なぜ同じ大雨でも川によって洪水リスクが違うのか?

結論からいうと、同じような大雨が降っても川によって洪水リスクが違うのは、降った雨が川へ集まる速さと量、川が安全に流せる水量、周辺の地形や治水施設がそれぞれ違うからです。 雨が短時間で川へ集中する流域では水位が急上昇しやすく、河道の流下能力が小さい川では同じ流量でもあふれやすくなります。さらに、氾濫した後に水が広がりやすい低地かどうかによっても被害の大きさは変わります。

つまり、洪水リスクは「何ミリ降ったか」だけで決まりません。大きく分けると、①雨がどれだけ洪水流量に変わるか、②その洪水を川がどれだけ流せるか、③あふれた水がどこへ広がるかの三段階で考えると理解しやすくなります。

目次

同じ大雨でも、川へ集まる水の量と速さが違う

雨が降っても、そのすべてがすぐ川へ入るわけではありません。一部は地面へしみ込み、一部は植物やくぼ地に一時的に貯まり、一部は地下水となります。残った水が地表や水路を通って川へ流れ込みます。

米国地質調査所(USGS)は、雨水の流出を左右する条件として、土地利用、植生、土壌、流域面積、流域の形、標高、斜面勾配、河川網、池や湖・貯水池などを挙げています。つまり、同じ雨でも流域の性質が違えば、川へ出てくる水量とタイミングは変わります。

市街地では雨が短時間で川へ集まりやすい

道路、屋根、駐車場などの不浸透面が多い都市では、雨が地中へしみ込みにくくなります。雨水は側溝や下水管を通って短時間で川へ流れ込むため、河川流量が急増しやすくなります。

茨城県つくば市の蓮沼川流域を対象とした水文・水資源学会の研究では、森林や農地が減り、建物用地や道路が増えた都市化後には、同じ降雨を想定した比較で流出率とピーク流量が増え、流出の終了までの時間も短くなる傾向が示されています。

USGSも、不浸透面が増えた流域では、より多くの雨水がより速く河川へ到達し、洪水が発生する可能性が高くなると説明しています。

森林や浸透しやすい土地ではピークが緩和されることがある

森林や土壌が発達した土地では、雨水の一部が地面へしみ込み、一時的に地下へ貯えられます。その水が後からゆっくり川へ出れば、洪水ピークを抑える方向に働くことがあります。

ただし、森林だから必ず洪水を防げるわけではありません。大雨が長く続いて土壌が飽和すれば、それ以上の水を吸収しにくくなり、表面流出が増えます。雨の前にどれだけ地面が湿っていたかという「先行降雨」も重要です。

土壌や地質が違うと洪水流出の大きさも変わる

同じ土地利用でも、土壌や岩盤が水を通しやすいかどうかで雨水の動きは変わります。

砂質土壌や割れ目の多い地質では水が地下へ浸透しやすい場合があります。一方、水を通しにくい地層や浅い岩盤が広がる流域では、降った水が地表や浅い地中を通って早く川へ出ることがあります。

全国規模の分布型流出モデルを用いた研究では、流域地質によって洪水時の総流出量やピーク流量に違いが現れることが示されています。研究対象では、地質区分によってピーク流量の傾向に大きな差が確認されており、降雨条件だけでは洪水流出を説明できないことがわかります。

ただし、地質の影響は土壌、地形、植生、地下水などと組み合わさって現れます。「この岩石なら必ず洪水が大きい」と単純に決めることはできません。

流域の広さと形でも水の集まり方が違う

流域面積が広い川では、同じ平均雨量でも流域全体に降る水の総量が多くなります。その一方、遠い上流から水が到達するまで時間がかかるため、洪水ピークが現れるまでの時間も長くなる場合があります。

小さな流域では、総水量は大河川より少なくても、雨水が短時間で出口へ集中し、水位が急上昇することがあります。特に急な山地の小河川や都市の中小河川では、雨が降り始めてから短時間で危険な状態になる場合があります。

流域の形も関係します。丸みを帯びた流域では各地点からの水が比較的近い時刻に河口や観測地点へ集まりやすく、細長い流域では到達時刻が分散しやすい場合があります。河川網の発達の仕方も、ピーク流量に影響します。

同じ洪水流量でも「川が流せる量」が違う

洪水リスクを左右するもう一つの重要な条件が、河道の「流下能力」です。

国土交通省は、現況流下能力を、現在の河道断面や堰、土砂の堆積状況などを踏まえ、その川がどれくらいの洪水を安全に流せるかを流量で表したものと説明しています。

たとえば、同じ毎秒1,000立方メートルの洪水が来ても、幅が広く深い河道なら安全に流せる場合があります。一方、川幅が狭い、川底に土砂がたまっている、橋や堰が流れを妨げているといった条件では、水位がより高くなりやすくなります。

川幅と水深が違う

川が水を流すための横断面積が大きいほど、一般には多くの水を通しやすくなります。国土交通省も、洪水対策として川幅を広げたり、河床を掘削したりする河川改修を行っています。

反対に、狭窄部では上流から来た水が通りにくくなり、上流側の水位を押し上げることがあります。一本の川でも区間ごとに流下能力が違うため、特定の場所が洪水の弱点になることがあります。

土砂や樹木で流れる空間が小さくなることがある

河道内に土砂が堆積したり、樹木が繁茂したりすると、水が流れる有効な断面が小さくなったり、流れへの抵抗が増えたりします。

その結果、以前と同じ洪水流量でも水位が高くなることがあります。河川管理では、堤防だけでなく河道内の土砂や植生を継続的に確認する必要があります。

堤防やダム、遊水地の整備状況も違う

洪水リスクは自然条件だけでなく、治水施設によっても変わります。

上流のダムは洪水時に水を一時的に貯め、下流へ流す量を抑えることがあります。遊水地や調節池も、洪水を一時的に受け入れることでピーク流量を小さくする役割を持ちます。

堤防が整備された川では、一定の水位まで氾濫を防げます。一方、堤防のない河川や、洪水流量に対して堤防・河道能力が十分でない区間では、同じ規模の雨でも氾濫しやすくなることがあります。

ただし、堤防やダムがあるから絶対に安全というわけではありません。計画を上回る洪水が来る可能性があり、堤防の決壊や越水、内水氾濫など別のリスクもあります。

川があふれた後の「土地の形」でもリスクが変わる

洪水リスクには、川があふれる確率だけでなく、あふれた後にどの程度の浸水が起こるかも含まれます。

国土地理院の治水地形分類図では、自然堤防、後背湿地、旧河道、氾濫平野など、河川作用でできた低地の地形が整理されています。こうした土地の成り立ちから、洪水時に水が集まりやすい場所や、浸水が長引きやすい場所を推定できます。

たとえば、周囲より低い後背湿地や旧河道では氾濫水が集まりやすく、深い浸水や長時間の湛水が起こる場合があります。反対に、低地より高い段丘面では、一般に洪水の影響を受けにくい傾向があります。

そのため、同じ川の同じ洪水でも、右岸と左岸、上流側と下流側で被害リスクが大きく違うことがあります。

「洪水が起きやすい」と「被害が大きい」は同じではない

洪水リスクを考えるときは、川があふれやすいことと、被害が大きくなりやすいことを分ける必要があります。

人口の少ない広い氾濫原で水があふれる場合と、住宅・病院・地下街などが密集する都市部であふれる場合では、同じ浸水深でも社会的な被害は大きく異なります。

また、避難場所や避難経路、警報体制、建物の構造などによって人的被害の可能性も変わります。

したがって洪水リスクは、洪水の発生しやすさ × 氾濫のしやすさ × 被害を受ける人や資産の多さという複数の要素を組み合わせて考える必要があります。

同じ大雨でも「降る場所と時間」が違えば同じ条件ではない

「同じ大雨」という表現にも注意が必要です。

総雨量が100ミリで同じでも、1時間で集中して降る場合と、24時間かけて降る場合では川への流出の仕方が違います。また、流域全体に均等に降る場合と、支流の一部だけに集中する場合でもピーク流量は変わります。

USGSは、流出を左右する気象条件として、雨量だけでなく降雨強度、継続時間、流域内の分布、雨雲の移動方向、先行降雨による土壌水分などを挙げています。

そのため、二つの川を比較するときは、単純な観測地点の雨量だけでなく、流域平均雨量や時間分布も確認する必要があります。

小河川が大河川より危険になる場面もある

大きな川は水量が多いため危険に見えますが、洪水リスクは川の大きさだけでは判断できません。

都市部の小河川では、流域が小さいため雨の反応が非常に速く、不浸透面から一気に水が集まることがあります。河道も小さいため、短時間の集中豪雨で急激に水位が上がる場合があります。

一方、大河川では洪水の規模は非常に大きくなるものの、上流から下流へ水が集まるまで時間がかかるため、予測や避難の時間を確保しやすい場合があります。

もちろん、これは一般的な傾向であり、大河川でも急激な増水が起きることがあります。重要なのは、川の大きさではなく、その流域と河道の特性を見ることです。

洪水リスクを知るには何を見ればよいのか

自分の地域の洪水リスクを知るには、「近くの川が大きいか小さいか」だけでなく、複数の情報を見ることが重要です。

  • 洪水ハザードマップや洪水浸水想定区域
  • 想定される浸水深と浸水継続時間
  • 川の水位情報と上流域の雨量
  • 土地が旧河道・後背湿地・自然堤防などのどの地形にあるか
  • 近くの支流や内水氾濫の危険性
  • 避難場所と安全な避難経路

国土地理院の治水地形分類図は、土地がどのような河川作用で形成されたかを知る資料になります。洪水ハザードマップと組み合わせると、なぜその場所が浸水しやすいのかを理解しやすくなります。

まとめ

同じ大雨でも川によって洪水リスクが違うのは、流域が雨を川へ集める性質、河川が洪水を流せる能力、氾濫する土地の地形や利用状況がそれぞれ違うからです。

  • 都市化した流域では雨が短時間で川へ流れ込み、ピーク流量が大きくなりやすい
  • 土壌・地質・先行降雨によって浸透量と流出量が変わる
  • 流域の広さや形、斜面勾配によって水が集まる時間が変わる
  • 川幅、水深、土砂堆積、樹木などによって河道の流下能力が違う
  • ダム、遊水地、堤防などの治水施設によって洪水ピークや氾濫可能性が変わる
  • 旧河道や後背湿地など低い土地では、氾濫後の浸水リスクが高くなる場合がある

つまり、雨の量だけを比べても洪水リスクはわかりません。 「雨がどれだけ川へ集まるか」「川がどれだけ流せるか」「あふれた水がどこへ行くか」を流域全体で見ることが、川ごとの洪水リスクの違いを理解する基本です。

関連する「なぜ?」

参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次