同じ山の同じ斜面でも、雪が降った直後には雪崩が起こりやすく、数日たつといったん落ち着くことがあります。ところが、その後に急な気温上昇や雨があると、再び危険が高まることもあります。
結論からいうと、雪崩の起こりやすさが季節や天候によって変わるのは、積雪を斜面下へ動かそうとする力と、積雪をその場に支える力の両方が、新雪、風、気温、日射、雨、融雪、再凍結などによって時間とともに変化するためです。冬の間ずっと同じ種類の雪崩が同じ条件で起こるわけではありません。
雪崩の危険は「積雪量」だけでは決まらない
斜面の積雪には、重力によって下へ滑ろうとする力が常に働いています。一方で、雪粒同士の結びつき、弱層の強さ、地面との摩擦などが積雪を支えています。
防災科学技術研究所は、雪崩が起こるのはこの力の釣り合いが崩れるためだと説明しています。したがって危険度は、積雪が何cmあるかだけではなく、積雪内部の構造がどう変わっているかで決まります。
大雪の直後は新しい荷重が急に増える
短時間に大量の雪が降ると、すでに斜面にある積雪の上へ新たな重さが加わります。
その下に弱い層がある場合、新雪の重みで弱層にかかる力が急に増え、雪板状の表層雪崩が起こりやすくなります。雪が降った直後に危険が高まるのは、新しい雪が「材料」になるだけでなく、「荷重」になるためです。
風が強いと降雪量以上に雪が集まる
風は雪を風上側から削り、風下側へ運びます。
そのため、降雪そのものがそれほど多くなくても、風下斜面では短時間に厚い雪板が形成されることがあります。こうした風で運ばれた雪が弱層の上に積もると、局地的に雪崩が起こりやすくなります。
寒い時期には乾いた雪の弱層が問題になることがある
真冬の低温期には、積雪内部の温度差によって雪粒が変化し、弱い層が形成・維持されることがあります。
このような弱層の上へ新雪や風で運ばれた雪が重なると、表層雪崩の危険が高まります。見た目には雪面が落ち着いていても、内部に弱い層が残っている場合があります。
一度の降雪のあとでも危険度は時間とともに変わる
新雪が積もった直後は不安定でも、時間がたつと雪粒同士の結びつきが強まり、圧密も進んで安定することがあります。
ただし弱層が深く残っている場合には、表面が締まって見えても危険が完全になくなったとは限りません。雪崩の危険は単純に「翌日なら安全」とは判断できません。
春に近づくと雪崩の原因が変わる
長野地方気象台は、春は気温変化が大きく、積雪のある山地では真冬と同様に雪崩が起こりやすいと説明しています。
真冬には新雪や弱層を原因とする乾いた雪崩が問題になりやすい一方、春先には気温上昇、日射、雨、融雪水による湿った雪崩や全層雪崩の危険が高まりやすくなります。
急な気温上昇は積雪を不安定にすることがある
気温が急に上がると、雪面や積雪内部の温度も上昇します。
Avalanche.orgは、雪面が急に湿るほどの急激な昇温を不安定化の兆候の一つとして挙げています。特に寒い状態が長く続いた後の急な暖気では、積雪が短時間で大きく変化します。
日射は雪面を直接暖める
晴れた日には、雪面が太陽からエネルギーを受け取ります。
日射を強く受ける斜面では雪面が湿り、表面の雪粒同士の結びつきが弱くなることがあります。その結果、湿った雪が一点から崩れ、周囲の雪を巻き込みながら広がる湿雪雪崩が起こることがあります。
春は朝と午後で危険度が変わることもある
夜間に気温が下がると、前日に湿った雪面が再凍結して硬くなることがあります。
しかし日中に日射と気温上昇が進むと、再び雪面が湿り、支持力が弱まる場合があります。そのため春の雪崩危険は、季節だけでなく一日の中でも変化します。
雨は積雪に水と熱を加える
積雪の上に雨が降ると、液体の水が積雪内部へ入り込みます。
防災科学技術研究所は、融雪や降雨による雪粒子の融解や、積雪底面の摩擦低下を、積雪の支持力を下げる原因として挙げています。雨は雪を重くするだけでなく、雪を支える条件も変えるのです。
融雪水が増えると湿雪雪崩が起こりやすくなる
日射や暖気で雪が融けると、液体の水が積雪内部を移動します。
雪面近くが湿って弱くなれば湿った表層雪崩が起こりやすくなり、積雪底面まで水が届いて摩擦が低下すると、積雪全体が地面との境界から滑る全層雪崩につながることがあります。
全層雪崩は春先に多くなる
長野地方気象台は、積雪全体が地面との境界から滑る全層雪崩は春先に多く発生すると説明しています。
これは春に気温上昇や日射、融雪が進み、積雪底部へ水が入りやすくなるためです。ただし春であれば必ず全層雪崩になるわけではなく、地形や積雪状態によって発生条件は異なります。
湿雪雪崩では雪が重くなり被害も大きくなることがある
Avalanche.orgは、湿った雪が崩れるWet Loose Avalancheについて、日射、気温上昇、雨によって雪面が湿って弱くなると発生しやすいと説明しています。
湿った雪は乾いた雪より重いため、規模によっては樹木や構造物へ大きな力を及ぼすことがあります。
気温上昇があれば必ず雪崩が起こるわけではない
急な昇温は重要な危険要因ですが、すべての気温上昇が雪崩につながるわけではありません。
積雪がすでに安定している場合や、雪が十分に少ない場合などには、気温が上がっても雪崩が起こらないことがあります。危険は積雪構造と気象変化の組み合わせで決まります。
寒くなれば必ず安全になるわけでもない
気温が下がると湿った雪が再凍結し、表面は安定することがあります。
しかし積雪内部に弱層が残っていれば、乾いた雪板雪崩の問題が続く場合があります。暖かい雪崩と寒い雪崩では、危険の仕組みが違うのです。
低気圧の通過前後で危険の型が切り替わることがある
低気圧が近づくと降雪や風が強まり、新雪荷重や吹きだまりによる危険が高まることがあります。
その後に暖気や雨が入れば、今度は融雪や湿雪化が進みます。さらに低気圧通過後に寒気が戻れば、再凍結した雪面の上へ新しい雪が積もることもあります。
つまり一つの斜面でも危険要因は入れ替わる
ある日は新雪荷重が主な問題でも、別の日には風でできた雪板が問題になり、その後は急な昇温や雨が主な危険要因になることがあります。
雪崩の季節変化とは、単純に「冬は危険、春はさらに危険」ということではなく、積雪を不安定にする原因が時間とともに入れ替わることです。
W00708との違いは「なぜ雪崩が起こるか」ではなく「なぜ危険度が変わるか」
W00708では、斜面方向へ雪を動かす力と、それを支える力の釣り合いが崩れると雪崩が起こるという基本原理を扱いました。
W00738ではその原理を前提に、新雪、風、寒気、暖気、日射、雨、融雪によって、その釣り合いが同じ斜面でも時間とともに変わる理由を中心に説明します。
W00718との違いは「破壊伝播」ではなく「発生条件の時間変化」
W00718では、雪板状の表層雪崩で弱層の局所破壊が横へ広がり、雪板が一気に滑り出す仕組みを扱いました。
本記事では、そうした雪板雪崩が起こりやすい状態そのものが、新雪や風、弱層の変化によっていつ強まり、いつ弱まるのかを扱います。
W00728との違いは「場所差」ではなく「同じ場所の時間変化」
W00728では、斜面の向き、標高、風、日射、植生などによって、同じ時刻でも場所ごとに雪崩の起こりやすさが違う理由を説明しました。
W00738では同じ斜面に注目し、降雪直後、寒波、暖気、雨、融雪期などへ天候が変わると、その斜面の危険度がどう変わるかを整理します。
「春だけが雪崩の季節」ではない
春先には融雪や全層雪崩が増えやすい一方、真冬には新雪、風で運ばれた雪、弱層による表層雪崩が起こります。
したがって雪崩の危険は春だけに存在するのではなく、季節ごとに主な原因が変わります。
「大雪の翌日だけ注意すればよい」でもない
大雪直後は重要な危険期間ですが、数日後に急な暖気や雨が来れば、別の仕組みで危険が再び高まることがあります。
逆に、降雪がなくても強風によって雪が再配分されれば、新しい雪板が形成されることもあります。
まとめ
雪崩の起こりやすさが季節や天候によって変わるのは、積雪を滑らせる力と支える力が固定されていないためです。
真冬には新雪、風で運ばれた雪、弱層などによって乾いた表層雪崩が起こりやすくなることがあります。春に近づくと気温上昇、日射、雨、融雪水によって雪の支持力が低下し、湿雪雪崩や全層雪崩の危険が高まりやすくなります。
つまり、雪崩の季節・天候変化とは、同じ斜面でも積雪の荷重、弱層、雪質、水分量、地面との摩擦が変わり続けるため、危険の大きさと雪崩の型が時間とともに変化することなのです。

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