「自分は7時間眠らないとつらいのに、知人は6時間で平気そう」「休日は9時間くらい眠らないと回復した感じがしない」。このように、必要と感じる睡眠時間には人によってかなり差があります。
結論から言うと、必要な睡眠時間に個人差があるのは、年齢、遺伝的な体質、睡眠圧のたまり方、体内時計、睡眠の深さや途中覚醒、活動量、健康状態などが人によって異なるからです。
そのため、「大人は全員8時間眠るべき」という一つの数字だけでは判断できません。公的な睡眠指針も、成人では必要な睡眠時間に個人差があることを前提にしています。
必要な睡眠時間と実際に寝床にいる時間は同じではない
まず区別したいのが、「必要な睡眠時間」と「寝床にいる時間」です。
たとえば8時間布団に入っていても、寝つくまで30分かかり、夜中に何度か目が覚めて合計1時間起きていれば、実際に眠っている時間は6時間半ほどになることがあります。
反対に、寝床にいる時間が7時間でも、すぐに眠って途中覚醒が少なければ、睡眠時間はそれに近くなります。
「8時間ベッドにいたから8時間眠れた」とは限らないため、必要量を考えるときには実際の睡眠時間と睡眠の質の両方を見る必要があります。
睡眠時間にはもともと個人差がある
厚生労働省の睡眠情報でも、必要な睡眠時間は人それぞれ異なるとされています。
一般的な目安はありますが、それは全員に当てはまる絶対値ではありません。同じ年齢でも、ある人は7時間前後で日中を問題なく過ごせる一方、別の人は8時間以上必要と感じることがあります。
大切なのは「何時間なら平均的か」だけでなく、その睡眠時間で日中に十分覚醒して活動できるか、朝に休養感があるかです。
年齢によって必要な睡眠時間は変わる
睡眠時間の個人差を考えるうえで最も大きな要因の一つが年齢です。
乳幼児や子どもは、脳や体の成長に伴って成人より長い睡眠を必要とします。成長するにつれて必要な睡眠時間は短くなり、成人後も加齢とともに平均的な睡眠時間は少しずつ短くなる傾向があります。
厚生労働省の情報では、必要な睡眠時間は若いほど長く、高齢になるほど短くなる傾向が示されています。
そのため、20歳のときと70歳のときに同じ睡眠時間を必要としないことは自然な変化です。
高齢になると「長く眠れない」こと自体が異常とは限らない
高齢になると、深いノンレム睡眠が減り、夜中に目覚める回数が増えやすくなります。
また、必要な睡眠時間そのものも若い頃より短くなる傾向があります。
そのため、「昔は8時間眠れたのに、今は6時間程度で目が覚める」という変化が、必ずしも睡眠障害を意味するわけではありません。
重要なのは、睡眠時間の数字だけでなく、日中の強い眠気や疲労、生活への支障があるかどうかです。
遺伝的な体質も睡眠時間の差に関わる
睡眠時間や睡眠の取り方には、遺伝的な要因も関係します。
双生児研究や大規模な遺伝研究では、睡眠時間、朝型・夜型、睡眠不足への弱さなどに遺伝的な影響があることが示されています。
睡眠は一つの遺伝子だけで決まる単純な性質ではありません。多くの遺伝的要因と生活環境が組み合わさって、一人ひとりの睡眠特性をつくっています。
このため、同じ生活をしていても、自然に眠る時間や睡眠不足に耐えられる程度が人によって異なることがあります。
ごく一部には自然に短い睡眠で足りる人もいる
世の中には、比較的短い睡眠時間でも日中に強い眠気や認知機能低下がなく、自然に生活できる人がいます。
こうした人は一般に「ナチュラルショートスリーパー」などと呼ばれ、特定の遺伝子変異との関連も研究されています。
ただし、そのような体質はごく一部です。平日に睡眠を削り、休日に長く寝だめしたくなる人は、自然な短時間睡眠者とは考えにくいです。
「6時間で起きられるから自分はショートスリーパー」と判断するのではなく、日中の眠気、集中力、休日の寝だめなども見る必要があります。
睡眠圧のたまり方にも個人差がある
起きている時間が長くなると、脳には眠る必要性が高まります。これを睡眠圧と呼びます。
睡眠圧は、深いノンレム睡眠で見られる徐波活動と強く関係します。長く起きた後ほど徐波活動が強くなり、睡眠によって徐々に低下します。
研究では、この睡眠圧のたまり方や、睡眠不足後の徐波の強さにも安定した個人差があることが知られています。
同じ時間起きていても、眠気が強く出る人と比較的保ちやすい人がいるのは、こうした睡眠恒常性の違いも関係すると考えられます。
睡眠不足への弱さも人によって違う
同じように睡眠時間を短くしても、翌日の反応は全員同じではありません。
注意力が大きく落ちる人もいれば、短期間では比較的保ちやすい人もいます。研究では、睡眠不足による認知機能低下の程度には、個人ごとに比較的安定した特徴があることが示されています。
ただし、「眠くないと感じること」と「能力が落ちていないこと」は同じではありません。慢性的な睡眠不足では、本人が眠気に慣れても、反応速度や判断力の低下が残ることがあります。
主観だけで「自分は短くても平気」と決めないことが重要です。
体内時計の違いは睡眠時間の取りやすさを変える
人には朝型・夜型など、体内時計の時刻にも個人差があります。
夜型の人が早朝に起きなければならない生活を続けると、自然に眠くなる時刻が遅いままなのに起床時刻だけ早くなり、睡眠時間を確保しにくくなります。
一方、朝型の人は早い時刻に眠くなり、早朝に自然に目覚めやすい傾向があります。
睡眠時間の違いには、本当に必要量が違う場合だけでなく、社会の時刻と体内時計の相性によって「確保できる時間」が違う場合も含まれます。
平日の睡眠時間だけでは必要量を判断しにくい
仕事や学校がある平日は、必要だからその時間で眠っているのではなく、起床時刻に合わせて睡眠を途中で切り上げていることがあります。
そのため、平日6時間睡眠の人が「自分の必要睡眠時間は6時間」とは限りません。
休日に目覚ましを使わず9時間ほど眠る、午前中に強い眠気がある、通勤中に居眠りしやすいといった場合は、平日に睡眠不足が蓄積している可能性があります。
必要睡眠時間を考えるときには、制約の少ない日の自然な睡眠時間も参考になります。
休日の寝だめが大きい人は平日の睡眠不足を疑う
平日より休日に2〜3時間以上長く眠る人は少なくありません。
休日に長く眠ることで一時的に眠気は軽くなることがありますが、慢性的な睡眠不足を完全に帳消しにできるとは限りません。
厚生労働省も、休日の長い寝だめが必要な場合には、平日の睡眠不足を見直すことを勧めています。
「平日は5時間で十分、休日は10時間眠る」というパターンは、自然な短時間睡眠よりも睡眠不足の補償である可能性を考えます。
睡眠の質が悪いと必要な睡眠時間が長く感じられることがある
同じ7時間でも、深く連続して眠れた7時間と、何度も目覚めた7時間では休養感が違います。
騒音、暑さ・寒さ、飲酒、カフェイン、痛み、いびき、睡眠時無呼吸などで睡眠が断片化すると、寝床にいる時間が十分でも「寝た感じがしない」ことがあります。
その結果、休日に長く寝たり、日中に昼寝を必要としたりすることがあります。
必要睡眠時間が長いように見えても、実際には睡眠の質が低く、回復効率が悪い場合もあります。
睡眠時無呼吸では長く寝ても休養感が得られにくいことがある
閉塞性睡眠時無呼吸では、睡眠中に呼吸が何度も止まり、そのたびに脳が短く覚醒します。
本人は夜中に起きた記憶がなくても、睡眠が細かく分断され、深い睡眠を保ちにくくなることがあります。
そのため、十分な時間寝ているのに日中に強い眠気が残ることがあります。
大きないびき、呼吸停止の指摘、朝の頭痛、日中の居眠りなどがある場合には、単に「自分は長時間睡眠が必要」と考えず、医療機関で評価を受けることが重要です。
活動量によっても眠りの必要感は変わる
一日の活動量や精神的負荷も、睡眠の取り方へ影響します。
運動量が多い日や、集中して学習・仕事をした日には、眠気が強くなったり、深い睡眠が増えたりすることがあります。
一方、ほとんど体を動かさず長時間昼寝をした日は、夜に睡眠圧が十分高まらず、寝つきにくくなることがあります。
必要睡眠時間は完全に固定された数字ではなく、その日の活動や直前までの睡眠履歴によってある程度変動します。
季節によって睡眠時間が変わることもある
日照時間や気温は季節によって変化します。
冬には夏より睡眠時間が長くなる傾向が見られるという報告もあり、光環境や体内時計、生活時間の変化などが関係すると考えられます。
そのため、同じ人でも一年中まったく同じ睡眠時間になるとは限りません。
個人差だけでなく、一人の中にも季節や生活条件による変動があります。
病気や回復期には普段より長く眠ることがある
感染症などで体調を崩したときには、眠気が強くなり、普段より長く眠ることがあります。
免疫系の炎症性物質は睡眠調節にも関わり、体が回復を優先する状態では睡眠時間が増えることがあります。
また、長い睡眠不足の後にも回復睡眠が長くなる場合があります。
一時的に睡眠時間が伸びたからといって、必要睡眠時間そのものが恒久的に変わったとは限りません。
薬、アルコール、カフェインも睡眠時間の見え方を変える
睡眠に影響する物質は多くあります。
カフェインは眠気を感じにくくし、摂取時刻によっては入眠を遅らせます。アルコールは寝つきを早めることがありますが、夜後半の睡眠を浅くし、中途覚醒を増やすことがあります。
一部の薬は眠気を強めたり、反対に覚醒を強めたりします。
こうした影響で睡眠時間が短くなったり長くなったりしても、それが本来の必要睡眠時間とは限りません。
長く眠る人が必ず不健康というわけでもない
疫学研究では、極端に短い睡眠と長い睡眠の両方が、さまざまな健康問題と関連することがあります。
しかし、長時間睡眠については、病気や体調不良があるため長く眠っているという逆の因果関係も考える必要があります。
若い人、睡眠不足から回復している人、病気から回復中の人では、9時間以上眠ることが必要な場合もあります。
睡眠時間だけで健康状態を決めつけるのではなく、背景を合わせて見る必要があります。
成人では「少なくとも6時間以上」が一つの目安になる
厚生労働省の睡眠情報では、成人では必要な睡眠時間に個人差があることを前提にしつつ、少なくとも6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することが勧められています。
一方、米国の睡眠関連指針では、多くの成人に7〜9時間程度が推奨範囲として示されています。
これらは矛盾する数字ではなく、対象集団や「推奨」の意味が異なります。どちらも、極端な短時間睡眠を避けながら個人に必要な睡眠を確保するという考え方は共通しています。
一つの数字を絶対化せず、自分の休養感と日中機能を見ることが重要です。
「自分に必要な睡眠時間」はどう考えればよいか
実用的には、数週間程度の生活を振り返り、睡眠時間と日中の状態を一緒に見る方法があります。
目覚ましがなくても無理なく起きられるか、昼間に強い眠気がないか、休日に極端な寝だめをしなくて済むか、集中力や気分が安定しているかなどを確認します。
睡眠時間を延ばしたときに日中の調子が明らかに良くなるなら、これまで不足していた可能性があります。
逆に、十分な時間寝床にいても眠れず、長く横になっているほど睡眠が浅くなる人では、必要量以上に寝床時間を延ばしている可能性があります。
睡眠時間より「日中にどう過ごせるか」も重要
睡眠は夜だけで完結するものではありません。
十分な睡眠がとれているかは、日中の覚醒度、集中力、気分、仕事や学習の能率、運転中の眠気などにも表れます。
厚生労働省も、睡眠時間だけでなく「睡眠で休養がとれた感覚」を重視しています。
数字としての睡眠時間が平均範囲に入っていても、日中に強い眠気が続くなら、睡眠量か睡眠の質に問題がないか見直す必要があります。
十分寝ているのに眠い場合は個人差だけで説明しない
必要睡眠時間には個人差がありますが、何時間寝ても強い眠気が続く場合をすべて「体質」と考えるのは危険です。
睡眠時無呼吸、過眠症、概日リズム睡眠・覚醒障害、うつ病などの心身の病気、薬の影響などが隠れている場合があります。
厚生労働省の情報でも、十分な睡眠時間を確保しているのに慢性的な眠気がある場合には、睡眠・覚醒障害を含めて医療機関へ相談することが勧められています。
運転中や仕事中に眠り込むほどの眠気がある場合は、とくに安全上の注意が必要です。
「何時間眠れたか」だけにこだわりすぎないことも大切
睡眠時間への強いこだわりが、かえって不眠を悪化させることがあります。
「絶対に8時間眠らなければ」と早く寝床に入っても、眠気がなければ長く目を覚ましたまま過ごすことになります。すると寝床で眠れない不安が強くなり、さらに入眠しにくくなることがあります。
必要な睡眠時間には個人差があるため、平均値を目標にするより、日中の状態と自然な眠気を参考にする方が現実的です。
睡眠時間は健康の重要な指標ですが、数字だけで良い睡眠かどうかは決まりません。
まとめ
必要な睡眠時間に人による差があるのは、年齢、遺伝、睡眠圧のたまり方、体内時計、睡眠の質、活動量、健康状態などが人によって異なるためです。
子どもは成人より長い睡眠が必要で、加齢とともに平均的な必要睡眠時間は短くなる傾向があります。また、双生児研究や遺伝研究からは、睡眠時間や睡眠不足への弱さにも遺伝的な要因が関係することがわかっています。
一方、平日の短い睡眠を「自分の体質」と思っていても、休日に長く寝だめする、日中に強い眠気がある、集中力が落ちる場合には睡眠不足の可能性があります。十分な時間眠っても休養感がない場合は、睡眠の質や睡眠障害も考える必要があります。
つまり、自分に必要な睡眠時間は一つの固定数字ではありません。一般的な目安を参考にしながら、朝の休養感と日中の覚醒状態を見て、自分が無理なく機能できる睡眠量を確保することが大切なのです。

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