なぜ台風が海をかき混ぜるとプランクトンが増えることがあるのか?

台風が通過した海では、海面水温が下がるだけでなく、衛星観測などで植物プランクトンが増えたように見えることがあります。台風は海の生き物に被害を与える一方、海の表層へ栄養塩を供給して生物生産を一時的に高める場合もあります。

なぜ台風が海をかき混ぜるとプランクトンが増えることがあるのでしょうか。結論からいうと、強風による海水の混合や湧昇によって、普段は光の届きにくい深い層にある栄養塩が表層へ運ばれ、光を利用できる植物プランクトンの増殖条件が整うことがあるからです。

目次

暖かい表層は栄養塩が少なくなることがある

海の表面付近には太陽光が届くため、植物プランクトンは光合成できます。しかし、植物プランクトンが増殖すると、硝酸塩やリン酸塩などの栄養塩が消費されます。

特に成層が強い暖かい海では、軽い表層水と冷たい深層水が混ざりにくくなります。すると深い層にある栄養塩が表面まで補給されにくく、光は十分でも栄養塩が不足して植物プランクトンの増殖が抑えられることがあります。

台風の強風が海を深くまで混ぜる

台風の強い風は海面に大きな力を加え、波や乱流を発生させます。その結果、表面の暖かい水と、その下にある冷たい水が混ざり、海洋の混合層が深くなります。

この混合によって、深い層に蓄えられていた栄養塩を含む海水が表層側へ取り込まれることがあります。台風通過後に海面水温が低下するのも、この鉛直混合が重要な理由の一つです。

湧昇でも深い海水が表面へ運ばれる

台風の風は海を混ぜるだけではありません。風によって表層の海水が移動すると、その不足を補うように深い場所から海水が上がってくる「湧昇」が起こる場合があります。

深い海水は一般に表層より冷たく、植物プランクトンが利用できる栄養塩を多く含むことがあります。そのため湧昇が強く起きた海域では、海面水温の低下と栄養塩供給が同時に現れることがあります。

栄養塩と光がそろうと植物プランクトンが増えやすい

台風通過直後は雲が多く海が激しくかき混ぜられているため、すぐに植物プランクトンが増えるとは限りません。しかし台風が去って日射が戻り、表層に栄養塩が残っていれば、植物プランクトンが増殖しやすい条件になります。

衛星では植物プランクトンに含まれるクロロフィルaの濃度変化を手掛かりに、このような増加が観測されることがあります。台風の通過後にクロロフィル濃度が高くなる現象は、強い混合や湧昇に伴う海洋応答の一つです。

台風が来れば必ずプランクトンが増えるわけではない

増殖の程度は、台風の強さだけでは決まりません。移動速度、風が同じ海域に吹き続ける時間、海の成層、混合層の深さ、栄養塩の分布、日射、台風通過後の天候などによって変わります。

もともと栄養塩が十分な海域では変化が小さい場合があります。また混合が強すぎて植物プランクトンが光の届きにくい深さまで運ばれたり、台風後も雲が多く日射が不足したりすれば、栄養塩が増えても直ちに大きな増殖につながらないことがあります。

植物プランクトンの増加は食物網にもつながる

植物プランクトンは海洋食物網の基礎を支える生物です。植物プランクトンが増えると、それを食べる動物プランクトンなどへ影響が波及する可能性があります。

ただし、台風による生態系への影響を「栄養が増えて海が豊かになる」と単純に評価することはできません。台風は強い波や濁り、塩分変化、沿岸からの大量の淡水や土砂の流入なども引き起こし、サンゴ礁や沿岸生態系へ大きな物理的被害を与える場合があります。

沿岸と外洋では影響が違う

外洋では鉛直混合や湧昇による栄養塩供給が重要ですが、沿岸では河川から流れ込む栄養塩や土砂、濁りも大きく影響します。

大雨で陸から栄養塩が流れ込めば植物プランクトンの増殖を促すことがありますが、過剰な栄養塩や有機物は水質悪化や酸素不足につながる可能性もあります。したがって台風後の海洋生態系の変化は、場所によって異なります。

W00682との違い

W00682「なぜ台風が通過すると海面水温が下がることがあるのか?」は、強風による鉛直混合や湧昇によって冷たい深層水が表面へ運ばれ、海面水温が低下する物理的な仕組みを中心に説明する記事です。

この記事では、その同じ混合や湧昇によって深い層の栄養塩も表層へ供給され、その後の植物プランクトンの増殖や海洋生態系へ影響が及ぶことがある理由に焦点を絞っています。主題は水温低下そのものではなく、台風後の海の生物生産への影響です。

台風は海の物理環境と生態系を同時に変える

台風は海面を冷やすだけの現象ではありません。風による混合、湧昇、波、大雨、河川流入などを通じて、水温、塩分、栄養塩、濁り、光環境を同時に変えます。

その結果、ある海域では植物プランクトンが一時的に増え、別の海域では濁りや強い攪乱によって生物に負担がかかるなど、異なる応答が起こります。台風の自然への影響を理解するには、気象だけでなく海洋の物理と生態系を一緒に見ることが重要です。

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まとめ

台風が海をかき混ぜると植物プランクトンが増えることがあるのは、強風による鉛直混合や湧昇によって、深い層にある栄養塩が光の届く表層へ運ばれるためです。

台風が去って日射が戻り、栄養塩や水温などの条件がそろえば、植物プランクトンが増殖し、クロロフィル濃度が上昇することがあります。一方、増加の程度は台風の強さ、移動速度、海の成層、日射などに左右され、必ず起こるわけではありません。

また台風は沿岸生態系へ物理的被害や濁りなどももたらします。植物プランクトンの増加は、台風が海の環境を大きく組み替える多様な影響の一つなのです。

参考資料

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