地震の震度に場所や条件による違いがあるのは、震度が「地震そのものの大きさ」ではなく、その地点で実際に観測された揺れの強さを表す指標だからです。同じ一つの地震でも、断層からの距離、震源の深さ、地震波が伝わる地下構造、表層地盤の硬さなどが場所ごとに異なるため、震度も変わります。
つまり、マグニチュードが同じ一つの地震でも、ある地域では震度3、別の地域では震度5強になることがあります。さらに、隣り合う市町村や同じ市内でも、地盤条件が違えば観測震度に差が出る場合があります。
震度は「その場所の揺れ」を表す
まず重要なのは、震度とマグニチュードの違いです。
マグニチュードは地震そのものの規模を表します。一方、震度はそれぞれの観測地点でどれだけ強く揺れたかを表します。そのため、一つの地震には代表的なマグニチュードがありますが、震度は全国の観測地点ごとに別々の値になります。
USGS(米国地質調査所)も、地震の規模を表すマグニチュードは一つであるのに対し、揺れの強さは場所ごとに異なり、断層からの距離や地表付近の地質などによって変化すると説明しています。
この違いを押さえると、「同じ地震なのになぜ震度が違うのか」という疑問は、地震波が震源から各地点へ届くまでにどのような条件の違いを受けたのか、という問題として考えられます。
最も基本的な違いは断層からの距離
一般に、断層で発生した地震波は遠くへ伝わるほどエネルギーを失います。そのため、同じ条件なら断層に近い地点ほど強く揺れ、遠い地点ほど揺れが弱くなる傾向があります。
USGSは、地震波が地中を進むにつれてエネルギーを失うため、一般的に断層から離れるほど地震動が弱くなると説明しています。
ただし、震度分布は震央を中心としたきれいな同心円にはなりません。実際の地震では断層が面として広がっており、震源はその破壊開始点にすぎません。大きな地震では、断層のどの部分に近いかによっても揺れが大きく変わります。
そのため、「震央から同じ距離だから同じ震度になる」とは限りません。重要なのは震央までの距離だけではなく、実際に動いた断層面との距離です。
震源の深さが違うと震度も変わる
同じマグニチュードでも、震源が浅いか深いかによって地表の揺れ方は変わります。
浅い地震では、断層から地表までの距離が短いため、震源周辺では地震波があまり減衰しないうちに地表へ届きます。そのため、比較的小さなマグニチュードでも局地的に強い震度になることがあります。
一方、深い地震では地表までの距離が長くなります。一般には震源直上の強い揺れは弱まりやすくなりますが、地震波が硬いプレート内部を効率よく伝わることで、震央から遠い地域まで揺れが広がる場合もあります。
したがって、「浅い地震は必ず大きな震度、深い地震は必ず小さな震度」と単純には言えませんが、震源の深さは震度分布を左右する重要な条件です。
断層破壊の進む向きでも揺れに差が出る
大きな地震では、断層全体が一度に同時にずれるわけではありません。震源から始まった破壊は、断層面に沿って高速で広がります。
この破壊がある方向へ進むと、その進行方向側で地震波が時間的に重なり、強い揺れが集中することがあります。これを指向性と呼びます。
そのため、震源や断層からほぼ同じ距離にある地点でも、断層破壊がどちら向きへ進んだかによって揺れの強さや周期が違うことがあります。
USGSも、ある地点の揺れの強さは距離だけでなく、断層がどの方向へ破壊したかなどの震源特性にも影響されると説明しています。
地震波が通る地下構造によっても違いが生まれる
地震波は震源から地表まで、同じ種類の岩石だけを通るわけではありません。地下には硬い岩盤、柔らかい堆積層、速度の異なる地層などが複雑に分布しています。
地震波は、地下構造の境界で反射したり屈折したりしながら伝わります。その過程で特定の周期成分が弱くなったり、逆に強くなったりすることがあります。
特に厚い堆積層が広がる平野や盆地では、地震波が内部で反射・屈折を繰り返し、揺れが長く続いたり、特定の周期の揺れが大きくなったりすることがあります。
つまり、震度の地域差は表面の地盤だけでなく、より深い地下構造の違いでも生まれます。
表層地盤の硬さは震度に大きく影響する
地震波が地表近くまで到達すると、最後に表層地盤の影響を強く受けます。
気象庁は、地震動は地盤や地形に大きく影響されるため、同じ市町村や地域でも場所によって震度が異なる場合があると説明しています。たとえば、硬い岩盤と柔らかい沖積地では、震源からの距離がほぼ同じでも観測震度に差が出ることがあります。
一般に、柔らかい地盤では地震波の伝わる速度が遅くなり、揺れの振幅が大きくなりやすい傾向があります。一方、硬い岩盤では増幅が比較的小さいことがあります。
防災科学技術研究所のJ-SHISでは、地震波が工学的基盤から地表へ伝わる際にどれだけ大きくなるかを表層地盤増幅率として示しています。たとえば、他の条件が同じなら、増幅率2.4の地点は1.2の地点より最大速度が約2倍になると説明されています。
なぜ隣り合う地域でも震度が違うのか
地域の境界は行政上の線ですが、地下の地盤はその線に合わせて変わるわけではありません。
川沿いの低地、旧河道、埋立地、谷底低地、台地、山地などでは、地下にある土の種類や厚さが異なります。数百mから数kmの範囲でも地盤条件が変われば、同じ地震波に対する増幅のしかたが変わります。
J-SHISでは、表層30mの平均S波速度であるAVS30などを使い、250mメッシュ単位で地盤増幅率を評価しています。これは、揺れやすさが市町村単位よりはるかに細かい範囲で変化しうることを示しています。
したがって、「隣の町が震度5強だったから、自分の場所も同じはず」とは限りません。同じ自治体内でも観測地点が違えば震度が異なることがあります。
同じ地震でも地盤によって揺れの周期も変わる
地盤は揺れの大きさだけでなく、どの周期の揺れが強くなるかにも影響します。
柔らかい地盤や厚い堆積層では、比較的長い周期の揺れが増幅されることがあります。一方、浅い硬い地盤では短い周期の成分が目立つことがあります。
気象庁の震度は単純な最大加速度だけで決まるのではなく、揺れの周期や一定以上の揺れが続く時間を考慮して算出されます。そのため、最大加速度が近い二地点でも、地震動の周期構成が違えば計測震度が異なる場合があります。
つまり震度差は、「どちらの地面が何cm大きく動いたか」だけで決まるものではありません。揺れの周期や継続時間も関係しています。
観測点の場所によって「発表される震度」にも差が出る
気象庁が発表する震度は、全国に設置された震度計で実際に観測した値です。
したがって、「○○市で震度5弱」という情報は、その市全域の地面が完全に震度5弱だったという意味ではありません。その市内にある震度観測点で震度5弱が観測されたという意味です。
気象庁は、震度計が全国約4,400地点に設置されており、同じ市町村でも地盤や地形の違いにより体感と発表震度が異なる場合があると説明しています。
また、中高層建物の上層階では、建物自体の振動によって地表より強く揺れることがあります。震度計は原則として地表や低層建物の1階に設置されているため、高層階で感じる揺れがそのまま震度として発表されるわけではありません。
観測点が多い地域ほど最大震度を捉えやすい
震度の地域差を考えるときには、地震そのものや地盤だけでなく、観測網の密度にも注意が必要です。
日本地震工学会論文集に掲載された研究では、震度観測点の密度が高くなるほど、震源に近い場所や局所的に揺れやすい場所の強震記録を捉えやすくなり、観測される最大震度が高くなる傾向が示されています。
これは「観測点が多い地域の地震が物理的に強くなる」という意味ではありません。観測網が細かいほど、狭い範囲で起きた強い揺れを見逃しにくくなるということです。
そのため、過去の地震と現在の地震の最大震度を比較するときには、震度観測網が大きく変化してきたことも考慮する必要があります。
推計震度分布図では地盤差も考慮される
すべての場所に震度計を設置することはできないため、気象庁は観測点のない場所を含めて揺れの分布を示す「推計震度分布図」を提供しています。
気象庁によると、推計震度分布図では実際に観測された震度などを基に、地表の地盤増幅度を考慮して震度計のない場所の震度を推計します。
つまり、震度の面的な分布を考える際にも、「同じ地震波が届いても地盤によって揺れが変わる」という地域差が計算に取り入れられています。
ただし、推計震度は実測値そのものではありません。細かな造成地や局所的な地盤条件など、メッシュより小さい違いまですべて表せるわけではないため、個々の敷地の揺れを完全に示すものではありません。
震度が高い場所ほど被害も必ず大きいのか
震度が高いほど強い揺れを受けているため、一般には被害リスクも高まります。しかし、同じ震度なら被害も同じになるわけではありません。
建物の被害には、建築年代、構造、耐震性能、地盤、揺れの周期や継続時間などが関係します。たとえば、同じ震度6弱でも、耐震性の高い建物が多い地域と古い建物が集中する地域では、被害の出方が異なる可能性があります。
また、液状化や斜面崩壊のように、震度だけでは十分に表せない地盤災害もあります。
したがって震度は重要な防災情報ですが、被害を予測するときは地盤や建物条件も合わせて見る必要があります。
同じ場所でも地震ごとに震度が違うのはなぜか
同じ観測地点でも、発生する地震が違えば震度は変わります。
理由は、地震ごとにマグニチュード、震源位置、震源の深さ、断層の向き、破壊方向が異なるからです。さらに、地震波の周期構成も地震ごとに違います。
ある地震では近くの浅い断層から強い短周期地震動を受け、別の地震では遠い巨大地震から長周期成分を多く含む揺れを受けることがあります。
つまり、その場所の「揺れやすさ」は地盤によってある程度決まりますが、毎回同じ震度になるわけではありません。震源側の条件と地点側の条件の組み合わせによって決まります。
まとめ
地震の震度に場所や条件による違いがあるのは、震度がその地点で観測された揺れの強さを表す指標だからです。
同じ一つの地震でも、断層からの距離、震源の深さ、断層破壊の方向、地震波が通る地下構造が異なれば、各地へ届く地震動は変わります。さらに、地表近くの柔らかい地盤では揺れが増幅されやすく、硬い地盤では比較的小さくなる場合があります。
また、震度は観測点で測られるため、同じ市町村内でも場所によって違いがあり、観測点の密度によって局地的な最大震度を捉えやすさも変わります。
つまり震度の地域差は、「地震がどこでどのように起きたか」「地震波がどの経路を通ったか」「その地点の地盤がどのように揺れを増幅したか」という条件の組み合わせで生まれます。
参考資料
- 気象庁「震度・マグニチュード・地震情報について」
- 気象庁「推計震度分布図について」
- J-SHIS「表層地盤増幅率と揺れやすさの関係について教えてください」
- U.S. Geological Survey「Earthquake Magnitude, Energy Release, and Shaking Intensity」
- 杉山充樹ほか「震度観測体制の年代差・地域差の定量評価と震度情報の解釈」

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