果実を切ると、外側には果皮があり、内側には種があり、その種は胎座と呼ばれる組織につながっています。さらに果柄から果実内部へは維管束が入り、果肉や種へ水・糖・無機養分を運んでいます。
なぜ果実では、果皮・胎座・維管束が種を守り育てる構造になるのでしょうか。結論から言えば、被子植物では花の子房の内部に胚珠があり、受精後に子房壁が果皮へ、胚珠が種へ発達し、胎座と維管束が親植物から種へ資源を届ける配置を保ったまま果実全体が成長するからです。
その結果、果皮は外側から種を守る壁となり、胎座は種を支える接続部となり、維管束は水・糖・ミネラルを供給する輸送路になります。本稿では「なぜ果実が種を包むのか」という一般的な理由ではなく、種を包んだ果実内部がどのような構造で成り立ち、どう種の発達を支えているかに焦点を当てます。
果実の構造は、花の子房の配置を引き継いでいる
被子植物の花では、雌しべの下部に子房があり、その内側に胚珠があります。胚珠は胎座という組織に付着し、そこから珠柄を介してつながっています。
受精が起こると、胚珠は種へ、子房を中心とする組織は果実へ発達します。このとき、もともとの「外側に子房壁、内側に胚珠」という配置が大きく保たれます。
そのため成熟果では、外側に果皮、内側に種という構造になります。果実が完成した種の外へ後から巻き付くのではなく、花の段階で決まっていた空間配置が、そのまま大きく成長した結果です。
果皮は子房壁が発達した組織
多くの果実では、子房壁が発達して果皮になります。果皮は外果皮・中果皮・内果皮に分けられることがあります。
外果皮は果実表面の皮、中果皮は果肉になることが多い層、内果皮は種に近い最内層です。ただし、植物によって各層の発達のしかたは大きく異なります。
モモでは外果皮が皮、中果皮が食べる果肉、内果皮が硬い核になります。トマトでは果皮全体が比較的柔らかく保たれます。エンドウでは果皮が乾燥してさやになります。
果皮は一種類の組織ではなく、植物ごとの散布・保護戦略に応じて柔らかくも硬くも変化する構造です。
内果皮が硬くなる果実では、種を物理的に守れる
モモ、ウメ、サクランボ、オリーブなどの核果では、内果皮が木質化して硬い核をつくります。
海外の果実発達研究では、この硬い内果皮が種の周囲に強固な物理障壁をつくり、機械的損傷や植食、病原体から種を守る役割を担うとされています。
内果皮ではリグニンが多く蓄積し、細胞壁が厚く強くなります。その結果、外側の中果皮が柔らかく熟しても、種に近い部分は硬いまま保たれます。
つまり、同じ果実の中でも「食べられる部分」と「種を守る部分」は、別の組織分化によって作り分けられています。
胎座は、種が付着する「足場」
胎座は、子房内で胚珠が付着する組織です。受精後も、発達中の種は胎座とのつながりを通じて親植物側から資源を受け取ります。
トマトではゼリー状の組織の中に多くの種がありますが、その基部は胎座につながっています。ピーマンでは白い胎座に多くの種が付いています。キウイやメロンでも、多数の種が胎座周辺に配置されています。
胎座は単なる「種を貼り付ける面」ではありません。種の位置を決め、維管束から送られる水や同化産物を種へつなぐ中継部として機能します。
維管束は果柄から果実内部へ枝分かれする
果実は枝や茎から切り離された独立した袋ではありません。成長中は果柄を通じて親植物の維管束系とつながっています。
維管束には、水や無機養分を主に運ぶ木部と、葉でつくられた糖などの同化産物を運ぶ師部があります。
国内のトマト・トウガラシの解剖研究では、果柄から入った維管束が果皮部や果心部を通り、胎座を経て種へ連絡する配置が確認されています。メロン・キュウリなどでも、果皮、隔壁、果心、胎座、種へ続く維管束の連絡が観察されています。
つまり、果実の内部には「種へ物資を届ける配管網」が組み込まれています。
果皮と種へ向かう維管束は途中で分かれる
果実に入った維管束は、すべてが種だけへ向かうわけではありません。
一部は果皮や果肉へ分岐し、果実組織の成長や代謝を支えます。別の枝は果心・胎座を通って種へ向かいます。
そのため、果実の成長と種子の成長は同じ輸送系を共有しながら、異なる組織へ資源を配分しています。
果実が大きくなると、維管束も分枝・伸長し、果肉と種の両方へ必要な水・糖・無機養分を届けます。
発達中の種は強い「シンク」になる
受精後の種では、胚、胚乳、種皮が急速に発達します。そのため大量の糖、アミノ酸、ミネラル、水が必要です。
発達中の種は強いシンクとなり、親植物から同化産物を引き込みます。葉でつくられたショ糖などは師管を通って果実へ入り、胎座・珠柄・種皮を経て、胚乳や胚へ渡されます。
海外レビューでも、果実と種の発達は、糖と植物ホルモンを介した密接な情報・物質交換によって同期していると整理されています。
果実が種を囲んでいることは、保護だけでなく、資源輸送の面でも合理的な配置です。
種へ入る栄養は、維管束の先でさらに受け渡される
維管束が種の内部の胚まで直接伸びているとは限りません。
多くの被子植物では、維管束は珠柄や種皮の母体側組織まで達し、そこから先は細胞間の輸送や膜輸送体を使って、胚乳や胚へ糖やアミノ酸が受け渡されます。
この母体側組織と子側組織の境界では、SWEETやSUT/SUCなどの糖輸送体、アミノ酸輸送体、プロトンポンプなどが働きます。
種を育てる仕組みは、太い維管束一本で直接栄養を注ぐのではなく、「維管束で近くまで運ぶ→組織間で選択的に受け渡す」という段階構造になっています。
胎座・珠柄は、資源輸送だけでなく情報伝達にも関わる
種と果実の間では、糖だけでなく植物ホルモンなどの情報分子も行き来します。
受精した胚珠ではオーキシンなどのシグナルが変化し、それが果実形成の開始や維管束分化、周囲の組織の成長に影響します。
海外の研究レビューでは、種と果実の発達を同期させる信号として、オーキシンと糖が重要な役割をもつとされています。
つまり胎座や珠柄は、物質輸送の通路であるだけでなく、種と果実の発達を合わせる通信経路でもあります。
果肉は種を守りながら、同時に自分も成長する
果肉も大量の水と糖を受け取り、細胞分裂と細胞肥大を続けます。
そのため、果実内部では果肉と種の間で資源配分の調節が必要です。果肉は種を守る外側の組織ですが、同時に強いシンクでもあります。
受精後初期には種子形成が果実の成長を促し、成熟に近づくと果肉側では糖、色素、香気成分、細胞壁の状態が大きく変化します。
果実は「種の容器」と「自分自身が成長する器官」という二つの性質を同時にもっています。
果実の内部構造は植物によって大きく違う
すべての果実で胎座や維管束の配置が同じではありません。
トマトは複数の子室をもち、中央部の胎座へ多数の種がつきます。メロンやキュウリでは子房をつくる複数の心皮に対応して複雑な維管束配置が見られます。モモでは大きな一つの種を硬い内果皮が囲みます。
キウイでは多数の種が中心部の胎座周辺に並び、胎座には独立性の高い維管束系が見られるという解剖学的研究もあります。
果実の内部構造は、心皮数、胎座型、種子数、散布様式などによって多様です。
種が多い果実では、維管束も細かく分岐する
多数の種をもつ果実では、それぞれの種へ資源を届ける必要があります。
メロン・キュウリの研究では、胎座部で一つ一つの種に対応する維管束が観察されています。ブドウでも、中心部の維管束から種へ向かう枝が分かれます。
このような細かな分岐は、発達中の種それぞれをシンクとして支えるための構造です。
種子数が多いほど単純に維管束本数が増えるとは限りませんが、多数の種へ資源を配るためのネットワークが必要になります。
果皮は保護だけでなく、水分損失も抑える
果実表面には表皮やクチクラがあり、外気との境界をつくっています。
クチクラは、水分が急激に失われるのを抑え、病原体の侵入や物理的損傷から内部組織を守ります。
発達中の種は水分状態の急変に弱いため、果皮が外界との緩衝層になることには大きな意味があります。
また、果皮には色素やフェノール類など防御に関わる物質が蓄積することもあり、物理的・化学的な防御の両方を担います。
果皮は成熟後、種子散布の構造にも変わる
種が成熟すると、果皮の役割は「守ること」だけではなくなります。
肉質果では、果皮や果肉が柔らかく、甘く、色鮮やかになり、動物に食べられることで種が運ばれることがあります。
乾果では、果皮が乾燥して裂けたり、翼や毛を形成したりして、種を外へ放出・散布します。
海外の果実進化研究では、果皮、とくに内果皮の分化が、種子保護と散布戦略の両方に深く関わるとされています。
果実が硬い殻になるか柔らかい果肉になるかは組織分化で決まる
同じ子房由来の組織でも、細胞壁にリグニンが蓄積すれば硬い殻になり、細胞が大きく水分を含んで柔らかくなれば果肉になります。
これは、果皮の各層で働く発生制御遺伝子と代謝経路が異なるためです。
モモでは内果皮のリグニン合成が強く、中果皮では果肉としての細胞肥大が進みます。トマトでは内果皮が木質化せず、果実全体が比較的柔らかいまま発達します。
果実の構造は、同じ子房壁の中で「どの部分を硬くし、どの部分を柔らかくするか」を分ける発生プログラムの結果です。
種なし果実では、種への輸送構造があっても種は発達しないことがある
単為結果や種子退化によって、実用上の種なし果実ができることがあります。
この場合でも、果実そのものには果皮、果肉、維管束、胎座など基本的な構造が形成されます。
ただし、正常な種子が発達しないため、種側へ流れる資源やホルモン信号は通常果とは異なります。
種なし果実の存在は、「果実内部の構造は種を育てるためだけにしか存在しない」のではなく、子房由来の発達プログラムとして独立性ももつことを示します。
リンゴやイチゴでは「食べる部分」と植物学的な果実が一致しない
果実構造を理解するときは、私たちが食べる部分と植物学上の果実を区別する必要があります。
リンゴでは、芯の部分が主な子房由来組織で、食べる肉質部には花托などの組織が大きく関わります。
イチゴでは赤い肉質部は花托で、表面にある一粒一粒が痩果という果実です。その痩果の内部に種があります。
このような副果でも、種を支える組織と維管束の配置は花の発生構造を反映しています。
果実内部の構造を見ると、花から果実への連続性が分かる
果実を横断・縦断して観察すると、花の構造の名残が見えます。
- トマトでは、複数の子室と中央の胎座、そこから種へつながる構造が見える
- ピーマンでは、白い胎座に種が並び、維管束がその周囲へ入る
- メロンでは、果皮から中心部へ複雑に維管束が分岐する
- モモでは、果肉の内側に硬い内果皮があり、その内部に種がある
- エンドウでは、さやが果皮で、種は内側の胎座へ付着している
「種がどこについているか」「果柄からどこへ筋が伸びているか」を見ると、果実が種を育てるための立体的な輸送・保護構造であることが理解しやすくなります。
まとめ
果実で果皮・胎座・維管束が種を守り育てる構造になるのは、花の子房内で胚珠が胎座に付着し、親植物の維管束とつながった状態から、受精後に果実と種が並行して発達するからです。
子房壁は果皮へ発達し、外側から種を保護します。胎座は種の位置を支え、珠柄とともに種への接続部になります。維管束は果柄から果皮・果心・胎座へ分岐し、水、糖、無機養分を果実と種の両方へ運びます。
さらに、種と果実の間では糖や植物ホルモンを介した情報交換が起こり、両者の成長が同期します。果皮は成熟後には散布構造へ役割を変え、硬い内果皮、柔らかい果肉、裂開するさやなど多様な形へ分化します。
果実内部の構造は、「外から守る果皮」「種を支える胎座」「資源を届ける維管束」が一体となり、発達中の種を保護・養育し、成熟後の散布までつなぐ仕組みなのです。
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参考資料
- 金浜耕基ほか「トマトとトウガラシの果実における花葉と維管束の配列」園芸学会雑誌
- 金浜耕基・斎藤隆「メロン, キュウリ, トカドヘチマの果実における維管束と心皮の配列」園芸学会雑誌
- Molecular Communication for Coordinated Seed and Fruit Development: What Can We Learn from Auxin and Sugars?
- Evolution of the fruit endocarp: molecular mechanisms underlying adaptations in seed protection and dispersal strategies

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