なぜ土は雨や風で侵食されるのか?

結論から言うと、土と侵食が関係しているのは、雨水や風の力が土の粒子を地表からはがし、別の場所へ運ぶからです。とくに植物に覆われていない土や傾斜地では、雨滴や地表を流れる水、強い風の影響を直接受けやすく、表土が失われやすくなります。

「侵食」という言葉は、崖や岩が削られる現象を思い浮かべるかもしれません。しかし農地や裸地では、目に見える大きな崩れだけでなく、表面の薄い土が少しずつ移動することも侵食です。土は粒子の集まりなので、外から加わる力が粒子同士を結びつける力を上回れば、粒子ははがれて移動します。

目次

土壌侵食とは何か

土壌侵食とは、地表の土壌粒子が水や風などによってはがされ、運ばれる現象です。FAOは、土壌侵食を水・風・耕起などによって表土が地表から加速的に取り除かれる現象として説明しています。

侵食そのものは自然界でも起こります。雨が降り、川が流れ、風が吹けば、土や岩石の粒子は少しずつ移動します。ただし、森林伐採、過放牧、裸地化、不適切な土地利用などによって地表の保護が失われると、自然の土壌形成速度を大きく上回る速さで侵食が進むことがあります。

土と侵食が切り離せないのは、侵食される対象そのものが土の粒子であり、その起こりやすさが土の構造、水のしみ込みやすさ、植物被覆、傾斜などによって変わるためです。

水による侵食はどのように起こるのか

日本の農地で特に重要なのが水食です。農林水産省は、土壌侵食には水による水食と風による風食があり、水食は傾斜地の畑で起こりやすいと説明しています。

雨滴が土の粒子をはがす

強い雨が裸地に当たると、雨粒の衝撃で土の表面にある小さな粒子が飛び散ります。USDA NRCSの資料でも、露出した地表への雨滴の衝突が土壌粒子をはがす重要な過程として示されています。

植物の葉や枯れ草などが地表を覆っていれば、雨滴はそれらに当たって勢いを失います。しかし裸地では、雨滴のエネルギーが直接土に伝わるため、粒子がばらばらになりやすくなります。

地表を流れる水が粒子を運ぶ

雨が土にしみ込む量よりも、降る量のほうが多くなると、余った水は地表を流れます。この表面流出が、雨滴によってはがれた粒子を下方へ運びます。

最初は地表全体から薄く土が削られるだけで、変化が見えにくいことがあります。これを面状侵食と呼びます。流れが一部に集中すると小さな溝ができるリル侵食へ進み、さらに溝が大きくなるとガリ侵食へ発達することがあります。

つまり、水食は「雨が土をはがす作用」と「流れる水が運ぶ作用」が組み合わさって進みます。

なぜ傾斜地では侵食が起こりやすいのか

斜面では、水が重力によって低い方向へ流れます。傾斜が急になるほど流れの速度や土を動かす力が大きくなりやすいため、平らな土地より侵食が進みやすくなります。

農林水産省の資料では、水食の発生と進行には、降雨量・強度・継続時間などの気象条件、傾斜や斜面長などの地形条件、雨水の浸透性や流去水に対する抵抗力といった土壌条件が関係するとされています。

同じ雨が降っても、短い緩斜面と長い急斜面では流れ方が違います。長い斜面ほど水が集まりやすく、下部では流量が増えるため、侵食力が大きくなる場合があります。

土の性質によって侵食されやすさが違う

土はどれも同じように削られるわけではありません。粒子の大きさ、団粒構造、有機物量、地表の硬さ、水のしみ込みやすさなどによって、侵食への強さが変わります。

水がしみ込みにくい土では表面流出が増える

雨水が土の中へよく浸透すれば、地表を流れる水の量は少なくなります。反対に、土が締め固められていたり、表面に硬い皮膜ができていたりすると、水がしみ込みにくくなり、地表流が増えやすくなります。

そのため侵食対策では、単に水を排水するだけではなく、土の透水性を改善し、地表を流れる水の量や速度を抑えることも重要です。

団粒構造が安定していると粒子がばらけにくい

粘土、有機物、微生物由来の物質、植物の根などによって土の粒子がまとまり、団粒が形成されます。安定した団粒は、一つひとつの細粒がばらばらの状態よりも雨滴や流水に抵抗しやすく、水の通り道となる孔隙もつくります。

逆に、粒子が分散しやすく表面が崩れやすい土では、雨滴の衝撃によって細粒がはがれ、流されやすくなります。つまり、土の構造そのものが侵食の受けやすさを左右します。

風による侵食はどのように起こるのか

乾燥した地表に強い風が吹くと、土の細かな粒子が持ち上げられたり、地表を跳ねたり転がったりして移動します。これが風食です。

USDA NRCSは、風食によって土の中でも肥沃度の高い部分、特に粘土や有機物を多く含む細かな粒子が失われると説明しています。粒子は浮遊、跳躍、地表を転がる移動などによって運ばれます。

風食は、土が乾いていて、地表に植物や作物残さが少なく、粒子が細かくばらばらになっているときに起こりやすくなります。広く平坦で遮るものが少ない場所では、風が長い距離を吹き抜けるため影響が大きくなることがあります。

植物があるとなぜ侵食を抑えられるのか

植物は侵食に対して複数の防御機能を持っています。

  • 葉や茎が雨滴の衝撃を弱める
  • 地表の植生や落ち葉が水の流れを遅くする
  • 根が土を保持し、粒子が動きにくくなる
  • 根や土壌生物の働きで孔隙が増え、水が浸透しやすくなる
  • 風が地表を直接吹き抜けるのを妨げる

農林水産省も、土壌侵食防止策として植物などによる地表面の被覆を挙げています。裸地を減らすことは、水食にも風食にも共通する基本的な対策です。

耕し方によって侵食量が変わるのはなぜか

耕作方法は、地表の形と土壌構造、水の流れ方を変えます。斜面の上下方向に長い畝をつくると、水が畝間へ集まり、そのまま斜面下へ流れやすくなる場合があります。

一方、等高線に沿って畝をつくると、流れを横切る形になり、水の速度を落としやすくなります。農林水産省は、水食対策として等高線に沿った畝立て、植生による被覆、グリーンベルト、心土破砕などを挙げています。

つまり、同じ畑でも、畝の向きや耕起の時期、裸地期間の長さによって侵食量は変わります。

風の通り道によって風食の起こりやすさは変わる

風食では、土地の開け方も重要です。防風林、建物、植生帯、地形の起伏などがあれば、地表付近の風速は弱まりやすくなります。

反対に、広く平坦で風を遮るものが少ない場所では、長い距離を強風が吹き抜けます。丘の頂部などでは地形によって風が強まり、風食が起こりやすくなる場合もあります。

このため、同じ土質・同じ乾燥状態でも、風の通り道や防風物の有無によって風食リスクは変わります。

季節や同じ畑の中でも侵食リスクは変わる

侵食リスクは一年中同じではありません。梅雨や台風など強雨が多い時期には水食が起こりやすく、融雪期には雪解け水が斜面を流れて土壌流亡を起こす場合があります。一方、乾燥して強風が吹く時期には風食が増えやすくなります。

また、一枚の畑の中でも侵食量は均一ではありません。斜面下部では上からの水が集まりやすく、わずかな凹地や轍に流れが集中すると、そこだけ侵食溝が発達することがあります。機械の走行跡、踏圧、土の硬さ、植生密度の違いによって水のしみ込みやすさが変わることもあります。

そのため、侵食対策では畑全体を一様に見るだけでなく、「どこへ水が集まるか」「どこが裸地になりやすいか」「いつ強雨や強風と重なるか」を確認することが重要です。

侵食で表土が失われると何が問題なのか

侵食で特に問題になるのが、表土の損失です。地表近くの土には、有機物、養分、植物の根、微生物などが比較的多く存在します。

FAOは、侵食によって肥沃な表土が失われると、土壌の健全性や生産性が低下するとしています。USDA NRCSも、風食によって粘土や有機物を多く含む肥沃な部分が除かれると、土壌生産力や構造、生物活動が低下すると説明しています。

表土が薄くなれば、植物が利用できる養分や水の貯蔵量も減りやすくなります。また、下層の硬い土や礫の多い層が露出すれば、根が伸びにくくなることもあります。

さらに、流出した土は「消えてなくなる」のではなく、別の場所へ移動します。農地から河川や水路へ入れば、濁水や堆積物の増加、水質への影響など、下流側の問題につながることがあります。

侵食は一度の豪雨だけで起こるのか

大雨で大きな溝ができれば侵食はすぐ目につきます。しかし侵食は、必ずしも一度の災害で急激に起こるとは限りません。

薄い面状侵食のように、毎回少しずつ表土が削られる場合は変化に気づきにくいことがあります。農地全体では数ミリの違いでも、何年も続けば肥沃な表層が徐々に失われます。

このため土壌侵食は、「大雨のときだけ注意する問題」ではなく、日常的な土壌管理とも深く関係しています。

侵食を防ぐには何をすればよいのか

侵食対策の基本は、土をはがしにくくすること、水や風の力を弱めること、移動し始めた土をほ場外へ出さないことです。

農林水産省は水食対策として、土壌の透水性改善、地表流水の速度低下、植物による地表被覆、グリーンベルトなどを挙げています。傾斜畑では、等高線に沿った管理や不耕起帯なども土壌流亡の抑制に利用されます。

実際に農林水産省が紹介する傾斜畑の実証例では、土層改良と緑肥の部分不耕起を組み合わせることで、無処理区に比べ土壌流亡量が減少しました。これは、雨水を土へ浸透させやすくし、斜面を流れる水を途中で弱めることが侵食防止につながる例です。

風食では、防風林や防風網、作物残さによる地表被覆、風向きに配慮した畝などによって、地表付近の風速を下げたり、土粒子が動き出すのを防いだりします。

土と侵食の関係を一言で整理すると

  • 侵食とは、土の粒子が水や風ではがされ、運ばれる現象である
  • 水食では雨滴の衝撃と地表流が大きな役割を持つ
  • 風食では乾燥した細かな粒子が風で移動する
  • 傾斜、裸地、強い雨や風、低い浸透性などが侵食を強める
  • 植物被覆や安定した土壌構造は侵食を抑える
  • 耕し方、風の通り道、季節、同じ畑の中の局所条件でも侵食量は変わる
  • 侵食で表土が失われると、養分・有機物・保水力などが低下しやすい

つまり、侵食は外からの水や風だけの問題ではなく、それを受ける土の状態との組み合わせで決まります。土の粒子がどれだけまとまり、水をどれだけ吸収し、地表がどれだけ植物に覆われているかに加え、地形や管理、季節によっても、同じ雨や風で侵食の程度は大きく変わるのです。

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出典・参考資料

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