宇宙空間というと、何もない真空を思い浮かべるかもしれません。ところが実際の宇宙には、太陽のまわり、惑星のまわり、恒星間空間、銀河、さらには銀河団のような巨大な領域まで、さまざまな強さと向きを持つ磁場が存在しています。
宇宙空間に磁場が広がっているのは、恒星や惑星内部、宇宙を満たすプラズマなどで動く電荷や電流が磁場を作り、その磁場がプラズマの流れによって運ばれたり、引き伸ばされたり、乱流や回転によって増幅されたりするからです。ただし、宇宙のすべての磁場が一つの仕組みで生まれるわけではありません。太陽系、銀河、銀河団では主要な生成・増幅過程が異なり、宇宙最初期の「種磁場」がどのように生じたかには未解明な部分も残っています。
磁場は「磁石がある場所」にだけできるわけではない
学校では磁石のまわりに磁場があると習いますが、磁場を作るものは永久磁石だけではありません。電荷が動いて電流が流れることでも磁場は生まれます。
NASAは、動く電荷が磁場を生み、太陽のような天体では電気を通すプラズマの運動が磁場形成に重要だと説明しています。宇宙では物質の多くが高温で電離したプラズマとして存在します。プラズマには自由に動ける電子とイオンが含まれるため、電流が生まれやすく、磁場と強く結びついた振る舞いをします。
ここで大切なのは、「磁場が存在する場所には必ず大量の物質が詰まっていなければならない」というわけではないことです。磁場は電磁場の一部なので、発生源から離れた真空に近い領域にも存在できます。宇宙空間が非常に希薄でも磁場が測定できるのは、このためです。
太陽の磁場は太陽風によって太陽系へ運ばれる
宇宙空間の磁場を身近な例で考えるなら、太陽と太陽風が分かりやすいでしょう。
太陽の内部では、高温の導電性プラズマが回転し、対流し、複雑に動いています。こうした運動によって電流が生じ、太陽磁場が形成・維持されます。このように、導電性流体の運動によって磁場が生成・増幅される仕組みを一般にダイナモ作用と呼びます。
太陽の外側では、コロナからプラズマが太陽風として絶えず流れ出しています。NASAは、太陽風が外へ流れるとき太陽の磁場も一緒に引き出され、太陽の自転の影響でらせん状の構造になると説明しています。これが惑星間磁場の代表的な構造であるパーカー・スパイラルです。
つまり地球付近の宇宙空間で測る磁場の一部は、その場所で新しく作られたものではなく、太陽から吹き出すプラズマによって遠くまで運ばれてきた磁場なのです。
なぜプラズマは磁場を「運ぶ」ように振る舞うのか
宇宙プラズマは多くの場合、電気伝導性が非常に高いという特徴があります。そのため大きなスケールでは、磁場とプラズマが強く結びつき、「磁力線がプラズマに凍りついている」ように扱える場合があります。
これは磁力線が実体のある糸として物質に接着しているという意味ではありません。理想的な磁気流体力学の近似では、プラズマの流れとともに磁場の構造も変形していく、という性質を表した言い方です。
プラズマが広がれば磁場も引き伸ばされ、流れが曲がれば磁場の向きも変化します。反対に磁場が十分強ければ、荷電粒子の運動を曲げ、プラズマの流れそのものを制御します。宇宙では「プラズマが磁場を動かす」と「磁場がプラズマを動かす」が同時に起きています。
磁場はいつもプラズマに完全固定されているわけではない
「凍りつき」という近似は便利ですが、いつでも完全に成り立つわけではありません。磁場の向きが反対になった領域などでは、磁場のつながり方が急激に組み替わる「磁気リコネクション」が起こることがあります。
磁気リコネクションでは、磁場に蓄えられていたエネルギーが粒子の運動や加熱へ変換されます。太陽フレア、地球磁気圏の活動、宇宙プラズマ中の爆発的な現象を理解するうえで重要な過程です。
したがって宇宙磁場の構造は、単に同じ磁力線が永遠に保存されているのではありません。流れによって運ばれ、伸ばされ、ねじられ、ときにはつなぎ替えられながら時間変化しています。
銀河の磁場はどうやって大きなスケールまで広がるのか
私たちの天の川銀河にも、数万光年規模にわたる磁場があります。ESAのPlanck衛星は、星間塵が放つ偏光した電磁波を観測することで、天の川銀河の広い範囲に組織化された磁場構造があることを示しました。
では、そのような巨大な磁場はどのように作られたのでしょうか。現在の有力な考えの一つは、最初に非常に弱い「種磁場」が存在し、それが銀河の回転や星間ガスの乱流によるダイナモ作用で増幅されてきたというものです。
銀河は回転しており、その内部のプラズマやガスも複雑に運動します。弱い磁場が流れによって引き伸ばされ、ねじられ、折り重なれば、磁場エネルギーが増えていきます。大規模な回転と小規模な乱流が長い時間作用することで、銀河全体にわたる磁場が形成・維持されると考えられています。
ただし、「最初の種磁場が具体的にどこから来たのか」は完全には決着していません。初期宇宙で生じた磁場が出発点だった可能性もあれば、初期の恒星やブラックホール、衝撃波などの天体現象が弱い磁場を供給し、それを後からダイナモが増幅した可能性も研究されています。
銀河団では衝突や乱流が磁場を強める
銀河が数百から数千個集まる銀河団にも磁場があります。銀河団の内部は非常に高温の電離ガス、つまりプラズマで満たされています。
国立天文台は、銀河団どうしが衝突・合体を繰り返す中で、ガスの流れが磁場を圧縮したり引き伸ばしたりし、磁場が強められて複雑な構造になると説明しています。実際、電波観測と数値シミュレーションを組み合わせることで、銀河団中の磁場がジェットの進行方向を変えるほど重要な役割を持つ例も示されています。
このように宇宙では、磁場は一度作られて終わりではありません。天体どうしの衝突、乱流、回転、圧縮などによって絶えず形を変え、場所によってはさらに増幅されます。
磁場の強さと形は場所によって大きく違う
「宇宙の磁場」と一言でいっても、均一な一枚の磁場が宇宙全体を覆っているわけではありません。
地球の近くでは地球内部のダイナモが作る磁場が支配的です。もっと外側へ行けば太陽風に運ばれた太陽磁場の影響が強くなります。太陽圏を越えると、星間空間の磁場が現れます。さらに大きなスケールでは、銀河磁場や銀河団磁場があります。
それぞれは完全に独立しているわけではなく、境界で相互作用します。たとえば太陽風が作る太陽圏は、外側の星間物質と星間磁場に押されながら形を保っています。NASAのIBEXやVoyagerの観測は、太陽圏の外側にも星間磁場が存在することを直接・間接に示しています。
宇宙磁場はどうやって観測するのか
磁場そのものは目で見ることができません。そのため天文学者は、磁場が物質や光に与える影響を利用して調べます。
探査機による直接測定
太陽系内では、探査機に搭載した磁力計で磁場の強さと向きを直接測れます。Voyager 1と2は太陽圏を越えた領域で星間磁場も測定しています。
偏光
星間塵は磁場の影響を受けて一定の向きにそろいやすく、その塵が放つ光は偏光します。ESAのPlanck衛星はこの偏光を利用し、天の川銀河の磁場構造を全天規模で描き出しました。
電波の性質
磁場中を高速で動く電子はシンクロトロン放射と呼ばれる電波を放ちます。また、磁場を含むプラズマを電波が通過すると偏光面が回転するファラデー回転が起こります。これらを測ることで、遠く離れた銀河や銀河団の磁場を推定できます。
このように、宇宙磁場は直接見えなくても、光や荷電粒子に残す「痕跡」からその存在と構造を調べられます。
磁場があると宇宙で何が変わるのか
磁場は、単なる背景ではありません。荷電粒子は磁場のまわりをらせん状に運動するため、磁場は宇宙線や太陽風粒子の進み方を変えます。
また、太陽やブラックホール周辺から噴き出すジェットの形成や収束、星形成領域でのガスの動き、銀河団プラズマの構造にも磁場が関わります。磁気リコネクションが起これば、磁場に蓄えられたエネルギーが急速に粒子へ渡されることもあります。
つまり、宇宙の磁場を理解することは、宇宙空間を満たすプラズマの運動や、天体がエネルギーを放出する仕組みを理解することにつながります。
まとめ
宇宙空間に磁場が存在するのは、磁石のような物体が宇宙中に浮かんでいるからではありません。動く電荷や電流が磁場を作り、とくに導電性の高いプラズマの運動が、その磁場を運び、変形させ、増幅します。
太陽では内部のダイナモが磁場を生み、太陽風がその磁場を惑星間空間へ運びます。銀河では回転や乱流によるダイナモ作用が弱い磁場を大規模に増幅すると考えられています。銀河団では、衝突や乱流によって磁場が圧縮・引き伸ばされ、複雑な構造へ発達します。
一方、宇宙最初期の種磁場がどのように作られたのかなど、まだ解明されていない問題もあります。宇宙磁場は「一つの原因でできた固定された構造」ではなく、電荷、プラズマ、天体の回転や衝突が相互作用しながら作り続けている動的な構造なのです。
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主な参考資料
- 国立天文台「直角に折れ曲がるジェットが描き出す銀河団の磁場構造」
- NASA Science「Magnetic Field」
- NASA Science「What Is the Solar Wind?」
- ESA「Planck takes magnetic fingerprint of our Galaxy」

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