なぜ同じ雨量でも川によって水量の増え方が違うのか?

結論からいうと、同じ雨量でも川によって水量の増え方が違うのは、降った雨のうち「どれだけが」「どの速さで」川へ集まるかが、流域ごとに異なるからです。 流域の広さ、土壌や地質のしみ込みやすさ、森林や市街地などの土地利用、地形の傾き、川までの距離、池やダムの有無、雨が降る前の土の湿り具合などが違えば、同じ50ミリの雨でも川の反応は大きく変わります。

そのため、「雨量が同じなら川の増水量も同じ」とは限りません。ある川では雨の直後に水位が急上昇し、別の川ではゆっくり増え、さらに別の川ではあまり増えないこともあります。違いを理解する鍵は、雨量そのものよりも流域が雨をどのように受け止め、貯め、川へ送り出すかにあります。

目次

まず「同じ雨量」の意味を整理しよう

雨量は、一定時間に地面へ降った水の深さをミリメートルで表します。たとえば「100ミリの雨」は、流れ去らずに平らにたまったと仮定すると、水深10センチに相当します。

しかし、同じ100ミリでも、流域の広さが違えば降った水の総量は違います。面積10平方キロメートルの流域と100平方キロメートルの流域では、同じ平均雨量でも後者に降る水の総量は10倍です。

さらに重要なのは、降った雨がすべてすぐ川へ入るわけではないことです。一部は地面にしみ込み、一部は植物や地表に一時的に貯まり、一部は蒸発し、残りが地表流や地中の流れとして川へ向かいます。

米国地質調査所(USGS)も、河川流量は降水量だけでなく、浸透、土壌、土地被覆、斜面、流域面積、流域形状、湖や貯水池など多くの条件に左右されると説明しています。

流域が広いほど、同じ雨量でも集まる水の総量は大きくなる

川の水量を考えるとき、まず大きな違いになるのが流域面積です。

同じ50ミリの雨が流域全体に均等に降ったと仮定すると、広い流域ほど受け取る水の総量は多くなります。そのため、最終的に下流地点へ集まる水量も一般には大きくなります。

ただし、広い流域では雨水が出口まで届く距離も長くなるため、増水の仕方は必ずしも急ではありません。USGSは、小さな流域では降雨後に川が短時間で急上昇・急低下することがある一方、大きな流域では水が集まるまでに時間がかかり、数日かけて増減する場合があると説明しています。

つまり、流域が広い川は総量が大きくなりやすく、小さい川は反応が速くなりやすいという違いがあります。ただし、実際には次に説明する浸透や土地利用なども同時に影響します。

土にしみ込む量が違えば、川へ直接流れる量も変わる

雨が地面に降ると、一部は土の中へしみ込みます。この働きを「浸透」といいます。

砂質で水を通しやすい土壌では、雨水が地中へ入りやすく、すぐに地表を流れる量は少なくなりやすい傾向があります。反対に、粘土質で水を通しにくい土壌や、岩盤が浅い場所では、雨が地表を流れやすくなります。

地中へしみ込んだ水は消えるわけではありません。地下水として貯えられ、時間をかけて川へ湧き出すことがあります。この場合、降雨直後の増水は小さくても、その後しばらく流量を支えることがあります。

USGSは、土壌の性質によって浸透量が変わり、浸透しにくい流域ほど地表流出が増えやすいと説明しています。この違いが、同じ雨量でも河川のピーク流量や増水速度が変わる大きな理由です。

雨の前に土が乾いているか、湿っているかでも違う

同じ場所に同じ量の雨が降っても、雨が降る前の状態によって川の反応は変わります。

しばらく晴天が続き土が乾いていると、最初の雨は地中へしみ込みやすくなります。一方、数日前から雨が続いて土がすでに水を多く含んでいると、追加の雨を吸収する余裕が少なくなります。

USGSは、すでに飽和した土壌は濡れたスポンジのように新たな水を吸収しにくく、より多くの雨が表面流出になると説明しています。

このため、同じ100ミリの雨でも、長い晴天の後と、数日間の大雨の後では増水の程度が大きく違うことがあります。洪水予測で「先行降雨」や「土壌雨量」が重視されるのは、このためです。

森林と市街地では雨水の流れ方が違う

土地利用も、川の水量の増え方に大きく影響します。

森林では、樹木の葉や枝が雨を一時的に受け止め、落ち葉や土壌が水を蓄えます。地表の凹凸や植物も水の流れを遅くし、地中へしみ込む時間を確保します。

一方、市街地では屋根、道路、駐車場など、水をほとんど通さない不浸透面が多くあります。そこに降った雨は地下へしみ込みにくく、側溝や下水道を通じて短時間で川へ流れ込みます。

国土交通省は、土地利用形態ごとに「流出係数」を設定しています。流出係数とは、降った雨のうちどの程度が流出するかを表す指標で、宅地や道路などの不浸透性が高い土地ほど大きな値が設定されています。

茨城県つくば市の蓮沼川流域を対象にした水文・水資源学会の研究では、都市化に伴って森林や農地が減り、建物用地や道路が増えた結果、同じ降雨条件を想定した比較でも、流出率とピーク流量が増え、流出までの時間が短くなったことが示されています。

つまり、同じ雨が降っても、森林の多い流域と市街地の多い流域では、川への水の集まり方が違います。

急な斜面では水が川へ早く集まりやすい

流域の地形も重要です。

急な斜面では、地表の水は低い場所へ素早く移動しやすくなります。谷が深く、沢が密に発達している流域では、水が短時間で河川網へ入り、下流へ集まりやすくなります。

反対に、平坦な土地では、水が地表のくぼみや湿地などに一時的にたまったり、ゆっくり移動したりする場合があります。その間に地中へしみ込む水も増えます。

USGSも、土地の傾斜を流出を左右する物理条件の一つとして挙げており、急斜面では平坦地より雨水が速く流れやすいとしています。

ただし、急斜面でも土壌が厚く浸透しやすい場合と、岩盤が露出して水が流れやすい場合では反応が違います。勾配だけで決まるわけではありません。

流域の「形」でもピーク流量の出方が変わる

流域面積が同じでも、細長い流域と丸みを帯びた流域では水の集まり方が違うことがあります。

丸い流域では、流域内の多くの地点から出口までの距離が比較的似ているため、さまざまな場所の雨水が近い時間帯に下流へ到達しやすくなります。すると、流量のピークが高くなる場合があります。

一方、細長い流域では、上流から下流まで到達時間にばらつきが生じやすく、水が時間的に分散して流れ込む場合があります。

USGSも、流出特性を左右する条件として流域形状や水系網のパターンを挙げています。実際の洪水計算では、単に流域面積だけでなく、水が河川へ集まるまでの時間を考慮します。

池・湿地・ダムは雨水を一時的に貯める

流域内に池、湖、湿地、ダム、調整池などがあると、雨水が下流へ流れる前に一時的に貯留されます。

貯留された水がゆっくり放流されれば、洪水のピーク流量を小さくしたり、ピークが現れる時刻を遅らせたりできます。

USGSは、池、湖、貯水池などを、流出を途中で止めたり遅らせたりする流域条件として挙げています。国土交通省や土木研究所の降雨流出モデルでも、流域に降った雨が河川へ集まる過程だけでなく、貯留や流下の時間差を考慮して流量を計算します。

そのため、同じ雨量・同じ流域面積でも、自然の湿地や貯水施設が多い川と少ない川では、増水のピークが異なることがあります。

同じ「総雨量」でも降り方が違えば川の反応は変わる

「同じ雨量」という言葉には注意が必要です。総雨量が同じでも、短時間に集中した雨と、長時間かけて降る雨では川の増え方が異なります。

たとえば100ミリの雨が1時間で降る場合と、24時間かけて降る場合では、地面へ入ってくる水の速さが大きく違います。短時間強雨では土壌の浸透能力を上回りやすく、地表流出が増えて川へ水が急速に集まることがあります。

一方、弱い雨が長時間続く場合は、初めは地中へしみ込む割合が大きくても、やがて土壌が飽和して後半に流出量が増えることがあります。

USGSは、流出に影響する降雨条件として、総雨量だけでなく、雨の強さ、継続時間、流域内での分布、降雨前の土壌水分などを挙げています。

流域のどこに雨が降ったかでも違う

二つの川で観測点の雨量が同じでも、流域全体の降り方が同じとは限りません。

大きな流域では、上流だけに強く降る場合もあれば、流域全体に広く降る場合もあります。同じ100ミリという観測値でも、流域平均雨量が異なれば川へ入る水の総量も違います。

また、雨雲が上流から下流へ移動するのか、下流から上流へ移動するのかによって、各支流のピークが本川で重なるタイミングも変わります。

このため、洪水予測では一つの雨量計だけでなく、レーダー雨量や複数の観測点を使って流域全体の降雨分布を把握します。

川そのものの形も増水の伝わり方に影響する

雨水が河道へ入った後も、川幅、水深、勾配、蛇行、河床の粗さなどによって、下流へ伝わる速さが変わります。

急で直線的な河道では洪水波が比較的速く伝わることがあります。一方、広い氾濫原や蛇行区間、水が一時的に広がる場所では、水が貯留されてピークが遅れたり低くなったりすることがあります。

また、ダムや堰など人為的な施設によって流量が調整されている河川では、自然河川とは異なる増水パターンになることがあります。

したがって、川の水量変化は「雨が地面から川へ入るまで」と「川に入った水が下流へ伝わるまで」の両方を考える必要があります。

「増えた量」と「増える速さ」は別のもの

同じ雨でも、川によって違うのはピーク流量だけではありません。

  • どれだけ流量が増えるか
  • 雨が降ってから何分・何時間後に増え始めるか
  • ピークに達するまでどれくらいかかるか
  • ピーク後にどれくらいの速さで減るか

これらを時間の変化として表したものを「ハイドログラフ」と呼びます。

都市化した小流域では、雨の後に急上昇して急低下する鋭い形になりやすい一方、地下水や湿地による貯留が大きい流域では、増水が緩やかで長く続くことがあります。

つまり、「同じ雨でどちらの川の水量が多くなるか」だけでなく、「どちらが早く増えるか」も流域特性によって違います。

実際の洪水予測では流域ごとの特性をモデル化する

河川管理では、降った雨をそのまま流量へ変換するのではなく、流域特性を考慮した降雨流出モデルを使います。

土木研究所ICHARMが開発したRRIモデルは、流域に降った雨が地表や河川へ集まり、河川を流下し、場合によっては氾濫する過程を一体的に計算するモデルです。地形、土地利用、降雨などの情報を使って、流域ごとの洪水反応を再現します。

国土交通省の河川計画でも、流出係数や貯留関数などを用い、地質、土地利用、流域面積、降雨履歴などを考慮して洪水流量を算定します。

これは、雨量だけでは河川流量を決められないことの裏返しでもあります。

身近な例で考えるとわかりやすい

同じ量の水を、乾いたスポンジ、濡れたスポンジ、プラスチック板の上に注ぐ場面を考えてみましょう。

乾いたスポンジでは多くの水が中に入り、外へ流れ出す量は少なくなります。濡れたスポンジでは吸収できる余裕が少ないため、すぐに水があふれます。プラスチック板ではほとんど吸収されず、すぐ流れます。

自然の流域はこれほど単純ではありませんが、森林土壌、飽和した地面、市街地の舗装面などの違いをイメージするには役立ちます。

さらに、板の大きさや傾き、水を集める溝の形が違えば、出口から出る水の量とタイミングも変わります。川の流域でも同じように、複数の条件が重なって増水の仕方を決めています。

まとめ

同じ雨量でも川によって水量の増え方が違うのは、降った雨が川へ変わる割合と、川まで届く時間が流域ごとに違うからです。

  • 流域が広いほど、同じ雨量でも降る水の総量は大きくなる
  • 土壌や地質が水を通しやすいほど、雨は地中へしみ込みやすい
  • 雨の前から土が湿っていると、追加の雨が流出しやすくなる
  • 市街地の不浸透面が多いと、雨が短時間で川へ集まりやすい
  • 急な地形や流域形状によって水の到達時間が変わる
  • 湿地、池、ダムなどの貯留はピークを遅らせたり小さくしたりする
  • 同じ総雨量でも、雨の強さ・継続時間・降る場所によって反応は違う

つまり、川の増水は「何ミリ降ったか」だけでは判断できません。 その雨を受け止める流域の広さ、地面の性質、土地利用、地形、貯留能力、降雨前の状態まで含めて考えることで、なぜ川ごとに水量の増え方が違うのかが理解できます。

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