台風は暖かい海からエネルギーを受け取って発達します。しかし興味深いことに、強い台風が通過した後の海では、通過前より海面水温が下がることがあります。
なぜ台風が通過すると海面水温が下がることがあるのでしょうか。結論からいうと、台風の強風が海を激しくかき混ぜ、表面の暖かい水と下層の冷たい水を混合するとともに、場所によっては深い水を湧き上がらせ、さらに海面からの蒸発によって熱を奪うからです。
台風は海面を強い風でかき混ぜる
台風の周囲では非常に強い風が海面を吹き続けます。この風は大きな波や海流を生み、海の表層を激しく混ぜます。
夏から秋の海では、表面付近が日射で暖められていても、その下にはより冷たい水が存在することがあります。台風による乱流混合が強まると、暖かい表面水が下へ、冷たい下層水が上へ運ばれ、海面付近の温度が下がります。
NOAA/AOMLは、熱帯低気圧通過後にできる冷たい海面域を「cold wake(冷たい航跡)」として説明し、その主要因に風による鉛直混合を挙げています。
下層の冷たい水が湧き上がることもある
強風による海水の移動は、単に上下を混ぜるだけではありません。台風の風によって表面の海水が移動すると、その不足を補うように下層から水が上がる湧昇が起こる場合があります。
下層の水が表面より冷たければ、湧昇によって海面水温はさらに下がります。台風の進行方向に対する位置や海流、海底地形などによって湧昇の強さは変わるため、冷却は台風の経路の左右で均一になるとは限りません。
蒸発でも海から熱が奪われる
台風の強風下では、海面から大気への水蒸気供給が非常に活発になります。水が蒸発するには熱が必要なので、そのエネルギーは海面から奪われます。
この潜熱の放出も海面を冷やす方向に働きます。ただし、台風通過後の大きな海面冷却では、一般に強風による鉛直混合が重要な役割を果たします。
ゆっくり進む台風ほど海を冷やしやすいことがある
台風の移動速度も海面冷却の大きさを左右します。同じ海域に強風が長時間作用すれば、それだけ海をかき混ぜる時間が長くなります。
NOAA/AOMLの研究でも、熱帯低気圧の移動速度は海洋応答を左右する重要な要素とされています。ゆっくり進む台風では強い混合や湧昇が続き、より大きな冷却が生じる場合があります。
反対に、非常に速く通過すれば、強い台風でも一地点に風が作用する時間が短くなり、冷却が相対的に小さくなることがあります。
暖かい水の層が厚い海では冷えにくい
通過前の海面水温が同じでも、海の内部構造が違えば冷え方は変わります。
表面から深いところまで暖かい水が続いている海では、台風が海を混ぜても冷たい水を表面まで取り込みにくいため、海面水温の低下は比較的小さくなります。
一方、暖かい表層が薄く、そのすぐ下に冷たい水がある海では、強風で少し深くまで混ざるだけでも海面水温が大きく下がりやすくなります。
冷たい航跡は台風自身にも影響する
台風は海から熱と水蒸気を受け取っているため、自分で海面を冷やすと、その後は海から受け取れるエネルギーが減る方向に働きます。
特に台風の移動が遅い場合や、同じ海域を複雑に進む場合には、自ら作った冷たい海面の上を通ることで発達が抑えられることがあります。
ただし、台風の強さは海面水温だけで決まりません。鉛直シア、湿度、内部構造など大気側の条件も重要です。
すべての台風で同じ温度低下になるわけではない
台風通過後の冷却量は、最大風速だけでは決まりません。移動速度、風域の大きさ、海洋の成層、暖水層の厚さ、海流、湧昇の起こりやすさなどが組み合わさります。
そのため、強い台風でも暖水層が深ければ冷却が比較的小さい場合があり、逆にそれほど強くなくても移動が遅く、浅い暖水層の上を通れば大きく冷えることがあります。
海面が冷えても海全体の熱が消えたわけではない
混合による冷却では、表面の暖かい水が下層へ運ばれています。つまり、海面水温が下がったからといって、海が持っていた熱がすべて大気へ失われたわけではありません。
海の内部では熱が鉛直方向に再分配されています。台風の発達を考えるときには、表面温度だけでなく、暖かい水がどれほど深くまで存在するかという海洋内部の熱量も重要です。
W00672との違い
W00672「なぜ同じ海面水温でも台風の発達しやすさが違うのか?」は、暖水層の厚さや海洋貯熱量、鉛直シアなどから、同じ海面水温でも台風の発達条件が異なる理由を説明します。
この記事では、台風が海を通過した結果として、海面水温そのものがなぜ低下するのかに焦点を当てています。主題は台風の発達条件ではなく、強風を受けた海洋側の応答です。
関連する「なぜ?」
まとめ
台風が通過すると海面水温が下がることがあるのは、強風によって海が激しくかき混ぜられ、下層の冷たい水が表面へ運ばれるためです。湧昇や蒸発による熱損失も冷却に加わります。
冷却の大きさは、台風の強さだけでなく、移動速度、風域、暖水層の厚さ、海洋の成層などによって変わります。そのため、同じような台風でも通過後の海面水温低下は一様ではありません。
この冷たい航跡は、台風自身が海から受け取れるエネルギーを減らし、その後の発達を抑える方向に働くこともあります。

コメント