なぜ同じ星でも同じ方法で測った等級が時刻や大気条件で変わるのか?

同じ星を同じ望遠鏡・同じフィルターで観測しても、測った等級がいつも完全に同じになるとは限りません。星自身の明るさが本当に変化する場合があるうえ、地球大気を通る光の量や、空の透明度、観測装置の校正状態などによって、観測された光量も変わるからです。

ここで重要なのは、等級の種類そのものが違う場合と、同じ種類の等級を時間を追って測ったときに値が変わる場合を分けることです。見かけの等級・絶対等級・B等級・V等級などの違いは「何を基準に、どの波長で測ったか」の違いです。一方、今回扱うのは、同じ測光条件で同じ星を繰り返し観測したときに、なぜ数値が変化することがあるのかという問題です。

等級の時間変化には、星そのものが変わる場合と、観測条件によって見かけの明るさが変わる場合があります。天文学では、この二つを比較星や光度曲線、標準化された測光によって切り分けます。

目次

等級は「観測された明るさ」を対数で表す値

等級は、星から観測者へ届いた光の強さを対数尺度で表したものです。数値が小さいほど明るく、数値が大きいほど暗いことを意味します。

したがって、同じ星から届く光が何らかの理由で少なくなれば、観測される等級は大きくなります。逆に、届く光が増えれば等級は小さくなります。

この「届く光」が変わる原因には、星自身の光度変化だけでなく、地球大気による減光や観測装置の条件も含まれます。

変光星では星自身の明るさが本当に変わる

恒星の中には、時間とともに実際の明るさが変わる変光星があります。

国立天文台が紹介するくじら座のミラは、約332日の周期でおよそ2等から10等まで大きく明るさが変化する代表的な長周期変光星です。星自身が膨張と収縮を繰り返し、表面温度も変化するため、放射される光の量が変わります。

この場合、等級が変化した原因は観測誤差ではありません。星そのものの物理状態が変わった結果です。

OpenStaxは、変光星の明るさを時間に対して記録したグラフを「光度曲線」と呼び、最大光度・最小光度・変光周期などを読み取れると説明しています。

食連星では星系から届く合計光量が周期的に変わる

等級の変化が見られても、一つの恒星の表面が明るくなったり暗くなったりしているとは限りません。

2つの恒星が互いのまわりを回る食連星では、地球から見て一方がもう一方の前を通ると、星系全体から届く光の一部が隠されます。そのため、一定の周期で観測等級が大きくなり、食が終わると元へ戻ります。

このような周期的な等級変化を長期間追うと、単なる雲や大気の揺らぎとは異なる規則的な光度曲線が得られます。

同じ星でも低空では大気減光で等級が大きくなる

星自身が一定でも、観測時刻によって測定等級が変わる代表的な原因が地球大気です。

星が天頂近くにあるとき、その光は比較的短い距離だけ大気を通ります。地平線近くでは、大気を斜めに長く通るため、散乱や吸収によって失われる光が増えます。

国立天文台は、カノープスが日本の多くの地域では低空にしか見えず、大気の影響で本来より暗く見えると説明しています。これは同じ恒星でも、高度によって地球へ届く光量が変わる例です。

測光では、この大気による減光を無視すると、星自身が暗くなったように見えてしまいます。

「エアマス」は光が通る大気の量を表す

天文学では、星の光がどれくらいの大気を通過するかを「エアマス」という量で表します。

天頂付近ではエアマスは小さく、地平線へ近づくほど大きくなります。AAVSOの測光資料では、大気は恒星光を弱め、通過する大気の量が多いほど減光が大きくなるため、対象星と比較星のエアマス差を補正する必要があると説明されています。

同じ星を一晩追跡すると、昇り始めや沈み際にはエアマスが大きく、南中前後では小さくなります。そのため補正しなければ、星自身が一定でも観測等級に緩やかな時間変化が現れることがあります。

大気の透明度は夜ごと・時間ごとに変わる

星の高度が同じでも、測定される等級が日によって少し違うことがあります。

薄雲、水蒸気、黄砂、エアロゾルなどが増えると、星の光は地上へ届く途中でより多く散乱・吸収されます。その結果、星は暗く観測され、等級は大きくなります。

特に目では気づきにくい薄い雲が通過すると、複数の星が同時に少し暗く測定されることがあります。対象星だけを見ていると、変光と誤認する可能性があります。

比較星を使うと大気や薄雲の影響を切り分けやすい

そこで変光星観測では、対象星の近くにある明るさの安定した星を「比較星」として同時に測ります。

AAVSOは、恒星測光では対象星の近くにあり、色や明るさが似た比較星を選ぶことを推奨しています。対象星と比較星が近ければ、両方の光はほぼ同じ大気を通るため、大気透明度の変化や薄雲の影響を共通の変化として扱いやすくなります。

対象星と比較星が同時に同じ程度暗くなれば、地球側の条件変化が疑われます。一方、比較星が一定なのに対象星だけが変化すれば、天体側の変光である可能性が高まります。

このように明るさの差を測る方法は差分測光と呼ばれます。

比較星が遠すぎると大気減光の差が残る

比較星を使えば大気の影響が完全に消えるわけではありません。

AAVSOの測光マニュアルでは、対象星と比較星が空の上で大きく離れていると、それぞれの光が通る大気の経路が異なり、「差分大気減光」の影響が無視できなくなると説明されています。

この影響は、星どうしの角距離が大きいほど、また地平線に近いほど大きくなります。

そのため高精度測光では、対象星に近い比較星を選び、必要ならエアマスと大気減光係数を使って補正します。

星の色が違うと大気の影響も完全には同じにならない

大気による減光は波長によって強さが異なります。一般に短い波長の光ほど散乱されやすいため、青い星と赤い星では大気の影響が完全には同じになりません。

そのため対象星と比較星の色が大きく違うと、同じ高度にあっても測光値に小さな系統差が残ることがあります。

AAVSOが対象星と比較星の色をなるべく近づけることや、測光データを標準色系へ変換することを推奨しているのは、このような装置・大気・色の影響を減らすためです。

フィルターを固定しても装置の感度差は残る

同じVフィルターと書かれた観測でも、望遠鏡、カメラ、フィルターの透過特性、センサーの波長感度は完全に同一ではありません。

そのため、異なる装置で得た「V等級」をそのまま比較すると、小さな系統差が出ることがあります。

高精度の測光では、標準星を観測して装置固有の応答を補正し、標準測光系へ変換します。AAVSOも、標準的な測光フィルターを使い、データを標準色系へ変換することを勧めています。

等級の差が小さい場合ほど、このような校正の違いが重要になります。

カメラの飽和は星を正しく測れなくする

明るい星を長く露光すると、カメラのセンサーが受け取れる信号の上限を超える「飽和」が起こることがあります。

飽和すると、実際に届いた光量と記録されたカウントの比例関係が崩れ、正しい等級を求められません。

AAVSOはデジタル測光で、センサーを飽和させず、線形に応答する範囲で観測することを重要なデータ品質条件として挙げています。

同じ星を別の日に異なる露光条件で撮影したとき、一方だけが飽和していれば、見かけ上の等級差を作る原因になります。

フラット補正や背景光の処理も測光値に影響する

カメラの画面は、すべての位置で同じ感度とは限りません。光学系の周辺減光やセンサー感度のむら、ほこりの影などがあるためです。

そのためデジタル測光では、フラットフレームを使って画像の感度むらを補正します。AAVSOも、測光画像を適切に校正することをデータ品質の基本として挙げています。

また、星の周囲にある空の明るさを差し引く処理も必要です。月明かりや街明かりで背景が明るいと、背景補正が不十分な場合に測光値へ誤差が生じます。

等級の変化を見るには光度曲線が重要

一回の観測だけでは、その星が本当に変光したのか、観測条件の影響だったのか判断しにくいことがあります。

そこで、同じ星を一定間隔で繰り返し測定し、時刻と等級を並べた光度曲線を作ります。

OpenStaxは、変光星の光度曲線から、明るさの最大・最小や変光周期を調べられると説明しています。食連星なら食に対応した規則的な減光、脈動星なら連続的な周期変化など、天体ごとに特徴的な形が現れます。

一方、薄雲や大気透明度の変化では比較星も同時に変化したり、不規則なずれとして現れたりします。

一晩の「緩やかな等級変化」はまず高度を確認する

同じ星を数時間観測して、時間とともに少しずつ暗くなったように見える場合、すぐに変光星だと判断するのは早すぎます。

星が西へ傾いて高度が下がればエアマスが増え、大気減光が強くなります。補正していない測定では、その変化が等級の時間変化として現れます。

逆に、星が昇って高度が高くなる時間帯では、大気減光が減って少し明るく測られることがあります。

同じ星の時間変化を調べるときは、観測時刻だけでなく高度とエアマスも一緒に記録することが重要です。

「最大等級」「最小等級」「平均等級」は同じ意味ではない

変光星について資料を見ると、一つの星に複数の等級値が書かれていることがあります。

これは測定が食い違っているのではなく、星が実際に変光するためです。国立天文台のミラの例では、極大と極小で非常に大きな等級差があります。

変光星を一つの等級で代表させる場合でも、極大等級、極小等級、平均等級など、どの値かを確認する必要があります。

時間変化する星に対して「この星は何等級」と一つの数字だけを書くと、変光の情報が失われることがあります。

観測等級の違いは「誤差」とは限らない

複数回の測定で等級が違ったとき、その差をすべて測定誤差とみなすのも正しくありません。

差の一部は大気や装置による系統誤差かもしれませんが、星自身の脈動、食、フレアなどの実変化を含む場合があります。

そのため高品質な測光では、等級値だけでなく、観測時刻、フィルター、比較星、エアマス、測定不確かさなども記録し、複数回の観測を比較します。

AAVSOが測光で不確かさの報告を重視しているのは、観測値の差を科学的に評価するためです。

同じ星の等級変化を比べるときに確認したい条件

  • 同じ種類・同じ測光バンドの等級を比較しているか
  • 星自身が変光星や食連星ではないか
  • 観測時の星の高度とエアマスは近いか
  • 薄雲や大気透明度の変化はなかったか
  • 同じ比較星・同じ標準測光系を使っているか
  • カメラが飽和していないか
  • フラット補正や背景光補正が適切か
  • 測定値の不確かさを考慮しているか

これらをそろえることで、本当に星自身が変化したのか、観測条件による違いなのかを判断しやすくなります。

まとめ

同じ星でも同じ方法で測った等級が時刻や大気条件で変わるのは、星自身の明るさが本当に変化する場合と、地球へ届く光や測定条件が変化する場合があるからです。

変光星や食連星では、天体側の原因によって等級が時間とともに変わります。一方、星の高度が低くなるとエアマスが増えて大気減光が強くなり、薄雲・水蒸気・エアロゾルなどでも星は暗く測られます。

さらに、比較星の選び方、装置の感度、標準測光系への変換、飽和、フラット補正、背景光の処理なども測定値へ影響します。

そのため、等級の時間変化を科学的に調べるには、同じ測光バンドで繰り返し測り、比較星を使った差分測光を行い、エアマスや装置条件を補正して光度曲線を作ることが重要です。等級が変わったという事実だけでなく、何が変わったのかを切り分けることが恒星測光の基本なのです。

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