上昇していても、地震などで一時的に沈降することがあります。

山を低くする最大の作用が「侵食」

山を高くする隆起に対して、地表を低くする代表的な作用が侵食です。

雨水や川は、風化して弱くなった岩石を削り、下流へ運びます。寒冷な高山では凍結と融解によって岩石が砕かれ、氷河が谷底や山腹を削ることもあります。急斜面では崩壊や地すべり、土石流が大量の岩石を短時間で運び去ることがあります。

侵食が続けば、山頂や尾根は少しずつ削られ、谷は深くなります。長期的には山地全体の平均高度や起伏が変化します。

USGSがグレート・スモーキー山脈で行った研究では、数万年から非常に長い時間尺度で侵食速度を調べ、古い山脈でも侵食が現在まで続いていることが示されています。

隆起しているのに標高があまり変わらないこともある

山の地表では、隆起と侵食が同時に進みます。

たとえば地殻が年間1mm持ち上がっていて、同じ程度の速度で岩石が侵食されて失われれば、山頂の標高は長期的に大きく変わらない場合があります。

このように、内部の岩石は上へ移動しているのに、地表の形や平均標高が比較的安定している状態を「動的平衡」と考えることがあります。

USGSの研究では、南部アパラチア山脈で、侵食とアイソスタティックな隆起が長期的に釣り合うような状態が議論されています。

つまり「標高が変わっていないから地殻変動もない」とは限りません。下から持ち上がる量と上から削られる量が近ければ、見かけ上の高さは保たれることがあります。

侵食されると、なぜ地殻が持ち上がることがあるのか

地殻は、その下のマントルの上に浮力を受けて存在しています。山から大量の岩石が侵食によって取り除かれると、その地域の荷重が小さくなります。

すると、重さを失った地殻が浮力のバランスを取り戻すように上昇することがあります。これがアイソスタティックな隆起です。

氷河期に巨大な氷床で押し下げられていた地域が、氷が融けた後にゆっくり上昇する現象も、同じ基本原理で説明されます。

ただし、侵食によるアイソスタティックな上昇があるからといって、山頂が必ず高くなるわけではありません。岩石を削って標高を下げる作用と、その荷重減少による上昇が同時に進むため、最終的な標高変化は両者の差で決まります。

火山は噴火で高くなることがある

火山では、地殻の隆起とは別に、噴出物の積み重なりによって山体そのものが成長します。

溶岩、火山灰、火山礫、火砕流堆積物などが火口周辺に何度も積み重なると、火山は徐々に高くなります。溶岩ドームが山頂に形成されれば、短期間でも局地的な高さが増えることがあります。

そのため火山の標高は、地殻変動だけでなく、「どれだけ新しい物質が山体に加わったか」によっても変わります。

一方、火山は噴火によって高くなるだけではありません。爆発的噴火や山体崩壊で山頂が失われれば、短時間で大きく低くなることがあります。

噴火で山頂が一気に低くなることもある

その代表例がアメリカのセント・ヘレンズ山です。

USGSによると、1980年5月18日の大噴火と巨大な岩屑なだれによって、山頂部の約400mが失われました。噴火前の山頂標高は約2,950mでしたが、噴火後は約2,550mになりました。

つまり、何千年もかけて噴火によって積み上げられた山体が、巨大噴火と崩壊によって数分から数時間のうちに大きく低くなることがあります。

その後、セント・ヘレンズ山では溶岩ドームが形成され、再び火山体内部へ岩石が加わっています。このように火山では「成長」と「崩壊」が繰り返されます。

地震でも山の標高は変わる

断層が地震時に急激にずれると、地表が一度に隆起したり沈降したりすることがあります。

逆断層型の地震では、断層の片側が相対的に持ち上がり、山地側の標高が増えることがあります。一方、断層運動の位置や形によっては沈降する場所も生まれます。

国土地理院は、大地震によって短時間に大きな地殻変動が生じることをGNSSや測量で観測しています。

一回の地震による上下変位は山脈全体の高さから見れば小さくても、同じ断層で地震が何千回、何万回と繰り返されれば、長期的な山地形成に大きく関わります。

地すべりや岩盤崩壊でも山頂は低くなる

山頂や稜線のすぐ下で大規模な岩盤崩壊が起これば、地形の最高点そのものが失われることがあります。

雨、地震、風化、地下水などによって岩盤が不安定になると、大量の岩石が一度に谷へ崩れ落ちます。山頂付近で起これば、標高が急に低下する可能性があります。

こうした急激な変化は、普段の河川侵食とは時間尺度が大きく違います。しかし、長い地質時代には多数の崩壊が積み重なるため、山地全体の形を変える重要な作用になります。

川が深く谷を削っても山頂標高はすぐには下がらない

侵食というと「山全体が均等に低くなる」と考えがちですが、実際にはそうではありません。

川は谷底に侵食を集中させるため、まず谷を深くします。その結果、山頂の標高がほとんど変わらなくても、山頂と谷底の高低差は大きくなることがあります。

隆起が始まった山地でも、最初は河川が深く谷を刻み、急な斜面をつくります。長い時間がたつと斜面崩壊や尾根の侵食も進み、山頂や稜線そのものも低くなっていきます。

つまり「山が侵食されている」と「山頂標高がすぐ下がる」は同じ意味ではありません。

山の標高が変わる速さは一定ではない

隆起も侵食も、いつも同じ速度ではありません。

プレート運動や断層活動が変化すれば隆起速度も変わります。気候が寒冷化して氷河が発達すれば侵食の仕組みが変わり、降水量が増えれば河川侵食や斜面崩壊が活発になる場合があります。

火山では活動期に短時間で標高が変化し、その後は長い静穏期が続くことがあります。

このため、現在の年間変化量をそのまま100万年先まで延長して考えることはできません。山の標高変化は、時代ごとに速くなったり遅くなったりします。

山の「高さ」と地殻の「隆起量」は同じではない

山の標高変化を考えるとき、特に重要なのがこの違いです。

地下の岩石が100m上昇しても、その間に地表が80m侵食されれば、地表の標高増加は単純化すれば20m程度になります。

反対に隆起がほとんどなくても、周囲の谷が強く削られれば、その山頂は周囲に対して相対的に高く目立つようになることがあります。

地質学では、岩石そのものが上昇する「rock uplift」と、地表面の高さが変わる「surface uplift」を区別して考えることがあります。山の標高を見るときには、地下の運動と地表の侵食を分けることが重要です。

数年の標高変化と数百万年の標高変化は分けて考える

GNSSや水準測量では、数mmから数cm単位の地殻変動を観測できます。これは地震や火山活動、プレート運動など現在進行中の変化を知るのに有効です。

一方、山脈がどのように数百万年かけて高くなったかを調べるには、段丘、地層、河川地形、岩石の年代、宇宙線生成核種など別の証拠を組み合わせます。

短期間の隆起速度と、数十万年の平均隆起速度は一致しないことがあります。ある時期には速く上昇し、別の時期には停滞や沈降が起きるからです。

山の標高変化は、一つの観測期間だけでなく、複数の時間尺度で見る必要があります。

海面が変わると「標高」の意味にも影響する

標高は平均海面を基準に表されます。そのため非常に長い時間尺度では、氷期・間氷期に伴う海面変化も「海面に対する地表の高さ」を考えるうえで関係します。

ただし、海面が下がって標高値の基準関係が変わることと、山そのものの岩石が隆起して高くなることは別の現象です。

山の形成を考えるときには、実際の地殻や地表が上下する変化と、基準となる海面の変化を区別する必要があります。

山の標高を変える主な作用を整理すると

  • 地殻の隆起:プレート運動、断層、地殻の厚化などで山地を高くする
  • 火山活動:溶岩や火砕物の堆積で山体を高くする一方、大噴火や崩壊で低くする
  • 河川侵食:谷を深くし、長期的には斜面や尾根も削る
  • 氷河侵食:高山の谷や山腹を大きく削る
  • 崩壊・地すべり:山頂や斜面の岩石を短時間で大量に失わせる
  • アイソスタシー:侵食や氷の融解で荷重が減ると地殻が上昇することがある
  • 地震:断層の急なずれで一時的に隆起・沈降を起こす

実際の山では、これらの作用が同時に起きています。

まとめ

山の標高が長い時間で変わる最大の理由は、山を高くする地殻変動・火山活動と、山を低くする侵食・崩壊が絶えず競い合っているからです。

  • プレート運動や断層運動によって山地は長期的に隆起する
  • 雨、川、氷河、崩壊によって山は絶えず削られる
  • 隆起量と侵食量が近ければ、標高が大きく変わらないこともある
  • 侵食で荷重が減ると、アイソスタシーによって地殻が上昇することがある
  • 火山は噴出物で成長する一方、大噴火や山体崩壊で急に低くなることがある
  • 北アルプスのように現在も隆起が観測されている山地がある
  • 短期の地殻変動と、数十万〜数百万年の平均的な標高変化は分けて考える必要がある

つまり山の高さは完成した結果ではなく、地球内部から持ち上げる力と、地表から削る力が続く途中の姿です。現在見えている標高は、長い地質史の一時点を切り取った数字なのです。

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